INTERVIEWSJune/18/2019

[Interview]The Mattson 2-“Paradise”

 今年6月にToro Y MoiことChaz Bearが主宰する〈Company Records〉から、サンディエゴ出身の双子ジャズ・デュオ、The Mattson 2の新作『Paradise』がリリースされた。これまでに彼らは、The Mattson 2名義の作品に加え、ChazやプロスケーターでありミュージシャンでもあるTommy GuerreroやRay Barbeeといったカリフォルニアのカルチャー・シーンを象徴するアーティストとコラボレーションを行ってきた。その一方で、日本で何度も来日公演を行い、昨年3月には細野晴臣や坂本龍一などの日本人アーティストの楽曲をカヴァーした『Vaults of Eternity: Japan』を公開するなど、日本に深い関心を寄せるアーティストとしても知られている。

 今回のインタビューでは新作についての話をはじめ、Chazとの関係性や日本についてなど、様々な角度から、たっぷりと語ってもらった。

__6月リリースの最新アルバムのタイトル『Paradise』の由来について教えてください。タイトルの“Paradise”とはどのような場所を意味しているのでしょうか。

Jonathan: 僕たちにとって「パラダイス」とは、いつの日か人類がすべてのバックグラウンド、文化、人種を受け入れて平和に暮らし、お互いに暴力や憎しみを捨てた世界のこと。アルバムにこのポジティブさが反映されて、みんなをハッピーにできることを願っているよ。

__これまでThe Mattson 2としてインストゥルメンタルの楽曲を制作してきたなかで、今作ではヴォーカルをミックスした楽曲も収録されています。今作でヴォーカルを使用しようと思ったきっかけは何ですか。

Jared: 双子の声はすごく似ているからいろいろ試すにはすばらしいサウンドなんだ。それは、すべてのアーティストが出来ることではないから僕らの特権でもある。クルアンビンとツアーを行ったとき、最も人的要素である声を加えることで、僕らの音楽をもっと多くのリスナーに届けたいと思ったんだ。新たな一面を出せたのは僕たちにとっても嬉しかったし、オーディエンスも気に入ってくれたから、本当によかったと思う。

__今作『Paradise』を制作するにあたって、特にこだわった点を教えてください。

Jonathan: インストゥルメンタルと結合性のある音色の広がりにはこだわった。楽器たちの個性を考えてみたんだ。それらの性質はアルバムのストーリーを作るために必要不可欠なものだった。例えば、ゆったりとしたドラム、アコギ、フェンダー・ストラトキャスター、フラットワウンドのエレキベース、microKorgとYamaha CS14D。音楽で常識を破ったチャレンジをすることは良いことだけど、僕たちはそれとは正反対なものを作りたかった。つまりは、そこまで深く考えずに楽しめる音楽を作りたかったんだ。

__『Paradise』はサンディエゴの自宅でプロデューサーやエンジニア抜きで二人だけで制作を行ったそうですが、その中で苦労したことはありますか。

Jared: 特に苦労したことはなかったかな。アルバムすべてを自分たちでミックスするという辛いプロセス以外はね。自宅で制作を行うことで、ストレスの原因になっていた時間やお金といった問題はなくなった。ホームスタジオというアプローチはアーティストに多くの権限を与え、より成長させてくれる。それに、自宅の周りは植物が繁茂していて、毎回そこでレコーディングするときは自分の「パラダイス」にいる気分だよ。

__また、双子であるがゆえに、音楽家としてのキャリアにおいて、苦労したり、または互いに助けられたりしたことはありますか。

Jonathan: Jaredと僕はある一定のおもしろさと気楽さを持っているんだけど、それが音楽に反映されているとは限らない。音楽は自分を表すべきで、その人個人の存在や価値観からかけ離れてはいけないと思う。振り返れば、歌わずにスーツを着ていたのもまだ自分たちのアイデンティティを探していたからだと思う。オーディエンスに僕らの成長した姿を見せる必要があると認識することで、互いを助け合ったんだ。

__本作のオープニング・トラック「Naima’s Dream」のタイトルにはJonathanさんの娘の名前が使用されています。この楽曲のテーマについて教えてください。また、子供が生まれたことは、音楽制作に何か影響や変化を与えていますか。

Jonathan: 美しく繊細な命がこの世に誕生する感情を捉えたかった。娘を持つことは今までで最も感動的な経験で、これまで知らなかった世界に出会うことができた。僕は娘の虜になっていて、この世のものを比較すると彼女に勝るものはほとんどないんだ。ツアー中にこの曲を演奏していると、彼女のもとに居られないのがすごく辛くなるけど、彼女のお母さんがちゃんと面倒を見てくれているよ。

__収録曲「Essense」のMVはYaejiなどを手掛けるAnthony Sylvesterが監督を担当しています。このコラボレーションのきっかけについて教えてください。

Jared: 一緒に働くうえで、彼のパワーは本当に素晴らしかった。彼の思いやり、ビジョン、そしてセットでのやりやすさには感激したよ。彼とはレーベルの〈Carpark〉を通じて繋がったんだ。VHSとノスタルジアのコンセプトに関しても意見が一致して、Anthonyは僕らがイメージしていた雰囲気をちゃんと捉えてくれた。

__これまで、Chaz Bear(Toro Y Moi)とコラボレーションしたアルバム『Star Stuff』を発表し、彼が立ち上げたレーベル〈Company Records〉から今作をリリースしていますが、彼との作業を通して学んだことがあれば教えてください。

Jared: 彼の想像力と彼の存在、そして彼の音楽は影響力を持っている。Chazは自分の中に秘めているものを引き出してくれる真のプロデューサーだよ。曲にはチョップを入れる所があるけど、ジャズのバックグラウンドから来た身として、時に音楽をシンプルに考えるのが難しくなる。

2017年に『Star Stuff』を制作したとき、Chazはダイナミックかつシンプルでジャズ要素も含んだ曲を一緒に作ってくれた。僕らが作った楽曲の中で幅広いアピールをしたのはこのときが初めてだった。僕たちにはこのプロセスがしっくり来て、もっとこのやり方で開拓したくなったんだ。僕らの音楽をあらゆる面からサポートしてくれる素晴らしいチームがいるレーベルに所属できることは最高だよ。

__過去に数多く日本を訪れ、ツアーを行っていますが、日本でのライブやオーディエンスの印象について教えてください。

Jonathan: 日本は文化的にも音楽的にも非常に影響力のある場所だよ。日本での初めてのライブは、2007年のageHaでのRay Barbee Meets Mattson 2だった。ソロ・アーティストのTUCKERが僕たちの前に演奏していたんだ。彼はライターのオイルをキーボードにかけて、それが炎で燃える中ソロを弾き始めた。そのあと、彼は自分のレコードコレクションを床に投げつけて粉々にしたり、燃やしたりしたんだ。観客も興奮していたよ! TUCKERを見て、「このあとに僕らステージ立つの? 観客はどう思うだろう」って思ったのを覚えているよ。だけど、すぐにあたたかく、エネルギーに満ちたオーディエンスに迎え入れられたよ。日本のオーディエンスは常に僕らを驚かせてくれる。彼らは音楽を次元の違うレベルで聴いているのだろうね。

__昨年3月には細野晴臣、坂本龍一、矢野顕子、山下達郎など日本人アーティストの楽曲をカヴァーした『Vaults of Eternity: Japan』を公開していますが、どのような基準でアーティストを選んだのでしょうか。

Jonathan: 2007年のジャパンツアー以降、僕らはHMVやタワーレコードによく行って細野晴臣、坂本龍一、YMO、矢野顕子とかをディグっていたんだ。この頃はまだSpotifyが普及していなかったから。CDを掘っても(日本で僕たちはレコードでなくCDを買っていたよ)、彼らのようなアーティストを発見することはアメリカではまずないから、この時間は僕たちにとってとても充実していてやりがい深い探検のようなものだった。

『Vaults of Eternity: Japan』に登場するアーティストたちは全員、僕らが共感できる曲を作った。元々はただのプレイリストかミックステープみたいなものを作りたかったのだけど、完成したミックステープの構成がすごく良かったんだ。そこで、そのミックステープの構成を軸に自分たちでカヴァーしようと決めた。

8分の曲を2分に調整したり、15分超の曲を30秒のイントロ(細野晴臣の「Talking」)にしたり。このプロジェクトで一番楽しかったのは僕らの友人でもある日本のミュージシャンたちとコラボレーションをしたこと。jan and naomiは矢野顕子のアレンジ曲、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)は坂本慎太郎の曲、僕たちの大切な友人であるChocolat & Akitoは山下達郎の「Storm」、そして、Tanukichanのヴォーカルもバックに加わっている。House Industriesの仲間たちがレイアウトをデザインして、アートワークは僕が手掛けたよ。

__最後に、『Paradise』リリース後の予定について教えてください。

Jared: 『Paradise』の収録曲はライブセットにぴったりだと思う。だから、アメリカで多くのフェスに出演するのがとても楽しみだし、今年から来年にかけて“パラダイス”を世界中に届けたいと思っている。それに加えて、『Paradise』の軌跡を捉えた未発表の楽曲もある。今はそれを両面LPにするか検討中だよ。

Paradise:
1. Naima’s Dream
2. Wavelength
3. Darkness Surrender
4. Essence
5. Moonlight Motel
6. Shell Beach
7. Paradise
8. Isela
9. Seacliff

インタビュー・文: 小林香織