ARTICLESJune/17/2014

Featured | 特集:Blonde Redhead

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 日本のロック・フェスと言うと、真っ先に思い浮かぶのはやはりサマーソニックやフジロックフェスティバルだったりするわけだが、それらは一昼夜丸ごと行われる上に、開催される場所が場所なために、どうしても気軽に足を運び辛い節がある。そんな中で、2012年から新たな都市型ロック・フェスとして生まれたのがこのHostess Club Weekender(以下HCW)で、中目黒にオフィスを構える独立系音楽会社Hostess Entertainmentとその提携レーベル(4AD、Rough Trade、Matador、XL Recordingsなど)の所属アーティストを中心に毎回5組×2日間で計10組ほど来日し、リーズナブルな価格かつ都心からアクセスしやすい場所(恵比寿、お台場、第7回からは新木場Studio Coast)で開催され、第1回の開催から着々とインディ・ミュージックリスナーの支持を獲得し、チケットはソールドアウトを続出。瞬く間にその規模を拡大して約2年間のスパンにも拘らず今回で早くも第8回目の開催となった。そして、この特集記事では第8回目HCW初日のヘッドライナーを務めるBlonde Redheadについて簡単だが紹介していこうと思う。

 “金色の赤い髪”と言う何ともパラドキシカルな名前を持つこのバンドは、ミラノ出身のアメデオ・パーチェがギターを、彼の双子の弟であるシモーネがドラムスを、そしてフロントマン(フロントウーマン?)を京都出身の日本人女性であるカズ・マキノが担当し、1993年にニューヨークで結成された。今回のHCWはSOHNやHigh As a Kiteなど新進気鋭の若手ミュージシャンが目立つ中、約20年のキャリアを誇る彼女達の存在感はある種異彩を放っていて、そんな中で彼女達がどんなパフォーマンスを披露するか早くも楽しみである。

 さて、彼女らが結成した1993年、90年代前半と言うのはインディ・ミュージックシーンにおいてある種のターニングポイントとも言える時期で、91年にMy Bloody Valentineは『Loveless』を発表してグランジやオルタナの次の世界を作り出し、Radioheadが「誰にだってギターは弾ける」、翌年にはBeckが「俺は負け犬だからさっさと殺しちまえよ」と気の抜けたブルース調で歌い上げ、当時の一大ムーヴメントを巻き起こしていたオルタナティブ・ロックシーンと、そしてそれに乗っかってMTVが作り上げた商業ロックスターの幻想にアンチテーゼのごとく叩き付けると、まるで連鎖するかの様に90年代グランジ・オルタナシーンのカリスマと祀り上げられたカート・コバーンが、その重圧からか自ら命を絶ち、当時栄華を極めていたグランジ・オルタナシーンは縮小の一途を辿って行ったのである。

 そんな激動のシーンの真っ只中に彼女らはデビュー・アルバムである『Blonde Redhead』をSonic Youthのドラマー、スティーブ・シェリーが作った〈Smells Like Records〉からリリースした。ノイジーなギターの中にカズ・マキノのウィスパーヴォイスがダウナーで気怠いメロディを歌いあげるそのサウンドは、当時のグランジ・オルタナシーンを踏襲すると言うよりは、ケヴィン・シールズらが後世に残したオルタナの未来系であるシューゲイザーに通ずるものを感じる。つまり彼女らも、他のアーティストと同じ様にグランジ・オルタナシーンの先を行こうと決意したのである。

1stアルバム『Blonde Redhead』より“Astro Boy”

 その後の1997年3rdアルバムである『Fake Can Be Just As Good』をシカゴの老舗レーベル〈Touch And Go〉(のちにYeah Yeah Yeahs、!!!などが所属する)からリリース。Radioheadが『OK Computer』を発表し、ロック・ミュージックのそのまた先の姿の輪郭がはっきりして来た年に産声をあげたこの作品は1st、2ndアルバムで描いたシューゲイザーの世界観に加え、さらにノイジーかつ暴力的に搔き鳴らされるギター、倒錯したかの様に反復するリズムが行き交う、まるでJoy Divisionを筆頭とするかつての〈Factory Records〉所属アーティスト直系のダークでダウナーなポスト・パンク、ポスト・グランジミュージックであり、また、不規則にループするファズのかかった暴力的なギターは、シューゲイザーと言うよりも、もはや00年代後期〜10年代に現れた俗に言う“ニューゲイザー”のソレとも感じられ、どれだけ彼女達が先進的な音楽を鳴らしていたかが垣間見える瞬間でもある。

3rdアルバム『Fake Can Be Just As Good』より“Water”

 そして彼女らは〈Touch And Go〉でさらに2枚のアルバムをリリースした後、イギリスの〈4AD〉にレーベルを移籍。2003年には移籍一作目となる『Misery is a butterfly』をリリース。2003年と言うとThe White Stripesが『Elephant』をリリースし、これがNMEやイギリス本国で同等の権威を持つQ Magazine、SPINSなど様々なメディアの年間ベストアルバムに挙げられ、The Strokesが『Room On Fire』をリリースしていたりと、00年代ガレージ・ロック最盛期とも言える時期であったわけだが、彼女達はどこ吹く風で、これまでのポスト・パンク、シューゲイザーなどのノイズ・ロック・ミュージックから一変してシフトチェンジを行い、控えめに抑えたギターとシンセサイザーが幾何学的に響く中で、囁く様なヴォーカルがダウナーなメロディを歌い上げるとトリップ・ホップやニューゲイザーに近い楽曲を産み出す様になる。00年代ガレージ・ロックが流行している時代で、彼女達はその他大勢のバンドとは全く異なったアプローチで自らのサウンドを鳴らし、その存在感をどんどん増していったわけである。

6thアルバム『Misery is a butterfly』より“Magic Mountain”

 続く2007年にリリースされた『23』は彼女らにとっては出世作とも言える一作で、リードトラックである『23』があるミネラルウォーターのCMソングに抜擢。2007年の全米アルバムチャートでも63位を獲得するなどセールス的にも大きな成功を収めた。前作でポスト・パンク、ノイズミュージックからトリップ・ホップやニューゲイザーなど様々なジャンルをクロスオーバーする超先進的バンドへ見事なまでのメタモルフォーゼに成功した彼女らは、今作でもその流れを受け継ぎ確固とした世界観の下、ダウナーでありながらどこか浮遊感のあるRadioheadを彷彿とさせる様な退廃的で内省的な一枚に仕上げている。

7thアルバム『23』より“23”

 2010年リリースの『Penny Sparkle』でも同様に唯一無二の世界観を展開し、この翌年2011年には同アルバムをひっさげ、「4AD Evening」のヘッドライナーとして当時最も勢いに乗っていたといっても過言ではないレーベルの後輩達のDeerhunter、Ariel Pink’s Haunted Graffitiらと共に来日公演を行う。結果、その圧巻のライブパフォーマンスは、見に来ていた全ての観客の心を完璧に惹き付けた。筆者もその来日公演に行っていたのだが、本当に言葉を失うほどの圧倒的なパフォーマンスでDeerhunter目当てに来ていた観客の心さえもノックアウトしていた(加えて、ステージ脇でAriel Pinkが楽しそうに見ていたのが印象的だった)。残念ながらその来日公演の映像が見当たらなかったのでここでは4AD sessionのライブ動画を載せておく。

Blonde Redhead – 4AD Sessions

 アンチ・ロックスターの運動が強まる激動の90年代ミュージックシーンの中で産声をあげた、世にも珍しい“金色の赤い髪”を持つこのバンドは、ポスト・グランジの系譜を受け継ぎながらも、そこで足踏みする事無く、自らの確固たる世界観を20年間持ち続けた。00年代のガレージ・ロック最盛期でも彼女達はその流れに乗る事無く、ロック・ミュージックのさらに向こう側へ進化し遂げた。その過程で彼女たちが上積みして行った世界観と言うのはまさしく唯一無二と言うのに相応しく、20年と言うキャリアがまた、それの重みを物語っている。そんな彼女らの約3年ぶりの来日公演となった今回のHCW。進化を続ける彼女らのパフォーマンスは、今回もその期待以上のものになることは間違いないだろう。

文・武部泰彦
1993年生まれ。青山学院大学文学部在籍。インディーポップやシューゲイザーを好む。

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■公演情報
タイトル:Hostess Club Weekender
出演:
6/21(土): Blonde Redhead / Simian Mobile Disco performing WHORL /
Perfume Genius / SOHN / Highasakite
6/22(日): Cat Power / Cloud Nothings / Joan as Police Woman / TOY /
The Bohicas
日程:
2014/6/21(土) OPEN12:45 START13:45
2014/6/22(日) OPEN13:00 START14:00
場所: 新木場スタジオコースト
オフィシャルサイト: www.ynos.tv/hostessclub
チケット:
1日券 7,900円(税込/1ドリンク別)
2日通し券 13,900円(税込/各日1ドリンク別)

More Info: Hostess Club Weekender