ARTIST:

Jamie xx

TITLE:
In Colour
RELEASE DATE:
2015/6/3
LABEL:
XL Recordings / Hostess
FIND IT AT:
Amaozn
REVIEWSJanuary/18/2016

[Review]Jamie xx | In Colour

あるとき、好きな映画は何かと聞かれ、ダニー・ボイル監督の映画『トレインスポッティング』(1)と答えたら、笑われたことがあった。確かに安易な回答ではあったと思う。とは言え筆者にとって、『トレインスポッティング』のラストシーンで主人公マーク・レントン役のユアン・マクレガーが言うLooking ahead, to the day you die(平穏に暮らす、寿命を勘定して)”という台詞は印象深いものである。また近年、20年遅れで、日本が当時のイギリスと似たような状況になっているようにも思える。この映画が、仮に舞台を現代の東京にしてリメイクされても、心理的状況においてはそれほど違和感はないのではないだろうか。

Jamie xxは、ロンドンを拠点とし、DJ、プロデューサーとして、そしてThe xxのメンバーとして活動している。Jamie xxにとって、初のソロアルバムとなった本作『In Colour』では、UKのクラブミュージック、ダンスミュージック・カルチャーの系譜を継承したかのような、総じて言うならば、Jamie xxの解釈によるハウスミュージック”を聞くことができる。

2011年の4月に公開されたJamie xxとONEMANによる『FACT mix 239(2)で、彼らは、新譜だけではなく、旧譜のダンスクラシックも織り交ぜながらプレイしている。当時、Jamie xxは、22〜23歳だと推測されるが、スタイルとしてはそういったハウスDJの伝統的なスタイルを踏襲しているものだった。「何でもあり」というよりは、歴史を学び、それらを現在と接続させながら物語を紡いでいる。90年代回帰という意味では、そのスタイル、哲学もまた90年代らしいと言える。

アルバム収録の「Sleep Sound」のミュージックビデオは、このアルバムを象徴するような映像である。同じロンドンのマルチメディア・アーティスト、詩人でもあるSofia Mattioli監督によるこの映像は、マンチェスターの聴覚障害者施設で撮影された。映像では「Sleep Sound」をバックに、彼女が、5才から27才の13名の聴覚障害者とダンスする様子が映し出されている。夢中になってダンスする姿からは、言われなければ彼らが聴覚障害であるとはわからない。映像では、「Sleep Sound」の持つ不思議な静寂さ、美しさが強く引き出されている。また、それらすべては、Jamie xxの本作に通底しているものでもある。

本作におけるサンプリングの選曲も興味深い。「Gosh」では、ジャングルへのオマージュそのままに、DJ Ron and MC Stringsの「Unbroadcast ‘One in the Jungle’ Pilot」(1995)をサンプリングしている。また、Romyがフィーチャーした「Loud Places」では、Idris Muhammadの「Could Heaven Ever Be Like This」(1977)を、PopcaanとYoung Thugがフィーチャーした「I Know There’s Gonna Be (Good Times)」では、The Persuasionsの「Good Times」(1972)を、さらに「Girl」では、Freeezの「I.O.U.」(1983)をサンプリングするなど、先に述べたようなDJとしてのJamie xxらしいセレクトでもある。それら定番とも言える、クラブなどで聞き覚えのある旋律がJamie xxの新曲の中で生まれ変わることで、聞く者に過去と現在、あるいは未来への接続を予感させる。

タイトルの「In Colour」にあるように、アートワーク、インナースリーヴもまた、鮮やかな色彩で構成されている。異なる色が中心を軸に一周して連続していく様相は、多様性と調和を想起させる。一方で、現実的に、多様な個が調和するのは極めて難しいという真実を私たちは知っている。

冒頭に戻れば、「平穏に暮らす、寿命を勘定して」とは、つまり、もはや逸脱はしないという意味でもある。逸脱どころか、近年はまるで『1984年』(3)の世界を連想させるようなディストピアというワードをよく耳にするようになった。生き抜くことすら難しいという心理的不安によるものなのだろうか。翻って、Jamie xxが本作で表現したダンスミュージックにおける過去、現在、未来の接続は、聞く者に不思議な感覚を覚えさせる。多様性と調和、寛容さや非日常、真実と幽かな希望、逸脱。言わば、本作の顕われは、ダンスミュージックが本来持つ魅力そのものなのではないか、とも思えるのである。

(1)…ダニー・ボイル監督による、スコットランドを舞台にした1996年の映画。Underworldの「Born Slippy」がラストシーンで使用されている。
(2)…『FACT』の企画によるDJミックスのシリーズ。『FACT mix 239』は、『FACT』と〈Young Turks〉のパーティでのふたりのb2bによるLive Mix。
(3)…ジョージ・オーウェルによる1949年の小説。

文:T_L