- INTERVIEWSJune/02/2017
[Interview]Fazerdaze – “Morningside”
ニュージーランドを拠点に活動するシンガーソングライター、Amelia Murray(アメリア・マーレイ)によるソロ・プロジェクト、Fazerdaze。〈Flying Nun Records / Tugboat Records〉よりリリースされたデビュー・アルバム『Morningside』は、彼女自身の成長の過渡期に制作された作品であると同時に、成長することの痛みを経験して強さを手に入れていくという誰にでも訪れるような体験がテーマになっており、人の脆い部分に触れながらも輝きを放つそれらの楽曲からは、繊細で透明感のある彼女の世界観を間近に感じることができる。
アルバムとしてはデビュー作ながらすでに多くの注目を集め、初のヨーロッパツアーを行ったばかりのFazerdaze。今回、アルバム『Morningside』を中心に、そのテーマや、それぞれの楽曲のストーリー、制作過程といったバックグラウンドなどについて話を聞いてみた。
__楽曲のプロデュースから、ソングライティング、レコーディングまでご自身でなさっているということですが(1)、自分自身で制作し、録音することの意味をどのように考えていますか。制作や録音をするうえでのこだわりはありますか。
「学ぶ」ということは、Fazerdazeにとって鍵となる要素で、このプロジェクトのすべてにおいての基盤となっている。私の作っている音楽や芸術は、私自身の旅と成長の過程のすべてを含んでいる。つまり、それは、作品は最終的な録音物という意味だけでなく、どのようにしてそこにたどり着いたか、ということを意味している。
私は絶えず学習し成長し続けて、自分の力量以上に頑張ったりもするから、欠陥もたくさんある。でも、私はミスもすべて含めて自分の作品を気に入っている。自分で自分の曲をレコーディングすることで、私は音楽とつながっていると感じることができる。それは私にとってとても重要なこと。
__ご自身が影響を受けたアーティスト、好きなアーティストを教えてください。
Unknown Mortal OrchestraのRuben Neilsonが本当に好きで、彼の音楽の美しくてロマンチックなところと、彼が作品を自分でプロデュースしているというところが気に入っている。それと、Grimesと彼女の作品にもとてもインスパイアされている。
__3月にはFrankie Cosmosのニュージーランドツアーに参加しています。彼女との共演はどのように実現したのですか。また、それはどのようなものでしたか。
私の友達がFrankie Cosmosのニュージーランドツアーのプロモートをしていて、彼は私がFrankie Cosmosに夢中だったことを知っていたから、一緒にプレイしないかと誘ってくれて。もちろん、すぐにイエスと答えた! 彼女との公演は素晴らしかったし、バンドのみんなもすごく良くしてくれた。
__今作アルバムタイトルの『Morningside』は、あなたが「最終的なホームだと感じる」と語るニュージーランド郊外の地名にありますが、なぜこのタイトルに決めたのですか。
すごくパーソナルな話になるけど、私にとってタイトルにある「morning」と「side」という言葉は、人生の暗い部分を通り抜け、向こう岸にたどり着いて、それによって強くなるということの象徴と捉えている。Morningsideという場所については、私がアルバムの制作を終えた場所であり、引っ越して落ち着かない気持ちになっていた二年間が過ぎて、最終的には安らぎを感じることのできる場所になっていた。
__今作は、「成長していくことの痛み」にフォーカスしているとのことですが、そのようなコンセプトに決めた理由を教えてください。また、それはアルバム全体にどのように反映されていますか。
このアルバムは私の人生の過渡期に作られたアルバムで、必然的に成長することの痛みをテーマにした曲たちが収録されている。ティーンエイジという時代に別れを告げて、仕方なしに大人の世界に入っていく。そして、どうやったら他の誰かに自分を愛してもらえるかを学ぶ。アルバムにあるすべての楽曲は私の日記の中身のようなもので、私がこうした過渡期の不安に取り組む様子が描かれている。多くの楽曲には憂鬱さが含まれていて、ハッピーな曲も全部が全部ハッピーというわけにはいかないけど、逆に悲しい曲にも希望が含まれている。
__アルバム一曲目の「Last To Sleep」は、アルバム収録の楽曲のうち最後に完成した楽曲とのことですが、この楽曲の制作背景を教えてください。
「Last To Sleep」は、アルバムの中でもより大胆な制作方法で作った曲のうちのひとつ。アルバムに収録されている楽曲の大半は、自分でドラムをMIDIキーボードで打ち込んでいるんだけど、この曲の制作に取りかかるまでに、サウンドをバンドみたいに聞かせられるようにトライすることにすっかり疲れ果ててしまっていた。けど、最後の曲だし、ドラムが生き生きと演奏されているような、心からのありのままの自分を反映させたより凝ったドラムづくりをすることを選択した(ドラマーでない私が演奏したMIDIキーボードのドラムで!)。
__「Lucky Girl」は、MVもご自身で手がけたとのことですが、どのようなコンセプトで映像を制作しましたか。制作背景を教えてください。
このビデオは私とSam Kristofski(16ミリシネマカメラで撮影を担当)との共作によって制作されたもの。Samはフィルムや色味をコントロールするのに長けていて、美的センスも優れていた。私は映像の編集に携わっている。私はこのビデオで、自己破壊と、何か完璧なものを壊すこと(バースデーケーキをこぶしでぐちゃぐちゃにする、野菜をハンマーで叩くなど)というアイディアを交錯させたかった。私にとってエモーショナルな感覚をビデオに投影させることは、この歌の意味を表現するうえで重要なことだった。
__同じく「Lucky Girl」について、あなたが窓のない部屋(オーバーヒートを防ぐための天窓を除いて)に住んでいたとき、この曲が書かれ、レコーディングされたことが〈Flying Nun Records〉のサイトに記されています(2)。同曲についてあなたは「とても暗くて、ゆっくりと悲しみが襲ってくるような、まるで四方の壁が自分に迫ってくるような感覚を感じて—そして最初の歌詞のアイディアを思いついた」と語っています。ネガティブな感情に着想を得て、歌詞にも不安感が表れていますが、なぜこのようなポジティブなタイトルになったのですか。
この曲の歌詞は、最初に聴いたときに思うほどポジティブな歌詞ではなくて、そこには幸せを掴み取ることへの絶望感がある。サビの歌詞 (”I know I’m a lucky girl, I’m a lucky lucky girl” − 私は幸せな女の子、本当に幸せな女の子) は、自分の幸せを何度も思い出させるように繰り返されている。私は幸運とか幸福に不安を覚えてしまう。なぜなら、幸せは手に入れると、失うのが怖くなるものだから。
__「Take It Slow」ではMark Perkins(Merkとして活動)がギターを演奏していますが、彼とのコラボレーションはどのように実現したのですか。
Markと私が初めて一緒に出かけたときに、この曲を二人で書いた。私たちはお互いを知る方法として、この歌を作った。一緒に作業をするのはすごくスムーズで、それ以来私たちはお互いのライブで一緒にプレイするようにもなった。今では、彼は最も仲の良い友人の一人になっている!
__「Bedroom Talks」では、ふさわしい場所(ホーム)で、ふさわしい人に話を聞いてもらい、何も隠さずに、真実にあふれた言葉で語ることができる安心感、快適さをテーマに、純粋なコミュニケーションについて歌っているとのことですが、このようなテーマで曲作りを行ったきっかけは何ですか。この楽曲の制作背景を教えてください。
「Bedroom Talks」のリズムを、パソコンを使って作っていた時期、ある日仕事から帰って、そのとき意識のうちに流れてきた歌詞をそのリズムに乗せて、自分の口から転がり出てくる言葉を音楽に合わせて歌ってみたら、カタルシスのような感覚になった。その翌日、小道で鳴きわめいているコオロギの鳴き声をサンプリングして、それを曲に落とし込んだのを聴いてみると、「歌が完成した!」って思った。私はこの曲をこれ以上磨け上げようとは思わなかった。この曲はまさにこのままの曲だから。
__4月にはヨーロッパツアーが行われましたが、ツアーはいかがでしたか。
ヨーロッパツアーは素晴らしかった。ニュージーランドを離れてヨーロッパにプレイしに行くことは、まるで長い道のりの旅に行くようで、とてもナーバスになっていた。でも、ライブは最高で、こんなにたくさんの人が自分の歌を知ってくれていることに驚いた。本当にとっても楽しかった!
註:
(1)以下、質問作成に関してはプレスリリースを参照した。
(2)〈Flying Nun Records〉の公式ウェブサイトより http://flyingnun.co.nz/news/?offset=1485992844006
Morningside:
01. Last To Sleep
02. Lucky Girl
03. Misread
04. Little Uneasy
05. Jennifer
06. Take It Slow
07. Shoulders
08. Friends
09. Half-Figured
10. Bedroom Talks
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。和声やソルフェージュ、楽典などを学びながら幅広いジャンルの音楽を楽しむ。