INTERVIEWSNovember/29/2016

[Interview]yahyel – “FLESH AND BLOOD”(Part.2)

__では次に、リードトラックである「Once」についてお願いします。

池貝: 「Once」も僕が最初に形を作って、もうデモの段階で割と形になっていたのでサビの盛り上がりはもんちゃん(杉本)にやってくれってお願いしました。コンセプトとしては、もうこれはすごく個人の関係性のことを書いた曲ですね。これは曲の中の目線というのがはっきりしてる曲で。

部屋のベッドに横たわっているときって、窓の外では何が起きているか分からないじゃないですか。そういう窓の外の世界っていうのがすごいスピードで動いていて、もう自分達では把握し切れないような人の数がいて、抗えない時間みたいなものがすごく象徴的に動いていて。窓の外側の世界と内側の世界で、なんとかそれを繋ぎ止めようとしている2人っていう世界観を歌っています。

篠田:それを人称の違いで上手く表現しているんだよね。

池貝:そう、ありがとうございます(笑)。でも結局、中の世界と同じ時間が進行していて、なんとかその2人の関係性の中で繋ぎ止めようとしている状況っていうのを描写している曲です。フックの部分で“What we are”って何度も言っているいんですけど、疑問形“What are we?”ではないんですよね。どちらかというと僕らの世代って、自分達はこうであるっていうアイデンティティの定義を繰り返しているのかなって思っていて。

というのも、何をやるにしても、自分が何かとか、自分はこうだっていうことを定義付けしなければいけないことがすごく多い。何でかっていうと、今までの世代の人間と全く違う価値観を持っている人だから。20代前半から半ばにいこうとしている時期なんですけど、そこの部分って、こうであるってやっと言えるようになってくる時期で。自分のことをこうだって定義するのってなんだかすごく暴力的じゃないですか。それをやることによって色んな人を傷付けたりとかっていう過程をすごく踏む筈なんですよ。そういう暴力性みたいなところも言葉に集約したかったですし、なんとか繋ぎ止めようとしているんだけど、自分達は何かっていう問い自体に閉じ込められちゃってみたいな。現代感ないですか? この感覚。

自分とは何かっていう問いを持ちながら外の世界に対応していかなければならない、外の世界になんとか食らいついていかないといけないというか。傷付けないとやってられないんだけど、傷付けたくない人もいるし、世界も動いていっちゃうし、その焦燥感みたいなものを言葉に凝縮しているというか。そんな印象を私は持っていますが篠田さんどうでしょうか?

篠田:いや、その通りかなあ。僕らくらいの年代になると、どういう職に就くのかとかでも良いんだけど、自分達の定義付けをしないといけなくなる。“What we are”を言わないといけなくなるわけで。その中で色んな選択をして切り捨てていかなければいけないものや変わっていかないといけないことがあってっていう。そこがよく表現されているんじゃないでしょうか。

池貝:基本は嫌ですけどね。僕らの関係性の中ではそれが嫌なんですけど。でもそういう問いを続けていかないといけない。だからすごくリードトラックとしての世界観があると思う。

__MVも歌詞の世界観に寄せて作られていますね。

篠田:かなり合致しているね。

池貝:この曲は出来た瞬間から、今言ったようなコンセプトについてかなり言っていたんですよね。こういう世界観だよっていうのをしっかり伝えていたので、それを山田がすごく上手く汲んでくれてすごくテーマに沿ったものになりましたね。

篠田:例えばこれは黒川紀章の中銀カプセルタワービルで撮ったんですけど、あれはメタボリズムがコンセプトの建築で。メタボリズムっていうのは、要は都市やそこの人口の変化に合わせて新陳代謝の様に組み替えて変わることが出来るっていうのがコンセプトの建築なんです。室外は変わるんですけど、室内自体は不変なんですよね。

だからあの映像でも、室内だと女性は歪むんですけど、室外では歪まないんですよ。室内にいると外の変化に合わせて、自己ってなんだろうっていうことを疑わざるを得ない中で歪むんですけど、外にいる間は歪むことはない。その対比がうまく表現されていて。前半で出てくるフランク・ロイド・ライトのTALIESINっていう照明があるんですけど、あれも要は組み替え可能な照明で。そういうことが上手いことマッチしたと思っています。

__最後の質問になりますが、アルバムのラストを締めるトラック「Why」についてお願いします。

池貝:命令形で始まって疑問形で終わるって良いなと思って(笑)。「Why」に関しては、『FLESH AND BLOOD』っていうアルバムのタイトルが歌詞の中に隠れていて。人だから失敗してしまうとか、その中で人を傷付けてしまうこととかって、しょうがないじゃん、みたいな。静かな人の凶暴性というか、それこそ、「しょうがなくない?」っていう開き直りみたいなものって、人間の関係性を個人まで落としていくと実は沢山あるような気がしていて。そういう部分を描写している曲だなって思います。

最初は結構えげつない歌詞から始まっていて、どうして愛情が必要なのかっていう疑問が「Why」。それこそ、メインストリームの表現において、愛情ってすごく大きなテーマじゃないですか。でもそれにフォーカスするのって、多分実は人間が互いに対して無関心で、自分の都合で生きているから。自分がなんとなく当たり前だと思っているものを信じなければいけない脆さがあって、人としての脆さみたいなものを無視しているところがあって。

この曲の1番の歌詞では、離れていってしまった人が「自分は血肉なのだからしょうがない」っていう言い訳をしていたっていう歌詞なんですけど、2番は、自分ももしかしたら「血肉だから」という言い訳をしてしまうかもしれないっていう対比になっていて。要するに、皆脆いし、その中で愛情を知ることって実はすごく難しい。「何故それにそこまで固執するの?」、「人ってこういうものじゃないですか?」っていう残酷な視座を最後に持ってきたんですよね。ひいては、そんなに盲目的に全ての物事を信じない方が良いんじゃないのかっていう、「何故信じるの?」っていう疑問がこのアルバムの最後に置かれているというか。裏を返せば、「疑え」ってこと。その疑問が最後に来るっていうのが僕はしっくり来ているんですけど、どうですかね?

篠田:良いですね、「殺してくれ」から始まって、「疑え」で終わる。ライブでもいつも最後にやるしね。

池貝:皆さんがどういう風にアルバムを聴くのか分からないですけど、もしアルバムを頭から最後まで通して聴くなら、「疑え」っていうメッセージを残してアルバムが終わるってすごく意味があるんじゃないかな。

篠田:“Why?”って言っているのがフェードアウトであちらこちらで鳴りながら消えていくっていうのが、皆さんの耳の中で「疑え」っていうメッセージとして残響すれば良いですね。それはサウンドプロダクションの部分でも上手く表現されているんじゃないかなと思います。

__ありがとうございました。

yahyel_fleshandblood

FLESH AND BLOOD:
1. Kill Me
2. Once
3. Age
4. Joseph (album ver.)
5. Midnight Run (album ver.)
6. The Flare
7. Black Satin
8. Fool (album ver.)
9. Alone
10. Why

取材・文: 成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。