INTERVIEWSAugust/06/2018

[Interview]X-Altera – “Check Out The Bass”

 ゼロ年代初頭からエレクトロニカ/ブレイクビーツ・シーンを牽引してきたデトロイトの鬼才、Tadd Mullinix。数々の変名プロジェクトを自在に操り、その多芸な器用さをもってビートの魔術師と呼ばれてきた彼は本年、エレクトロニカとヒップホップ〜ビート・ミュージックの接着地点において歴史的重要作として挙げられるDabrye(タブリー)名義での『Three』3部作の最終章となる『Three/Three』をリリースし、ふたたび大きな注目を集めた。前作『Two/Three』の発表からはなんと12年の時が経っており、伝説的シリーズの完結には計17年を費やしたこととなるのだが、そこからわずか2ヶ月も経たずして、新たにリリースのニュースが届けられた。

 新章をスタートさせたかったと語る彼が取り組んでいたのは、自身のルーツであるというジャングル/ドラムンベースに接近し、デトロイト・テクノとUKハードコア〜IDMまでが交錯する、エクスペリメンタル・ビーツ・プロジェクト “X-Altera”(エックス・アルテラ)。その懐古的でありながらも革新的な試みの核心に触れる、貴重なインタビューを敢行した。聴き手を務めたのは、ちょうど同タイミングでファースト・アルバム『MIND PROCESSOR』をリリースした、東京を拠点に活動するクリエイティブ・チームBETAPACKのBROKEN HAZE。そもそもBROKEN HAZEはこれまでソロ・アーティストとしてエレクトロニカとヒップホップを繋ぐサウンドをリリースしてきており、今回BETAPACKとして新たにインダストリアルなテクノ・サウンドを展開していることからも、アーティストとしてX-Alteraに通じる共通項が多く捉えられる。今回はそんな音楽的探求を続ける制作者としての視点を交えつつ、話を聞いてもらった。

__今回のアルバムは個人的に親しんできたDabryeとして活動されていた印象からは全く想像のできなかったサウンドで、新鮮な驚きをもらいました。90年代から00年代頃の雰囲気が漂いつつも、そのサウンドはアップデートされていて。その時々のアンダーグラウンドシーンが変わるきっかけとなったサウンドエレメントやスタイルが、現代的に磨かれながら随所にちりばめられているように感じました。ヒップホップビーツを作っていたところから、今回のサウンドにたどり着いたプロセスや経緯はどういったものだったんですか? 『Three』3部作の完結で、なにか心情に大きな変化が?

X-Alteraというプロジェクトは、長らく自分の中にあったクリエイティヴな衝動を満たすための方法なんだ。90年代にはTodd Osbornとともにドラムンベースとジャングルをたくさん作っていて、Soundmurderer & SK-1という名義で自分たちのレーベル〈Rewind Records〉からリリースしていた。〈Ghostly International〉と出会うまでは、デトロイトでジャングル・ナイトのレジデントDJもしていたんだ。〈Rewind〉は〈Rephlex〉(Aphex Twinが主宰する伝説的レーベル)のLPをリイシューしたりしていたし、カルト的な支持を集めていたけど、そのうちにそれぞれが別のタイプの音楽を作っていくことになった。それから数年して、俺自身は別名義のJTCやCharles Manier、そしてDabryeに集中するようになり、ドラムンベースに関しては試作曲をスタジオで作ることも稀だったな。だけど、他のプロジェクトで培った経験みたいなものが、どういうわけか今X-Alteraの音を作ることに活きている。

最近になって、俺の耳は自分がしばらくやってきたことに少し飽きてきてしまったようで、新たなページをめくって、ジャングリスト、デトロイト・レイバー、そしてアンビエント・テクノやIDMの愛好家だという自分自身のルーツに深く関係するような音をつくってみることにした。俺自身という人間を形作った時期のエレクトロニック・ミュージックが焦点になったんだ。そういった音楽こそがX-Alteraの出発点で、そのサウンドが発展して現在のトレンドへと成り代わっていったと思うからね。

__たくさんの名義を使い分けているのは、音に明確な違いがあるから? それとも、プロジェクトごとのコンセプトをわかりやすく提示するためですか? 名義ごとに考え方や焦点を切り替えるのは大変なように思いますし、数多くの名義を形成しているのは貴方一人ですが、それをどういう風に成り立たせていますか?

その通りだね。いろんな名義を使い分けることで、それぞれのプロジェクトにおいて全く違うアプローチをしてるってことをはっきり伝えられる。それぞれ特別なアプローチをしているから、そのコンセプトをしっかり固めるためにも別個のプレゼンテーションが必要なんだ。もしひとつのプロジェクトのためにスタイルをすべて統合してしまったら、異質な要素がリスナーを遠ざけかねないし、それぞれのニュアンスが失われてしまう。だからこれまで興味のある音楽ジャンルを分類してきたし、他にやり方を知らないんだ。自分はひとつのモードを長く続けると、面白みがなくなってきてしまう性分で。そういったぬかるみにハマらないように常に動きまわっているのさ。

__これまでダブリー名義でヒップホップとエレクトロニックの融合をリードしてきたわけですが、近年ヒップホップが流行しているのに対し、エレクトロニック・サウンドはますますアンダーグラウンドに潜っているかのような印象を受けます。このタイミングでそれを前面に打ち出したX-Alteraの音をリリースすることには何か特別な意味が?

それはきっと現代の音楽において、あるべき確かなクオリティが失われてきているということでもあるんじゃないかな。そういった現代的潮流を避けて、X-Alteraはオルタナティヴな方向性を指し示すことができると思う。たとえば、圧縮のエフェクトだったり、フットワークやトラップの影響がない。今日日のメインストリーム、そしてアンダーグラウンド・ミュージックの大部分を支配している、現代の音楽を象徴する決まり切ったやり方みたいなものを排除しているんだ。

__X-Alteraの制作にあたって、これまでの作品と手法やツール変わりましたか? 自分のようなプロデューサーはあなたの制作プロセスにすごく興味がありますし、これからビートメイクにトライしたいと思っている若者への参考にもなればと思うので、具体的にどのようなツールや機材を使用したか、教えてください。

自分の最近の2作品『Three/Three』と『X-Altera』については、AbletonのLiveを主要なDAWとして導入したんだ。すごくパワーもあるし、使いやすいからね。あとはハードウェアシンセとのコンビネーションだね。具体的にはJV 2080とMake NoiseのShared System、それからAbletonとRenoise 。Renoiseは最先端のトラッキング・ツールで、自分が最初に使ったシーケンサーだったってこともあって、使い慣れているんだ。

__自身のクラシックなレコード・コレクションからインスピレーションを受けてこの作品が生まれたとのことですが、新しいジェネレーション、若いアーティストなどにインスパイアされたことは?

アルメニアの首都エレバンにTUMOというクリエイティヴ・テクノロジーのための施設があって、そこの若い生徒たちに向けてヒップホップのビート・メイキング講座をやったんだ。子供たちは実に好奇心旺盛で、アイデアにあふれていたよ。おまけに吸収がはやくて適応能力も高いし、すごく礼儀正しくて。そんな彼らの新鮮な耳を通して、自分が基本に立ち返るチャンスをもらったんだ。俺自身がヒップホップのどこを好きだったか、そんなベースの部分を思い出させてくれた。その経験にすごくエネルギーをもらえたからこそ、『Three/Three』を完成させることができたんだ。

__X-Alteraの音はデトロイト・ミーツ・UKと表現されますが、これまで自らが常にデトロイトのミュージック・シーンに属し、その音をつくってきたという自覚はありますか? この音はデトロイトがルーツだとあなたに感じさせるものはなんでしょうか? また、その特徴的な音を鳴らしていると感じるアーティストは?

自分みたいなデトロイターは、地元の仲間のDJたちを通じてUKエレクトロニカを体験するんだ。UKハードコア、ドラムンベースとデトロイト・テクノは長くの間、密接に結びついている。俺はその融合のピークの時代を生きてきた。The Belleville Three(Juan Atkins、Kevin Saunderson、そしてDerrick Mayによる伝説的ユニットでデトロイト・テクノのパイオニア)はUKのプロデューサーに大きな影響を与えてきたし、その事実、そしてそれがどのようにX-Alteraの音と関係しているかが、90年代中期におけるジャングル、後期ハードコア、初期ドラムンベースあたりに集約されている。A Guy Called Geraldとその時代のからのリリース群はそのシーンで特に大きな役割を担っていて、それらのX-Alteraのサウンドへの影響は明らかだろう。

さらにX-Alteraはこの時期の音をテクノの領域へと持ち込んでいるんだ。ひとりのデトロイトのアーティストをこれらの音の象徴として定義することはできないね。特定のサウンドというよりも音楽へのアティチュードが、デトロイトの象徴なんだ。それはClaude YoungやTwonz、K Hand、Jeff Mills、Kenny LarkinにUR、D Wynn、D Knox、Shake、Minx、Mike Huckabyと、とても挙げきれないけれど、これまでローカルのアーティストの音を聴いてきた俺自身の経験の蓄積から言えることだ。それら自分の音よりも先にあったデトロイトのサウンドがまた、Mark PritchardやB12をはじめとするUKのアンビエント・テクノに影響を与え返してきたように感じられる。この交差が、俺自身のデトロイトというルーツへと常に戻ってくるのさ。

__ちなみに、本作中で最もデトロイトの色が強いと感じる楽曲とその理由を教えてください。

「Passivity Fields」だね。楽曲自体に透きとおったフューチャリズムがあって、とあるリズミカルな対称性を含んでいるのがディープなデトロイト・テクノを思い起こさせるんだ。

__あなたのライフワークでもある、レコードショップでヴァイナルを掘るということ以外で、ふだんのミュージック・ソースはなんですか? ストリーミング・サービスやラジオなどを利用して、新しい音楽に出会うことは?

15年以上レコード・ストアで働いていたおかげで相当なレコード・コレクションがあるし、いまだレコードに執着があるんだ。それだけでもう十分な音楽に囲まれているとも言えるけど、時々ラジオをつけて地元ミシガン大学のカレッジ・ラジオと東ミシガン大のジャズ・ラジオを聴いたりするよ。

__X-Altera名義で今後のリリースは考えていますか? もしくはDabryeともX-Alteraとも異なる新たな形態、新しいジャンルの開拓を進めていくのでしょうか?

X-Alteraの音楽は確実にもっと作っていくことになるね。当分の間はこのプロジェクトにフォーカスしたいと思っているし、まだまだやってみたいことがあるよ。

■リリース情報
Artist: X-Altera
Title: X-Altera
Release date: 2018.07.04
Number: HSE-6830
Label: Ghostly International / Hostess
Price: 2,300円+税
*日本独自企画盤、ライナーノーツ(小林拓音)、ボーナストラック3曲付

01. Compound Extraprotus

02. Check Out The Bass

03. Pasco Richey Tiger

04. Parallel Rites (Kepler-452b)

05. In My Life

06. Impossible

07. Holotyd Neo-Optika

08. Shoreline (Can’t Understand)

09. Entry

10. Passivity Fields

11. Link Stratum Of Archipelagos*
12. Entry (JTC’s Sparkz Mahlecyul Remix)*

13. Holotyd Neo-Optika (Race & Wheeze Mix)*
*
日本盤独自企画盤ボーナストラック3曲

質問作成 : BROKEN HAZE
翻訳・文:bacteria_kun