INTERVIEWSNovember/14/2018

[Interview]Ross From Friends ─ “Family Portrait”

 80年代後半、過度な資本主義の競争を促したイギリスでは、その反動でレイヴ・カルチャーが誕生する。勤勉というより、実際は強欲という意思を試される社会制度の中で、その現実から逃避する場所として生まれたのがレイヴ・カルチャーだった。そして1994年、イギリス政府は「クリミナル・ジャスティス・アクト」を制定し、レイヴを禁止する法整備を行うことで民衆の鎮圧を図った。

 Ross From Friends(ロス・フロム・フレンズ)は、UKのプロデューサー、Felix Clary(フェリックス・クラリー)によるプロジェクト。〈Lobster Theremin〉や〈Magicwire〉からのリリースを経て、今年、Flying Lotus主宰のレーベル〈Brainfeeder〉と契約。7月にはデビュー・スタジオ・アルバムとなる『Family Portrait』をリリースしている。

 Felixの父親は、80年代のロンドンで、自らのサウンドシステムを持ってレイヴ・カルチャーに身を投じ、1990年には、仲間とともに一台のバスにサウンドシステムを積み込んでヨーロッパを回る。そして、様々な国の様々な場所でイベントを行ない、その旅のすべてを記録していたのが、Felixの母親だったという。古いVHSに残されたそれらの様子は、アルバム収録曲「Pale Blue Dot」のミュージックビデオにも使用されている。両親の文化的、音楽的背景は、Felixに受け継がれ、Ross From Friendsの活動にも強い影響を与えていることがわかる。

 今月には、現在彼が所属する〈Brainfeeder〉の10周年を記念したコンピレーション・アルバム『Brainfeeder X』がリリースされる。同作からは、Ross From Friendsの新曲「Squaz」が先行でリリースされている。また、Ross From Friendsは、この夏に開催された「SONICMANIA 2018」の〈Brainfeeder〉ステージにも出演。以下は、その前々日に収録したインタビューとなる。

__『THRASHER』のインタビューで、スケートボードとハウスミュージックの関係性について問われたときに、あなたは、“DIY aesthetic(DIYの美学)”ということを繰り返し指摘しています。あなたにとっての“DIY aesthetic”とは何なのか詳しく教えてください。

自分はもうスケーターじゃないから、スケートボードに関して偉そうに語ることがいつも申し訳ないんだけど……。それは別として、“DIY aesthetic”に関して言えば、スケートボードのカルチャーはすごくDIYで、自分たちでランプを作ってそれに乗ったり、自分たちですごい古いカメラとかで映像を撮ってそれを切り貼りして作業して映像をつくったり、最初から最後まで自分たちで発信している。その部分が自分の音楽の作り方にすごく似ているなと思って。ここでの“DIY aesthetic”っていうのは、そういう意味。

__最初のリリースは、2015年に〈Breaker Breaker〉からリリースされた『Alex Brown』でしたが、どのようなきっかけでリリースすることになったのですか。

2015年にリリースされた曲たちは、実は2013年には全部作られていて。自分のSoundCloudにアップロードしていたんだけど、同じ大学の友達の友達というほぼ知り合いでもない人がすごくそれを気に入ってくれて。僕のレコードのレーベルを作ろうということになって、そこからリリースしないかと誘われたのがきっかけ。2014年にはリリースできる段階だったけど、レーベルの立ち上げと同時にいろいろやっているうちに2年かかって、2015年にようやくリリースできた。

__最初のリリースまでには、どれぐらいの曲を作っていましたか。

外に出せるような完成されていた曲で言えば、8曲ぐらいかな。例えば、2012年に書いた「Crystal Catcher」は、2017年までリリースしなかった。でも、元々1枚目のリリースで2年もかかったから、ずっと作曲やプロデュースをして作っていて、さらにその次のリリースも予定より遅れたこともあって、さらにずっと曲を作りまくっていたから、曲だけはたくさんあった。その間に大学で音楽の勉強をしていて、曲を作りながら、DJをしたりとか、ライブをやったりしていた。人に聴かせているとかではなくて、勉強している時間以外に時間が有り余っていたから、とにかく曲を作りまくっていたんだ。

__ハウスミュージックというスタイルを選択したのはどうしてですか。

自分で決めてそうなったわけじゃなくて、自然な流れでそうなっていった。10代の時は、インディーズのエモーショナルなバンドを聴いていて、その次に聴いたのが、ポストダブステップとか、そういうシーンの音楽をちょっとずつ聴くようになった。そこからハウスミュージックを聴くようになって、クラブに遊びに行くようになって、そのタイミングでそういえば自分の父親もこんなのやっていたな……というところから、気がついたら今のスタイルになっていた。

__〈Distant Hawaii〉は、〈Lobster Theremin〉のサブレーベルですが、2016年にEP『You’ll Understand』をリリースしていますね。この作品に収録されている「Talk to Me, You’ll Understand」は、Spotifyでもあなたの作品の中で最も再生されていて、YouTubeにアップされている動画は400万回再生を超えています。このように、この作品は実際に大きな注目を集めたと思うのですが、どのような環境の変化がありましたか。

もちろん、その曲がすべての始まりだと言っても過言ではないと思う。本当にすべてがそこから始まった。DJとしてブッキングされ始めたのも、その曲がきっかけだし、ライブとしてしっかりとみんなの前でやるようになったのもその曲がきっかけ。

__そのぐらい大きなインパクトがあったんですね。

本当にどうかしているくらいだったよ。最初のレーベルを立ち上げた例の友達の友達だった人が、最終的には自分のマネージャーになったんだけど、この曲(「Talk to Me, You’ll Understand」)を聴かせたら、「これは違うんじゃない?」って言われて。でも、絶対これだって自分で感じていたから、いろんなヴァージョンを作って、そのマネージャーに何回も送りつけたんだ。彼は絶対違うと思うって言うんだけど、僕は確信していたから、彼とはマネジメントを解消して、その後SoundCloudにアップしたら、その翌日からすごい反響があったんだ。

それでいろんな人が聴いてくれるようになって。今度は、YouTubeのチャンネルをやっている人がいて、その人は前にも僕の楽曲を彼のYouTubeのチャンネルで紹介してくれていたんだけど、ダイレクトメールが来て「この曲めちゃくちゃいいから、自分のチャンネルにあげていい?」と聞かれて。OKして、そこにアップされたら、さらに爆発的にいろんな人に届いた。それがきっかけ。

__楽曲の中では、日本人のアーティストの曲をサンプリングしていますが、どうやって見つけたのでしょうか。

YouTubeで見つけて大ファンになって。本当にもう一番のファンと言っていいぐらい彼らの大ファン。 意図的にその人たちを探したわけではないけど、ただ漠然とYouTubeを聴いていたわけでもなくて。自分が曲を作る時って、YouTubeでもう片っ端からいろいろ曲を探ってそれをサンプリングしている。これいいなって思ったら、自分のサンプリング・フォルダにヒュって入れているんだ。


__〈Brainfeeder〉からリリースする前に、『Outsiders』という EP をリリースしていますね。この頃からローファイなサウンドから変化が見られますが、何か意識はしましたか。

もちろん、考えて意図的にそうしている。今までEPを出してきた曲数でもすでにアルバム一枚分くらいあるから、またもう次のステップ、もうちょっと広い視野で広い範囲の音を作りたいって思って、あえてそうしている。

__〈Brainfeeder〉との契約のきっかけを教えてください。

Twitterでの出来事がきっかけで、Flying Lotusにフォローされてそれだけでテンションが上がってる時に、彼の方からダイレクトメールが来たんだ。30分くらいカジュアルに会話してたら、「曲がすごい好きだから、うちのレーベルからEPを作ってリリースしない?」って言われて。もう即答で、「はい、やります」っていう(笑)。

__〈Brainfeeder〉からの最初の曲が、「John Cage」ですが、この曲について教えてください。また、タイトルは、音楽家のJohn Cage(ジョン・ケージ)でしょうか。

そう、そのJohn Cage。John Cageはアーティストとしても、もちろん大好きで。最初はもっとヒップホップな感じの曲で、友達と二人で作っていて、もうべろべろに酔っぱらいながら友達がラップをしたんだけど、内容がひど過ぎて、これはもう絶対リリースできないってなって(笑)。でも、その曲のビートはすごく好きだったから、リリックとかはほぼ消したんだけど、“see me in a rage, like John Cage” っていう部分だけを残して。その後に曲が一回止まって無音になるんだけど、そこにJohn Cageの「4分33秒」のニュアンスを入れている。みんなすごく深い意味があるのかと思ってるけど、実際は本当にすごい馬鹿げた感じでできた曲なんだよね。そんなに深いものじゃない(笑)。

__〈Brainfeeder〉からリリースされた、アルバム『Family Portrait』についてですが、プレスリリースには、あなたの家族の話がそのバックグラウンドとして掲載されています。例えば、作品はそれらに実際に関係しているのでしょうか。また、タイトルはどのような意味なのでしょうか。

もちろん。両親の存在が始まりだし、家族は全ての中で最も大事なものだと思う。音楽の中でも、懐かしいっていう気持ち、そのノスタルジアの中でも、エモーショナルな懐かしさっていうのをすごく大切にしている。メロディの中にたぶんそのエモーショナルな感じは出ていると思う。

それと、アルバムのタイトルの “Family Portrait”は、「Pale Blue Dot」という曲から生まれている。アルバムが完成した時に、それぞれに曲名がない状態だったんだけど、タイトルをどうしようかなって考えていて。そんな時に、「Pale Blue Dot(ペイル・ブルー・ドット)」という写真に出会って、ブラッドリー・マニング(チェルシー・マニング)(1)という人が、SNSでその写真を使って自分の孤独さを表現したものがあったんだ。

宇宙船から撮られている地球の写真なんだけど、すごく遠くから地球を写していて地球がぽつんとひとりぼっちで写っている。それで気になって調べたら、「Pale Blue Dot」をもっと大きいスケールで撮ったものがあって、そこには、地球だけじゃなくて太陽とか他のたくさんの惑星が写っていて、その写真のタイトルが「Family Portrait」(太陽系家族写真)だったんだ。それで、タイトルはこれしかないって思った。

__最後に、「The Beginning」をアルバムのラストに収録した理由を教えてください。

この曲は最初から最後まで同じヴォーカルラインが入っていて、別に“Beginning”って言ってるわけじゃないんだけども、その曲を聴きすぎて、“Beginning”って言っているように聴こえるようになってきて(笑)。それで、聴いているうちになんか最後の曲にふさわしいなって思うようになった。それと、すごい何か照れくさい、照れくさいっていうか、こう青臭い話だけど、“Beginning(始まり)”を最後に持ってきたのは、これが自分にとって初めてのちゃんとしたアルバムだけど、まだ次はあるよっていうメッセージを込めていて。それで、この曲をアルバムの最後の曲にしたんだ。

(2018.8.15、渋谷にて)

(1)チェルシー・マニングは、元米陸軍上等兵。2010年に、75万件もの米軍の軍事機密をウィキリークスに漏洩し、逮捕される。2017年に当時の大統領バラク・オバマによって、恩赦を与えられ、その後刑期を終え釈放された。トランスジェンダーであることをカミングアウトし、ブラッドリー・マニングから、チェルシー・マニングへと名前を変えている。

Family Portrait:
01. Happy Birthday Nic
02. Thank God I’m A Lizard
03. Wear Me Down
04. The Knife
05. Project Cybersyn
06. Family Portrait
07. Pale Blue Dot
08. Back Into Space
09. Parallel Sequence
10. R.A.T.S.
11. Don’t Wake Dad
12. The Beginning

[Bonus Track for Japan (BRC-574)]
13. Memento Mori

Information: Family Portrait

Brainfeeder X:
DISC 01
01. Teebs – Why Like This?
02. Jeremiah Jae – $easons
03. Lapalux – Without You (feat. Kerry Leatham)
04. Iglooghost – Bug Thief
05. TOKiMONSTA – Fallen Arches
06. Miguel Baptista Benedict – Phemy
07. Matthewdavid – Group Tea (feat. Flying Lotus)
08. Martyn – Masks
09. Mr. Oizo – Ham
10. Daedelus – Order Of The Golden Dawn
11. Jameszoo – Flake
12. Taylor McFerrin – Place In My Heart (feat. RYAT)
13. MONO/POLY – Needs Deodorant
14. Thundercat – Them Changes
15. DJ Paypal – Slim Trak VIP
16. Thundercat – Friend Zone (Ross from Friends Remix)
17. Brandon Coleman – Walk Free (Flying Lotus Remix)

DISC 02
01. Thundercat – King of the Hill (feat. BADBADNOTGOOD)
02. Lapalux – Opilio
03. Ross from Friends – Squaz
04. Georgia Anne Muldrow – Myrrh Song
05. Dorian Concept – Eigendynamik
06. Louis Cole – Thinking
07. Iglooghost – Yellow Gum
08. WOKE – The Lavishments of Light Looking (feat. George Clinton)
09. PBDY – Bring Me Down (feat. Salami Rose Joe Louis)
10. Jeremiah Jae – Black Salt
11. Flying Lotus – Ain’t No Coming Back (feat. BUSDRIVER)
12. Miguel Atwood-Ferguson – Kazaru
13. Taylor Graves – Goku
14. Little Snake – Delusions
15. Strangeloop – Beautiful Undertow
16. MONO/POLY – Funkzilla (feat. Seven Davis Jr)
17. Teebs – Birthday Beat
18. Moiré – Lisbon
19. Locust Toybox – Otravine

Information: Brainfeeder X

インタビュー・文: 東海林修(UNCANNY)
アシスタント: 伊藤礼香、金子百葉(青山学院大学総合文化政策学部, UNCANNY)

通訳: Aimie Fujiki