INTERVIEWSJanuary/22/2019

[Interview]Gang Gang Dance ─ “Kazuashita”

 2000年代、ニューヨークを拠点に『God’s Money』(2005)や『Saint Dymphna』(2008)といった当時のシーンを代表する作品を発表しているバンド、Gang Gang Dance。2018年6月には〈4AD〉より、2011年の『Eye Contact』に続く、7年ぶりとなるアルバム『Kazuashita』をリリースしている。様々な要素が混交した一つひとつの楽曲は、Gang Gang Danceの持つ実験的な制作スタンスを変わらず体現しており、彼らが今現在見ている現象を新たな作品へと見事に昇華している。

 Gang Gang Danceは、〈4AD〉の設立40周年を記念するレーベルショウケース『4AD presents Revue』に出演。レーベルメイトのDeerhunter、Ex:Reと共に、現在、来日公演を行っており、21日の大阪公演を終え、22日に名古屋公演、23日に東京公演を控えている。以下は昨年、アルバムリリース時、メンバーのLiz Bougatsos(リジー・ボウガツォス)に行ったインタビューとなる。

__『God’s Money』(2005)や『Saint Dymphna』(2008)をリリースした頃と比べて、バンドを取り巻くニューヨークのシーンはどのように変化しましたか。

2010年くらいからバンドとしての活動を休止し始めて、2012年くらいからメンバーがそれぞれ自分の方向性に進むようになった。だから、戻った時は、皆がお互いに自分の経験をバンドの音楽に持ち込んだ。ニューヨークのシーンは、以前はブルックリンを中心にミュージックシーンが盛り上がって、ミュージシャンたちがお互いにアイデアをシェアしたり、刺激を受け合っていた。それがその後少し変わって、そして今、またそれが戻ってきたように感じる。あと、私たちもそうだけど、ミュージシャンたちがDJの活動をより多くするようになったと思う。そして、その経験を用いてアルバムを作るアーティストが沢山いるんじゃないかな。私たちも同じ。音楽がコラージュみたいにね。

__今作『Kazuashita』は、前作『Eye Contact』(2011)からおよそ7年ぶりのアルバムになります。本作において、アメリカの政治、経済など、外的環境で作品に影響を与えていることは何かありますか。

このアルバムは、ほとんどが自然に影響を受けていると思う。山の中にいるフィーリングとか、海の上にいるフィーリングとか、アルバム全体が自然と関わっていると思う。自然は、いつも私たちの生活や状況を映し出してる。そして、野菜やハーブを育てることもそうだし、私たちの生活に必要なものを生み出してくれるもの。自然は私たちの宗教でもあり、教会でもあり、原動力。あと、私は詩と油絵、映画にも影響を受けている。

__同じく前作から7年を経て、メンバー自身の内的、心理的な変化で、バンドの表現に変化を与えているもの、本作の制作に影響を与えているものがあれば具体的に教えてください。

あまり変化はないと思う。でも、私にとって一番の変化は、自分をアーティストだと認識するようになってきたこと。自分がアーティストだと思って作品を作ったのは、これまでになかったと思う。今まで、私は自分をワーカー(worker)だと思って音楽を作ってきた。前は、自分勝手に音楽を作るなんてことが特別過ぎてできなかった(笑)。でも今は、好きなように楽しんで音楽を作り、アートとして音楽を捉えるようになったと思う。これまでは、自分のエゴを前面に出したアプローチをしたことがなかったから。でも今は、そのエゴを良い要素として活かしている。すごく説明が難しいんだけど、それを美しさと捉えることができているというか。今までは、それが自己中心なやり方に感じてそのアプローチを取ることができなかった(笑)。

__『Kazuashita』の制作は、いつ頃からどのようなきっかけでスタートしたのでしょうか。また、どのような進め方で制作を行なっていったのか教えてください。

制作を始めたのは2015年。ニューヨークのアップステイトにあるスタジオで曲を書き始めたんだけど、皆一緒に集まるのが久しぶりだったから、時間はかかった。私は自分のアート・ファクトリーで働いたり勉強のために沢山旅行していたし、ブライアンも山の中に住んでいた。それを経て、久しぶりに皆が一緒になる機会があって、それをきっかけに自然と曲を作るようになった。曲をいろいろな場所で書いて、それを編集して、ブルックリン、アップステイト、クイーンズ、ウィリアムズバーグといったいろいろな場所でレコーディングした。ニューヨークの中の6つのスタジオを回って曲ができてはレコーディングするといった感じだった。GGDはいつもそう(笑)。

__アルバム・タイトル『Kazuashita』の意味を教えてください。また、タイトル・トラックにもなっている「Kazuashita」はアルバムの中心になる楽曲になるのでしょうか。この曲について、詳しく教えてください。

その曲は、私たちの友人、Taka Imamuraの子供の名前なんだけど、「和」と「明日」で平和と未来を意味していると聞いた。彼に子供が生まれたと言うことが、私たちにとってすごく大きかった。長くお腹の中で浮かんでいたものが、大きくなって一人の人間として出てきたわけで、それは私たちの音楽とも通じるものがあった。タイトルだけではなく、アルバムにはメタファーやメッセージはあるけれど、それは言葉というよりは、雰囲気的なもの。自然との繋がり、自然からの影響がアルバム全体に反映されている。思いやメッセージは、それを踏まえて皆がそれぞれに自分が思うままに受け取れるようになっている。このアルバム・タイトルとしての“カズアシタ”という言葉の意味は、ブライアンがタイトルをつけたから彼に聞いた方がいいかもしれないけど、“beginning=始まり”っていう意味みたい。

__ファースト・シングルの「Lotus」はリリック全体としてとても抽象的ですが、特にリリックにある”The golden Lotus(黄金の蓮)”は、どのような意味を持つのでしょうか。また、ファースト・シングルに選んだ理由を教えてください。

この曲は、地球が炎に包まれ、水がなくなったりしても、何か新しく育つものを植えることが出来るというメッセージがこめられた曲。今地球では、例えばギリシャで山火事が起こっていたり、カリフォルニアでも火事があって、多くの人が亡くなったり、家をなくしたりしている。そういうことがあっても、何かを植えてまた新たな糧を育てることができるということを表現したかった。はっきりとしたメッセージを持った曲だったし、インパクトが強いからこの曲をファースト・シングルにした。

__「J-TREE」は、壮大で開放的なアレンジが印象的ですが、制作にあたってどのようなプロセスを経てこの曲が完成したのでしょうか。また、この曲をアルバムの冒頭部分に配置したのはどのような理由からですか。

似ているテーマやフィーリングを持った断片があって、それをブライアンがパズルのように一つに繋げてくれた。もともと、この曲で使われている抗議デモのインタビューは、私は他の曲で使おうと思っていたんだけど、ブライアンが「J-TREE」の方が合っていると言ってこの曲で使うことにした。あのクリップが「J-TREE」に入ってから、パズルが完成したと思う。この曲の制作が、アルバムの中でも一番満足感を得ることができた経験だったかもしれない。使われている要素も素晴らしいものばかりだし、それらを見つけられたこと、それらがうまく一つになったことにすごく達成感を感じた。冒頭に配置した理由は、アルバムの流れを作るのに適していたから。このアルバムは、独特なオープニングで始まり、独特なエンディングで終わる。この曲順で、一つのピースが出来上がっている。その流れを作り出すために、曲順はかなり意識した。この曲順は、惑星の並びのようなもの。互いに並んで、何か一つのものを作っている。

__3曲のインタールード(interlude)、「( infirma terrae )」「( birth canal )」「( novae terrae )」が、アルバムに収録されていますが、これらの曲によってアルバム全体の構成を分けているのでしょうか。もし、何か意図があれば教えてください。

これはブライアンのアイデアだったから、私にはわからない。彼に聞いてみて。

__ジャケットのアートワークに、写真家のデヴィッド・ベンジャミン・シェリー(David Benjamin Sherry)の作品をジャケットに起用した理由を教えてください。

デイヴィッドは私たちの友人で、地球とは一体何なのか、どこに存在しているのかという疑問、そしてアルバムの内容がうまく表現されていると思ったから彼の作品を使うことにした。あの作品の中は、自分たちは月にいるのか? この惑星は滅亡しそうなのか? それとも始まりを迎えているのか? この赤い色は火山なのか? それとも子宮の中なのか……といった様々な疑問が展開されている。今の地球を表現した、素晴らしい作品だと思った。

__また、このような現代美術は、バンドに何かインスピレーションや影響を与えていますか。もしあれば、具体的に教えてください。

もちろん。でも、それは何かに限らず本当にたくさんだし、それだけでなく、アルバムは自然や友達、詩、映画、本当に様々なものから影響を受けている。今思いつくのは、ジャック・ウォールズやジェイムズ・ボールドウィンの名前だけど、私たちのミューズの自然が詰まったのがこのニューアルバムになる。

__〈4AD〉のレーベルショウケース「Revue」のジャパン・ツアーが開催されます。アルバムにも様々な音楽家が参加していますが、どのようなバンド編成でのライブを考えていますか。

今は、ライブバンド5人での演奏を考えていて、私たちと長年ずっと一緒に演奏してくれている友人に参加してもらおうと思っている。決まっているのはそれだけ。

__ありがとうございました。

ありがとう! 『カマクラ』って作品を作ってしまうくらい本当に大好きな国だから、また日本に行けるのを楽しみにしている。

Photo by Ari Macropolis

Kazuashita:
01. ( infirma terrae )
02. J-TREE
03. Lotus
04. ( birth canal )
05. Kazuashita
06. Young Boy (Marika in Amerika)
07. Snake Dub
08. Too Much, Too Soon
09. ( novae terrae )
10. Salve On The Sorrow
[Bonus Track for Japan] (4AD0079CDJP)
11. Siamese Locust

■公演情報
4AD presents Revue
DEERHUNTER, GANG GANG DANCE and EX:RE
SPECIAL GUEST DJ: 4AD LABEL BOSS SIMON HALLIDAY

大阪公演
2019/01/21 (MON) BIGCAT
OPEN/START 18:00
前売¥7,000 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
INFO: SMASH WEST 06-6536-5569 / [http://smash-jpn.com] [http://smash-mobile.com]
TICKET発売: イープラス、ぴあ(P:130-779)、ローソン(L:52132)

名古屋公演
2019/01/22 (TUE) ELECTRIC LADYLAND
OPEN/START 18:00
前売¥7,000 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
INFO: JAIL HOUSE 052-936-6041 [www.jailhouse.jp]
TICKET発売: イープラス、ぴあ、ローソン

東京公演
2019/01/23 (WED) O-EAST
OPEN/START 18:00
前売¥7,000 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
主催: シブヤテレビジョン INFO: BEATINK 03 5768 1277 [www.beatink.com]
TICKET発売: イープラス、ぴあ、ローソン(L:74192)、 iFLYER、clubberia

企画制作: BEATINK www.beatink.com

インタビュー・文: 東海林修(UNCANNY)