INTERVIEWSSeptember/15/2017

[Interview]Chino Amobi – “PARADISO”

 かつて、ディック・ヘブディジは、サブカルチャーについて、「サブカルチャーが表現するのは、結局、権力側の人びとと、従属地位や二級市民の地位しか与えられていない人びととの間の、本質的な緊迫状態である」と指摘した(1)。ヘブディジは、さらにアルチュセールの言葉を借りて、「歯をくいしばっている調和」の裏返しにあるものが、サブカルチャーであり、それを「支配イデオロギーに対して経験された否定と反対がスタイルとして間接的に表される」ものと理解できると述べている。

 アフリカにルーツをもつアーティストたちによるコレクティヴ/レーベルとして、2016年から活動を開始している〈NON〉。その創設者のひとり、Chino Amobiが、今年5月に〈NON / UNO〉から最新アルバム『PARADISO』をリリースした。さらに、昨年リリースされたアルバム『Airport Music For Black People』が今年4月に国内リリースされ、続く今夏7月には、WWW Lounge(現WWWβ)にて初来日公演が開催されている。

 以降も、Chino Amobiは、音楽を中心に様々な形態で明確なメッセージを内包した作品を発表し続けている。多様性を受け入れる社会へと向かっていたはずが、さらに深い分断へと反転し進んでいく世界の現状−−それらを暴力的な音像で映し出すChino Amobiの作品群は、正に「歯をくいしばっている調和」の裏返しとして、有りの儘の現実を暴露するかの様である。

 本サイトでは、来日直後、Chino Amobiへメールインタビューを行った。以下は、その回答となる。


__〈NON〉が世に出るきっかけとなったイベントなどを教えてください。

ニューヨークのニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アートで開催されたイベントがヨーロッパ、アフリカから来た私たちが世に出る大きな助けとなった。そして、私たちのメッセージを広める上でレッドブルのイベントがローカルな意味でも、グローバルな意味でも役に立った。ロンドンでの文化交流会もとてもうまくいったし、ベルリンの劇場で行った「The Great Disappointment」のパフォーマンスも、今までにないことができたと思っている。私たちは洋服も作ってるんだけど、上海で開催したポップアップは素晴らしかったよ。

__〈NON〉のコンセプトに、アフリカン・ディアスポラについての記述がありました。かつてマルコムXは分離主義を提唱し、その後期、アフリカや中東に渡った後は、世界の有色人種の連帯を呼びかける活動をしていました。その時代と比較した上で、現代のアフリカン・ディアスポラ的な連帯はどのような意味を持つと考えていますか。

私たちのやろうとしていることは、かつて彼らが世界中の有色人種の連帯の象徴になろうとしていたという点で一致している。時代は変わっても、伝えたいメッセージは変わらない。

__『Airport Music For Black People』は、ブライアン・イーノの代表的なアンビエント作品『Ambient 1: Music For Airports』に呼応した作品と捉えることができます。コンセプトの面における最も大きな違いは何でしょうか。

『Airport Music For Black People』は、ブライアン・イーノの作品よりもより暴力的であり、かつ社会的に無視されているような経験にさらに包括的に取り組んでいる。

__最新アルバム『PARADISO』のコンセプトを教えてください。プレスリリースには、「歪められたアメリカのミュージカル・セット」とありましたが、〈NON〉からリリースされた作品として、伝えたかったメッセージはどのようなものでしょうか。

私はこの作品で、設計図となるフィクションを描き出したかった。そして、これを〈NON〉の公式のヒストリーとなるものにしたかったんだ。この作品は、場所や時間といったものを超越しつつ、それでもある場所と時間に位置をとらざるをえない、”Paradiso”(イタリア語で天国を意味する言葉)という世界観についてのジャーナリストの記述なんだ。アメリカ南部の伝統を祝福し、同時にグローバルな意味での南部をも賞賛するような、ね。

__Elysia Cramptonをはじめ、Rabit、Nkisi、Dutch E Germ、Haleek Maulなど、数多くのアーティストがアルバムに参加しているとのことですが、今作では、共作することそのものにも何らかの意図があったのでしょうか。

彼らは私の心にとても近く寄り添ってくれるアーティストたちであり、私の作品における横断的個体(超個体化)というアイデアを実現してくれる。彼らは、”NON-Space”という多様性を表現しているんだ。

__アルバムには、「LAW」というタイトルがⅠからⅢまで、3つありますが、それぞれどのような意味を持つのでしょうか。

それらの楽曲は、国家の核心部分である法律や法令だけではなく、アメリカの持つ法的システムに関連しているものとして、”LAW”と名付けられた。

__『PARADISO』のジャケットは、何をモチーフにしたもので、どのようなメッセージがあるのでしょうか。

ジャケットにある十字は、戦時中に負傷した兵士の治療にあたる衛生兵を表している。つまり赤十字だよ。十字はキリストの象徴でもあるし、彼の血の象徴でもある。上のIDは、「Paradiso」の世界を旅する私の身分証明書なんだ。

__〈The Vinyl Factory〉からリリースされた『minor matter』から、「Hard Stacatto (feat. Embaci)」のミュージックビデオが公開されています。映像は、ベルリンのアーティストMartha Glennが手がけていますが、この映像のテーマを教えてください。

このミュージックビデオは、Martha Glennによって全て作られていて、ベルリンで実演された「The Great Disappointment」の映像が使われている。この映像に関しては、彼女がクリエイティブの面のすべてを担っている。

__最後に、〈NON〉というレーベルの運営、音楽、デザイン、インスタレーションなどそれら多岐にわたる創作活動の動機になっているものを改めて教えてください。

Global Domination(世界的支配)だよ。

PARADISO:
01. Law I (The City in the Sea)
02. Gænova
03. Blood of The Covenant
04. Negative Fire III
05. The Failed Sons and Daughters of Fantasia
06. Blackout
07. Antikeimenon
08. Nkisi
09. Eigengrau (Children of Hell II)
10. Law II (Demolition)
11. Polizei
12. White Mætel
13. Radical Zero
14. Paradiso
15. Law III (Adam)
16. The Floating World pt. 1
17. The Floating World pt. 2
18. Dixie Shrine
19. Kollaps
20. End (The City in the Sea)

Airport Music For Black People:
01. LONDON
02. LONDON II
03. MALMO
04. MILAN
05. WARSZAWA
06. BERLIN
07. ROTTERDAM
08. ROMA

参考文献:
(1)ディック・ヘブディジ『サブカルチャー スタイルの意味するもの』山口淑子訳(未來社, 1986/1979)

インタビュー・文:T_L

翻訳:志田麻緒
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。和声やソルフェージュ、楽典などを学びながら幅広いジャンルの音楽を楽しむ。