INTERVIEWSMarch/30/2015

[Interview]LLLL – “Faithful”

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 空間のあわいに吸い込まれていくような轟音の霧に、現れては立ち消えていくようなボーカル・サウンド。その高度に抽象的な世界観と、それを構築するサウンド・プロダクションから生み出されたLLLL『Faithful』。〈PROGRESSIVE FOrM〉からリリースとなった今作は、Her Ghost FriendのShinobuや、禁断の多数決の加奈子、ii(に角すい)の平沢なつみ等、全8組のボーカリストを招いて制作され、〈Zoom Lens〉からリリースされた前作『Paradice』からより一層深化し、尚且つポップス的でもある。抽象とポップスという、一見離れたようにも見える二つの象徴を結びつけたのは、元々商業音楽で活躍していたという彼の構築能力と、〈Zoom Lens〉や〈Maltine Records〉といった、反ポップ的でありながらポップスを追求するインターネットミュージックという存在であるように思う。

 今回は、アルバム『Faithful』やLLLLの世界観のみではなく、その目線から見据えるインターネット、〈Zoom Lens〉という世界、そしてポップス音楽そのものについて語り合うことが出来、とても興味深い内容のインタビューになった。抽象故に、一見掴みづらくも見えるLLLLというアーティストとこのアルバムについて考える指針として是非読んで欲しい。

__ニューアルバム『Faithful』リリースおめでとうございます。LLLLという個人名義兼ユニット名で2012年頃から活動を始められて、去年ファーストアルバム『Paradice』をリリースされましたが、そもそもLLLLという名義で活動しようと思ったきっかけ、動機などはありますか?

まずこの活動を始めたのは、自分が本来やりたい好きな事をやろうと思ったからですね。3.11に震災が起こって、僕だけじゃないと思うんですけど、多分多くの人にとって自分の人生を見直す機会になったと思うんです。僕は元々商業音楽をベースにやっていたんですけど、その時僕も個人的に色々あって、今の音楽業界や自分の人生に対して、どうなんだろうって色々考えるきっかけになって。で、自分の好きなことにその当時の気持ちを反映した音楽をまずは作り始めたっていう感じですね。

__LLLL(フォー・エル)という名前の由来は?

由来や意味は特にないですね。最初に見た時に、Lって角なので4つあればどんな形にでもデザインにも出来ると思ったんです。本当は四角にしたりダイヤにしたりしたかったので、呼び方もエルじゃなくて、どちらかと言えば角とかで考えていたんですよね。呼び方に特にこだわりはなくて、ただLになったっていう感じですね。なので四角って呼び方になっていた可能性もあります。

__なるほど。(名義を)名前として呼ぶのではなく、モノ的なイメージとして使っているところからも伺える通り、名前や活動のスタイルなどに匿名的なイメージを持たれている印象がありました。

それはよく皆さんにも言われますね。でも別にそんな事はなくて。まあでも、これは面白くも何ともないんですけど、作曲事務所があって、そことの仕事を平行してやる中で、色々と弊害が出てくるというのは実は大きいですね。それがありつつも、mus.hibaくんとも話したんですけど、多分2010年前後とかエレクトロが盛り上がっていた時期って、これは特に誰がって話じゃないんですけど、DJさんだったり東京のシーンって、人の成りだったり見た目だったりその人の仕事だったり、匿名性の逆というか、例えばこの人はこんな雑誌に載っている○○さんだ、みたいな、自分というものを出して活動する人が多かったんですね。確かここら辺のパーティは特にそういう人が多かったと記憶しているんですけど。

他のインタビューでも言ったんですけど、特にこのエレクトロとかを中心に、音楽以外の要素で見られるシーンがすごくあったと思うんです。で、僕、当時はそれがすごく嫌いだったんですね。多分僕とかmus.hibaくんとかって、モデルをやっているわけでもなくごく一般人だし、単純に音楽が好きで作りたいというのがあったので。なので、そういったシーンに対するアンチテーゼのような感じで一旦そういったものを隠したいという人もいたんじゃないかなという気もなんとなくしますね。それ以来インターネットミュージックのシーンが変わって、そういう人達が陰を潜め始めたなというのは感じたので、その辺は面白いなと思いますね。

__現場的なところで言うと、日本ではまだ流行り始めですけど、EDMのDJなんかはそのスター性みたいなのが全世界でもてはやされているのに対して、インターネットはやはりインターネット的というか、イメージとしてもごった返しているというか、それこそVaporwave的なああいうセンスもそうだと思うんですけど、全部がごちゃごちゃしていて主体が見えないというものがあると思うんです。そこになんとなく共鳴しているというイメージがありました。〈Zoom Lens〉からのリリースや『Paradice』のジャケットもそういうイメージだったというか。

そうですね、そうかもしれないです。

__ありがとうございます。全体的にはっきりしない、ぼやけているというイメージがあるんですけど、音自体を作られる感覚としては、やっぱり商業音楽をやられていたというのもあると思うんですけど、すごく緻密に構成されていてメロディもポップス的だったりすると思うんです。そこは意識している部分もあったりするんですか?

そうですね、やっぱりポップスが好きなので。あとは〈Zoom Lens〉やMeishi Smile自身の音楽も、聴く人によってはただのテクノ・ポップと違いがあまり分からないような感じだと思うんですね。でも、かと思えばMeishi Smileもノイズっぽい事をやっていたりだとか、そういうセンスも僕は好きで。そういうところが反映されていたのはあると思います。でも、作ろうと意識したというよりはやはり好きだからですね。商業音楽をやる上で出来ない事って、自分の好きな事をやるってことなんです。それがポップスであろうとノイズであろうと。クライアントありきで、そのオーダーに応えるというのが商業音楽をやる上で当たり前の仕事なので。

で、それをやらなくて良くなったというところで、これは時系列的に見て、僕がファーストアルバムを出した頃って、それこそ毎日コンペとか納品していたんですね。で、毎日ポップみたいな曲を作っていたので、あまりポップスは作りたくなかったんです。だから今よりもポップスっぽくないと思うんですよ。他にアウトプットがあったっていうのもあって。で、今はそのバランスが若干とれてきたというか、そういうものをあまり作らなくなったので、元々好きだった欲求も出てきて、自分なりのポップスを作りたいというのがあって。その辺は〈Zoom Lens〉の皆と近いのかなと思っているんですけど。

__すごく頷ける部分がありました。今回の『Faithful』はボーカリストを8組招いて制作されたということで、前のアルバムに比べて聴きやすい部分があるというか、音楽的にすごくまとまっているように感じられたのですが、そういう心境の変化ってあったんですか?

そうですね、『Paradice』を出した後に、特に2つ挙げるなら、〈Zoom Lens〉とマルチネがポップミュージックの見方みたいなものを僕の中で変えさせてくれたっていうのはありますね。まず、これは『Public Rhythm』さんのインタビューでも言ったんですけど、〈Zoom Lens〉と知り合って、まあ僕も所謂実験音楽や現代音楽と言われるものも好きで沢山聴いてきてはいるんですけど、ポップスの見方がここ2年位で変わってきたなっていうのは個人的な心境の変化としてすごくあって。リピートになってしまうんですけど、ポップスって所謂ポピュラー音楽、流行歌という意味だから勿論流行っている音楽全てポップスなわけで、メロディがどうのっていう話はまた別のベクトルになっちゃうんですけど、やっぱり流行歌って一般論として、一本の線が通った分かりやすい旋律があって、感情的で、っていうイメージがあるじゃないですか。

Dr.LukeっていうKaty Perryのプロデューサーがいるんですけど、彼もTwitterのプロフィールのところに「overly emotional pop producer」って書いてあったんですよね。やっぱりポップスって感情的で、逆にクールな音楽は感情的じゃないからその名の通りクールな音楽と言われたりすると思うんですけど、メイシの音楽ってめちゃめちゃアンダーグラウンドですけど、エモーショナルな音楽だったりとか、すごく分かりやすい線を使っていたりだとかするんですよね。

以前話にも出ましたけど、〈PC Music〉とかもそうだし、マルチネとかもそうなんですけど、僕はそういう流れをすごく尊敬していて。僕自身が当事者だったのですごく不思議というか変な距離感はあったんですよね。元々それを仕事でやっていて、それが嫌でこっちに来たのに、逆にそっちの方が良いのかな、みたいなのもあって(笑)。でも元々好きだったし、何がポップスで何が違うのかって自分の中で変わってきてるなっていうのは実感としてすごくあって。そういう自信や確信みたいなものもあって変えたっていうのは大きいと思います。単純に、昔はポップスコンペを沢山作ってきたから他では作らなかったのはそっちの方が大きいですね。

__マルチネとか〈PC Music〉だとかの話をいただいたんですけど、そのポップスに対する見方が変わるという影響は具体的にどの辺の作品から受けたんですか? それともカルチャーみたいなものからですか?

勿論カルチャー全般もそうですし、具体的に挙げればTomgggさんでも良いし、Meishi Smileでも良いと思うんですけど、やっぱり明らかな、流行歌という意味でのポップスを自分なりの解釈で解体して、自分のセンスでまた構築する自由さみたいなものはすごく美しいと感じますね。それはカルチャー全体としてもそうですし。

__そういうのってインディーズじゃないと出来ない部分だと思うんですよ。だから元々ポップスのフィールドに居た方にとってはすごく面白く映るのかなと思います。

そうですね、すごく新鮮です。僕、7年くらい商業音楽家をやっていて、やっぱりこういう音楽からアンダーグラウンドの音楽が好きだから、現場に行ったりクラブに行ったり友達に紹介してもらったりして、非商業音楽家の方とお話しさせてもらう機会もあったんですけど、ポップスに対する見方というもの全体的に変わっている気がしたんですね。やっぱり僕が商業音楽をやっていた時って、まだ風当たりが強かったんです。あ、芸能の音楽をやってらっしゃる方なんですね、みたいな。なんかこう、芸能=分かりやすい旋律、みたいな。アンダーグラウンド=アブストラクト、難解、みたいな見方があって。それがすごく印象的で今でも覚えているんです。ああ、そうなんだ、って感じた時期もありました。でも今は、まあ僕の周辺がそういうカルチャーの人が多いっていうのもあると思うんですけど、ポップスへの風当たりというか印象は確実に変化してきていると感じますね。

__なるほど、ありがとうございます。今、様々な交流がある中でというお話をいただいたんですけど、今作のこのボーカリストの方々を選んだ基準というか、理由みたいなものはありますか?

一つは勿論僕の周りに居たボーカリストを選んだというのが当たり前な答えなんですけど、ただ、僕の中で、この曲はこういう声で歌ってほしいみたいなイメージが強くあるんですね。もう曲が出来た時点で、こんな声質でこんな雰囲気で、っていう。僕もずっと音楽をやっているからそういう友達は多いんですけど、今回のアルバムに関して思ったのはとにかく自分の思った声に近いなっていう人を選びました。次は勿論分からないんですけど今回は曲に合わせて声を選んだっていう感じですね。なので、例えば、加奈子ちゃんや共演させてもらった『Her Ghost Friend』のShinobu Onoさんにしても、自分が声を知っていて、この曲で歌ってほしいと思ったボーカリストさんにお願いしました。だから曲中にあったビジョンが選定基準になりましたね。

インタビュー・文:和田瑞生
1992年生まれ。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行っている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

構成・アシスタント:成瀬光
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。