INTERVIEWSJuly/31/2018

[Interview]BETAPACK – “MIND PROCESSOR”

 BETAPACKは、東京を拠点とするクリエイティブチーム。2015年から活動をスタートし、以降、多様なメンバーが参加。そのサウンドの中核を担うBROKEN HAZEを中心に、音楽、映像からアパレルまで、これまで様々なプロジェクト/プロダクトを手がけている。

 国内外での評価を高めていく中、今年6月、ファースト・アルバムとなる『MIND PROCESSOR』をリリース。本作は、全11曲が収録されたフル・アルバムとなっており、謎が多かったBETAPACKの枢要の一部が明らかにされた作品でもある。

 以下のインタビューでは、本作『MIND PROCESSOR』について、またBETAPACKというプロジェクトについて、現在進行形でもある同プロジェクトの現時点での詳細が語られている。

__BETAPACKは、クリエイティブチームとのことですが、メンバーとそれぞれの役割を教えてください。

音楽、映像、ライブ、アパレルなど活動が多岐に渡りますので、メンバーはプロジェクトによって変わるようになりました。今回のアルバムも多くの人が関わってくれています。あまり表にでるのが好きじゃない人もいたりするのでちょっとしたものを作ってくれたりしてるメンツも何人かいますね。また、SNSなど含めて作品を届ける上でも多くのプロセスがあり、そこに関わる人が全員メンバーというか、BETAPACKはそのバーチャルチーム、バーチャルプラットフォームのような一つの有機体として考えています。

__BETAPACKの名前の由来や目指す思想のようなものがあれば教えてください。

BETAPACKという意味は、一人では完成しえないもの、つまり未完のBETAを集め、包む(PACK)ことによって一つの有機体が生まれるという考えの元につけられました。英語的に合っているとかは特に気にしてないです。なので、個々で活動がしやすい今だからこそ複数が集まってプロジェクトを進行し、一つのものを完成させるプロセスで生まれる偶発的なアイデアなどに意味があるとなんとなく考えていた気がします。プロジェクトの内容や表現によって今フロントに立っている人間が自分たち含めて変わっていくこともあるかもしれませんね。

__BETAPACKというプロジェクトをスタートしたきっかけを教えてください。

当時は無機質な音やインダストリアルで少し実験的なサウンドメイキングのダンスミュージックをやってみるというのがきっかけです。元々この時にすでに作りためていた曲が20曲くらいあって、最初はDJの活動の中でそれをプレイしたりしていたのですが、表現したいことが音だけでは難しくなったのと、関わる人が増えてきて様々な活動をすることになり今に至ります。

__ライブでは、オーディオビジュアルセットとして演出されていますが、具体的にどのような演出なのでしょうか。

特徴的には自分たちで組んでいるLEDやストロボでしょうか。映像ももちろん投影したりするのですが、物理的なもので表現すると独特の奥行き、そして映像よりも単純な見た目になるため動きがデフォルメされる気がするんです。今までもいろんな試みをほかにもやっていて自分たちのステージをシースルーのスクリーンで覆ってそこに映像を映し出したりなどしたこともあります。途中から映像がうまく出せずビニールハウスに閉じ込められた謎な人たちみたいになりました(笑)。

ビジュアル面ではいわゆるVJ的に映像をコントロールしたり、音やデータに反応させて投影したり。音の面ではパソコンとコントローラー、あとはギターやシンセ、エレドラなどを導入しています。

__そのようなライブセットを演出している理由を教えてください。

人間味のない無機質で確かなものでループを組み合わせると同時に、ミスなども出る人間の手による「揺らぎ」を融合させたかったんです。ミスも含めて面白いというか。ラップトップだけのライブも経験ありますしそれも好きなのですが、クオンタイズされているもので表現することだけでは考える世界観が出せなくなってきて。

時間帯やその日の出来事、最近考えていること、前日に食べた物や話をした人、いろんなちょっとしたことによって変わってくると思うんです。バンドをずっとやられている方にとっては普通のことかもしれませんが、最初からパソコンでエレクトロニックミュージックを作っていたのでこの辺の不確かさは憧れがあるのかもしれません。テクノロジーの進化でできることが増えて便利になるのと同時にこの「不確か」な要素が大事になってきそうな気がします。

またビジュアル要素にこだわったのは、10年後くらいかもしれないし今もうすでにそうなっているかもしれないですが「音楽」と言われるフォーマットがアップデートされた時に映像はもちろんのこと五感すべてで感じる「今は名もわからないフォーマット」に変わっているかもしれない。そう考えた時に今できることを色々実験的にやってみようかなと思いました。

データの流れや思考の表現に使っているLEDや蛍光灯、ギターなどのフィジカルなプレイはもうビンテージ・クラシックといわれるかもしれませんね。わざわざ物理的なもので表現しそれを体感すること自体が希少になるのかな、なんて考えながら精一杯のテクノロジーと人間の関係をこういった形で表現したかったのかもしれません。

もしかしたら未来的だと思いながらも過去なのかもしれません。あの時思い描いた未来を表現しているのかもしれません。一貫性がないけれどこれくらい支離滅裂な考えで曖昧さを自分の中でも残しながら作っていくのが楽しかったです。

__BROKEN HAZEさんは、国産車カルチャーをテーマとしたEPのシリーズをリリースしていますが、このシリーズのコンセプトについて詳しく教えてください。

国産車シリーズは本当に単純に趣味というか好きなんですよね。辰巳PAとか大黒PAとかに行ってよく車を眺めていたりしました。あのメカニカルなサウンドと運転している感覚と無機質でインダストリアルなサウンドとの相性が良くて最初遊びで作っていたらどんどん本気になっていった感じでしょうか。日本でもごく一部ではとても90’sの国産スポーツタイプは人気があるのですが、海外での人気がすごいですよね。アーティストが来日した時もよく日本車の話になるんですよ。世界共通語というか。

もともとそういう感じでBETAPACKを始める頃に作りためていた曲なのですが、それをここ2年くらいかけて消化する形でリリースしてきました。海外からの反応がやっぱりよくて。UKのアーティストなどから「RX-7かっこいいね」みたいなメッセージが送られてきても車のことか曲のことかわからないみたいなことはありましたが(笑)。

__国産車シリーズのラスト作となる『AE86』は、BETAPACK名義でのリリースとなっていますが、個人名義との違いはどのような点にありますか。

BROKEN HAZE名義で出しているものはBROKEN HAZEだけで音の完成を決定しています。BETAPACKでの名義では作る際はもちろん、最終的な決定を複数人でやっていたことが大きいですね。あとはぼくらの好きな『頭文字D』という漫画・アニメの主人公が乗る車ということもあり、これを最後に持ってきました。

__ファースト・アルバムとなる『MIND PROCESSOR』について。アルバムの制作にあたって、どのくらいの期間を要したのでしょうか。また、チームとしては、どのようなプロセスで作品を制作しているのでしょうか。

アルバムの制作も同じで色々な決定を複数人でこなしていったり、トラックメイキングはしていないけどギターを弾くメンバーにプロジェクトに参加してもらったりっていう感じでしょうか。期間は構想を含めると2年くらいかかったと思います。ある程度曲のイメージ・コンセプトが決まっていたのですが、生感や人間臭さとデジタル・プログラム的なサウンドのバランスが特に難しかったですね。

__アルバム『MIND PROCESSOR』のタイトルの意味とアルバム全体のコンセプトを教えてください。

そんなに深い話でもないですし感じ方を制限したくないのが本音なので、捉え方も色々で良いと思うのですが、ぼくらが考えていた『MIND PROCESSOR』は思考能力の拡張です。

バイオハッキング、常時オンライン、スーパークラウドでいつでも膨大な知識や情報にアクセス可能な世界になっていると思いますし、出尽くした話題とはいえAIや知能拡張の存在は避けられないテーマかなとは思っていて。AIに関しては音楽制作の世界でもホットな話題です。ぼくらのような素人が話をするよりも詳しい文献がたくさんあるのでここで細かいことは語りませんけども。すでに今もプログラムにより音楽知識がなくても制作は可能になっていますし、これがさらに進んでいくと思います。

これが人間の補助ツールになるのか、それとも人間が操られているのか、融合しているのか、意識を一つに保てるのか。この辺は謎ですけども少なくとも人間の脳で処理できない圧倒的なデータ量・知識量とそれを高速に処理して扱う能力がオンラインで繋がっていればできるようになりますし、膨大な行動履歴を蓄積すれば他の人の思考すら予測できようになると思うので。

この前制作などで関わらせてもらっているSKY-HI氏が言っていましたけど、“哲学のないエンタメはインスタントフード”という話があって。ぼくの捉え方としては将来こういったテンプレ化された即席の音楽は人間の意志がなくてもプロデューサーがいなくてもいくらでも量産できるようになるのかもなと。

そういうもの、つまりテンプレ化された即席の音楽に刺激を感じなくなった時、人間の失敗は最も興味深いものになるのだと思います。また聴く側、見る側もその不確かさにスリルを感じて高揚感を得るのかなと思っています。そこすらAIが学習してできてしまう可能性もあるのがジレンマですよね。それに慣れてくるとその高揚感もなくなりつまらないものになってしまう。そんな“せめぎ合いと矛盾や悲しさ、やるせない気持ちの中でも続けていく活動”、そんなことがなんとなくの今回のテーマだと思っています。

__アルバムには、インタールードが挿入されることで、いくつかの章に分けれていると解釈できます。アルバムとしてのストーリー性などは意識しましたか。

今回のアルバムはいきなりイントロの次に「Reboot」って曲がくるんです。最後の曲は「Oblivion」。その高揚感を得るためにリセットして何度も繰り返すループを表現したつもりです。繰り返されるファーストインプレッションの興奮を得るための忘却といった感じです。インタールードはその人間との情報のやりとりを表現していますが、音や曲の勢いなども含めて印象をリセットしてもらえるように意識的にいれています。一枚を一つの流れとして聞いてもらうために短いですがインタールードもとても大事な曲です。

今回はコンセプトを優先しているので、DJなどは一切使えないんじゃないでしょうか。PVも作った「OVERCLOCK」は普段のライブに近いものを映像にしたのですが、“プログラムの一部に取り込まれて、もう人間が限界を超えさせられている”ような興奮剤のようなイメージです。

__「PROXY」では、ドラマーのGOTO、Yuta Hoshiがツインドラムとして参加していますが、このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。

人間の「揺らぎ」は“クオンタイズされたサウンドの中でもがく人間味”みたいなものが今回のテーマからはとても重要で、コンピューターミュージックにギターやシンセの演奏を持ち込んでいるとはいえ、そこをさらに超えて融合していく表現には、ミニマルなのにパワフルで感情的なプレイをするYuta Hoshi氏、そしてトリッキーかつ人間でしかでてこないような“おかず”や“ずらし”的なプレイができるGOTO氏が必要でした。

また二人ともエレクトロニックミュージック・ダンスミュージックへの理解がバンドをやられている人の中ではずば抜けていることも参加していただいた大きな理由です。しっかり「featuring」として記載させてもらっているのは、曲のタイトル通りぼくらが作ったり演奏する代替として二人の要素が注入されることにより“変化したBETAPACKプログラムであること”を示したかったです。

あとは、単純にこの二人が1曲で一緒にドラムをやっている曲を聴いてみたかったというもあります。このスタイルの違う二人がさらにぼくらのデジタルサウンドの上で一緒に叩いちゃったらどうなるんだろうというワクワクがありました。アルバムの意味を色々と説明しておいてなんですが(笑)、単純にこういうものを聴きたい、見てみたい、なんかかっこいいって自分たちが思う、っていう曖昧なものも大事にしたいなと思っていて。

先日のとあるインタレーションの批評で“アートは問題提起であるべきで思考を停止させるものではない”というのを見かけたんですが、もうぼくらは聴いた瞬間や見た瞬間のインパクト、本能的にかっこいいって思うことは大前提として大事にしたいなあと思っていて。そういう意味では世間の言うアートとしての作品ではないかもしれません。ぼくらの考えはとても曖昧なところもありますし、人間らしい浅はかさもありますし、それも含めて今回のアルバムが出来上がっていると思っています。

__アートワークには、波形やコードのようなものが配置されていますが、どのようなテーマで制作されたのでしょうか。

これは自分たちのステータスをプログラムが冷静に分析しつつコントロールされつつも、自分たちもそのプログラムで能力を拡張している、といったものをテーマに作っています。CDはジャケが透明なんですが、その奥に書き換えが不可能なCDが見えることで、“簡単に変更や上書きができない感情”を詰め込んだメディアが見え隠れするようなイメージです。その上に透明フィルムのプログラムっぽいものがかぶさっていることで、自分たちがテクノロジーで武装している、あるいはその逆でプログラムに支配されている、みたいなものを表現したかったです。ライブセットの配置も同じようなイメージですね。

__BROKEN HAZEさんの作品は、Bleepなどの海外のセレクト・ストアでも販売されていますが、BETAPACK含め、ライブやツアー、あるいはインスタレーションなど海外での公演などは視野に入れていますか。

特に海外でやりたいからというわけではないのですが、リリースしてきたトラックは欧米のアンダーグラウンドで活動するDJやリスナーが気に入ってくれることが多かったんですよね。かといって自身が海外を拠点に移すということも考えてはなくて。今のこの曲ができたのは日本に住み感じることがあったから出てきたものでもありますし。制作含め海外在住の人も関わっているプロジェクトでもありますので、将来的には国外でも何かやりたいですね。

__今後、BETAPACKでは、どのようなプロダクトをリリースしていくのか、具体的なプランがあれば教えてください。

今はこの『MIND PROCESSOR』に時間を注いでいたので現段階で決定していないのでゆっくりまた考えられればと思います。いくつか話が進んでいるものもありますがコロコロとやりたいことを変わるかもしれませんし、裏方として参加するプロジェクトも増えていたりするのでお話できないものも結構あったり。アナウンスできるものが出てきたらTwitterFacebookなどで発表していきますので活動をチェックしていただければ嬉しいです。

MIND PROCESSOR:
01. Password Accepted
02. Reboot
03. Overclock
04. Mind Processor
05. DataTransfer 01
06. Shadowstarter
07. Godmode
08. DataTransfer 02
09. Proxy
  Featuring GOTO (DALLJUB STEP CLUB / あらかじめ決められた恋人たちへ)
  & YUTA HOSHI (WOZNIAK / DALLJUB STEP CLUB / OUTATBERO)
10. DataTransfer 03
11. Oblivion

インタビュー・文: T_L