INTERVIEWSMarch/30/2015

[Interview]LLLL – “Faithful”

__今回のアルバムは、まとまっているけど一言では形容しがたいというか。歌も歌詞をイメージせずに音として聴いてしまっているんですけど、盤に歌詞カードは付いてくるんですか?

付いてこないですね。

__じゃあやはり歌も歌詞や言葉のイメージよりも音のイメージを大事にしているんですか? それとも、聴きながら確かめて欲しいというか。

それに関しては、今回の歌詞は日本語も英語も使っていて、これは文化的なものになると思うんですけど、Meishi Smileや〈PC Music〉は明らかにJ-POPの影響を受けていると思うんですね。あとUlzzang Pistolっていうフィリピン人のアーティストが〈Zoom Lens〉にいるんですけど、彼は英語、中国語、韓国語と、まあいくつもの言語で歌っているんです。なんだろう、今回僕が日本語の歌詞を多く採用したのも、自分が聴いてきたポップスに対する自信の裏返しなのかなって思っていて。勿論日本人だし昔からJ-POPもすごく好きだったんですけど、こういうアンダーグラウンド音楽と日本語の組み合わせに少し違和感を感じていて。でもそういうものを自分の中で覆したいなと思って、聞き取りやすくて分かりやすい日本語を意識して使いましたね。だから繰り返すようだけど、今回は自分の中のポップスに対する自信の現れみたいなものと同じ意味なのかもしれないです。

__それこそ、文化の違いという話が出ましたが、やっぱり日本語と英語ってニュアンスが大分変わるじゃないですか。僕は日本語ばかりなんですけど、英語だと言い切る形になるというか、そこの隙間を日本語の微妙なニュアンスを表現する強さで埋めるというか、そのバランスで成り立っている気がするんです。強い言葉で歌うJ-POPってあまり好きじゃなくて。過激すぎるのは逆に面白いんですけど、その微妙なものを表現するのがJ-POPの面白さなのかなっていうのはあって。その日本語と英語の表現の違い、イメージを楽曲に混ぜ込んでいるという感じですか?

実はそこは全く意識していないですね。というもの、僕の場合は楽曲のメロディがJ-POPの文脈なのか西洋のポップスの文脈なのかで考えているんです。このメロディは日本語で歌いたいな、とか。これは僕自身ももっと研究したいっていうのがあるんですけど、日本的な旋律と洋楽的な旋律って特徴としていくつかあると思うんです。その中で、この旋律は日本語の方が映えるな、この楽曲は英語の方が映えるな、っていうポイントの方が大きいですね。発音もそうだし、あとこれは邦楽と洋楽を聴き比べれば分かるんですけど、英語の方が確実に沢山の言葉を入れられるんですね。日本語は絶対に母音と子音をパッケージにしないといけないから、例えば、3つの音程があったら、「すきだ」とか、3つの音節になるじゃないですか。でも英語だったら1つの音程で「like」とか言えるんですよね。だから英語の方が多く言えるというのもあって。…でもそうですね、これはまだ言葉では上手く説明出来ないんですけど、僕自身も興味を持っている事なんですけど、なんとなくメロディで日本語か英語かを決めていますね。

__興味深い話ですね。誰か研究してないんですかね、統計とかとって。教えてもらいたいです。

そうですよね。ヨナ抜き音階とか伝統的なニュアンスのものもあるけどもっと体系づけて欲しいですよね、どういう違いがあるのか。

__そういう意味では、日本語の曲と英語の曲のイメージの違いはそういう部分なのかなと思いました。メロディの乗せ方的にどちらを選ぶかという話ですよね。

そうですね。でもやっぱり大きなポイントとしてあるのは、僕のTwitterのフォロワーって多分半分以上日本人ではない方なんです。だから英語は海外の方にも聴いてもらいたいという意味で使っていますね。意味が分かって欲しいっていうこと以外にも、どの言語でも、どんな人が歌っても聴いても良いんだっていうことの現れでもあるんです。〈Zoom Lens〉にいたのもこれを先に出たUlzzang Pistolさんがフィリピン人でありながら韓国語で歌う歌を作っているというのが美しいなと思ったというのもあります。

__〈Zoom Lens〉の面白いところって、逆輸入感とも違うというか、確かにJ-POPに影響を受けているものもあるし、実際に日本人がリリースしたりもあると思うんですけど、過剰に日本に寄せないから無国籍感みたいなものを感じるところなんですよね。それこそさっきの話のように色んな言語を使う方がいて。そういうところから〈PROGRESSIVE FOrM〉から出すってなった時にイメージが変わった気がしました。

それ前も違うインタビューで全く同じ事を言われましたね。本当単純に〈PROGRESSIVE FOrM〉が好きだったというのと、もう1つは日本からリリースしたかったというものあります。nikさん(〈PROGRESSIVE FOrM〉のレーベルオーナー)にお会いしたときも僕の方から音源を聴いて下さいとメールをして。勿論僕の音楽が伝統的な〈PROGRESSIVE FOrM〉の音楽ではないことは理解していたんですけど、何を出すか出さないかを決めるのはnikさんだから一応聴いてもらいたいと思って音源を渡して、こういう感じになりましたっていうのがあって。多分日本は皆そうだと思うんですけど、色々な音楽を聴いているじゃないですか。だからそういう違和感みたいなものは、多分アーティストをイメージ付けたいっていうのもあると思うんです、勿論それも分かるんですけど。例えば僕の音楽を聴いている人に僕があった時に、イメージが違う、笑ってなさそうって言われる事もあるんですけど、でも残念ながら人間はもっと複雑で色んな側面を持っているし。だから僕の中では〈PROGRESSIVE FOrM〉から出すのは見えていたことなんですね。ちゃんと意味もあるしすごく自然な事だったんです。

__じゃあ〈PROGRESSIVE FOrM〉から音源を出す事になったのは、単純にLLLLさんが好きだったというのに加えて、国内にアプローチしたいというのもあったんですね。

それも大きかったです。

__海外の方にも聴いてもらいたいという話がありましたが、今回のアルバムは国内にもアプローチしているということで、どの層に聴いてもらいたいみたいなものはありますか? 勿論皆に届くのが理想ではあるんですけど。

やっぱり僕、さっきの話じゃないですけど、インターネットミュージックが台頭してきて、そのシーンにすごく恩恵を受けているので、まずはそういう音楽をやっている人達に聴いてもらいたいっていうのはありますね。勿論皆さんに聴いてもらいたいというのはあるんですけど、それ以上考えた事はないですね。

__なるほど。じゃあ言い方を変えて、どういう人が聴いたら面白いなと思いますか? ひとつはインターネットカルチャーが好きな人たちに聴いてもらうとして、例えば全然関係ないところで10代の男の子が聴いたら面白いなとか、そういうのはありますか?

ああ、そういうのはないですね。でも僕自身がそうなんですけど、オーバーグラウンド、アンダーグラウンドや邦楽、洋楽だとかの区分けをしていない人に聴いてもらいたいというのはありますね。そういう音楽の聞き方をしている人にはどう映るのかというのには興味があります。今回のアルバムはそういうものの表れみたいなものなので。区分けなんてどうでもよくない?と思うし、そう思わせてくれる人もシーンに増えてきたので、自分もそういうアプローチがしたいと思ってそれを形にした感じですね。

__色んな垣根を越えた結果の今回の作品なんですね。ありがとうございます。ではまた違う質問をさせていただきます。普段はどういう環境で作品を作っているんですか?

恐らく今のインターネットミュージシャンの方々と同じように寝室でコソコソ作っていますね。アナログのテープレコーダーとかは無いので100%パソコンで作っています。DAWはずっとAbletonを使っていますね。

__音のイメージ的にCubaseとかがっつりしたソフトを使っているのかと思っていました。

僕の曲ってトラックというより楽曲って感じですもんね、Abletonはトラックメイカーのチョイスってイメージがあるの分かります。

__ハード機材は使ったりしますか?

僕、デジタル機器の、オートメーションのかけ方とか細かいEditがすごく好きで魅力を感じているんですね。で、正直シンセの音そのものはアナログの方が好きで、その中間点となる、アナログシンセの音がサンプリングされているシンセの音が好きなんです。なので、アナログシンセをサンプルしたものを自分なりにデジタルでEditすることが多いですね。多分聴く人が聴けば分かると思うんですけど。でもハード機材の音をデジタル処理して使っている人って最近多いんじゃないですかね。

__「夢の狭間」のイントロの力強いトラックの音とかが結構好きなんです。

ああ、あれはデジタルですね。いや、にしても良いですね、こういう系の質問が来たのは初めてなので嬉しいです。

__やっぱり音がすごく綺麗だったので。

ありがとうございます。2曲以外僕がミックスしているんですけど、マスタリングのZengyoさんが結構がっつり綺麗にしてくれたので、彼のところも大きいかなと思いますね。延々と1曲ずつ、申し訳ないくらいに何回もやり直してもらったので。

__すごいなあ。聴いていて、シューゲイザー的な部分も見られるなと思ったんです。「Blue」とか、わーっと音像が迫ってくる感じにもシューゲイザーっぽさを感じましたし、綺麗な轟音が押し寄せてくる感じがあって、プロダクションの部分でも苦労されているのかなと思いました。

そうですね。ノイズというか、音の層を厚くすれば厚くするほど、メロディや何かを中心に持ってこようとした時に努力しないと埋もれてしまうので。My Bloody Valentineの『Loveless』みたいな、全部埋もれちゃってるけど何となく聞こえるみたいなのも良いとは思うんですけど僕が作りたいものはそれじゃなくて、わーってなってるけど真ん中の部分はちゃんと聞こえる、みたいなものを作りたかったんですね。

__そのためにミックスやマスタリングに力をいれられたんですね。なるほどなあ、本当に音が綺麗だから感動しました。12曲目の作品は去年出された作品のリメイクですか?

リメイクですね。まあファーストはまだ国内流通していないので、その作品を入れる事にも意味はあるのかなと思っていて。で、nikさんからピアノとストリングスの方を紹介してもらって、リメイクとして新たに録り直して作ったっていう感じです。

__アルバム全体で聴いても馴染んでいるというか、感覚としてすっと入ってきたなと思いました。実は気付いたのは結構直前だったんです。最近はこのアルバムばかり聴いていたんですけど、前の作品も参考にしてみようと思って聴いた時に、この曲リメイクだって気付いて。そこは今回国内流通するにあたって、じゃあ前回の作品も入れてみようみたいな感じだったんですか?

そうですね、流通という意味も大きいのかもしれない。でも単に聴いて欲しいっていうのもありますけどね。前回の作品にもすごく誇りを持っているんですけど、残念ながら日本の殆どの人は知らないので。今回nikさんに流通してもらう事になった時に、そこの面も聴いて欲しいというのがありました。だから一番最後に入っているっていうのもありますね。勿論全体の流れとして良いなと思ったっていうのもあるんですけど。

__なるほど、ありがとうございます。楽曲を作り始めるインスピレーションってひとつひとつあると思うんですけど、どういうところからくる事が多いですか?

前回のアルバムは、震災をきっかけに自分と人として向き合った時に、このままじゃ良くないなと思った部分だとかがあったんですけど、今回はいくつかありますね。まずは人に対して肯定的になれたというのが1つと、もう1つは今回のテーマとして恋愛感情が大きかったんですよね。多分前回になかった繊細な感じって多分そこなんですよね。なんだかポップスの古典的な返答で申し訳ないんですけど、そういうのもありました。あとは最近、自分の夢を記憶するようにしていて、その夢を曲に出来ないかなと思っているんですね。元々ドリームポップと言われるだけあって、シューゲイザーとかってどこか非現実的なところがあるじゃないですか、僕そういう音が昔からすごく好きだったんですね。まあ皆見ると思うんですけど、変な夢を見て、そのイメージを音に出来たら面白いなと思っていて。だからインスピレーションとして挙げるならその3つですね。

__夢を音にするって面白いというか突拍子もないというか、完全に夢となると自分の無意識のコントロールからだから、そこから作って出てくるものが面白くなりますよね。

そう、やっぱり夢って面白いじゃないですか。無意識だから自分はコントロール出来ないけど、でもそれって自分だし、そこに何か意味があると思っているんですね。で、たまたまその時変な夢を沢山見て面白いなと思っていたんです。それを日記に書いてみたりして。それは音像にも影響している気がします。映画のサントラをつけるのにイメージは近いと思うんですけど。

__じゃあ外部からというより自分の内側からのインスピレーションの方が多いんですね。

そうですね。他のインタビューでも言ったんですけど、〈Zoom Lens〉も〈Maltine Records〉も〈PC Music〉だとかもすごく良いと思うんですけど、特定にアーティストに近付きたくない、一定の距離を置いておきたいっていうのはあって。だから出来るだけ1つのアーティストの音楽ばかりを聴かないようにしようとは思っているんですね。だから自分の中から出てくるものを大切にしたいなっていうのはあります。

__言ってしまえば、その自分の内側にあるものを出す=LLLLという活動だったりもしますか?

それは勿論。そうですね。

__じゃあ外部のコンセプトから持ってくるというよりはそっちでやっていきたいんですね。

そうですね。でもやっぱり人と人の係わり合いなんて、それ自身が内面化されたものじゃないですか。そこはすごく大切だと思うんですけど、最終的にこういう感じになりたいからこうしよう、みたいなのはないですね。

__アルバムの作り方って色々あると思うんです。元からテーマを決めて作ろう、とか。そういう感じではないってことですよね。

全然ないですね。わーっと沢山作っていく中で何となく見えてくるじゃないですか。そういえばこの楽曲の塊って、前よりも自分がポジティブになれたからだ、とか、振られたこの人の事を考えてたときの事だ、とか(笑)。本当にそういう単純なレベルなんですけど。でもそれがやっぱりサウンドとして現れてくるし。この夢の事を考えて作ってたな、とか、これそういえば全体的なサウンドになったな、とか。特に難しい話ではなくて、そういう感じですね。

__なるほど、ありがとうございます。今回のアルバム、本当に良い作品だと思いました。今後のご活躍を期待しています。

(2015年3月16日、都内にて)

15030701

■リリース情報
Artist: LLLL(フォー・エル)
Title: Faithful(フェイスフル)
Label: PROGRESSIVE FOrM
Release Date: 2015年3月15日(日)
Price: ¥2,160(税抜価格¥2,000)

1. Only To Silence
2. Blue
3. All I See
4. Holy Lust
5. Transcribe
6. Dive
7. Sync
8. Heat
9. 夢の狭間
10. Long Drive
11. You/We
12. Falling Alone Revisited

Vocal:
M1 by Metoronori, M2 & 4 by Makoto, M3 by Shinobu from Her Ghost Friend, M5, 8, 10 & 11 by Meghan Riley, M6 by Asa Taura, M7 by Natsumi Hirasawa from Nikakusui, M9 by 加奈子 from 禁断の多数決, M12 by Yukiko Chikazawa

インタビュー・文:和田瑞生
1992年生まれ。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行っている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

構成・アシスタント:成瀬光
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。