INTERVIEWSJune/16/2017

[Interview]The Drums − ”Abysmal Thoughts”

 ブルックリンを拠点とする音楽家、Jonathan Pierce(ジョニー・ピアース)によるソロ・プロジェクト、The Drums。本作『”Abysmal Thoughts”』は、その4作目のスタジオ・アルバムとなる。

 本作は、長年の友人であり、最後のバンドメンバーであったJacob Grahamの脱退、私生活においても、配偶者との離婚といった極めて特殊な状況下で制作されている。Pierceは現在、自身が同性愛者であることを公言しているが、かつては自身の性的指向を公にすることはなかったという。昨年のアメリカの大統領選から見えてきたように、あらゆる社会的マイノリティに対する差別や偏見は、結局今も根強く残っている。

 The Drumsの楽曲は、生への強い欲動を感じさせながらも、その陰には繊細さや悲嘆が共存している。煌びやかなメロディとは対称的に、リリックは全編に渡りPierceのパーソナルな感傷が綴られている。全12曲を収録した本作『”Abysmal Thoughts”』はどのようなプロセスを経て完成に至ったのか。Pierceは制作当時の、そして現在の自身の心境を率直に語ってくれている。

__本作の制作時期に、バンドメンバーの脱退や配偶者との別れがあったと聞きました。どのような心境でアルバムの制作に向かったのでしょうか。

正直言って、とても暗い場所にいたよ。僕の夫と僕は遠くへ遠くへと離れていったんだ。ずっと前から、彼こそが自分にとってのパートナーだと確信していたんだ。僕は、彼が自分の人生の中で永遠に愛する存在になるだろうと固く信じていた。でも、そうはならずに終わってしまった。

最終的に僕たちが別れた時、僕は本当に混乱した場所に陥った。僕は、本当に孤独を感じて、自分自身のアイデンティティーや運命について困惑し、あらゆるものすべてに疑問を持つようになってしまったんだ。

夫と別れてから数ヶ月後、僕の長年にわたるバンドメンバーのJacobからメールが届いた。彼は、彼の人生において、別のパッションを追い求めたい、そしてバンドのメンバーでいることは彼にとってもう楽しいものではないと伝えてきたんだ。僕は彼にとって実際もうバンドは楽しいものではないと思っていた。

ほとんどの人は、僕の人生において不安定な状況の中、Jacobが離れてしまったことは、僕にとって辛い出来事だったと思うようだけど、正直に言えば、僕は個としての強さと癒しが必要だと感じ始めた段階だったと思う。

僕が欲しいと思うそのものにこのアルバムをキュレーションできることは、僕にとって本当にエキサイティングなことだった。僕は美しい曲を書き始め、それは自分自身を取り戻すのに役に立った。究極的には、それらの曲を書くことで、僕は暗い場所から抜け出すことができたと思っている。それはまるでセラピーのようで、もし、Jacobがまだバンドのメンバーだったら起きなかったことだと思うんだ。

__「”Abysmal Thoughts”」というアルバム・タイトルをつけた理由を教えてください。なぜ、「Abysmal(底なし)」という言葉を選択したのでしょうか。

その言葉は本当に、このアルバムをつくっている間に僕がどのように感じていたかを要約しているんだ。そのとき僕は、間違いなく人生の中で最も暗い日々の中にいたと思う。

僕に会った友人たちは、たぶん僕のことを大丈夫だろうと思っていたようだけど、僕は本当に “Under The Ice”(氷の下)にいたんだ。僕は人と連絡することができなかったし、とても孤独に感じていた。僕は積み上げてきた関係を壊すことは、本当に愚かだとも感じていた。このアルバムの前のアルバムは、商業的にあまりうまくいかなかったし、僕がすることをまだ気にかけている人がいるのかわからなかった。ありがたいことに、みんながまだ僕を気にかけてくれていて、僕はそれを今まさに実感している。

__悲哀を含んだリリックとは対称的に、全体の曲調は悲哀を含みながらも前向きなものに聴こえます。どのような意図で作曲やアレンジを行ったのでしょうか。

そうだね、本当のことを言えば、僕はスタジオに座って「ジョニー、今日はアップリフティングなサウンドの悲しい曲を書くぞ」と言ったようなことは一度もないんだ。ただ自然に起こっていることなんだよ。

正直に言うと、「Let’s Go Surfing」とか「Blood Under My Belt」のような曲でさえ、僕にとっては悲しい曲に聴こえる。音楽は僕にとって悲しく聴こえるものなんだ。僕にとって人生は全て繊細なもの。「幸せ」の中にも、微妙なニュアンスがある。それらのニュアンスのひとつが、悲しみ。なぜなら、幸せはいつも消えてしまうから。悲しみはいつもその周りにくっついているようなものなんだ。僕たちはその感情に慣れている。

__「Mirror」の歌詞は、自分自身に問いを投げかける内容です。アルバムのオープニング・トラックでもありますが、本作におけるテーマのひとつと捉えて良いのでしょうか。

「Mirror」と「Under The Ice」は、僕がこのアルバムの中でわかってもらいたいポイントを完璧に要約している曲だと思っている。いいかい、僕は今30代で、僕が人生への答えを持っていないことを自分自身や他人が認めることは問題もないし、それは健全でさえあると確信したんだ。

僕は、成長し学ぼうとしているけど、僕の人生の癒しと理解はとてもゆっくりとやってくる。つまり、正直に言えば、僕らが生きているということには、重要な核心があるとは思わないんだ。僕は、死というものに恐れるから生きているけど、なぜ僕らがここにいるのかはわからない。だから、僕にとってするべきことの最善なことは、日々をより良い人間になれるようにフォーカスすること。他者が必要としていることにフォーカスすることは、自分自身を構築し、人生をより”価値のあるもの”にするような方法なんだ。つまりこのアルバムは、内側に目を向けたものであって、外に目を向けたものじゃないんだ。

__「Blood Under My Belt」のMVに出てくる、鉱物、電球、ボールなどは何かのメタファーなのでしょうか。

「The Blood Under My Belt」のビデオは、実際僕のパーソナルなビジュアルのフェティッシュの世界を見せるチャンスだった。かつては、Jacobがビジュアル面をコントロールしていたから、この新作では、僕が愛するものを提示することができた。色や、姿形や、アスレティシズムや光とかね。

__「Head Of The Horse」では、LGBTQに反対の立場であったプロテスタントの両親との関係についての曲とのことですが、とても繊細な内容です。今回、このような曲をなぜ書こうと思ったのでしょうか。

僕は、説明しなければいけない誰かもいないような、完全に一人きりでこのアルバムをつくっていて、孤独だったので、制作においては、かなりパーソナルになる機会を得た。僕は、自分がどのように感じているかを正確に言うことができたし、他の誰かに合わせる心配がなかった。

一旦自分自身を傷つきやすいものだと決めてしまうと、歌が自然に僕の中から流れ始めたんだ。僕は、こんな率直な方法で僕の子どもの頃を話したことは一度もなかったから、そうできてしまうことに身震いしたよ。僕はまったく恐れることはなかった。それは僕の唯一の選択だったから。僕は歳をとるにつれて、真実が何よりも大事だとわかった。僕は、ただ正直でいたいだけなんだ。

__「Rich Kids」は、とてもリアルな描写ですが、実際に体験したことなのでしょうか。

「Rich Kids」は、このアルバムの中では、”政治的な”ものに一番近い曲になる。アメリカに存在する貧富を並列に提示した曲なんだ。大抵、アメリカの金持ちのキッズは、とても利己的で他人のために何かをしようとしない。彼らは投票もしないし、投票したとしても、どちらの候補者が自分のポケットにお金をキープしてくれるのかということしか考えない。貧乏なキッズたちも利己的であると言えるけど、少なくとも彼らには、マシな言い訳がある! 彼らはただ生き延びるためにそうしているんだ! 僕はブルーカラーの生活を愛している。僕は、それはとても美しいと思う。はるかに多くの質感をもっている。僕はそれがセクシーだと思うんだ。

__最後に収録されたタイトル・トラックでもある「Abysmal Thoughts」では、「愛する者との別れ」のように、感情の深い部分について歌っています。「愛する者との別れ」について、あなたはどのように捉えていますか。

僕はこの質問を十分には理解できていないけど、僕の目的は、もし関係が離れ離れになってしまったときに、できるだけ傷つかないようにすることだと言える。もし君が、関係が完全に終わって本当にボロボロになってしまうとき、それは、十分な自己愛がない事を意味しているんだ。それはとてもつらい一面でもある。君は十分に自分を愛せていると思う? ひとりでいること(alone)と孤独でいること(lonely)の間には違いがある。僕は自分のために、自分を真に愛するようにしているんだ。

__アートワークはあなた自身が中心となって手がけているとのことですが、どのようなテーマで制作したのでしょうか。写真の人物は何を思っているのでしょうか。

この写真の人物は、僕の美しいボーイフレンドのKeonなんだ! 僕が彼に僕の汚れた運動靴の匂いを嗅ぐよう頼んだときに、まさに彼との付き合いが始まったんだよ。彼はとても向こう見ずな人で、いいよって言ってやってくれたんだ。この写真は、実際に僕がフィルムで撮影している。僕は、セクシーなロシアの若者たちがダーティーなことをやっているSlava Mogutinの写真をいつも夢中になって見ている。僕は彼と、主に高校のレスリングのシリーズなんだけど、彼の炭鉱学校の作品に影響を受けているんだ。

__プレスリリースで、作品の制作において「僕の心に最も長く残るものは、いつも自分自身の苦難や困惑から沸き上がって来るものなんだ」と述べていますが、この真意について詳しく教えてください。

僕はつまりこう言いたかったんだ。悲しみは僕のすべての人生でいつも一緒にいる。僕は、それを理解している。そして、僕が悲しいと感じた時、僕自身が壊れることによって、良い芸術作品が生まれる。これは、アーティストの呪いだよ。どうして僕は良い作品をつくるためにそんな風に感じる必要があるんだろう? もしかしたら、いつかそれは変わるかもしれないけど、もし変わらないのなら、それでもいいと思っている。僕は、自分の人生のバランスを取ることで、より良くしようと努力している。きっと、時間だけが教えてくれるだろうね。

Abysmal Thoughts:
01. Mirror
02. I’ll Fight For Your Life
03. Blood Under My Belt
04. Heart Basel
05. Shoot The Sun Down
06. Head Of The Horse
07. Under The Ice
08. Are U Fucked
09. Your Tenderness
10. Rich Kids
11. If All We Share (Means Nothing)
12. Abysmal Thoughts
*国内盤CDには、ポスター/対訳/解説/アーティストへのインタビュー付き

Photo by CyCy Sanders

インタビュー・文・翻訳:T_L
取材協力: Tugboat Records