INTERVIEWSJanuary/25/2019

[Interview]Swindle-“No More Normal”

 UKのアンダーグラウンドシーンから頭角を現し、ダブステップやファンク、ジャズといったサウンドを巧みに乗りこなすロンドンのアーティスト、Swindle。今月25日にリリースされる彼のニューアルバム『NO MORE NORMAL』は、彼が生まれ育ったアンダーグラウンドシーン、そして音楽というフィールドで活躍を続ける全てのアーティストにリスペクトを捧げた作品となっている。

 今回のインタビューでは、世界各地でパフォーマンスを繰り広げる彼がたどり着いたフィールド、そしてニューアルバムで目指した作品の意図について知ることができた。

__2016、17年の3枚のEPはファンクがテーマということですが、今作は、Swindle自身がずっとテーマに掲げていたジャズにまた接近した作品になっていると感じました。今作はどういった経緯でリリースに至ったのでしょうか。

まず、今回のアルバムの事をジャズっていう人もいるし、むしろダブステップ寄りだって言う人もいてそれが面白いね。自分の最初のアイデアとしては、コラボレーションとかユニティーみたいなものを前面に押している。音楽による連帯みたいなものを押し出して、もっとUKのあらゆる音楽の要素をショーケースにするプロジェクトにしたいと思って始めた。

__今回のアルバムタイトルは『No More Normal』という刺激的なものでしたが、これは連帯という要素にどう絡んでくるのでしょうか。

今っていうのは、ものすごくそれぞれの人の違いに焦点が当たってる時代だと思う。でも今回言いたかったことは、「それがノーマルになってるという状況は拒否する」ということ。それにプロテストして、そういった現状を変える、自分たちの未来を作るんだっていうのが「No More Normal」の意味。それにおいてユニティーというものが作られるのはどうしてかって言うと、それは一人では誰も何もできないから。

__子供ができたそうですが、生活の変化によって音楽性は変わりましたか。

以前よりもハードに仕事をするようになった。自分ではない人の責任がかかってくるからね。ただ一つ言えることは、子どもが生まれたことで、できる限り人に何かを与えたいという決意が生まれた。自分の音楽を通して人に与えることの意識が大きくなった。

__今作では様々なシンガーやアーティストを招いて制作を行ったようですが、特に印象的なコラボレーションや楽曲があれば教えてください。

全員がそれぞれの理由で重要なので誰かを選ぶことはできない。何かに重心を傾けすぎないように意識したんだ。

__先行リリースされた今作6曲目の 「Reach the Stars」ではAndrew Ashongがフィーチャーされていますが、どういった経緯でコラボレーションすることになったのでしょうか。

Andrewと知り合ったのはクロアチアでのライブだった。実は、最初に彼と作った曲がこの「Reach the Stars」だったんだ。そういえば、「Coming Home」もKojey Radicalと初めてやった曲だし、「Take it back」もKiko Bunとの最初の曲だし、「California」も……。Andrewは素晴らしいライターでありシンガーで、本当に才能がある人。一緒にスタジオに入るたびに新しいものが生まれているんだ。もう7、8曲は一緒に作っているから、それらを彼の作品として何かまとめられないか考えているところ。その最初が「Reach the Stars」だったんだ。

__では、他のアーティストと共同で制作した作品もまだたくさんあるのでしょうか。

ざっと数えると……合わせて40トラックくらいある。それらはリリースすることがあるかもしれないし、ないかもしれない。その中の4、5曲くらいはこの中に入っているよ。

__それは今回のアルバムを作ろうとして制作されたものですか。それとも楽曲が出来た後にアルバムとしてリリースされることになったのでしょうか。

その40曲は、自分はこのアルバムにフォーカスしていたから、このアルバムのために作った曲。ただ、他のアーティストをプロデュースするプロジェクトとして発展した曲もある。でも最初はこのアルバムのために作られた曲が多い。

__SwindleがプロデュースしたKojey Radicalの「Water」も、元はこのアルバムのために作ったものなのでしょうか。

Kojeyと一緒に仕事をして、1日目に「Coming Home」ができて、2日目に「Water」ができたんだ。Kojeyのためだけじゃなく、このアルバムのために作ったいろんなデモをKojeyに聴かせてているうちに「Water」のインストゥルメンタルをものすごく気に入ってくれたから、「じゃあこれは君のための曲にするよ」と言って「Water」を作った。

__制作ペースの早さに驚いたのですが、月に平均して何曲くらい制作していますか?

実は若い頃に、どれだけ曲ができるかとチャレンジしたことがあって、その時は1日に5曲。でもそれは訓練みたいなものでやっていたんだ。それが今にも活きていて、自分が今やるぞって気持ちをコミットしたら、ベストなチューンではないかもしれないけれど、いつでも曲はできる。

何年も前に、自分が仕事を辞めて音楽にコミットしようと決めた時、住んでいた地下室の壁にマットレスを貼ってそれを即席のスタジオにして、夜はそこで寝ていた。スタジオで寝るような状態だった。本当にお金もないし、仕事もないしっていう状況だったんだけど、そこで寝てた時は、自分が1日起きて眠るまでに5曲作るぞって本当に決めてやっていた。それがしばらく続いていた。でも、その生活があったからこそ、今の自分はきちんとしたベッドにも寝られるし、しっかりしたスタジオにも入れるようになった。

__まさに仕事人ですね。「Reach the Stars」のセッション動画もアップしていますが、あれはバンド編成であなたがトーク・ボックスを口に入れて演奏したと思うんですけど、そういったバンド編成のライブもやっていきたいと考えていますか?

それが実は次のゴール。バンドというものと一緒に、ライブでこのアルバムをリ・クリエイトすること。それが次に自分がエネルギーをかけようと思っていることだから、次に日本に来るときはバンドと一緒に来日したい。

__頻繁に来日して公演を行っていると思うのですが、あなたから見て、日本の魅力はどんなところでしょうか。

家に帰るとみんなに日本の話ばかりするくらい、UKと同じくらい自分にとって日本はプライオリティが高い場所。マーケットとしては、イギリスと日本とアメリカみたいなものがあるけど、自分にとって日本は、音楽をプレイする場所として他にはないようなユニークな感じがするし、他にはないようなコネクションが生まれる気がする。だからこそ、自分はこの関係性っていうのをもっと育てていきたい。とにかくポテンシャルがすごいような気がする。

__日本のプロデューサーで気になっている人はいますか。

Seiho、PART2STYLE、ONJUICY、MINMI。日本でグライムが広がるのを見たい。

__日本では、UKのグライム等のサウンドが、クラブに遊びに来る若者に多く支持されているという側面があると思っていて、例えば他の国でプレイするような時と比べてもまた違ったレスポンスがあるのではないかと感じています。

自分がラッキーだと思うのは、自分が生まれた場所にグライムカルチャーがあったということ。UKのアンダーグラウンドのカルチャーは、ジャマイカのサウンドシステムから発祥して、それがイギリスに受け継がれて脈々と流れていって、今ではそれがイギリスから輸出するような音楽になっている。だから自分たちよりそのカルチャーに詳しい人たちが外国にいる、といったことも起きている。

文化は変化してシフトしていくものだから。例えばデンマークに行くとUKスタイルをかける音楽のUKパーティーがあったりとか、日本にもオーストラリアにもそういう人たちがいるのを見ると、自分たちは文化が交ざり合ってまた新しいものが生まれるような所にいるんじゃないかと思うんだ。それはそのようないろんな人たちのコネクションによって生まれている新しい文化で、イギリスだけのものではないし、東京だけのものでもない。そういう新しい文化が生まれていることと、自分が育ってきた場所でそれが起きていたということがすごくラッキーだった。

__Swindleの音楽は、様々な側面を持ち、様々な場所でフィットする音楽だと感じていますが、本人としてはどういった音楽として聴かれるものとして捉えていますか。もしくは、どういった場所で聴かれてほしいですか?

どういう場所でもいい。ただ、頭も心も身体もすべてを自分の音楽に注意を向けてコミットするようなものであってほしい。自分にとって音楽はそういうもの。全身のすべてをそこに浸すような音楽だから。

No More Normal:
01. What We Do (Feat. Rider Shafiq, P Money, D Double E & Daley)
02. Get Paid
03. Drill Work (Feat. Ghetts)
04. Run Up (Feat. Kiko Bun, Knucks, Eva Lazarus & Nubya Garcia)
05. Coming Home (Feat. Kojey Radical)
06. Reach The Stars (Feat. Andrew Ashong)
07. Knowledge (Feat. Eva Lazarus & Kiko Bun)
08. Take It Back (Feat. D Double E & Kiko Bun)
09. California (Feat. Etta Bond & Kojey Radical)
10. Talk A Lot (Feat. Eva Lazarus)
11. Grateful (Feat. Kojey Radical & Rider Shafique)
12. Déjà vu *Bonus Track for Japan [BRC-588]

Photo by Adama Jalloh

Link: Beatink

インタビュー/文: 和田瑞生


1992年生まれ。UNCANNY編集部。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部卒業。

アシスタント: 加来愛美、伊藤礼香、金子百葉、佐藤純、杉田聖司、杉田流司(青山学院大学総合文化政策学部, UNCANNY)