INTERVIEWSDecember/24/2020

[Interview]Khotin - “Finds You Well”

 カナダ、エドモントンを拠点とし活動する音楽家、Dylan Khotin-Footeによるソロプロジェクト、Khotin(コーティン)。2014年にカナダのカセットレーベル〈1080p〉より、デビューアルバム『Hello World』を発表し、2017年に『New Tab』、2018年には『Beautiful You』を発表。本インタビューでは、バンクーバーでの5年の生活を経て、地元エドモントンに拠点を移し、今年4作目となるアルバム『Finds You Well』をリリースした彼に、新作の背景について話してもらった。

__現在はカナダのエドモントンを拠点としているとのことですが、以前在住していたバンクーバーとの違いは何かありますか。

5年間バンクーバーで過ごしたあと、地元に戻ることを選んだんだ。一度エドモントンを離れた人は、二度と戻ってこないことがほとんどなんだけどね。でもここに帰ってきて、家族の近くで暮らせるようになって幸せを感じているよ。それに僕のガールフレンドが一緒についてきてくれたことが何よりも嬉しいね。

エドモントンとバンクーバーの違いでいったら、やっぱり気候が違う。ここはとても寒い冬が長く続く。こっちの気候にもまた慣れていかないとね。あと生活のペースはエドモントンの方がゆっくりとしている。音楽業界はバンクーバーと比べたら賑わってはいないし、やることも限られてくるんだけど、そういったところはあまり気にならないね。パンデミックのことを考えても、今のところ何も問題はないよ。

__『Finds You Well』というタイトルは、手紙やメールの定型文である慣用句“I hope this message finds you well”という表現から取ったものと思われますが、このタイトルの真意について教えてください。

パンデミック下で、このフレーズが一種のミームになっていることに気がついたんだけど、それが結構面白いんだよね。最初の方は気の利いたミームぐらいにしか思っていなかったんだけど。でも、自分がメールの中で使っていくうちに、この言葉に何か空虚さを感じ始めたんだ。そうは言ってももちろん、アルバムを聴いてくれた人たちが元気に過ごしている(“found it well”)ことを心から願っているよ。

__アルバムは、比較的明示的なリズムを伴った前半部と、アンビエント色の強い後半部という二部構成になっていますが、どのような意図でこのように制作したのか教えてください。例えば、レコードのA面とB面というような構成を意識したのでしょうか。

〈Ghostly International〉のチームと僕は、トラックリストについて本当にいろんな案を出し合ったんだけど、最終的にはこれが一番いい流れだということでみんなが合意して、こうして2つに分割されたんだ。僕はいつも、ミックスを作るときと同じような方法で曲順を考えている。最初はゆっくりと始めて、徐々に盛り上げていく。そしてまたゆっくりと落ち着いた感じにして、穏やかに終わっていく。このアルバムは必ずしもそうした構成になっているわけじゃないけど、かなり近いものになっていると思う。

__プレスリリースによれば、「WEM Lagoon Jump」は「子供がショッピングモールの2階のバルコニーからメインパビリオンの噴水に飛び込んだ」という西エドモントンの言い伝えを引用したものとのことですが、この言い伝えから具体的にどのようなインスピレーションを得たのでしょうか。

最近YouTubeでは、ウェスト・エドモントン・モール(カナダにある世界最大規模の屋内複合施設)の噴水に飛び込む人たちを捉えた動画がたくさんアップされているんだけど、僕が子どもの頃はもっと大それたことだったんだ。別の学校の子がそれをやっていて、モールから5年間出入り禁止になったっていう噂もあってね。ここで育っていない人にその謎めいた感じを説明するのは難しいかもしれないけど。当時は動画があまり出回っていなかったから、そういうことをする人がいたっていう噂を信じるしかなかったんだ。

__「Your Favorite Building」では、「You must love the world because it’s wonderful.(あなたは世界を愛しているに違いない。だって素晴らしいのだから。)」というフレーズが子どものような声で歌われています。このフレーズを選んだ背景について教えてください。

妹のAmarisが僕の家に遊びにきたとき、彼女がただ歌いながら適当にその歌に言葉を当てはめていたんだけど、それを聴いてスマートフォンのボイスメモに録音しようと思ったんだ。それで曲を作り終わったあとに、録音したことを思い出して、この曲に合うか試してみたんだよ。そうしたら、たまたま運良くうまくいったんだ。妹は今、僕の曲に自分の声が入っているって喜んでいるよ。

__「Groove 32」のミュージックビデオは、バンクーバー在住時代の映像を再編集した作品とのことですが、この映像のテーマについて教えてください。

このミュージックビデオは全部、僕が残り少ないバンクーバーでの生活の様子を撮るために買ったSONYのハンディカムで撮ったんだ。僕は今まで本当にカメラとかビデオといった機器を扱ったことはなかったんだけど、うまくいったと思うからほっとしているよ。自分の人生のなかで、ある特定の時間を反映した何かパーソナルなものを作りたかったんだ。いつでも見返すことのできる、思い出を詰め込んだアルバムみたいにね。

__Bing & Ruth の「Badwater Psalm」のリミックスを発表していますが、どのような経緯で手掛けることになったのでしょうか。

〈4AD〉がリミックスを依頼してくれたんだ(ClotildeとEdありがとう!)。それまでBing & Ruthの曲は聴いたことがなかったから、こうした形で紹介してもらえて嬉しかった。リミックスの作業はとても楽しかったよ。オリジナルの素材が素晴らしかったからね!

__今後のリリースの予定などについて教えてください。

年内にもう一つリリースがある。12月に〈Public Release〉から『Dream Mentor』っていう12インチが出るんだけど(*)、これは僕が2018年に出した『Aloe Drink』の続編にあたる作品なんだ。それ以降は今のところ何も予定はない。長くて寒い冬になりそうだから、これから数ヶ月間は家にこもって新しい曲をたくさん作ることになるだろうね。

(*)…2020年12月4日にリリース。ヴァイナルはすでにソールドアウトになっている。

Finds You Well:
01. Processing
02. Ivory Tower
03. Heavyball
04. Groove 32
05. Outside In The Light
06. Lucky Egg
07. WEM Lagoon Jump
08. Your Favourite Building
09. Shopping List
10. My Toan
11. A Loving Blue (Bonus Track)

Photo by Lindsay McNab

インタビュー・翻訳:今田太一, 小林洋一郎, 廣井優仁, 木村千咲子(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
文:今田太一(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
編集:東海林修(UNCANNY)