ARTIST:

V.A.

TITLE:
The Great Gatsby: Music From Buz Lahrman
RELEASE DATE:
2013/6/5
LABEL:
Universal
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSJuly/01/2013

【Review】The Great Gatsby: Music From Buz Lahrman

 現在公開中の映画『華麗なるギャツビー』のサウンドトラック『The Great Gatsby: Music From Buz Lahrman』は、映画の舞台でもある20年代のジャズエイジとモダンエイジのまさに”華麗な”融合を実現させた1枚となっている。20年代のアメリカといえば、「狂騒の20年代」と呼ばれるようにジャズミュージック、アールデコ、フラッパーといった様々な芸術や文化が花開いた時代。『華麗なるギャツビー』の原作の著者である、F・スコット・フィッツジェラルドはまさにその時代の輝かしい作家のひとりであった。今回の作品は、現代に再びあの輝かしきアメリカのゴールデンエイジを、姿を変えて再び蘇らせている。

 『華麗なるギャツビー』の舞台は、1920年代のニューヨーク。ロングアイランドの高級住宅地で繰り広げられる人間関係を中心に描かれている。主人公であるニックは、ロングアイランドに引っ越してすぐにミステリアスな隣人、ギャツビーと出会うことになる。ギャツビーは、毎晩のように彼の豪邸で豪華絢爛なパーティーを開いている大富豪だが、実は誰にもいえない秘密と野望を抱いているのである。『華麗なるギャツビー』では、豪華な社交場や高級住宅地といったアメリカの栄華とその裏に隠された欲望や失墜の明暗が存在する。サウンドトラックにおいても、「狂騒の20年代」を思わせる華やかなトラックと、それに相反するメロウで儚げなトラックが私たちの想像力を掻き立ててくれる。

 本作は、ニューヨークのラッパー、音楽プロデューサーであるJay-Zがエグゼクティブ・プロデュースを手がけていることでも話題を呼んでいるが、今回のJay-Zと監督バズ・ラーマンのコラボレーションは成功といっていいだろう。バズ・ラーマンは、カーディガンズやレディオヘッド、ネリーフーパーの楽曲を使用した現代版『ロミオ+ジュリエット』や、ファットボーイ・スリムやクリスティーナ・アギレラ、マドンナの楽曲を使用し話題を呼んだ『ムーランルージュ』などを過去に手がけている。Jay-ZがMTVのインタビューにおいて「(監督は)異なる時代の音楽を見事に一体化することができる。それは天才的なプロセスだと思うよ。バズは音楽をもう1人のスターのように扱うことに定評があるよね」と言っているように、彼の音楽へのこだわりは一際目を見張るものがある。それというのも、彼自身が元々オペラでトニー賞に輝くほどの舞台演出家であった事実を無視しては語れないだろう。

 バズ・ラーマン監督は、今回現代版『華麗なるギャツビー』を実現してみせた訳であるが、サウンドトラックにJay-Zを起用したことについても彼の過去の作品の延長線上であることが伺える。というのも、ジャズというのは西洋音楽とアフリカ音楽とを組み合わせたことによって発展したものであり、当時のマイノリティによって演奏されていた。そのため、20年代の禁酒法による酒場の地下化により、酒場で演奏されていたジャズはアンダーグラウンドな存在だったのだ。ラーマン監督が今回、Jay-Zを起用したのには、ストリートギャング文化に密接して発展してきたヒップホップを、20年代にアンダーグラウンドの音楽であったジャズの現代版としてとらえたことに関係があるだろう。そして、Jay-Zは見事ラーマン監督の考えを汲み取り、実現させている。

 このサウンドトラックでは、Lana Del ReyやThe xx、Florence & The Machine、Kanye West、will.i.am、Fergie、Bryan Ferry、Gotyeがオリジナル楽曲を提供し、BeyonceとAndré 3000がAmy Winehouseの「Back To Black」、Jack WhiteがU2の「Love Is Blindness」、Emily SandayがBeyonceの「Crazy in Love」をカヴァーしている。Bryan Ferryは自身の楽曲「Love Is The Drug」をジャズ風に再解釈して歌い上げている。

 このサウンドトラックの中でも一際目を見張るLana Del Reyによる「Young And Beautiful」は、ラーマン監督との共作であり、映画内でも何度も使用されている。美しい旋律にあわせてドラマティックかつメランコリックに「Will you still love me when I’m no longer beautiful」と歌い上げるこのトラックは、まさに映画『華麗なるギャツビー』の重要なキーとなっている。ミュージックビデオで、数々のダイアモンドを身にまといながらもLana Del Reyの目元にあるのは涙のシルエットというのが、まさしくこの映画の明暗を思い起こさせる。

 Jay-Zが、惜しげもなくラップを披露している「100$ Bill」でアルバムは始まるのだが、この時点でおそらく多くの人はこれが『華麗なるギャツビー』のサウンドトラックなのかと疑いたくなるのではないだろうか。しかし、1分をすぎたあたりで、サックスがメロディラインに登場することによって20年代のジャズエイジを匂わせる。BeyonceとAndré 3000の「Back To Black」が次に続くが、ここでもまた驚かされることになる。Amy Winehouseの「Back To Black」はピアノが哀愁をさそうジャズナンバーであるが、今回のカバーはヒップホップナンバーへと編曲されている。Jack Whiteの「Love Is Blindness」は原曲よりも、かなり激しいロックチューンへと変わっている。しかし、Emily Sundayのカバーする「Crazy In Love」はジャズアレンジになっており、アップテンポで20年代らしいパワフルなトラックになっている。will.i.amの「Bang Bang」やFergieの「A Little Party Never Killed Nobody (All We Got)」といった、サックスやトランペットと四つ打ちやクラップといったクラブミュージック的要素が組み合わされたアップテンポなナンバーがその後も続く。

 後半にさしかかると、Gotyeの「Hearts a Mess」やThe xxの「Together」といったメロウなサウンドが登場する。シンプルなメロディに「Your Heart’s a Mess(君の心の中はごちゃごちゃだ)」と切なげに歌い上げるGotyeは、彼らの代表曲「Somebody That I Used To Know」を彷彿させるし、The xxはお得意のミニマルなサウンドとロミーとオリヴァーによる掛け合いが響き、そこにヴァイオリンが重なることで、より深みが増し、壮大なナンバーになっている。最初にシングルカットされたFlorence & The Machineの「Over The Love」もまた、『華麗なるギャツビー』にとって欠かすことのできないナンバーのひとつである。美しいピアノの旋律とともに、Florence Welchがパワフルかつ表情豊かな歌声が響き渡る。特にサビでみせる悲痛さを物語る歌声とビブラート、そしてラストの「I can see the green light, I can see it in your eyes(緑の光が見える、あなたの瞳の中に見える)」というリフレインは映画の世界観を伝えてくれている。

 今回の作品では、カバー以外の収録作品全てが書き下ろしとなっており、アーティストそれぞれが独自に映画の価値観を理解し、自身の方法で音楽へと昇華させている。バズ・ラーマン監督の目指した現代でもリアルに感じることのできる『華麗なるギャツビー』の実現にあたって、音楽は大事なキーポイントであることは間違いない。これらの作品は、そうした監督の狙いと当時の文化、価値観を一貫して大切にしている。

アルバムの収録曲を聞けば、自然とその曲が使用された映画のシーンを思い起こさせてくれる。映画の華やかなシーンでは、必ずヒップホップやジャズを取り入れた臨場感あふれるアップテンポなナンバーが使用されている。そこには、禁酒法下でも押さえ込むことのできなかった社会や人々のパワフルさや輝きに光を当てている。それは、世界恐慌の前のまさにアメリカの黄金時代であり、その追憶は現代においても色あせることはないのである。しかし、栄光の裏には、必ず光のあたらない部分があり、それはどんどん人々に迫ってくる。本作では、それが死と重ねられ、栄光が儚いものであったことを突きつけられることになる。その華やかさを、Lana Del ReyやThe xx、Florence & The Machineが美しいメロディとともに、わたしたちに歌いかけてくれる。

 一曲一曲の完成度が高く、アルバム自体が独自の世界観を持っており、それが映画の世界観と重なる時、両方が完成され輝きを増す。これは、本来のサウンドトラックのあるべき姿であるが、私はなかなかこういった作品に出会うことがなかった。そこに、バズ・ラーマン監督とアーティストたちの映画と音楽への愛がなければ実現することはなかったであろう。バズ・ラーマン監督が「1920年代にこの小説を読んだ人々が得たであろう感覚を生み出したかった」と言うように、もはや「近代作品の古典」として古き良きものとなってしまった『華麗なるギャツビー』は、本作により生まれ変わり、私たちに新たな衝撃を与えた。その時代に前衛的であったこの名作は、20年代と現代、ジャズエイジとヒップホップを出会わせたことにより、「今までになかったもの」を完成させている。おそらく、本作を聞けば映画を見たくなるだろうし、映画を見れば本作を聞かずにはいられない。そうして、また新たな『華麗なるギャツビー』が生まれていくのだろう。

文:細田真菜葉 
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍。主にファッションを得意分野とし、DJとしても活動中。