EVENT REPORTSOctober/12/2018

[Event Report]“Lost In Karaoke” – RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018

Photo by Keisuke Kato / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


 Red Bull Music Academyが日本で開催された2014年、日本の音楽文化における一つの特異性としてあった「カラオケ」をフィーチャーし、新宿のカラオケ館を一棟貸し切り初開催された「Lost In Karaoke」。コンセプトによって区切られた「カラオケ部屋」で様々なアーティストのアクトが同時披露され、オーディエンスはインターネットで行われている生中継を介して、その熱狂に触れることができる。2018年で3回目の開催となるこのプログラムは、会場を変更しながら実施されている。

 日本のカラオケの現状といえば、今年5月末に報じられたシダックスグループのカラオケ事業売却がまだ記憶に新しく、カラオケ業界全体は厳しい戦いを強いられているようにも感じられる。しかし意外にも、ここ数年の間、日本のカラオケ人口は増加傾向にあるというデータもある。実際筆者も、渋谷川沿いに先日オープンされた「渋⾕ストリーム」近くに新たなカラオケ店舗がオープンされていたのを確認したばかりである。最近のカラオケは、大人数でのパーティーとしての利用だけではなく、一人カラオケや、ランチ及び休息スペースの提供、会議室利用といった用途にも対応できるように発展を遂げている。言うなれば、カラオケは日本の音楽文化を象徴する存在から、日本の現在の姿形を映し出す鏡のような存在へとシフトしつつある。

Photo by So Hasegawa / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


 今年の「Lost In Karaoke」は、歌舞伎町に程近いカラオケ館西武新宿駅前店にて開催された。今回は全7部屋にブースが分けられ、そのうち6部屋では、DJやシンガー、ヒップホップ・アーティストのライブアクトや、音響的なインスタレーションライブが繰り広げられた。一つ異質なコンセプトとして機能していたのは、筆者も普段はテクニカルサポート/PAとして参加しているインターネットラジオ番組「ポコラヂ」の出張ブースである。開演から終演までの3時間、tomad氏やてぃーやま氏、Jun Yokoyama氏等がメインパーソナリティーを務めつつ、様々なゲストが入れ代わり立ち代わり部屋を出入りし、本企画に関係あることから関係ないことまで、時には企画趣旨そのものやカラオケ文化そのものにツッコみながら延々と喋り続けるこの部屋だけは、別のブースからも隔離され、メタ的な状況下において立ち回っていた。

Photo by So Hasegawa / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


 各フロアのライブがモニターされ、有機的にツッコみを入れることが可能であった前述の「ポコラヂ」ブースを除いては、すべてのライブアクトは並行的に実施され、オーディエンスに開かれた特設サイトも、基本的には同時に2つ以上のフロアを視聴することは難しいように機能されていた。オーディエンスは、バーチャルの部屋を移動しながら、アーティストのパフォーマンスを掻い摘んで「覗き見」する行為を強いられる。一方的に眺めることができるという非対称的な関係がここでは発生しているが、実際のカラオケルームでは、部屋が重たいドアによって隔離されている安心感から、別の部屋の人の歌声はついつい聴いてしまうのに、自分の声が漏れてしまうことについては根拠なく安心してしまうという、連帯的な「覗き見」の関係が発生している。この「覗き見」の構図が、カラオケ文化を独特の熱狂を生むものとして機能させている、というのは十分有り得ることだと思う。

 構造自体の特異性はあっても、それぞれのカラオケ部屋は音楽パフォーマンスに適した形に既にチューンアップされており、純粋な音楽イベントとしても魅力的なイベントであった。ブース内に同じ服装をしたオーディエンスを忍ばせ、ライブ映像自体を戯画的に仕立てあげたあっこゴリラのパフォーマンスや、バーチャルYouTuberとライブアクトの両立を図ったバーチャルねこ等、観客が紛れ込まない世界観を活かしたパフォーマンスの数々も体験することができた。

Photo by Keisuke Kato / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


 数あるライブアクトの中でも特徴的だったのが、「Yuzame Showcase」の最終出番を務めた、ビートメイカーの食品まつり a.k.a Foodmanと、Bo NingenのVocal/Bassを務めるTaigen Kawabeによるユニット・KISEKIのパフォーマンスだ。英国在住であるTaigen Kawabeは、その自宅からビデオ通話を介してアクトに参加し、その模様はカラオケボックスのモニターに映し出された。食品まつりによるアブストラクトなサウンドに、時差とタイムラグをものともしないTaigen Kawabeのボイスパフォーマンスが共鳴し、その二重の映像がスイッチされながらストリーミング配信される。酩酊のようなライブアクトの果てに、彼の「部屋」でライブ終了と共にベッドに横たわる彼の姿を最後に眺め、「Lost In Karaoke」の配信が終了すると、オーディエンスは、そのモニターの微かな反射から、「覗き見」られていた景色が自分の部屋であることに気付く。

Photo by So Hasegawa / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


 カラオケルームという発明は、覗き見、覗き見られるという関係によって発展し、文化としてうねりを持つ空間に発展を遂げた。「Lost In Karaoke」は、その空間の特異性を扱うだけではなく、カラオケ文化にさらなる流れを注ぎ込むイベントでもある。同時多発的に発生する空間のうねりの中で、ポコラヂブースだけがそれらを俯瞰的に見つめることができたのだが、カラオケ離れ著しい我々にとってそれは然程重要な事象として扱われなかった。カルト的議論とやり取りに花を咲かせていた我々に、ポコラヂブースのゲストとして出演し、イベント終盤では別室で一人カラオケに勤しんでいた三毛猫ホームレス・mochilon氏の歌声だけが響いていた。

Photo by Keisuke Kato / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


Photo by Suguru Saito / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


Photo by Suguru Saito / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


Photo by Keisuke Kato / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


Photo by Suguru Saito / Red Bull Music Festival Tokyo 2018


Link: RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018

文・和田瑞生


1992年生まれ。UNCANNY編集部。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部卒業。