INTERVIEWSMay/17/2021

[Interview]CRYSTAL- “Reflection Overdrive”

 社会学者のジグムント·バウマンが指摘したレトロピアとは、ユートピアとは違い、未来に対する不安に根ざした願望を過去に求めるものを意味するという。2010年代から特に見られるこれらの傾向は、アートやファッションはもとより、今や著名なポピュラーミュージックのバンドによる作品や80年代の作品のリバイバルなどにも顕著に現れていると言えるだろう。

 その一方で、三宅亮太と丸山素直によるCRYSTALの楽曲は、確かに80年代の影響を感じさせる作品ではあるものの、バウマンの言うレトロピアとまったく同一なものとは言い難い。そこにはさまざまな理由が見られるが、その一つに楽曲のもつ強力なファンクネスの存在が考えられる。Flying LotusThundercatCRYSTALを高く評価している点からも見られるように、CRYSTALの作品は、シンセポップというよりは、そのジャンルはむしろ、YMOなどを経由しながらもP-Funk的なものにより近い、強力なデジタル·ファンクという位置付けの方が妥当だろう。つまり、そこには当然過去も存在するが、加えて未来へ向けた強靭さやレーベルのプレスリリースの解説にあるところの「きわどい曲を作る」というCRYSTALが持つ独創的なユーモアも詰まっている。

 今作『Reflection Overdrive』は、2015年のデビューアルバム『Crystal Station 64』に続くセカンドアルバム。今回のインタビューでは、その制作背景について詳しく語ってもらった。

 

CRYSTAL(三宅亮太、丸山素直)

__三宅さんはSparrows、Saco & Uno、Flash Amazonasなどさまざまな名義で作品を発表し、また丸山さんはイラストレーター、グラフィックデザイナーとしての側面もありますが、個々の活動はCRYSTALとしての活動にどのような影響を与えていると思いますか?

三宅:いろいろな名義があることで、それぞれにコンセプトをもって制作できると思います。ただ、コンセプトに縛られすぎてしまうようなこともあるかなと思ったりもしています。

丸山:意識したことは無いのですが、CRYSTALの世界をつくるときは、音と一緒にビジュアルが浮かびます。そのビジュアルを周りの人たちと共有できるのは、いろいろな場でデザインや描くことをしているからかもしれません。

__昨年末、Flying Lotus主催のオンラインイベント「Brainfeeder The Hit」にスペシャルゲストとして参加していますが、出演に至った経緯を教えてください。

三宅:3年前にThundercatのアメリカツアーに同行したとき、同じく前座をしていたPBDYさんが番組の編成をしていて、出演のオファーをいただきました。

__今作『Reflection Overdrive』は、2015年の『Crystal Station 64』に続くセカンドアルバムとして2人体制となって初めてのアルバムですが、楽曲制作の過程や精神的な面など、前作から大きく変化した点などはありますか?

三宅:特に変わってないです。

__アルバムのタイトルについて、『Reflection Overdrive』の“Reflection”には、「反射」のほかに「回想」「反省」といった意味もあります。このタイトルにはどのような意味があるのでしょうか? また、今回のアルバム全体のテーマがあれば教えてください。

三宅:寺尾聰のアルバム『リフレクションズ』と、ウィリアム・ギブスンの小説『モナリザ・オーバードライブ』を足してタイトルにしました。歌謡曲のような曲とサイバーパンクをイメージしたような曲が収録されたアルバムなので。それに自分たちの音楽も、80年代の「歪んだ」「反射」のようなものでもあるので、ちょうどいいタイトルじゃないか、という。「反省」「回想」といった意味は意識していなかったです。

__タイトル曲「Refraction Overdrive」は、アルバムタイトルの『Reflection Overdrive』の“Reflection”とは異なり、「屈折」の意味を持つ“Refraction”という言葉が用いられています。この楽曲のテーマや、アルバムタイトルとは微妙に異なる曲名を付けた理由について教えてください。

三宅:歌詞を提供してくれた佐藤晋哉さんは映像作家でもあって、CRYSTALのミュージックビデオは全部彼の手によるものです。それでこの歌詞には、実は映像制作の用語がいろいろとちりばめられていて、その一つの「I. O. R」という言葉は「Index Of Refraction」の略で、曲のタイトルはそこから取りました。歌詞に登場する主人公も、ちょっと「屈折」した性格のようです。それと、アルバムタイトルに似た名前の曲が入っているような、こんがらがる感じが好きなんです。例えばGomezっていうバンド、ファーストアルバムのタイトルが「Bring It On」だけど、「Bring It On」というタイトルの曲が入っているのは2枚目のアルバム、みたいな、、、。

丸山:私は最後まで私自身がこんがらがっていました。

__昨年末にリリースされたEP『Ecco Funk』同様、今作のアートワークにもセガ・メガドライブのビデオゲーム「Ecco the Dolphin」へのオマージュが見て取れます。全体の質感に加えて、イルカやCDがとりわけ印象的ですが、今作のアートワークにはどのような背景があるのでしょうか?

三宅:まずCDに関しては、デビューEPの『Initiative!』のアートワークからことあるごとに使っています。EPで使った手でCDを持っている画像は、昔メンバーだった大西景太さんがネットで見つけたもので、ストックフォト用の素材だったのかも、、。忘れてしまいましたが、その画像を制作したカメラマンにコンタクトして、購入して使わせてもらいました。

丸山:EPはアナログリリースだったのですが、レコードのジャケットにCDを印刷したら面白いのではないかと。ファーストアルバム『Crystal Station 64』でもジャケットにはCDを使っています。こちらは大西さんと私が一緒に作ったイメージです。アルバムはCDでのリリースだったのですが、その時は中のCDの盤面に、CDの盤面の模様を印刷しました。そういう試みってほかにもあるのかな、、。

三宅:イルカに関しては、80年代から90年代ってイルカのイメージがポピュラーだったと思うのですが、そういうところがおもしろいな、と思っていたのと、佐藤さんやThundercatとプレイした「Ecco The Dolphin」、それと『JM』という映画に出てくるイルカのイメージが決定打になりました。

__「Ecco Funk」にThundercatが参加していることが、彼自身のInstagramの投稿で示唆されていますが、詳細を教えてください。

三宅:2016年にモントリオールで開催されたRed Bull Music Academyに参加したのですが、Thundercatもスタジオのチューターとして参加していました。彼に聴かせたデモの中でも、特にこの曲を気に入ってくれて、ベースを弾いてくれました。その後もツアーに呼んでくれたり、来日した時には一緒に東京の街を歩き回ったり、ホテルの部屋で一緒にテレビゲームをしたりしました。そのInstagramの映像を撮影していたときも、自分は横にいたのですが、あの曲これのバックで流していいかな、と聞かれて。こういう展開の映像になってるとは知らなかったんですが。

__今作では、「Disco na Koi」「Refraction Overdrive」をはじめとして、これまでの作品と比較して、より80年代におけるテクノ歌謡の雰囲気が強い楽曲が収録されています。このような楽曲を収録した理由について聞かせてください。

丸山:歌謡曲のような曲は、このアルバムの中では比較的最近制作したものです。家にいることが増えて、YouTubeで80年代の歌番組を見るのが楽しくて。CRYSTALは80年代ぽい音楽を発表してきたけれど「そういえばこういう歌謡曲テイストのものはなかったね」ということで挑戦してみました。

三宅:さっきもお話した佐藤さんがその当時同じアパートの別の棟に住んでいて、よく一緒にYouTubeを見たりしました。彼はもともと80年代のシティポップや歌謡曲が好きなので、「歌詞を書いてみたら?」っていう話をして。そこから盛り上がって形になっていきました。あと、最初のアルバムでも歌詞を書いてくれた文屋さんともイメージは共有していて、今回も「ディスコな恋」の歌詞を書いてくれました。

__9曲目「The Golden Disc」がたった10秒であるのに対し、最後に収録されている「Slow Universe」は10分を越える大作です。これらはゲームのリザルト画面やエンディングを意識した構成なのでしょうか?

三宅:  リザルト画面はさすがに意識してませんでしたね……。

丸山:「The Golden Disc」は、「Refraction Overdrive」と他の曲の繋がりをどうしたものかと思っていたときに、テレビ番組のジングルみたいなものを挟んだら、と思いつきました。

三宅:それでシーラ・Eのアルバム『Romance 1600』のオープニングみたいなものにしようということになって。「Slow Universe」は、アルバムの中では、ほかの曲より少しモダンなプロダクションになっていて、少しベースっぽいというか。「Ecco The Dolphin」はラストステージで突然宇宙に行ってしまうのですが、それはアルバムの全体の構成を考える上で参考にしたと言えばしました。もともとは海の中も宇宙空間も似てるなあ、ということで最後に宇宙のタイトルの曲を持ってきたのですが……。

__今作にも見られるような、テクノ歌謡、CDやイルカのモチーフ、古いビデオゲームなど、美術や音楽などにおいて、このような「過去」にフォーカスする流れが続いていますが、CRYSTALとしては、どのような視点でこのような「過去」を捉え、表現しているのでしょうか? 

三宅:過去のものにフォーカスするというのは、美術でも音楽でも、ずっとそうだったんじゃないですかね。60年代のサイケのポスターだって20年代のリバイバルだったし、サンプリングだってある意味そうですよね。過去の作品が、別の時代の感性とまた混ざりあって、新しいものが産まれたりしますし。あまり70年代の末から80年代の音楽を思春期のころ聴いてこなかった自分にとっては、そういった音楽を作ることがいつも挑戦というか、制作においてのよい刺激になっているように思います。

__最後に、今後のリリースや活動予定について教えてください。

三宅:まだ未完成の曲がたくさんあるので、仕上げてリリースしていきたいと思っています。前回のアルバムから今作まで、だいぶ間が空いてしまったので……。それと是非ライブをやりたいですね。もちろん今の状況が落ち着いたら、ですが。

丸山:以前のように、国内や海外でもライブをしたいな、と思っています。

Reflection Overdrive:
1. Disco na Koi
2. Phantom Gizmo
3. Taxi Hard (feat. Vincent Ruiz)
4. Northern Taurids
5. Ecco Funk (Album Version)
6. Solidary Sonar
7. TV Fuzz (feat. Julián Mayorga)
8. Kimi Wa Monster feat. Matias Aguayo (Album Version)
9. The Golden Disc
10. Refraction Overdrive
11. Slow Universe

インタビュー・文:浅井虎太朗、栗原玲乃、高島多希(UNCANNY, 青山学院大学総合文化政策学部)
編集:東海林修(UNCANNY)