INTERVIEWSJune/18/2018

[Interview]Goat Girl – “Goat Girl”

 80年代、当時の英首相マーガレット・サッチャーは、“there is no alternative(この道しかない)”をスローガンに、新自由主義の道へと舵を切った。より多くの資本が市場に委ねられるシステムは本来効率性を狙ったものであったが、歴史が語るように過度な競争という環境は一部に富が集中する結果となった。自明ながら、富を得た一部の個人は国家ほどの再分配を行わない。私たちはすでに、その制御不可能なシステムの奴隷であり、そしてその多くは、少しでもマシな家庭用奴隷になるための競争を続けている。

 経済への欲望をむき出しにする世界では、歴史に対し無知であることを恥じる者は少ない。今この瞬間も、巧妙な奴隷は自らの生存を賭けてその下にさらに隷属する奴隷をつくり、システムに抗う者には否定のレッテルを必死に貼り続けている。

 サウス・ロンドンを拠点とするバンド、Goat Girl(ゴート・ガール)は、Clottie Cream(クロティ・クリーム)、Rosy Bones(ロージー・ボーンズ)、Naima Jelly(ネイマ・ジェリー)、L.E.Dの4人によって結成。〈Rough Trade〉と契約した彼女たちは、プロデューサーにDan Careyを迎え、2017年秋にサウス・ロンドンのスタジオでレコーディングを実施。今年4月には、デビュー・アルバム『Goat Girl』をリリースしている。

 アルバムは、メンバーが育ったロンドンにおける「都市の退化」をテーマとして制作されたという。そこでは、20歳から21歳という若さの彼女たちが見る歪んだシステムの中枢、すなわち都市の外傷的な現実の裂け目が鮮やかに描写されている。

__バンド結成の経緯を教えてください。

L.E.D: 最初は私とネイマが一緒に音楽を作っていた。そのあと友達を通じて15歳くらいの時にクロティに出会った。そしたら私たちと音楽のテイストが似ていたから、3人で音楽を作るようになって、その時はもっとアコースティックだったんだけど、次第にエレクトロニックの楽器を使うようになって、だんだんヘビーになってきて。だからドラムが必要になって、ロージーが入った。彼女とはギグで会った。

__「Burn the Stake」では、保守党と民主統一党(DUP)に対して、火刑の柱を燃やせ(“Burn the Stake”)と歌っています。歌詞に描かれている政治的な背景はどのような問題があるのか教えてください。

L.E.D: 私たちが若い時、大学の学費が上がることに対する抗議や反対運動が沢山起こっていた。“Build a bonfire, build a bonfire, put the tories on the top, put the DUP in the middle, and we’ll burn the fucking lot(火をたきつけろ 火をたきつけろ 保守党の奴らは上 民主統一党の奴らは真ん中 そして盛大に燃やしてやる)”っていうのは、学生の抗議デモの行進から来ていて、それを曲の中で使った。教育を受ける機会を減らそうとする政府に対する抗議を歌った作品がこの曲。歌詞はクロティが書いたけど、抗議には私たちも行った。

__「Cracker Drool」は、MVも公開されていますが、歌詞や映像が何のメタファーなのか具体的に教えてください。 

L.E.D: 特にメタファーはないと思う。でも、世界では色々なことが起こっているから、皆がそれぞれにメタファーを見つけることは出来るかもしれない。自分なりにメッセージを受け取ってもらえたらそれでいい。歌詞はクロティが書いたから、私にも歌詞に込められた真のメッセージはわからない。でも多分、メキシコとアメリカの関係じゃないかなって私は思ってる。クロティは国境に行ったことがあるんだけど、“cracker”という言葉は、スラングで人種差別者という意味がある。だから私は、メキシコからアメリカにより良い生活を求めて来た女の子が、アメリカで“Joe”という名の男に出会って、人種差別の存在を知るっていう設定かなと思ってる。あくまでも私の解釈だけどね。

__「The Man」のMVの解説として、〈Rough Trade〉のウェブサイトに、“the band made this gender-fllipped take on Beatlemania video”とありますが、男女を対照的に描いた意図を教えてください。また、この”The Man”とはどのような意味を持っているのでしょうか。

L.E.D: あのアイデアは、私たちではなくて、フィルムメーカーのCC Waveのアイデア。彼らがすべての設定を決めて撮影した。あれはクラシックなラブソングだから、ビートルズやキンクスみたいな60年代の雰囲気を出したかったんだと思う。でも当時は、女性が男性と同じくらいアイドル扱いされることはレアだった。特にロックというジャンルでは、男のグルーピーってなかなかいなかったよね。だから、「それが逆だったら」というアイデアが面白いと思った。

__「The Man」の曲自体は、クラシックなラブソングということですが、インスピレーションはどこから?

L.E.D: あれを書いたのもクロティなんだけど、クロティの元彼のことについての曲が「The Man」。

__プレスリリースで、アルバムのテーマについてコメントを出していますが、2点だけ、その詳細を教えてください。一つは、「私たちが直接体験した都市の退化」(“the first-hand experience of our city’s devolution”)について、もう一つは、「ロンドンで起こっている、異常や奇妙な出来事」(“the abnormalities and strange happenings that exist in our city”)について。それらは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

L.E.D: 異常に関しては、やっぱりロンドンは都会だから、皆が物を買うことに主にお金を使って、ストレスが溜まってる。ジムなんかでも、ランニングマシンで走りながら鏡に映る自分の姿をみたりして……意味わかる? それってなんかおかしいでしょ? 本来は必要でないストレスやプレッシャーの元に生活してる。そういうことが異常だと思う。

__では、“直接体験した都市の退化”とは?

L.E.D: 退化かはわからないけど、電子デバイスが普及してから、私たちの生活ってコントロールされていると思う。皆時間があればインスタグラムやフェイスブックを見ているし、オンラインで載っているものを買ったりしてる。それってある意味、昔よりも退化していると思うわけ。物を作らなくなったし、人との繋がりも薄っぺらくなってる。それが退化の意味。

__アートワークに、Miguel Casarrubiosを起用した理由を教えてください。また、このアートワークはどのようなテーマなのでしょうか。

L.E.D: 彼が素晴らしいアーティストだから。今回は、アルバムのために彼にデザインしてもらったんじゃなくて、彼が既に制作していたものの中からあのアートワークを選んだ。あの作品が、すごくアルバムの音楽を表現していると思った。いろんな生き物がいるところもそうだし、あの色使いもそうだし、すごく合ってた。あの作品を見つけられて、本当にラッキーだった。

__あの作品にテーマはあるのですか?

L.E.D: ない。テーマは、Miguel本人(笑)。

__The Windmillは、サウス・ロンドンにおいてどのようなヴェニューなのでしょうか。また、バンドにとってどのような場所ですか。

L.E.D: すごくレアなヴェニュー。セキュリティがいないし、会場にいる人たちは皆フレンドリー。ヴェニューというより、コミュニティって感じ。すごく落ち着いてるし、皆がお互いを尊重し合ってる。知らない人だらけだったり、人と人が押し合ったりしてるような雰囲気のヴェニューではない。

十代だった私たちにとっても、あのヴェニューでプレイすることは一つのゴールだった。自分たちが好きなバンドもあの場所で見て来たし、観客のエナジーもすごく良い。初めてプレイした時のショーはすごくうまくいったんだけど、本当に嬉しかった。すごく楽しかった。そこから始まって、今や日本に行こうとしてるなんて信じられない(笑)。

__サウス・ロンドンは、クラブミュージックのシーンも注目されていますが、それらとの関わりはありますか。

L.E.D: あると思う。クラブのヴェニューでプレイすることもあるし、私たち自身もクラブイベントに遊びに行ったりするから。サウス・ロンドンって小さいから、皆がお互いを知っている。だから、皆がどこで何をやってるかを把握していて、どこでどんなショーをやっているかとか、展示会をやっているとか、情報をシェアし合っている。良いパブもたくさんあるし、私たちもサウス・ロンドンの皆が遊びに行くようなところに遊びに行ってる。

__5月~6月には、Parquet CourtsとのUSツアーが発表されていますが、アメリカでのライブに関して、何か特別な準備はしていますか。

L.E.D: 特にないかな。UKツアーでは、アルバムのサウンドを再現するためにシンセサイザー・プレイヤーとヴァイオリン・プレイヤーに参加してもらっていたんだけど、残念ながら予算の都合でアメリカには彼らを連れて行けないから、私たち4人だけ。そこが違いになる。

__最後に、今後のバンドの展開について教えてください。次の作品のリリースや、ミュージックビデオの予定などはありますか。

L.E.D: もう“アングリー・ミュージック”は作らないと思う。怒りの音楽は、私たちが10代や20代前半だったからこそ作れたものだと思う。若い時って、社会が自分の敵みたいに見えるでしょ? でも、私たちも当時から成長したし、物事を広く、色々な角度から落ち着いて見れるようになってきた。だから、今後はもっと落ち着いた音楽になっていくんじゃないかな。リリースは、今友達が「Viper FIsh」のかっこいいアニメーションを作ってくれているんだけど、それが5月下旬くらいに公開される。すごく良い作品になりそう。楽しみにしてて。

__ありがとうございました。

L.E.D: ありがとう! 日本で皆に会えるのを楽しみにしてるね!

Goat Girl:
01. Salty Sounds
02. Burn The Stake
03. Creep
04. Viper Fish
05. A Swamp Dog’s Tale
06. Cracker Drool
07. Slowly Reclines
08. The Man With No Heart Or Brain
09. Moonlit Monkey
10. The Man
11. Lay Down
12. I Don’t Care Part 1
13. Hank’s Theme
14. I Don’t Care Part 2
15. Throw Me A Bone
16. Dance Of Dirty Leftovers
17. Little Liar
18. Country Sleaze
19. Tomorrow
*Bonus Tracks for Japan [RTRADCDJP884]
20. Scream
21. Topless Tit
22. Banana (instrumental)

■公演情報
Goat Girl
2018.06.27 (水)
大阪 CONPASS
SUPPORT ACT: WOMAN
DJ:DAWA (FLAKE RECORDS)
OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥5,500(税込/別途1ドリンク代)
※未就学児童入場不可
CONPASS: http://www.conpass.jp

2018.06.28 (木)
渋谷 WWW
SUPPORT ACT: TAWINGS
OPEN 19:00 / START 19:30
前売 ¥5,500 (税込/別途1ドリンク代)
※未就学児童入場不可
WWW: http://www-shibuya.jp

チケット情報 (東京/大阪両公演)
発売中
イープラス [http://eplus.jp/]
ローソンチケット 0570-084-003 [http://l-tike.com]
チケットぴあ 0570-02-9999 [http://t.pia.jp/]

企画・制作:BEATINK 03-5768-1277 [www.beatink.com]

文・インタビュー質問作成: T_L(UNCANNY)
通訳・質問: 原口美穂