INTERVIEWSSeptember/25/2018

[Interview]Helios-“Veriditas”

 「物事が落ち着いているとき──外が完全に闇に覆われていると思うと、心を平穏な状態に保ちやすい」と、Helios(ヘリオス)ことKeith Kenniff(キース・ケニフ)は語る。

 音楽家として精力的な活動を行っているKenniffは、アメリカ東西の端に位置するオレゴン州メイン州を作品制作の拠点としている。2004年にHelios名義の1stアルバム『Unomia』を発表しており、今作『Veriditas(ヴェリディタス)』は、その6作目の最新アルバムとなる。また、同じくKenniffは、ポスト・クラシカルのプロジェクト、Goldmund(ゴールドムンド)、彼の妻であるHollie(ホリー)とのユニット、Mint Julep(ミント・ジュレップ)としても活動している。

 Kenniffが、「より静的な状態のなかで、感情を描くことを追求したかった」という本作『Veriditas』では、公開されたふたつのミュージック・ビデオに現れるような、深い森における瞑想や、意識と無意識の間を探求するかのような世界が描かれている。外界を遮断した環境、すなわち、他者の意識を切断した先に存在する世界──それらがKenniffの「物語」を通じて、ひとつの作品として表現されている。

__2004年の『Unomia』以降、Helios名義で多数のアルバムをリリースしていますが、特にデビュー前、音楽制作において強い影響を受けた作品などはありますか。

10代前半の頃から、音楽制作の真似事はしていた。その頃はジャズやブルース、パンクにインダストリアル、クラシックも通ったよ。でも、Björkがきっかけになって、Boards of CanadaにAphex Twin、Autechre、Plaidだとか、主に〈Warp〉のアーティストを聴くようになったんだ。同時期にPhotekやTech Itch、Polarとか、ドラムンベースもたくさん聴いていて、それがBrian Enoへと繋がって、アンビエントにハマっていった感じだったね。

__『Unomia』が〈Merck〉からのリリースで、近作は自身のレーベル〈Unseen〉からのリリースとなっていましたが、今作『Veriditas』は、〈Ghostly International〉からのリリースとなっています。〈Ghostly International〉とサインした経緯について教えてください。

僕自身、長年〈Ghostly〉のファンだったんだ。彼らがアーティストに対してすごく献身的なのはもちろん、思慮深く選び抜かれた音楽がレーベルを彩っているのが伝わってくる。だからこれ以上なにもかもひとりでやるより、自身の手綱を緩めて、彼らにパートナーになってもらうのがいいと思ったんだ。実現できてうれしいし、これからがすごく楽しみだよ。

__今作『Veriditas』のタイトルは、12世紀の哲学者ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが提唱した「自然の治癒力」に由来しているとのことですが、どのようにしてこの宗教的思想と出会い、探求することとなったのでしょうか。

タイトルはラテン語の「緑(Verde)」と「真実(Veritas)」というふたつの単語を合わせた造語なんだ。昔の宗教的思想に着想を得たけれど、僕自身はあまり信心深いほうじゃない。だけど、自然から引き出されるフィーリングというものを確かに感じるし、それが音楽をつくる環境において、どのように反響しあうか、その繋がりに近いものを感じた。僕はどちらの空間においても、自然と音楽とが結びついてゆく瞬間に心地よさを感じるんだ。

__「Seeming」と「Even Today」のMVが公開されていますが、どちらも森林や川など自然の情景を捉えたものとなっています。映像のロケーションはあなたにとって思い入れのある場所なのでしょうか。また、どのように作品のコンセプトと関係していますか。

どちらの映像もアーカディア国立公園で撮ったものなんだ。僕が世界でもっとも気に入っている場所のひとつだよ。アメリカの北東部では夏の行楽地の定番みたいなところだけれど、気まぐれに道に迷うのには十分な広さがあって、自然と深く繋がれる場所なんだ。毎年訪れるたびに、新しいところを探索しなくちゃって気分になれるよ。

__過去の作品と比べ、収録曲の特徴としてパーカッションを使用しないなど、全体的にビートレスなトラックが続きますが、どのような意図があったのでしょうか。

パーカッションなしの楽曲というのはここ数年でかなりの数作ってきたし、2010年に出したEPでも一度やったから、あえて手を伸ばしたとか、意識的にやったという感覚はなかった。ただ、今回の楽曲にドラムの音は必要だと思えなかったというだけで。それから、たくさんのギターもね。そういった自分の美的感覚に従って自然と選んだことで、これまでやってきたことから大きく方向転換したというわけではないよ。

__アンビエントという音楽について、エリック・サティやブライアン・イーノの作品が象徴的に語られますが、あなたは音楽家としてアンビエントをどのように捉えていますか。

決まった解答みたいなものはないけれど、アンビエント・ミュージックというものは実体がないものとして機能しなくてはならないと思っている。たしかにそこに在って、漠然としたムードを作り出すけれど、頭の中でハミングはさせない。叙事的で大きな盛り上がりはないし、序盤/中間/終盤といった構造もはっきりとしていない。静かでありながら同時にパワフルになりえるものだけれど、それはどうリスナーが解釈するかより、コンポーザーがどのように感じさせるのかを導くことによって決まってくるものじゃないかな。

__Heliosのほかに、これまで数々の名義で作品を発表していますが、今年はGoldmundとしてもリリースがありました。このふたつの名義では、制作手法や意識は大きく異なるのでしょうか。

そうだね。Goldmundはピアノを中心とした構成で、衝動に従って直情的に作っていて、Heliosは基本的により多くのエレメントで成り立っていていることもあって、もっと慎重に考え抜いて作っている。それから、“エレクトロニック”な構成をもとに組み立てていることもあって、それをうまく扱うためにシンセやギター、パーカッションにおのずと焦点があたる。

Goldmundの制作おいては、意識的に時間をかけないようにしている。これは作品を可能な限りピュアな状態で保つための、自分の中のルールみたいなものなんだけど。余計に手を加え出すと止まらないし、磨きすぎてしまうと失われてしまうものがある。Heliosの制作時でも、根本的な美しさを失わないために、同じようなルールを念頭に置いてはいるけれど、もっと緩い。素材をいじくったりして、少し手間をかけてやるんだ。でも結果的にどちらの方法も、プロジェクトを相互的に助けあっているように思う。

__現在はどのようなプロジェクトを手がけていますか。

今は主にふたつのリリースに向けて動いていて、そのうちのひとつが妻とやっているバンド、Mint Julepのものだよ。これは来年には出せると思う。それと並行して、いろいろな映像や、広告のための音楽を手がけているよ。

Veriditas:
01. Seeming
02. Latest Lost
03. Dreams
04. Eventually
05. Even Today
06. Harmonia
07. North Wind
08. Toward You
09. Upward Beside the Gale
10. Row the Tide
11. Silverlight
12. Mulier

ダウンロード・ボーナストラック
01. Traces

*テキスト、及び質問作成に、〈Ghostly International / Hostess〉のプレスリリースを参照しました。

インタビュー・文: T_L
翻訳: bacteria_kun