ARTICLESSeptember/15/2018

[Featured]NAZORANAI──世代を超えて交錯する三つの歴史。奇跡のバンド、4年ぶりの日本公演

 オーストラリア出身の実験音楽家でありドラマーあるいはギタリストとしても知られるマルチ演奏者、オーレン・アンバーチ。独特のハーモニクスを持ったレイヤーと、ミニマルなリズムの展開により魔術的なサウンドを作り出してきた才人である。灰野敬二とジム・オー・ルークとのトリオとしても活動するそのオーレン・アンバーチが灰野に引き合わせたのが、SUNN O)))の中心メンバー、ステファン・オマリーだった。

 なぞらないは、2011年にその異色の三人により結成される。以来緩やかに活動を続けていて、東京では2014年のSuperDeluxeでライブを行った。ライブ映像を確認する限り、オーレン・アンバーチがドラムを、メンバーステファン・オマリーがベース、灰野敬二がギターとハーディガーディ、そして珍しい英語詩のボーカルを披露している。なぞならないには、現在までに3つの音源が存在している。最近のものとしてはそのSuperDeluxeでのライブが音源化されているので、気になる方はチェックしてみるとよいだろう。

なぞらない – 変容されるべきものの資質が 礼儀正しく 僕の前に整列しだした(Beginning to Fall in Line Before Me, So Decorously, the Nature of All That Must Be Transformed)

 まず存在感を放っているのは、やはり最年長である灰野敬二である。彼は、70年代から商業的なシーンから距離を置きながら、音楽の極北の地を旅してきた。不失者のような瞑想的な暗い空間の中をギターのメランコリックな響きが刻む、極めて孤独なその音楽により世界に衝撃を与えてから、さまざまなプロジェクトを折り重ね、また国境を超えて多くのアーティストたちと連帯してきた。その描き出してきた足跡は、もう一つの音楽の歴史と呼べるほどの深さと広さを形作っている。

 そのような音楽を体現してきたミュージシャンが、その後継者ともいえるアンダーグラウンドかつエクストリームな音楽を生み出してきたSunn O)))のステファン・オマリーや、オーレン・アンバーチのような、誰もが到達し得ない領域を探求してきた才能と一緒に演奏を行っている。その事実は、実際目眩がするほどの奇跡だと思う。

 これまでもコラボレーションを繰り広げてきたメンバーだが、二人ともが灰野へのリスペクトを口にしており、その影響関係を考えると、その結成はめくるめく歴史の交合の結果とも言えるだろう。その集合体の名称「なぞならい」は、既存の形を捨て去り、新しい音楽を生み出すという決意の表明のようにもとれる。けれど、そんな不文律といってもよい決意がいまだ滅ぶことなく冠されていることに、ここでは新たな意思を読み取りたいと思う。それは嘘のない音をただ響かせたいという、もっと個人的な思いなのではないだろうか。あらゆる存在が変化していく中で変わらぬ価値を表現すること。そうあり続けたいという至極あたりまえのことにほかならない。そしてその決意は、再び今の東京でどのように響くのだろうか。

 圧倒的な個と個。その広大ともいえる宇宙のぶつかり合いにより、どのような豊かな世界が生み出されるのか。4年ぶりというそのライブを、座して待ちたいと思う。

■公演概要
NAZORANAI
日程: 2018年9月27日(木)
時間: 開場19:00/開演20:00
場所: UNIT(代官山)
出演: なぞらない(灰野敬二 + スティーヴン・オマリー + オーレン・アンバーチ), 石橋英子
料金: 前売 2,000円

ローソンチケット https://l-tike.com/st1/rbmf18-nazoranai
イープラス http://eplus.jp/RBMF2018/
iFLYER https://iflyer.tv/en/event/305191

※未就学児は入場不可。小学生以下の方は保護者同伴のみご入場いただけます。
※小学生以下のお子様は耳を守るために必ず耳栓かイヤーマフを着用ください。
www.redbull.com/jp-ja/music/events/nazoranai

Link: RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018

庄野祐輔
編集者・デザイナー。
兵庫県生まれ。MASSAGE編集長。書籍の企画やインディペンデントでの雑誌の発行など、独自のメディア作りを通して、映像やアート、音楽など創作に関するさまざまな情報を伝えている。