INTERVIEWSDecember/08/2021

[Interview]Satomimagae - “Hanazono/Colloid”

 有機的なものと無機的なものが複雑に混じり合う世界を、その鋭利な感覚で表現する、Satomimagae(サトミマガエ)。ギターと自身の声、そして環境音の録音を重ね上げ、荘厳な静寂さが広がるその音像の中には、自然や人間が持つエネルギーに満ちた力強く多彩な世界が広がっている。本インタビューでは、ニューヨークのレーベル〈RVNG Intl.〉より、11月に最新EP『Colloid』を発表した彼女に、同EPのほか、今年4月に発表したアルバム『Hanazono』の制作背景などについて、その詳細を語ってもらった。

__2012年のファースト・アルバム『awa』から、今年の作品となるアルバム 『Hanazono』、EP『Colloid』まで、多彩ながらも、根底には一貫した世界観が表現されている印象を受けます。最初にアルバムという形で作品をつくる、あるいは、 Satomimagaeとしてアーティスト活動を行なっていこうと思ったきっかけや動機は何でしょうか。

ありがとうございます。14歳でギターを弾き始めてからずっと曲を書いてきて、20歳頃から記録として残したいと思うようになり、アルバム制作を目標にしました。

__今年リリースされた『Hanazono』について聞かせてください。まず、同作がニューヨークのレーベル〈RVNG Intl.〉からリリースされることになった経緯について教えてください。

いくつかのレーベルにデモを送ったのですが返事がないので諦めてさらにレーベルを 探していたら幾何学模様のバンドメンバーが主宰する〈Guruguru Brain〉を見つけたんです。コンセプトやリリースしていた作品がかっこよかったのでコンタクトをとってみたら良い返事をもらえたので、ミックスを本格的に進めていたところ、〈RVNG Intl.〉が突然メールをくれました。そこから〈Guruguru Brain〉と〈RVNG Intl.〉がコラボレーションしてアルバムをリリースしてみよう、という話が始まりました。

__プレスリリースによれば、本作について、「日々に潜む神秘へのオマージュ」として、 あなたがそれを「小さな宇宙空間」と表現しているとの解説がありました。本作で表現されている、「小さな宇宙空間」とは、どのようなものを意味するのでしょうか。

「小さな宇宙空間」とは、このアルバムで目指していた音楽全体のスケールを伝えようして、そう表現しました。親密で内向的な音というよりは広がりのある音楽にしたかったのですが、非現実的だと感じるほど遠くならないようしたかったんです。まさに花園のように、遠くまで広がっていく草原や花畑ではなくて、あくまで限られた範囲でエネルギーが充満しているような音楽を作りたいと思ったんです。

 __アルバムからのファースト・シングルとしてリリースされている「Numa」は、どのようなイメージを表現した作品なのか、教えてください。

よれよれになったボロ切れが、晴れた空ときれいに舗装された道路を背景に、竿に干されているイメージです。疲れ切ったボロ切れが、きらびやかな勝者の世界をスッキリした良い気分で違う場所から眺めているという、「爽やかな諦念」がテーマでした。

__また、「Numa」はミュージックビデオが公開されていますが、映像作家の井手内創の監督によるこの映像は、コンテンポラリーダンスや演劇の要素で構成された、抽象度の高い作品になっています。この映像の制作背景について聞かせてください。

この映像は元々井手内さんが持っていた映像素材で、たまたま「Numa」に合わせてみたら上手くいきそうだということで進めていきました。「爽やかな諦念」のコンセプトをお伝えして、あとは井手内さんの解釈でお願いしました。下に引用したのは監督のステートメントの一部なのですが、より分かりやすいと思います。

“このビデオの中で、勝敗というテーマに触れたかった。全ての生物は戦うが、何の 為なのだろう? 答えは簡単、生存であろう。人間は生存という目的以外のために戦う唯一の生き物かもしれない。見栄、偽善、創造性、そして羞恥が我々を富と名声のために争わせる。勝敗というものはもはや我々には価値が無いのかもしれない、なぜなら我々にとってそれは苦闘であり、戦闘ではないから。”

 

__同じくセカンド・シングルとなる「Houkou」も、ミュージックビデオが公開されて います。美術家の野々上聡人によるアニメーションが起用され、未来魔女会議主宰の 円香による3DCGによって仕上げられたこのミュージックビデオは、独創的な音楽 に、同じく独創的なアニメーションが融合された映像作品となっていますが、どのようなテーマで制作された作品なのでしょうか。制作の経緯なども、よろしければ聞かせてください。

この曲を書いているとき、白い妖精のような生き物達が列になって深夜街をうろついていたり、遊んだりする光景が浮かんできました。当時よく子供に関わるニュースを見かけて、居場所が無い子供のことを考えていました。野々上さんにもそのようなイメージを伝えて曲を送ったら共感してくれて今回の作品に至りました。

テーマや曲はシリアスなのですが、映像としては外で解放されて楽しく遊び回る様子をなるべく見せたいという私の無理な要望を取り入れていただき、野々上さんと円香さんにお任せしました。この、野々上さんのステートメントでビデオのテーマが分かると思います。

“どうしようもなくこれでもかと大人になってしまった僕たちの中にある無邪気君が 放たれて、大人になろうと急ぐ子供たちの魂と交差して、抜き差しならないこの街で なんとかおかしさをみつけて生きて行く。”

__『Hanazono』のアートワークは、姉でもある美術家のNatsumi Magae (馬替夏美)が手がけ、木版画で制作されたものとのことですが、その方向性など、 二人でどのような話をして、アートワークを完成させたのでしょうか。

アルバムアートワークは最初の『awa』のときから姉に頼んでいるのですが、いつも曲と簡単なアルバムのコンセプトだけ伝えてあとはお任せしています。今回も、アルバムタイトルと今までよりカラフルで無邪気なイメージとだけ伝えて全曲送りました。 ただのきれいなお花畑ではなく、色や形が少し非現実的な花たちや曇った空、ざらざらした粒子のような質感が浮かんだと言っていました。

__今年11月にリリースされた新作EPの『Colloid』について聞かせてください。プレスリリースによれば、今作は、オリジナルが存在している曲を再構築した楽曲が収録された作品とのことですが、どのようなコンセプトのもとで、4つの楽曲が集められ、またどのようなテーマでリアレンジを行ったのでしょうか。

『Hanazono』に関連する作品をいくつか集めたEPにするつもりで、『Hanazono』を 違う視点から観察するように曲を集めました。「Dango」はもともとアルバムのボーナストラックとして収録されていたデモを完成させたものです。「Kiteki」は、『Hanazono』の曲を書き始める直前に作った曲で隠れた根っこのような部分だという気がしたので、EP用にもう少し親しみやすいアレンジに変えて入れました。「Ashi」はすでに完成していたビデオに合わせてアルバムバージョンから少しミックスを変えました。「Toridasu」は、忙しなく作動する機械のノイズをもとに、混沌とした頭の中から何か取り出しているところをEPの導入として置いてみました。

__『Colloid』は、特に環境音が強調されているような印象を受けます。あなたの作品にとって、環境音はどのような意味を持つものなのでしょうか。

『Colloid』は、自分の声とギター以外の要素により興味が向かった作品です。ソロで音楽を作っていると音色もメロディも全てコントロールできてしまうことに飽きてくることがあるのですが、環境音は絶対に自分で作れない音がたくさん詰まっています。私にとって、頼りになる楽器です。

__あなたが書く歌詞についても聞かせてください。どの作品も抽象度の高い、より文学に近い言葉で構成されていますが、どのような考えや思想をもって書いているのでしょうか。

歌詞の前に曲ができることが大半なのですが、まず出来た曲に集中して、この曲は何 を意味しているんだろうと思考しているうちに絵や映像が浮かんで来るので、それを文にしていきます。

__最後に、今回のEPリリース後となる、来年に向けた今後の活動予定について教えて ください。

予定はまだお知らせできないのですが、来年も何か作って発表できたら嬉しいです。

Colloid:
1. Toridasu
2. Dango (Colloid Version)
3. Kiteki (Colloid Version)
4. Ashi (Colloid Version)

Hanazono:
01. Hebisan
02. Manuke
03. Suiheisen
04. Tsuchi
05. Houkou
06. Uzu
07. Kaze
08. Numa
09. Ashi
10. Ondo
11. Kouji
12. Uchu
13. Kunugi (Bonus Track)

*PLANCHAより、日本独自CD化
*CD版にはボーナス・トラック1曲収録
*ヴァイナルはUSはRVNG Intl.、オランダはGuruguru Brainからリリース

Photo by Mitsuhide Ishigamori

インタビュー・文:綾村翔太、礒野萌、石文月野、須田小雪、野原エミリ(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
編集:東海林修(UNCANNY)