- ARTICLESOctober/12/2017
[Interview]“ツァイトガイストを探して” Hachi[BALMUNG]× Junya Suzuki[chloma]× LLLL(Part.1)
序
僕は嫉妬しているんだと思う。時にラップトップのスクリーン越しに時にストリートで目を凝らすとうっすらとその時代の風を身にまとっているように見える彼らのことを。
探すと居なくなり、見えなくなったと思うとふと現れては人々を翻弄していく時代の風みたいなものを僕は昔から追い続けてきた。ドイツの哲学者ヘーゲルは、歴史は理性という機械仕掛けによって振り子のように進んでいく一つのメカニズムという形を説き、その時代精神のことをツァイトガイストと呼んだ。
僕にはその時代を推し進める巨大な機械にまたがり時代を牽引する人達がうっすらとこの風のようなものを身にまとっている様にみえてならない。
そして今回、2017年終盤から2018年にかけて僕が大切に思っているクリエイターの方々とこの歴史の風を探す会話をしてみたいと思った。これはその断片を紡いだものである。(LLLL, 2017)
LLLL:フォーエル……東京を拠点とするプロデューサー/音楽家 https://soundcloud.com/lllltokyo
Hachi[BALMUNG]……BALMUNGのファッションデザイナー http://www.balmung.jp
Junya Suzuki[chloma]……chlomaのファッションデザイナー http://www.chloma.com
chlomaとBALMUNG
LLLL: まずはお二人の自己紹介をお願いします。
Junya: えっと、何をしているかっていうと、僕はchlomaっていうファッションブランドを2010年からやっています。ブランドのコンセプトとしては、インターネットと人、テクノロジーと人、キャラクターと人の関係を考え、画面の中の世界とリアルの世界を境なく歩く現代人のためのファッションを提案する、そういうコンセプトを掲げているブランドです。実際どんな服を作っているかというと、最近は、ベースは機能系ファッションを信条とはしているのですが、強き人の機能じゃなくて、弱き人の機能みたいなのを作りたいなって僕は考えて作っているんですね。
機能系の服のジャンルでいうと、スポーツファッションとかアウトドアファッションとかあるんですけど、そうじゃなくって、僕は、テクノロジーとかも、足りない人のためのものであるべきだと思っていて。そういう、アスリートのための機能服じゃなくて、弱くて足りていない人が着る機能服みたいなものをやりたいなって思っていて。で、その感覚にカワイイとかを入れたりしているわけですね。その感覚と同時に、人間の感覚の拡張のバーチャルリアリティだったりとか、メカニカルなものへの憧れみたいなテイストをコレクションの中に入れたりだとか。そういう洋服を作る活動をしています。
Hachi: BALMUNGっていう服をやっているデザイナーです。主に2010年くらいから本格的にスタートしていて、そこがchlomaと同時期的というか。2010年にスタートして、僕の場合は、多分福岡出身で、田舎から東京に憧れていた若い頃みたいな自分の背景とかが強く影響しているせいか、東京っていうキーワードを色々服に落とし込んでいます。今もそれを続けていて。
その僕が言っている東京っていうのは、特に一時期は世界の「何でも」を消費していた東京っていうことでもありますし、日本的なものが未だに現代に対して続いている延長線であり、今後の未来をさらにそれが描いていくっていう、そういう意味での東京っていう言葉でもあります。ものすごくたくさんの要素とかたくさんの歴史がすごく複線的、複次元的に交差しまくっている東京の面白さというか。その面白さを多分自分は非常に表現したいんだな、という欲求で服を作っているっていう感じですね。
そういうものがあって、例えば灰色のスウェット、ドン・キホーテとかニコニコ動画とか郊外、そういうテンションも含めたような。まあ自分も郊外出身だったりするので、そこからの東京っていう、ダブルスタンンダード的な、どちらもミックスさせたような感覚のファッションなんじゃないかなと思いますね。
LLLL: お二人とは、ネットカルチャーを通じて出会って、一緒に仕事させてもらったことがあって、それがすごくいい体験になったので、今回こういう話になった時にもお呼びしたいっていうのはすごくありました。
インターネットの次に来るもの
LLLL: 今日の前提となるテーマのひとつなのですが、2017年、現在のインターネットについてはどう捉えていますか?
Junya: インターネットで一つになれそうな予感がした時代はあったと思います。世界が一つになれるとは思わないけど、SNSが流行る前には感じられなかった社会との一体感のようなものをみんなそれぞれ感じて、その可能性が広がっていって。そしてその後にその可能性が意外とそうでもなくて。繋がるところは繋がっちゃって、じゃあ次どうするみたいなのっていうのはあったと思うんですよね。僕とかLLLLさんが繋がれたのもSNSのおかげで、やっていることも全然違うのだけど、同時代性を感じることができて接続できた。じゃあ接続したあと、インターネットの共同体っていう幻想が実はそこまで素晴らしいものではなかった、いい面もあるけど負の面もあるとなった時に、それまであった夢を次はどこにセッティングするのか、ということなのかなと。
LLLL: 僕も同じようなこと考えていて、僕はミュージシャンなので音楽でいうとSoundCloudって音楽のプラットフォームができて、それにいろんな夢を託していた人はたくさんいたと思うんですよね。例えばメジャーとかインディーとか資本がなくても誰でも音楽が発信できて誰でも音楽を共有できるというような夢があったんです。
でも、例えばメジャーだと、価値基準が「どれだけ売れるか」「資本がどれだけ動くか」というところにあったんですけど、SoundCloudで全く新しい基準になったかといえばそうではなくて、例えば再生回数に価値基準が直接反映されてしまう。どれだけバイラルになるのかというところが結局インターネットミュージックの価値基準になっていて、それって結局大して違いがなかった。結局数字のゲームでしかなかったというか。
そして大きな数字を置いた人たちがメジャーとかの大きな資本の中に吸収されていくっていう現象も起きて、そうなっていった時にじゃあ何が違ったんだろうというような失望みたいなところで、追い打ちをかけるようにSoundCloud自体も会社が倒産しそうとなったときに、自分の周りの割と多くのクリエイターが「無くなるの楽しみですよね」「また仕切り直せるんですよね」みたいなことを言っていて。僕もそうだなって実際思ったし、だから期待したものに失望があってというのはあると思います。
インターネットとファッション
LLLL: インターネットとファッションの関係性について、CHANELのThe Fifth Senseというのがあるんですが、CHANELのショートフィルムです。
なんでこれを一緒に見たいと思ったかというと、これだけアブストラクトにいろいろ情報の多い動画だから、起源というか影響を一つに絞るのは難しいと思うんですけど、何よりもめちゃくちゃポスト・インターネットだなと思って。特にTumblrとか、そういう文化圏のビジュアルの影響をすごく感じたんですね。今インターネット的な美意識とかはどうファッションに関わっているのかと。
Junya: 正確かはわかりませんが、いわゆるヴェイパーウェイヴっていうジャンルだったり、インターネット系の音楽の流れの中の美意識と、ヴェイパーという霧と、ネットという手で掴めないけれど確実にそこにある感情を喚起させるものと、香水というものを重ね合わせた図なのかな、という感じを受けました。見ていて僕は、なんでヴェイパーウェイヴがインターネットらしいものと認識されるようになったのかというのは常々思うのだけど。
日本にいて鑑賞しているだけでは理解しきれないものなのかもしれないけれど、手に掴めない何かを掴もうとした結果、あのようになっているのかなというのはすごく思いますね。だからそこに「ヴェイパー」っていう言葉が付いているのは、ネットをヴェイパーと言うのも納得するところがあるし。
LLLL: 僕が興味を持ったのはインターネットが逆にファッションに影響を与えるとかそういうところです。例えば、アイデアを投げる場所であったインターネットが、こっちを見返してきている。それそのものが自我を持っていて相互作用になっているんだなと。
Hachi: そのアイデアを投げる場所としてのインターネットっていう捉え方が、もう前世代的かも知れないですね。
LLLL: なるほど。他にもいくつかあって、すごくメジャーなところだと、このNIKEの動画。
LLLL: このNIKEの動画はめちゃくちゃTumblr的なんですよ。このアーティストはFKA Twigsで、新世代のスーパースターシンガーのような感じです。これがNIKEだというのがすごいなと思うんです。すごくマイナーなブランドとかじゃなくて。adidasもあるんですけどほとんど同じ感じなんですよね。
それってよく起こる現象なんでしょうか。CHANEL、NIKE、adidasってもうこれ以上メジャーなところないだろってところが完全に色彩感とかが、タンブラーウェイヴって言ったらいいのかな。
Junya: さっきのCHANELの映像もadidasもTumblr的と言いながら、同時に非常に肉体的だよね。肉体的、官能的。
LLLL: NirvanaとSonic Youthがツアーした時に作ったドキュメンタリービデオで「The Year Punk Broke」というのがあるんですけど、意味的には「パンクがブレイクした年、始まった年」みたいな感じになるんですが、要は「アンダーグラウンドだったパンクが表層にブレイクしてきた」みたいなことです。僕としては、この3つの映像を見ていて、2017年で”The Year Internet Broke”みたいなのを感じて。ファッションとかを通してかもしれないですけど、インターネットが表層にすごく出てきたなと思って。そういった現象を、2017年の今、日本人の作り手としてどう思っているのかなと気になって。
Junya: 僕の実感としてもインターネットから肉体への回帰みたいな感覚はちょっとあるっていうか。さっきのNIKEとか、あるいはTumblr的というのはブランドのロゴであったり、視覚的に強いスポーツブランドのロゴやライン使い、画面映えするもので、情報的、記号的なロゴと、そういう記号的なものって情報を伝播しやすい。Tumblrとかでもシェアされやすい。昨今のスポーツブランドの大ブレイクもそういう真意性の高さ、情報の共有されやすさみたいなのがありつつ、だからインターネット的という認識にもなる、且つスポーツブランドだから肉体的に回帰したいっていうのはわかるんだけど、ヴェイパーウェイヴとかも色彩でヴェイパーウェイヴだとわかるパッと見の様式があり、そこに芳醇な香りを感じさせる五感に訴えかけるようなものがあって。
LLLL: 僕も肉体的、身体的というのは最近キーワードとして思っていて。音楽家として思うのはアナログ文化への回帰というのがすごくあるんですよ。例えばすごくマイナーなインターネットレーベルがカセットテープとかを大量に販売していたりするんですね。磁気テープというか、すごくアナログなんです。それだけじゃなくて例えば1997年くらいから2010年くらいまではデジタルシンセが主流だったんですよ。例えば有名な話でいうとMoogという会社があって、電気で使えるアナログシンセというのを作っているんですけど、2000年代くらいからとんでもなく安くなってしまって。何でかというと、もうデジタルシンセでいいじゃん、だからこういう古いものを使う必要ってあるのかということで、すごく安く手に入ったんですよ。でも、2017年になってそれがものすごく高い値段で取引されているんです。
いわゆる今AIだったりとかビッグデータだったりとか、一般的にとても肉体的なものとして感じられない情報がきている。多分、それに対する恐怖みたいなものがあると思うんです。それで、僕たちがまだ手に入れられるもの、実際に触れてイントラクトできるものとかに何か回帰しようとしているのかなというのは若干思っています。
Hachi: 恐怖であり、退屈なんだと思うんですけどね。
Junya: アナログ回帰っていうのも多分いろいろなことをするのにコストが下がったけど、プロセスを踏ませることによって、簡単に人が入ってこないことによる面白さの担保みたいなところもあるかもしれないし。
Hachi: さっきの映像を別の角度で見ると、90年代に一般の人とかのレベルでLouis VuittonとかCHANELを欲しがったりとか世界的に中流層が出てきて、そういう人たちがNIKEとかadidasを欲しがったりしている、ちょっと変化した第3の波みたいな。日本とかだとNIKEとかは安い部類に入るけれど、国や地域によっては、安いは安いけどちょっと高かったり、ポジションがいろいろあったりします。
そこで、Rick Owens(リック・オウエンス)だったりRaf Simons(ラフ・シモンズ)だったりがadidasのシューズとコラボしたりして彼らにファッションの流れをつくってもらいつつ、自分たちの作っているadidasのシューズでそれをもう少し簡単にしたバージョンを一般の人に販売してという中で、今の時代のLouis Vuittonが、NIKE、adidasである、みたいなものはあると思いますね。
Junya: 最近本当にスポーツブランドが流行っていて、Gosha Rubchinskiy(ゴーシャ・ラブチンスキー)というロシアのブランドが、普通にコレクションのルックの中でadidasのジャージとか出てくるんですよね。コラボレーションで。それが20歳前後のストリートの若い男の子に人気で、すごい普段着っぽいんですよ。ゴーシャのスタイルっていうのは、ロシアの若者の普通のスタイル。ロシア人は、adidasがすごい好きらしいんです。
かつて、DIOR HOMME(ディオールオム)が、ロックスタイルの若者の青春をコレクションで発表することによって流行らせたように、ゴーシャがロシアの若者のスタイルをコレクションで発表することによってモードとして再評価させるみたいな流れがあって。かつ、これも大ブレイクしているブランドなんだけど、VETEMENTS(ヴェトモン)というブランドがあって、18春夏コレクションが衝撃的で、本当にファミリーの普通のスタイル。街に普通にいるような人のような写真で。よく見ると凝った服だったりもするんだけど、世界のトップのところでショッピングモールで買えそうなスタイルを発表しているんですよね。ゴーシャもきっとロシアでは郊外の方のスタイルだと思うし。それをどう理解したものかなっていうところで。
LLLL: 実際どう理解しますか?
Junya: 例えば、VETEMENTSはファッション誌とかでもダイバーシティと言われているものなんだけど、多様性という言葉で括られることが多いですね。確かにダイバーシティは時代的なキーワードだと思っています。ほとんどの人がネットに参加することによって、一つになるのではなくて衝突のめんどくささの方が多くなってしまった時に、お互い認め合っていかなきゃいけないっていうのもあったんだろうなと思います。
LLLL: 僕はこのGoshaのスタイル、好きですね。これ見てふとギャングスタ・ラップを思い出しました。あれが一世を風靡した背景にはストリートの黒人文化の不良のカッコよさがあると思うんです。ドラッグを売ったりしてサヴァイヴしてきた人たちが、自分がいかに悪いのかということを訴えるんですけど、どこまでリアルに悪いのかっていう所を追求してそれがもてはやされたと思うんですね。50 Centとかはその完璧な例です。でも正直オバマが大統領になってアメリカの黒人文化は一つの区切りを迎えたと思うんですよね。やっぱり大統領というシンボルは大きな意味があると思います。
若者がファッションに求めるもののひとつは、反骨精神だと思うんですけど、黒人のスタイルって言っても大統領じゃんみたいな。でもロシアって次世代的な本物のワルって感じがしませんか? ロシアの不良って不気味な怖さがある。『VICE』で見た「肉を溶かすドラッグ」みたいなのを打ってゾンビ化したりとか。プーチン大統領の言葉にできない怖さみたいなところとか、正直今のアメリカの黒人のストリート文化よりも本当のサグ感があると思います。もしかしてそういう不良のカッコよさを代弁しているのかなって。
(Part.2につづく)
Main Visual by BALMUNG
構成: T_L
アシスタント: 加来愛美
1997年生まれ、福岡出身。青山学院大学総合文化政策学部在籍。音楽藝術研究部に所属。