INTERVIEWSNovember/02/2017

[Interview]Brodka – “CLASHES”

 ポーランド出身のSSW、Brodka(ブロトゥカ)。2003年にポーランドのオーディション番組で優勝したことがきっかけでデビューを果たし、これまでにポーランドのグラミー賞に当たるフレデリック賞に20部門以上ノミネートされ7部門受賞した経歴を持つなど、ポーランドでは常に高い評価を受けているアーティストのひとりだ。

 昨年、UKのレーベル〈Play It Again Sam〉よりリリースされた6年ぶりの新作『CLASHES』は、彼女が活動の拠点を海外に移した1枚目のアルバムであり、歌詞は全編英語で制作されている。

 今年10月、Brodkaは、東京・代官山にて初来日公演を開催。ヨーロッパの繊細さと近未来を想起させる独特の衣装に身をまとい、幻想的である一方、強固な意志を貫くような音楽性豊かなバンドサウンド、パフォーマンスを披露した。

 今回のインタビューでは、ポーランド国内でアーティストとして成功を収めた彼女が、新たに海外進出に至った理由や、自身の最新作となる『CLASHES』のコンセプトなどについて、話を聞くことができた。

__今回が初来日公演になりますが、日本の印象はいかがですか。

実は、2年前にプライベートで日本に来たことがあるんだけど、それから2年経ってライブをしに戻ってこれたのがすごく嬉しい。ずっと日本には戻ってきたかったし、特に日本料理が恋しかった。ポーランドには日本料理の選択肢が少ないから。前回日本に来た時、日本人のオープンさとか親切さとかが素晴らしいなと思っていたので、戻って来れて嬉しい。

__最新アルバム『CLASHES』は前作から6年ぶりのリリースとのことですが、6年という時間を要したのはどうしてでしょうか。

皆から結構、前作から6年空いたって言われることが多いんだけど、実はその間に1枚EPを出していて。前のアルバム『Granda』を出してから、そのツアーが3年続いた。それで、やっと自分の休みっていうのが始まったのが2013年の半ばくらいだった。実はその時から、次のアルバムの曲っていうのは作り始めていて。だから、曲を作り始めてリリースまでは2~3年かかったので、自分の中ではそんなに空いたっていう感じはしていないかな。

__これまで、母国ポーランドでは、フレデリック賞など数多くの賞を受賞されていますが、その時の心境などについて教えて下さい。

賞をもらうというのはとても素晴らしいことだといつも思うんだけど、賞とかをもらうことを期待したり信じすぎるのもよくないと思っていて。例えば賞をもらうために音楽を作るっていうのは違うと思っている。今回の『CLASHES』は、大部分を自分ひとりで作ったんだけど、作曲から何からひとりでやったので、やっぱりそういうアルバムはすごく自分にとって大きな意味があると思う。だから『CLASHES』に関して賞をもらったというのはすごく嬉しかった。

__『CLASHES』のアートワークは、日本の伝統的な衣装が印象的ですが、何か日本のカルチャーにインスパイアされたきっかけがあったのでしょうか。

2年前日本を旅行していた時、すでに『CLASHES』を制作中で、すごく日本でのステイにインスピレーションを受けた。そのあとに実は別の旅行でベルリンに行ったんだけど、そこでそのアートワークに使われている侍っぽい服を見つけて。それを見つけた瞬間に、これをアルバムのカバーに使いたいっていう風に思った。

すごく日本のスタイルにインスパイアされたのもあるし、あの服のちょっとこう垂れてる襟みたいなのが、教会で神父が着てる服に似てるなと思った。だから、日本の要素と、ポーランドの教会文化を融合できるような気がした。特に『CLASHES』は、教会のオルガンを結構アルバムに使ってるので、それを融合できると感じたから。

__『CLASHES』はUKのレーベル〈Play It Again Sam〉よりリリースされた最初の作品ということですが、同レーベルからのリリースの経緯について教えて下さい。

実は数年かけて、ポーランド国外のいろんなショーケースイベントに出演していた。イギリスとかアメリカのSXSWも含め、そういうのに出てたんだけど、そのおかげで、向こうからオファーを受けた。これは、ポーランドからメタルでもクラシック音楽でもなく、自分がやってるようなオルタナポップでそういうオファーを受けるっていうのはこれまでになかったことなので、それはとても嬉しいことだと思ってる。

数年かけて海外でのショーケースにたくさん出演したのも、海外での活動がしたかったので、そういうのを視野に入れてショーケースに出てたから、実際オファーをもらってからいろいろな条件を調整したり交渉したりするのに長い時間がかかったけど、そのおかげで海外のプロデューサーと仕事をしたりアルバムを作る予算も拡大したので、結果としてはすごく満足してる。

__では、なぜ海外での活動をしたいと思ったのでしょうか。

ファーストアルバムを出したのが2003年なので、10年以上かけてポーランドの国内中をツアーした。ポーランドの国中どこでも行ったし、それに加えて自分は旅行が好きだから、時間があれば海外旅行に行っていた。そのうち、国中ツアーしたのと同じくらい海外でもツアーをできるようになりたいと思うようになって。自分の音楽をポーランドの中だけにとどめたいとも思わなかったし、自分の音楽がいい音楽なのかポーランド人だけに気に入ってもらえる音楽なのか、言葉を超えて自分の音楽が受け入れられるかというのも興味があった。

__国外レーベルからのリリースにあたって作品の方向性に何か変化はありましたか。

『CLASHES』は自分にとって4枚目のアルバムなので、ワールドリリースとしては最初のアルバムだけれども、そのためのデビューアルバムというよりは自分のキャリアの中の続きの作品として作っていたので、そのために何かコンセプトを変えようというつもりはなかった。

ただ、国外に向けてリリースできる機会っていうのは自分をよりオープンにしてくれたし、こうしなきゃっていうのを取っ払ってくれた。世界にはすごくたくさんの種類の音楽があるわけだから、自分の頭から自然に出てくるものをもっと自由に表現できるいい機会だなと思った。

__特に、『CLASHES』は、これまでポーランドでリリースされた3作品とは違って、英語の歌詞ですが、英語で歌詞制作はいかがでしたか。

英語で歌う方が実は簡単に感じる。ただ、歌詞を書くことに関してはやっぱり普通の歌詞は書きたくなかった。ポーランド語で歌詞を書くときも、すごく詩的で抽象的な表現を選んでいたので、英語で歌詞を書くときも同じような表現にしたかった。だから、英語の本や詩集をたくさん読んだりして、気に入った言葉を拾い集めてそれで自分でコラージュみたいなものを作ってそれを元にした。

自分が曲を作るときに思いついたメロディーを録音するときに、これは自分の癖なんだけど、英語のフレーズで適当なメロディーを歌いながら録音するんだけど、それをやってるときに自然とそのときに出てきた言葉とかが曲のテーマになっちゃったりすることがよくあって。その曲のメロディーに出てきた単語に基づいて曲作りを膨らませていったりすることがよくある。

「Horses」という曲も最初に”horses”っていう言葉でメロディーを録音していて、後から曲作りを本格的にするときに、このサビは残した方がいいなと思ってそのままデモから残ったりとか。「Santa Muerte」っていう曲も死がテーマの曲なんだけど、そのときも死をテーマにする言葉が出てきてて、それを元にして歌詞や曲を作っていった。

__『CLASHES』というタイトルは「激しい衝突」「色の不釣り合い」を意味しているそうですが、アルバムのコンセプトについて改めて詳しく教えて下さい。

“CLASHES”というタイトルは、実は偶然生まれたもの。自分でも長い間どんなタイトルにしたらいいか考えていて、ずっとタイトルがなかったんだけど。マネージャーと電話でどんなタイトルがいいか話しているときに、自分がRの方の”CRASHES”がいいと思うって言ったら、マネージャーがLの”CLASHES”と聞き間違えて。それを聞いたときに、自分では思いつかなかったけど”CLASHES”っていう単語をちゃんと調べてみたら、アルバムにすごく合ってるなと思って。

その言葉はすごくコントラストがあって、対極的なものなので、アルバム自体もパンクな曲があったりドラマチックなものがあったり、詩的だったり、ダイナミックだったり、コントラストがすごくあるのでアルバムの構成をよく示すものとしてすごくよく合ってるなと思った。

歌詞に関しても、愛を歌っていたり、死を扱っていたり。自分の中の消えることのない情熱について歌っているものがあったりと、結構コントラストが大きいと思ったので、そのタイトルがまさにぴったりだった。

__先ほども少し話されましたが、「Santa Muerte」はメキシコの死の聖母を意味していますが、この楽曲の背景について詳しく聞かせてください。

アルバムを作ってるときにメキシコに旅行に行って、そこで死の受け入れ方が全く違うことに驚いた。メキシコでは、小さいときから死は別に怖いものでもトラウマのようなものでも悲しみにくれるものでもなくて、なんかもっとこうカラフルで自然に受けいれることのできるようなカルチャーで、それにすごく驚いた。それで、その曲のテーマに選んだ。

自分は、子供のときからすごく死を恐れていて、30歳になった今でも両親が死んじゃったらとか、飛行機に乗ってて「もし飛行機が落ちたら……」とかすごく死ぬことについて恐れを持ってる。だからいつも死を自分の身近に感じているんだけど、メキシコのそういう死の受け入れ方に出会って、自分もそうやって死を受け入れることを考えるようになって。そういうことをテーマにして曲にした。

__また、「Horses」はロサンゼルスのホームレスの人々のコミュニティにインスパイアされ制作されたそうですが、この曲についても詳しく教えて下さい。

「Horses」はアルバムの中でも一番抽象的な歌詞の曲なんだけど、まず馬の曲ではないです(笑)。

この曲は、ホームレスの人とか、社会のシステムから弾かれてしまったような人々からすごくインスピレーションを受けて書いた曲。

アメリカではかなりその傾向が強いと思うんだけど、人生で何か失敗をするとすぐに社会からはじき出されてしまう。だからLAの街で見かけたホームレスの人たちっていうのはただホームレスっていうだけではなくて、精神的な問題を抱えていたり薬物中毒だったりとかする。それと野生動物のようなイメージを少し重ねてみた。

そういう人たちがLAにはたくさんいて、それが強く印象に残った。自分のイメージとしてはLAの暗くて濡れた道路に迷っている人たちというか、そういうのをイメージしている。

__MVも公開されている「Funeral」は『CLASHES』のアルバム全体のアイデアを捉えているそうですが、MVの制作にあたってはどのようなアイデアの交換がありましたか?

この時は4つのMVをそれぞれ違う監督に撮ってもらうっていうプロジェクトがあって。その監督はポーランド人だったりそうじゃなかったりするんだけど。この「Funeral」の監督は、アムステルダムに住んでるフランス人の監督のKevin Brayなんだけど、彼の作品を前から気に入ってて、いつか一緒に仕事がしたいと思っていた。

「Up In The Hill」のMVを自分で監督したときに、最後の方に使う特殊効果みたいなところを誰かにやって欲しかったので、彼にヘルプを頼んだ。でもそれは部分的な参加だったので彼自身のクリエイティビティをもっと出してもらうためには別のときにまた是非仕事をしたいって思っていて。それで「Funeral」が実現したんだけど、その時はあまり時間がなかったので、彼がワルシャワに来て私の全身の写真を撮ってそれでアバターを作って、それであとは彼が自由に動かすっていうスタイルでMVを作った。

この曲のコンセプトは、恋愛関係の終わりっていうものをテーマにした曲で、自分の中では恋愛関係の終わりっていうのは葬儀に近いものだと思っている。その関係に感謝して、そのまま箱に閉じて土に埋めるっていうか、そういう死に近い別れの仕方っていう風に自分は捉えているから、この曲は、”Funeral”っていうタイトルになっている。

それを彼の解釈でああいう風に撮ってくれたんだけど、最後の方に燃えるシーンがあるんだけどそれで人の魂が燃えているような、何かの終わりを表現しているようにも見える。それは彼の解釈に任せたんだけど、すごく面白いと思った。とても変わってるMVなんだけど、コンピューターでアレンジを加えられた自分の姿を見るのも面白かった。

__その「Funeral」も含め、『CLASHES』収録曲のMVは、デビュー当時と比べてビジュアルなどがより前衛的になっている印象を受けました。

デビューした時は16歳だったんだけど、その時は自分が何をしたいかっていうのが完全にわかってたとは言えない。ファッションでいろいろ服を変えるように自分の興味も変わる時期でもあった。それにその当時のポーランドの音楽シーンも、それほど面白くなかった。すごくかっこいいMVがあったりとか監督とかがいたわけでもないし。

この15年でシーンも大きく成長して、予算とかも増えたし、そういった全体の変化もある中で、自分も成長していって、すごく映画とか芸術に大きな関心を持つようになった。その期間に写真も勉強したし、そういうのの流れで自分が表現したい方向っていうのが前よりもはっきりわかるようになった。

__今回の来日公演後はどのような予定が控えていますか。

今回の日本での来日ライブも、『CLASHES』のプロモーションのほとんど最後の段階なんだけど、この後は12月にポーランドでツアーがあって、その後長い休暇を取った後に次のアルバムの制作を始めたいなと思ってる。次のアルバムを作るためには、自分だけの時間を取りたいし、一度、いろいろなものから距離を置きたいと思っている。

CLASHES:
01. Mirror Mirror
02. Horses
03. Santa Muerte
04. Can’t Wait For War
05. Holy Holes
06. Haiti
07. Funeral
08. Up In The Hill
09. My Name Is Youth
10. Kyrie
11. Hamlet
12. Dreamstreamextreme

FOTO: DZIENIS

[UPDATE]オフィシャルのアーティスト写真を公開時のものから最新の写真に変更しました。(2017.11.2)

インタビュー・文:小林香織
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。インディ、ポップ、アメリカのカルチャーなどを担当。

通訳: 平井ナタリア恵美