INTERVIEWSMay/29/2020

[Interview]Baths – “Basement’s Basement”

 LAを拠点とする音楽家、Will Wiesenfierld(ウィル・ウィーゼンフェルド)によるプロジェクト、Bathsの新曲「Wistful (Fata Morgana)」が昨年11月にリリースされた。デビュー以来、これまでBathsの作品を、LAの名門レーベル〈Anticon〉からリリースしてきたWiesenfierldであったが、自身によるレーベル〈Basement’s Basement〉を新たに設立、「Wistful (Fata Morgana)」は同レーベルからのリリースとなっている。また、もう一つのプロジェクト、Geoticとして、Wiesenfierldは2019年に公開されたドキュメンタリー映画『Queer Japan』に楽曲を提供している。

 昨年11月、オーストラリア公演を経て来日した彼に、こうした新たな活動を中心に、2020年に向けた展望を語ってもらうインタビューを実施。なお、Bathsは今月、自身の未発表曲を収録した二作目のコンピレーションアルバム『Pop Music / False B-Sides II』を発表している。

新レーベル〈Basement’s Basement〉について

__新レーベル〈Basement’s Basement〉について聞かせてください。あなたはデビュー以来、〈Anticon〉からリリースを重ねてきましたが、新たに自身のレーベルを立ち上げようと思ったのはなぜですか。

まず前提として、〈Anticon〉のときからのマネージャーのショーンが今も僕のマネージャーであるという点は変わっていないんだ。〈Anticon〉自体が今、あまり活動していないということもあって、これまで自分がリリースしてきた作品、Baths、Geotic両方に関して、すべて自分で権利を持って守りながらリリースする方がいいと思ったんだよ。Bathsに関しては、すべて〈Basement’s Basement〉が権利を持っている。Geoticに関しては、一部〈Ghostly〉が所有しているけど、〈Basement’s Basement〉を中心に今後リリースするものや再リリースするものに関しても、自分でコントロールできるようにしたかったんだ。

それと、日本は〈Tugboat Records〉、オーストラリアは〈Good Manners Music〉と契約している。今回オーストラリアに行ったのも、ずっとメールでやりとりしていたんだけど、初めて実際に会って、二つのショーをやって、そうやって互いの関係を築くためでもあったんだ。

__〈Basement’s Basement〉という名前の由来を教えてください。

Akira Yamaoka(山岡晃)が音楽を手がけている、コナミの『サイレントヒル2』というゲームがあるんだけど、その世界観がとにかく好きなんだ。少し奇妙でダークな世界観。ゲーム音楽を僕はすごく大切に思っているし、このゲームの世界観は、すごく自分に近いと思ったんだ。ゲームが進行していくと、地下(Basement)に潜っていくんだけど、それが地下から地下へと延々と続いていく。地下に展開していくほど、地上よりももっとダークな世界観になっていて、そのコンセプトが素晴らしいんだよ。「Basement’s Basement」という言葉自体も、そのゲームから引用している。ずっと心の中に残っていたんだ。

それと、今回の『Queer Japan』という映画のなかで、あるドラッグクイーンの人が、「常に自分はノイズでありたい」と語るシーンがあるんだけど、自分もそうありたいと思っている。そうしたノイズのような、地下の地下にあるもののような存在が自分にはフィットしていると思ったんだ。

ゲームのサントラって結構レアなんだけど、僕が14歳か15歳のころ、『サイレントヒル』のゲームを借りたら、CDが付いてきて、それがアルバムとしてきちんと聴けるような素晴らしい作品で感動したのを覚えている。

__レーベルからは、自分以外のアーティストの作品をリリースする予定はありますか。

将来的にはほかのアーティストの作品もリリースしていきたいと考えているんだけど、もう少しあとになると思う。今は自分自身がレーベルについて学んでいる最中だから、今ほかのアーティストを手がけても失敗してしまうかもしれないから。まずは、山ほどある自分の音楽を自分のレーベルで管理して、リリースして、レーベル運営というものを学んだあとに、ゆくゆくはほかのアーティストの作品もリリースできたらいいなって思っている。

__新曲「Wistful (Fata Morgana)」について聞かせてください。プレスリリースにあった、「The mysterious nexus between loneliness and euphoria.(孤独と幸福感の謎めいたつながり)」とは具体的にどういう意味なのでしょうか。

このタグラインを作ってくれたのは優秀なパブリシストなんだけど、でも、僕のコンセプトをうまく落とし込んでくれている。「loneliness(孤独)」と「euphoria(幸福感)」という、相対するものを作品のなかに持つことは、僕の作品のテーマでもあるんだ。「Wistful(もの思いに沈んだ)」っていうタイトル自体は、瞑想のようなイメージでもあるけど、実際の曲は、BPMが早いダンスミュージックになっている。そこにも対比はあって、そういう意味でも「The mysterious nexus between loneliness and euphoria.」っていうタグラインは、作品を見事に表しているね。

__では、たくさんある作品の中からあえてこの曲をシングルで選んだ理由について教えてください。

僕は作品をアルバム単位で見ているから、シングルを選ぶのは本当に難しいんだ。それで、こういうときは、マネージャーのショーンや周りのチームに相談して決めている。結果的に、自分でもすごく納得しているし、Bathsらしい作品だなって自分でも思う。だから、最初のシングルとしてこの曲がリリースされて本当によかったと思う。

__曲に具体的なテーマはありますか。

直接的なメッセージはないんだけど、あえて言えば、感情の瞑想なのかなって思う。曲のなかでは、そこにいない人のことを歌っているんだ。だから、この曲を聴いた人自身がそれぞれに何かを自然に感じて欲しくて、そういう意味において、感情の瞑想だと思っている。

__いつも面白いミュージックビデオが発表されますが、今回も制作しているのでしょうか。

「Wistful」に関してはミュージックビデオの予定はないんだけけど、ほかの曲で制作するつもり。でも、まだその詳細は話せないんだ! ごめんね(笑)。

ドキュメンタリー映画『Queer Japan』のサウンドトラックについて

__ドキュメンタリー映画『Queer Japan』のサウンドトラックを、Geoticとして手がけた経緯について教えてください。

監督のGraham Kolbeinsは僕の長年の友達なんだ。Grahamから、映画のコンセプトを聞いて、それならGeoticの曲がハマるなって思って、そのときはまだ未発表だったものをGrahamに選んでもらったんだよ。映画のトレーラーでも使われている「Gondlier」もまだ発表する前だったんだ。

__映画で描かれているようなテーマについてはどのような印象を持っていますか。

この作品はタイトルにある通り、一言で言ったらクィアなんだ。そうした当事者の言葉によって紡がれている作品であって、監督がこれという意志とかコンセプトやメッセージを実は入れていないんだよ。だからこの映画は、日本のクィアというのをすごくうまく濃くまとめた、ちょっと圧倒的な感じの情報量の作品だなという印象がある。

おそらく人によってはやっぱり賛否両論あると思う。本当にいろんな人がポジティブに語っているので、ある側面においては、もっと情報量を入れたほうがいいんじゃないかっていう意見もあるかもしれないし、映画のなかで語られることに対しても、ポジティブ、ネガティブ両方の意見があるかもしれない。

僕は、カオスというのが、クィアというものを説明するのにぴったりの言葉だと思う。僕自身クィアでもあるけど、日本人ではないから、日本でクィアな日本人として生きることに共感する部分や違いもあったりして、とても興味深かった。

最初の段階から作品に関わっていたこともあって、思い入れがあったんだけど、作品が出来上がって最初に観たときに、自分の音楽とか意識しないで、一つの作品として観れてしまったんだ。まずそれに驚いたね。こういう作品があることが自分にとってもある意味何か救いというか、何かの道を見つけることになる。それはきっと多くのクィアの人たちにとってもそうなんじゃないかと思うんだ。

僕自身、自分のセクシャリティがよくわからなかった頃に、日本の漫画に出会って、それがたまたま二人の男性が仲良く幸せに暮らしているというものだったんだけど、こういう普通の生活というか、生きていく道があるんだということが、僕にとっては救いになったんだ。この作品にも、実際40人くらいが出演していて、いろいろな人たちが出ているから、観た人によっていろんな可能性を感じられるんじゃないかなって思う。まだもがいている人たちの、何か道しるべになるんじゃないかなって、そういう意味においても、素晴らしい作品だと思っている。

2020年の活動について

__2020年のBaths、Geotic、それぞれの活動予定について教えてください。

まだ話せないことがいっぱいあるんだけど、しばらくの間、しっかりこもってレコーディングをするというのをやっていないから、まず、作曲をしてレコーディングをするっていうのが一番楽しみ。音楽家として自分の作品を作ることが、2020年の一番大きな活動になると思う。もちろん、ほかにも決まっていることはいっぱいあるんだけどね。

レコーディングは、ファーストアルバムの頃のように、シンプルなやり方で、すごくローな、ざらついた感じでやってみるつもり。最終的には、スタジオでしっかり調整はするけどね。最初の頃にやっていた生々しいスタイルにあえて戻って制作してみようと考えている。あまり肩に力をいれないで、アドリブのようなスタイルでね。

__なるほど。それが今後トレンドにもなっていくのでしょうか。

僕は自分が楽しいと思うものをただやっているだけで、それが自分にとって長く音楽を続けていくためにいちばん必要なことだと感じているんだ。だから、正直トレンドというものにあまりこう意識がいかないというか、もちろん流行っているものを耳にすることはあるから、ちょっとした何らかの影響を受けることはあるんだけど、でもそこに意識は正直置いていなくて、人がどう思うかっていうよりも、自分が楽しいかっていうところがまず大事だと思っている。

こう〝楽しい(fun)〟っていう言葉をつけてしまうと、ただポップなイメージだけになるといけないから、あえて付け加えておくと、僕にとって〝楽しい〟と感じるものは、奇妙なホラーだったりとか、すごくディープなロマンチックなものだったりとか、そうしたいろいろなものに自分自身が深い面白さを感じていて、そういったものを僕は〝楽しい〟という言葉で表現しているんだ。だから、僕が吸収したり、アウトプットしたりする〝楽しい〟は、ただ単に楽しそうなイメージのものだけではないんだということは、最後に伝えておきたいな。

(2019年11月、原宿にて収録)

Pop Music / False B-Sides II:
01. Immerse
02. Tropic Laurel
03. Mikaela Corridor
04. Agora
05. Sex
06. Stomach Tile
07. Fortuna
08. Wistful (Fata Morgana)
09. Veranda Shove
10. Lung Tile
11. Be That
12. The Stones

・発売日:2020年05月27日発売
・価格:¥2,200+tax
・発売元:Tugboat Records Inc.
・販売元:SPACE SHOWER NETWORKS INC.
・品番 XQNK-1012
・JAN: 4580339370983
・解説/歌詞/対訳付き

インタビュー・文:東海林修(UNCANNY)
編集アシスタント:濱田稜平、春日梨伽、川崎りよん、倉田莉沙(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)

通訳:飯田ひろみ