INTERVIEWSMay/18/2017

[Interview]!!!(Chk Chk Chk)− “Shake The Shudder”

 !!!(チック・チック・チック)は1995年に結成された。以来、20年以上音楽活動を続けており、最新作となる『Shake The Shudder』は彼らの7作目のスタジオ・アルバムとなる。

 タイトルの”Shake The Shudder”は、”Shake the shudder, shake of the fear, dance your cares away”(ふり払え、恐れをふり払え、踊って頭を空にしろ)という彼らの座右の銘からの引用となっており、挑戦すべきものに目を向け、立ち向かうことを意味するという。それは、長年にわたるバンド活動における経験から見出されたメッセージでもあり、常に新たな創造性を見せる彼らの音楽の思想的な源泉とも言える。

 バンドは、作品ごとに常に変化を続けながら、本作に於いてもやはり新たなサウンドを創造している。以下のインタビューは、今年2月にメンバーのNic Offerの来日時に行われた。彼らの需要の生産に隷属しない音楽性の理由、反復的商品に抗うような楽曲制作を追求し、それを維持し続ける姿勢とはどのようなものなのか。それらを垣間見ることのできる回答となっている。

__今でも拠点はニューヨークですか。

うん、バンドメンバーのMarioだけはカリフォルニアを拠点にしているけれど、その他のメンバーは俺も含めてニューヨークを拠点で活動してる。

__今作『Shake The Shudder』では、「新しいことに挑戦していくことの難しさ」がメインテーマになっているとのことですが、なぜこのようなテーマにしたのですか。

新しいことをするということは、人として、アーティストとして、そしてバンドとして、最も重要なことだと思っている。今回のアルバムで7作目のアルバムとなるけれど、俺たちは毎回成長しつづけていたいという思いがあるし、成長していくのか、現状維持に努めるのかという選択を迫られたときには常に、成長していくことを選びたいと思っている。

それこそがアートだと思うし、成長していくためには常に新しいことに挑戦しなければいけないから、そういった課題を自ら受け入れることが大事なんだ。一般的なステレオタイプとしてよく言われているのは、長く活動してきたベテランのバンドはどんどん質が落ちて、昔の方が良かった、と言われるようになることが多いということだけれど、俺たちはそういうステレオタイプを壊していきたい。古いバンドだからこそ、熟練した、良いバンドだと思ってもらえるように、これからも成長し続けていきたいんだ。

__ファースト・アルバム『Gold Standard Labs』から、作品は毎回少しずつ変化しています。今作で、前作『As If』から最も変化した部分はどのような点なのでしょうか。

それぞれのアルバムごとの変化は、一歩ずつの段階を踏んだ小さな変化だけれど、今作のアルバムは前作で学習したことの応用みたいな感じになっていると思う。前々作、前作、そして今作の三枚のアルバムは、俺の中では三部作のようなイメージで捉えている。

前作のアルバムでは、ポップなサウンドをどのようにクールにするか、ということを学んで、”raw”(荒削り)なサウンドや、”strange”(奇妙)なサウンドにこだわったけれど、今作では前作よりもさらに”raw”で”strange”なサウンドになるようにしたんだ。それに、今作では新しいパソコンでのトリックやテクニックに加えて、ジャムセッションとライブバンドの融合したようなサウンド感になるように音作りをした。前回のアルバムと比べるとまた一歩前進したような変化になったと思うよ。

__”raw”で”strange”なサウンドに挑戦したのはなぜですか。

”raw”なサウンド、ということに関して言えば、俺たちは生っぽい、荒削りなサウンドを特徴とするバンドだと認識されているので、”raw”なサウンドが俺たちに求められている音なんだと思っている。それと同時に、”raw”なサウンドの持つエネルギーが大好きなので、それを表現したい気持ちもある。スタジオでは常にそういった”raw”なエネルギーといったものが感じられるけれど、アルバムを通してどれだけそれを伝えられるか、ということに挑戦することが俺たちのやりたいことだし、課題でもあるんだ。

”strange”なサウンドに関しては、俺が小さい頃から奇妙で変わったものが好きで、Depeche ModeやSonic Youth、Missy Elliot、OutKastにPrince、Beatlesといった音楽が大好きだった。今では普通に受け入れられているけれど、PrinceやBeatlesが出てきたばかりのときは”strange”で奇妙なもの、という認識のされ方しかしていなかったんだ。当時はみんな、こんな異様な音楽は聴いたことがないと感じていて、俺たちもそういったクリエイティブなものを作っていきたいと思っている。

たとえばThe Strokesみたいな音楽とは違う、変わった音楽を作りたいんだ。The Strokesも最近はちょっと変わった音楽も作っているし、俺はBob Dylanのアコースティックな音楽とか、そういうのも好きだから、決してそういった音楽をバカにしているわけではないんだけど、俺たちはあくまでそういうものとは違った、”strange”で変わった音楽を作っていきたいと思っている。ずっとそう思って音楽をつくっているけれど、俺たちのファースト・アルバムで”strange”だったものは、もうすでに”strange”ではないから、常に新しい”strange”をつくっていきたいと思っているよ。

__ファースト・アルバムから今まで、常に進化しているというお話でしたが、一方で変わっていない部分があるとしたらどういった点なのでしょうか。

俺たちは常に”strange”なもの、新しいものを求めていると話したけれど、変わらずにずっと好きなものというのは確かにあって、グルーヴやファンクといったサウンドがそれに当てはまるんだけど、1980年代のディスコ・サウンドやファンクのような、ダンス・ミュージックが交錯する時代のサウンドがすごく好きなので、そういったものは俺たちの音楽の根本に常に介在している。

今作の中でも、「Our Love (U Can Get)」はそういったものの影響を強く受けているし、俺たちの音楽は共通して常にソウル、ファンク、ディスコの影響を受けていると思う。変わった、”strange”な音楽が好きだと言ったけれど、カントリーミュージックのような形で俺たちがそれを表現することはないと思うね。

__20年以上にわたり活動する中で、進化しながらも作品のクオリティをキープしてきたことに関して、どのように考えていますか。

俺たちは、自分たちの活動に対して満足のいくような大成功を収めていない中で、常に恐れや不安を抱きながら今までやってきた。そういった感情は前に進むのには重要な要素だと思っていて、よくロックンロールの伝説として、一曲ヒットを飛ばせばもう金持ちの仲間入りで、リムジンに乗ってグルーピーがたくさんいる、みたいな話があるけれど、そんなのは全くの嘘で、バンドとして常に音楽は制作し続けていかなければならないものだし、常に前に進んでいなければいけない。安心、安全でもう何も心配はいらない、って言えるような安泰は訪れることはないんだ。

前に進んでいかなければ、ジ・エンド。そういう意識を持っていたから今まで前に進んでこられたと思うし、新しいものを作る、変わったものを作る、というのは俺たちが掲げている一つのゴールでもある。こういうサウンドを作ろうと決めているわけではなくて、常に新しいもの、変わったものを作ろうという姿勢でやってきたんだ。

あとは、幸運なことに俺たちメンバーは元から友達で、仲が良かったことが良い結果をもたらしていると思うよ。他のバンドで、そこまで仲が良くない人たち同士で音楽をやるとなると、互いの関係の構築といったことに時間が取られてしまって、クリエイティブな部分に使う時間が削られてしまうことがあるから、昔から仲間としての関係があったことは俺たちにとって良かったと思う。互いの信頼関係に関しては、信用する、しない以前に、メンバーのやりたいことがあったらまずやってみて、うまくいけば採用、いかなければ見送る、といったスタンスをとっているんだ。

__ありがとうございます。では、アルバムの個別の楽曲について質問させてください。「Dancing Is The Best Revenge」の制作背景は、どのようなものだったのでしょうか。タイトルの意味や、ジャンルとしてヴォーグっぽい印象を感じたのですが、そのあたりについても聞かせてください。

ジャンルに関して言うと、いわゆるヴォーグ・ハウスのサウンドとは少し異なってはいるけど、この曲を聴いているときにヴォーグを聴いたときのように堂々とキャットウォークができるような、そんなイメージで曲作りをしたんだ。この曲では、ヴォーグ・ハウスから感じられるような強いパワー、自己肯定といった感情を表現したくて、歌詞を書くときも、俺はそういった感情に共感していたから簡単に書くことができたよ。

歌詞を書くときに、たまに苦戦することがあるんだけど、この曲はすごく楽に歌詞を書くことができた。この曲を聴いた人が、ヴォーグを聴いたときみたいに踊ってくれたらいいな、という思いを込めて作ったんだ。タイトルの意味は、自分自身が何者であるか、ということを他人に指摘されるのではなくて、自分自身で形作っていく、ということをテーマにしている。音楽に合わせて踊るとき、自分自身で音楽に乗って動くだろう? 踊っているときが一番自由で、他の誰にも邪魔されない、ということを表現しているんだ。

__「Throttle Service」について、「この曲の歌詞は、友情、音楽、そして人間が遭遇する変化について語っている」とのことですが、この楽曲はどのような制作背景で作られたのでしょうか。

以前フェスの合間に一週間くらい時間があって、バルセロナでジャムセッションをしたんだけど、そのときすごく楽しくて、嬉しくて、俺たちはラッキーで、やるべきことをやっている、っていう実感が得られたんだ。この曲はそういった感情を表現していて、歌詞はラファエルが書いたんだけど、すごく共感できた。

歌詞の内容は、バンドメンバーをファミリーだと思っていて、それは過去のメンバーだろうと今いるメンバーだろうと変わらない、大きなファミリーとして大切にしている、ということと、みんな同じ夢を共有して、そこに向かって進んできた、ということを歌っている。この歌はいうなれば、昔の仲間に「俺は今でも夢を追っているけれど、君はどうだい? 君も夢に向かって進んでいたらいいな」って語りかけるような歌なんだ。

__「Imaginary Interviews」と「Our Love (U Can Get)」は、Moodymannがキーワードになっているそうですが、Moodymannのどこに着目したのでしょうか。

Moodymannは、俺たちのやろうとしているサウンド、やりたい音楽をすごくよく表現しているアーティストだと思う。彼はそういったサウンドをピンポイントで理解していて、未来的だけど、ハウス、ファンク、ディスコのようなサウンドも入っている、そういう音楽をちゃんと表現していて、すごく好きなんだ。彼の「I Can’t Kick This Feeling When It Hits」を初めて聴いたとき、びっくりして友達に聴かせたくらい感動したし、彼の音楽は俺たちの表現したいサウンドを本当にうまく体現していると思う。彼の一番最近のアルバムも、玄人のサウンドっていう感じがしてすごく良いね。

__「Five Companies」は、政治的な作品とのことですが、それについて詳しく教えてください。また身の回りで起こったことなど、関係することが具体的にあれば聞かせてください。

曲の内容としては、自分の無力さみたいなものを歌っている。この世界はお金とビジネス、企業がすべてで、俺のやっている音楽やアートは二の次になってしまっている。そういったことに対しての疑問を投げかけているんだ。政治的な作品の中には、そういう疑問に対しての答えが作品の中で出てくるものもあるんだけど、そこで出てきた答えは実行できないものだったり、実行しても解決策にはならなかったりすることがあるから、この曲は、こうだからこうしようとか、具体的にこうするべきだ、とかそういうことを言わない、答えを提示しないような作品になっている。

元々この曲は、アメリカ初の女性大統領が生まれる前提で作っていて、アメリカは進化しながら前に進んでいる、という前提のもと作られた作品だったんだけど、そうはならなかった。投票結果を見て、これはマズい、ヤバイぞ、って話になって。そこで疑問が生まれて、本当はこうあるべきはずのものが、なぜこういう現実になってしまうんだろう、とまさに今のアメリカの現状を物語るような曲になったんだ。ただ、今後はそういった勢力に立ち向かって、もっと別の方向で、良いものを生み出せるように、アメリカとして成長していけたら良いとは思っている。

__「Things Get Hard」について、James Woodのことに言及されていましたが、それについて少し聞かせてください。加えて、曲の印象としてビートがとても太く感じたのですが、どうでしょうか。

James Woodというのはハリウッドの俳優で、保守的な考えを持っている人なんだけど、ハリウッドではリベラルな考えの人が多いから、そういう人は珍しいんだ。曲の内容としては、あるカップルの話で、喧嘩して男の子が怒ると、James Woodみたいな顔になっちゃって、喧嘩して怒っているのにどこかおかしい、っていう内容なんだけど、そういう日常のディテールみたいなものを描き出すのがすごく好きで、そういう瞬間を切り取ることで真実味が増すと思っている。

曲そのものに関しては、この楽曲はプロデューサーがイギリスに持ち帰ってプロダクションをしたので、ちょっと違ったサウンドになっているんだ。こちらからもKAYTRANADAみたいなサウンド感にしたいという要望を出していたので、そういう太いビートになったと思うんだ。

__今作では、Lea LeaやNicole Fayu、Meah Paceなど新人シンガーが参加していますが、起用のきっかけなど聞かせてください。

みんな業界のコネクションとか、縁で出会った人たちなんだけど、Lea Leaはイギリス出身、Meah Paceはアメリカ出身のシンガーで、二人とも俺たちのツアーに同行してもらって、すごく良かったんだ。二人とも俺たちのサウンドに合っているし、テンションとかノリもすごく合ったから、アルバムにも起用した。いろいろな人の声を使うというのは、俺にとってエフェクトみたいなもので、俺一人で歌うよりも、面白い、良いものができるんじゃないかと思っている。

もう一人、Nicole Fayuは実は俺なんだ。俺の声のピッチを上げて作った声で、Nic Offerをもじって女性のような名前にした。MorrisseyやPrinceもそういうことをやっていて、偽名を使って、声のピッチを上げた女性のような声で歌う試みをやったんだ。だから、ビデオを作るときはドラァグクイーンみたいな格好でやろうと思っているよ(笑)。

__Nicole Fayuがあなた自身だったとは驚きました。では、最後に、今後の予定を聞かせてください。今まで発表してきたようなリミックスEPのリリース予定などはありますか。

リミックスに関しては、今いろんなアイデアが出ているのでどうしようか考えているところなんだ。前作では40曲作って20曲アルバムに収録して、今作では20曲作って10曲収録しているから、未発表の曲がたくさんあって、それを使って何かできないか考えている。

今出ている案としては、長いDJミックスのようなものを作りたいと思っていて、未発表の曲をリミックスしてそういう形にしようかと考えている。あとは発表されなかった曲を手直しして良いものができたらリリースできたらいいなとも思っている。たくさんやりたいことがあるから、何をやろうか考えているところだよ。

(註) 質問作成に関してはプレスリリースを参照した。

Shake The Shudder:
01. The One 2
02. DITBR (Interlude)
03. Dancing Is The Best Revenge
04. NRGQ
05. Throw Yourself In The River
06. What r u up 2Day?
07. Five Companies
08. Throttle Service
09. Imaginary Interviews
10. Our Love (U Can Get)
11. Things Get Hard
12. R Rated Pictures
13. Anybody’s Guess (Bonus Track for Japan)

インタビュー・文:T_L

アシスタント:志田麻緒
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。和声やソルフェージュ、楽典などを学びながら幅広いジャンルの音楽を楽しむ。

通訳:青木絵美