INTERVIEWSAugust/05/2017

[Interview]Anthem・MALTINE SEED BOX・GOODWEATHER×異レギュラー (Part.1)

 8月10日、大型イベント「Anthem」が新木場ageHaにて開催される。名古屋MAGOで始まったこのイベントは、2012年からの3年間で全5回行われ、その魅力的なラインナップと、オーガナイザーの八木氏のただならぬ熱意により、地方開催イベントにも関わらず県外からも人が押し寄せた一時期の若手音楽カルチャーを代表する伝説のパーティーだ。2014年に惜しまれながらも最終回を迎えたが、パーティーへのストイックな探究心は、それ以降のパーティーのあり方に大きな影響を与えた。

 そんな「Anthem」が3年ぶりに復活を遂げる。今回は、〈Maltine Records〉が2017年頭より開始した新規イベント「MALTINE SEED BOX」、そして名古屋から新たな文化を発信し続ける2つのパーティー「GOODWEATHER」「異レギュラー」をageHaの各フロアに召集し、「3パーティー同時開催」のコンセプトの元に、現在最も刺激的な音楽カルチャーがぶつかり合う。

 今回は、「Anthem」オーガナイザーである八木氏、そして、当日も「Maltine Seed Box」フロアを運営する〈Maltine Records〉の主宰tomad氏を含めた鼎談を企画した。「Anthem」を続ける理由や、八木氏のパーティーに対する想いを、前後編に分けてたっぷりお伝えしたい。

八木靖洋(「Anthem」オーガナイザー) × tomad(Maltine Records主宰)

__最初の「Anthem」はいつ頃からはじめられたのですか。

八木: 始まったのが5年前の夏(2012年)で、終わったのが3年前の夏(2014年)。初回「Anthem」の前のゴールデンウィークに「マルチネ就職説明会」が開催されていて、集客とかに悩んでいるという話をtomadくんにその時に話したんだ。その時、仮谷せいらちゃんが「水星」のPVの撮影の後で就職説明会に遊びに来ていて、僕がtofubeatsのLIVEのMCの仮谷せいらちゃんへの質問コーナーで「Anthemというのを名古屋でやるので出てくれませんか」ってお願いしたら、tofubeatsから「そういうのはマネージャー通してからにしてください」と返事をもらって。それで終わってから「名古屋でイベントをやっていてtofubeatsが出るのでその時に一緒に出てくれませんか」と話した、ということがあったりして。結構あそこは出会いの場で、(イベントで)Madmaidとかに初めて会ったのはすごく大きかったし、名古屋に住んでいたというのもあって大阪には行きやすかったから、okadadaとか5364さんとかそこらへんとは仲が良かったけど東京の人とは接点が実際あんまりなくて。

__「Anthem」以前に、MOGRAでのイベント(「Substance」)を開催していましたよね。

八木: 元々は名古屋でやっていたんだけど反応がなくて、Zwei RaketenのYOSHIKIとかから「東京でやったらめっちゃ人入りますよ」って言われて、じゃ東京で1回やってみようかって話をしてMOGRAを借りたんだけど、(集客は)結局80人くらいだったかな。

__当時で考えると、結構集客出来ている方だと思いました。

八木: そうですね。今考えるとそんなもんだろうなっていうのはすごく感じるけど、当時はまだ全然わかってなかったし、今はみんな自分に話しかけてくれるけれど、昔は東京では知り合いがそれほどいなくて。ギリギリMOGRA周り、D-YAMAとか昔アニソンイベントをやっていた時の流れで仲良くなった人とは仲がいいけど、別にネットレーベルの人たちとはそこまで関わりがあったわけじゃないから。だからこのメンツで僕たちがやるのと、もしtomadが似たようなメンツでやったら、集客は倍くらい違ったのかなというのはやっぱりあって。人としてのコンテンツ力が全然なかった。今も別にあるわけじゃないけど、今よりさらになかったから諦めて、集客とか気にせず「Anthem」をやろう、って。

__では「Substance」との明確なコンセプトの違いがあったのですね。

八木: 「Substance」は(チャーリーと)2人でやっていたから、割り勘だったけど、チャーリーはその時学生だったし、全部自分でブッキングしたかったし、どうせ赤字になるってわかっていて、人を巻き込めなかった。だから赤字ありきで1回だけやろう、っていうのが結局5回やっちゃったっていうやつだから。自分の好きな場所で、自分の好きな人だけ呼んで1回やろう、っていうのでMAGOは音がすごいいいクラブだから、みんな呼んでパーティーができたらいいよね、と始めたのが「Anthem」でした。でもその頃はMaltineイベントとウチぐらいかな。これだけ出演者がごちゃごちゃしていたのは。

tomad: そもそもマルチネのイベントにしか〈Maltine Records〉の人は出ていなかったみたいなイメージはあるよね。

__その時のマルチネイベントはどんなものがありましたっけ。

tomad: カブチネ(歌舞伎町マルチネフューチャーパーク)とか。大ネットレーベル祭が「Anthem」の2回目よりちょっと前くらいですかね。

八木: 2012年の8月に「Anthem」1回目で2013年の2月にDancinthruthenightsとSugar’s Campaignとやったのがあって。「大ネットレーベル祭」の時の国士無双の音源を聴いてすぐオファーしたのが3回目の「Anthem」。

__1年に大体2回ずつくらいペースで開催されていますね。その頃からずっと見ていましたけど、名古屋で大きなイベントがあるみたいな感じでどんどん盛り上がっていったのが大体2013年ぐらいとかですよね。

八木: ちょうどその時、「Anthem」がたくさん出演者を呼んでいたというのもあるんだけど、みんなで地方に旅行がてら遊びに行こうみたいな流れが結構あって。ちょうど「Anthem」的には美味しい時期だったっていう。今は結構地方にみんなで遊びに行くみたいな流れが落ち着いてきて。年齢が年齢だからみんな仕事し始めたりとか。

__「やっぱりAnthemでしょ」って言って来てくれる人がいたんですね。

八木: そういう人も結構いてくれたんだけど「Anthem」は全部赤字で、でも、自分の中でのクリアラインはお金で決めてなくてパーティーとして形になるくらいお客さんが入ったらOKで。

__一番入ったのはいつですか。

八木: オノマトペ大臣のラストLIVEの時は350人くらい。それはMAGOが満員だった。あの時は完全にタイミングが良かったG.RINAさんも出演してくれていましたし。

__そんなに集客があっても赤字なんですか。

八木: その時はちょい赤字くらいだね。その時ちょうどtofubeatsがメジャーデビューしたタイミングで森高千里さんにもオファーを出していて。「大きなイベントとかでtofubeatsと森高千里さんが一緒になることはあるかもしれないけれど、森高さんとtofubeatsが一緒に並んでいるのを一番見たいのはAnthemに来る人だから」、とFAXで出演依頼をして。結局それはダメだったんだけど、そういうオファーがあったっていうのが森高さんのレコード会社からtofubeatsのレコード会社にも話がいって、「こういう熱いファックスを送ってくれる人がいて、tofubeatsさんすごいね」ってなったらしいです(笑)。

__そして、「Anthem」は2014年夏に一旦の最終回を迎えることになりましたね。

八木: それは、結婚をそろそろしようかなというのがあって。本当はオノマトペ大臣のラストLIVEの時の冬の「Anthem」で終わるのが1番綺麗なのかなって思っていたのですが、「いやもう一回やろうよ」と5364さんとかが言ってくれて、「じゃあ夏やりましょうよ」ってなったので、結局夏が最後になりました。

__「Anthem」には、その当時にあまりないストイックさがあって、今一番かっこいいことやっているなという印象はその時からずっとありました。

八木: D-YAMAを最終回に呼んだのも、その年のMOGRAの年越しの時のカウントダウンに、少し時間があるから行こうかなと思って遊びに行って、本当に楽しくて。それでそのイベントの最後に「今日は本当に楽しいイベントをありがとうね」と言ったら、「いやぁ MOGRA最高でしょ?」とD-YAMAが言って、その瞬間D-YAMAのことが大好きになって、「この人は次Anthemに呼ぼう」と思いました。

D-YAMAもあれだけMOGRA周りの人が呼ばれているのに、自分が呼ばれていないというのはすごく悔しかったと思っててくれたらしくて。「だからオファーが来た時本当に嬉しかった」と言ってくれて。あまりそういう「Anthem」に出たいみたいな声は気にしていなかったけれど、そう思ってくれている人っているんだなと感じました。

__そういう意味でもいいイベントだったと思うので今回の復活は本当に楽しみです。今回はMaltineと「GOODWEATHER」、「異レギュラー」が各フロアに入ってイベントを構成しますが、そういったメンバーはどういう風に決めていきましたか。

八木: 単純に、一番遊びに行っていたイベントですね。Maltineイベントは、静岡に住んでいると、なかなか行けないというのがあって。でもやっぱり行きたいなって思える。「マルチネ就職説明会」は1番影響を受けたし、tomadがやっていることは大体全部楽しいことだろうなっていうのは思えるから、まあMaltineには絶対お願いしようとって思って。Waterフロアは本当はMOGRAにおまかせするつもりだったけど実現できなかったので、MOGRAに所縁のあるアーティスト中心に、あと「Anthem」のメインの方に呼べなかった人も交ぜながら自分で組みました。

__「GOODWEATHER」と「異レギュラー」はどうでしょうか。

八木: 「Anthem」も「Substance」もやっていたのが名古屋だったからちょうどほぼ同時期に「異レギュラー」ができて、結構似ていて非になるというか。「Anthem」は「Anthem」だし、「異レギュラー」は「異レギュラー」という、狙ったわけではないけれどちゃんと棲みわけができていて、僕は名古屋でなんか自分たちの近いとこでやってるイベントに中指立てがちだったんですけど、「異レギュラー」は全然嫌じゃなかった。「異レギュラー」はとてもよく遊びに行っていたし、「GOODWEATHER」は歴史が長いけど、それでいてずっと名古屋でああいうことをやっていた人で、やっぱりERIさんはやばいっていう。俺の道楽とはちょっと違う本気さがあって、やっぱあれは真似できない。すごく尊敬する部分が大きすぎるし、「GOODWEATHER」もめちゃくちゃ遊びに行っていたイベントだから。

__「Anthem」に縁のあるメンバーがメインではありますが、一人ひとりの能力が上がってきているのもあって、今ageHaでこういうイベントが開催されるのは本当に良いタイミングだ、と思いました。

八木: それはSeihoさんとも話していて、今年のこのタイミングしかなかった。これで完璧。みんな東京に集まってきて、多分今それぞれ見る方向が違って、準備期間という感じがしている。東京に来る人は来てちゃんと自分が見るべき方向を見て、次どこに行くのかわかってきてると思うんですよ。多分来年はみんなそれぞれどこかへ行くのだと思う。この準備期間だから集まれた。今回「Anthem」以外のBOXとISLANDのブッキングはすべてお任せしてたんだけど、全体で見てもブッキングが叶わなかったのはMaltineのアリムラくらいかな。

__tomadさんとしては、今回のイベントについてはどう考えていますか。

tomad: いろいろあるけれど、せっかくやるんだったら(BOXに)若いアーティストを呼ぼうっていうというのがあって。

__BOXのフロア名にもなっている「Maltine Seed」は今年の1月から開催されたイベントですね。

tomad: その流れをやった方がいいかな、みたいな。tofubeats単体でMaltineのブースに出ることもできるわけじゃないですか。でもそれをあえてやらないようにしようと思って。かつDJ WILDPARTY、okadada単体で出てもいいしというのもあったけれど、それをやめて、トラックメイカー、曲を作っている人重視でやった方が、このメンツの中だとマルチネらしさが出ていいんじゃないかなと。あと演出方面とかもずっとやっていた渋家・huezチームを入れて、まだ詳細は決まっていないのですけど、BOXに入ったら別の世界みたいな感じでやろうかなというのがあって。BOXで孤立しているかもしれない。

八木: でも、プレスリリースとかにも「3パーティー同時開催」っていうのを書いていて。フェスじゃないってのはすごく思ってて。僕室内フェスっていう言葉はすごく嫌いで。フェスがクラブイベントより上位みたいな感覚がなんかムカつく(笑)。

tomad: ageHaだとそういうノリになるのが多いから。

八木: そう。「Anthem」側ですらWaterとArenaのタイムテーブルの兼ね合いは一切考えていなくて、タイムテーブルを組みながら出演者を決めたからそれで完結しているし。頭からケツまで、1フロアにいてほしいし、でもそれが「Anthem」のフロアじゃなくてもいいって言えるぐらい信頼があるからこそ、「Maltine」と「GOODWEATHER」、「異レギュラー」に任せている。けど、内心はうちが1番イケてるからWaterかArenaにいればいいよと俺は思っているし、そのくらい言わないと「Anthem」に出演してくれる人に失礼。

お客さんってギリギリまで行くパーティーを選べるけど、出演者は1回OKしてしまうと、例えば同日にフジロックから出演依頼が来たとしても、こっちの出演が先に入っていればそれをOKできない。僕レベルのオーガナイザーってなんでもなくて、何もできなくて、僕が何回自分のパーティーに呼ぼうがその出演者は売れないし、ただの連絡係だから、せめてその日だけは楽しくしていないといけなくて。だからそのくらいの気持ちで出演者を楽しみにさせないといけないし、当日はどこよりも最高のパーティーにしないといけない。

__本気のぶつかり合いですね。そしてお客さんが楽しみたいように楽しめばいいというか。でも、楽しみたい以上の心意気が無いとこの規模のパーティーは実現できない気がします。

八木: 僕が「飲もうよ」って言っても多分このメンツは集まらないから、みんなで遊ぶためにはパーティーをするしかない。究極を言うと、みんなで磯丸水産貸し切って、みんなで飲んで、話して、ってできたら、それはそれで僕的には大満足なんです。でも無理だからageHaでやるっていう。パーティーをやらないとみんなで遊べなくなってる。僕はオファーという形でその人の時間を買わないと無理なんだ。自分が呼んでお金を出して、っていうところにかなり意義がある。そうしないと、みんなの予定を合わせられないでしょ。忙しいし。

tomad: Maltineのイベントですら大変。半年、1年前ぐらいから調整している。

八木: 結局全出演者見れないじゃん、どう考えたって。だから値段もそれなりに安いし。(値段が)1パーティー分っていったら1パーティー分だよね。それだったら無理してそんな動く必要もないしね。みんなで遊ぶためにはこれしかなかった。

__「最適解としてのageHa」なんですね。

Part.2につづく)

◼︎公演情報
Anthem ・ MALTINE SEED BOX ・ GOODWEATHER×異レギュラー
日程: 2017年8月10日(木)
時間: OPEN 23:00 CLOSE 6:00
会場: ageHa ( http://www.ageha.com/ )
料金: 当日 4000yen / 前売3500yen / EP付前売 4200yen(税込 / オールスタンディング)

出演者:
Anthem(ARENA)
dancinthruthenights (okadada × tofubeats) / Sugar’s Campaign / HyperJuice × Pa’s Lam System / DJ WILDPARTY B2B KAN TAKAHIKO / 国士無双 / PICNIC WOMEN × KEITA KAWAKAMI / USK / iserobin / ディスク百合おん / チャーリー / Naohiro Yako / VIDEOBOY / ホンマカズキ

Anthem(WATER)
fu_mou / D-YAMA / BUDDHAHOUSE / VIBES MAFIA / 化級生 × 5364 / chefoba / melo / kei。

MALTINE SEED BOX(BOX)
Lolica Tonica / Miii / PARKGOLF / Tomggg / yuigot / パソコン音楽クラブ / 三毛猫ホームレス + lulu / 長谷川白紙

GOODWEATHER×異レギュラー(ISLAND)
PART2STYLE / CRZKNY / OVe-NaXx / DEKISHI & 粗悪ビーツ / TECHNOMAN feat. HAZY / madmaid / TOTETS PTRN / VΔR$VS / Dayzero & Karnage

Link: Anthem特設サイト

インタビュー・文: 和田瑞生
1992年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒。UNCANNY編集部所属(非常勤)。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。SWITCH特別編集号『Maltine Book』(2015)共同編集、「ポコラヂ」PA/エンジニアリングなど。

アシスタント: 加来愛美
1997年生まれ、福岡出身。青山学院大学総合文化政策学部在籍。音楽藝術研究部に所属。