ARTIST:

Christopher Owens

TITLE:
A New Testament
RELEASE DATE:
2014/9/24
LABEL:
Hostess / Turnstile Music
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSDecember/22/2014

[Review]Christopher Owens | A New Testament

 Christopher Owensは、60年代後半のジーザス・ムーブメントから派生した宗教団体の信者である両親を持ち、生まれたときから世間からいわば隔離されて育ったという。そして、16歳の時に教団から逃亡し、しばらくパンクミュージックに没頭して、その後サンフランシスコに移り住み音楽を作り始めたとのことだ。彼の作品を聞くとき、その希有な人生が彼の音楽性と深く関わっていることを無視することはできない。そして敢えて、Christopher Owensの音楽の要素を二つ挙げるとすれば、土地にルーツを持った音楽性とインディシーンから切り離された独自の音楽性だといえる。

 まず、今作のジャケットでChristopher Owensはカウボーイハットを被りウエスタンファッションの男性に囲まれ、そして彼らの隣にはふくよかな黒人女性たちが並んでいる。このシンプルでわかりやすいジャケットをみれば一目瞭然だが、今作はカントリー、ゴスペル、R&Bなどアメリカにルーツを持つ音楽がふんだんに詰め込まれている(ちなみに、ジャケットの面々はアルバムの参加ミュージシャンたちだ)。例えば、「Nothing More Than Everything To Me」や「Over And Above Myself」ではカントリー調のスティールギターが多用され、曲にワイルドさを引き出している。また、一曲目の「My Troubled Heart」や二歳の時に亡くなった弟に向けた曲である「Stephen」のバックコーラスでは、ゴスペルの要素が強くみられ、神聖で祝祭的な空気を纏わせている。そして、これらをシンプルなスリーコードとポップなメロディに埋め込み、さらに彼の力の抜けた歌声をのせると、陽気でのんびりとしたサンフランシスコの暮らしが感じられるものになる。

 生まれたときから社会と隔離された教団の一員として育てられているとすれば、アイデンティティを自己形成する前に、教団の一員としてのアイデンティティを植え付けられていたと考えるのが妥当だ。そして、サンフランシスコに移り住んだ後に、ようやくそこでアイデンティティをはじめて独立自成したとも考えられる。世界中を転々としていた彼だが、作曲においては、サンフランシスコというひとつの土地にルーツを求めている。

 また、彼が現在のインディシーンで異質な存在であることもその人生に起因している部分があるように思える。現在、ガレージ・リバイバルやシューゲイザー・リバイバル、サイケデリック・リバイバルなどのバンドがUS、UKともに多く見られる中、意識的なのか無意識的なのかは不明だが、それらとは異なる音楽を作っている。前述した通りサンフランシスコ・ミュージックと呼べるほどに地域に根ざした音楽は、様々な要素がミックスされて取捨選択されてきた現在のインディシーンにおいて珍しく、そのような意味において、彼は特異な存在であるといえるだろう。

 それはおそらく、同世代のミュージシャンたちと共有してきたものの違いなのかも知れない。教団で世界中を転々と移動して暮らしていた彼には、同世代の誰ともバックグラウンドを共有することはできない。また、若者の音楽アイデンティティは、自分の所属する共同体に帰属し、他の共同体との差異を明らかにしながら同調主義的なアイデンティティを育むものである。しかし、Christopher Owensの場合は学校にも行っておらず、帰属する共同体はひとつであったため、他の同世代のミュージシャンたちと同様の音楽アイデンティティを育んでこなかったと捉えることもできよう。

 いま一度ニューアルバム『A New Testament』を聞いてみると、今作はソロデビューアルバムでサックスやフルートを多用してやや実験的だった前作『Lysandre』と比較して、Girls時代に彼が作っていた音楽により近く、より彼の持つ揺るぎない本質的な美がどの曲にも表れているように感じられる。それはChristopher Owensの経験してきた人生と青年になって初めて独立自成したアイデンティティとの均衡の先に見つけ出した美的感覚のみがつくり出せる音楽の世界なのかも知れない。

文:永田夏帆


1992年生まれ。UNCANNY編集部員。趣味はベースと90年代アメリカのポップカルチャー。青山学院大学在籍の現役大学生。