INTERVIEWSNovember/30/2016

[Interview]NV − “Binasu”

nv_002

 ロシアの首都モスクワを拠点とする音楽家、Kate Shilonosova。NVは、バンドGlintshakeのメンバーとしても活動する彼女のソロ・プロジェクトとしてスタートしている。

 2013年にデビューEPとなる『Pink Jungle』をリリース後、2014年に開催されたRed Bull Music Academy Tokyoに参加。そこで彼女は、カラオケ館新宿店で行われた世界各国から23アーティストが参加したプログラム「Lost In Karaoke」にも出演している。

 今年2月、NVは、アメリカ、オハイオ州のレーベル〈Orange Milk〉から、ファーストアルバム『Binasu』をカセット/デジタルにてリリース。同レーベルは、食品まつり a.k.a foodman、CVN、DJWWWW、toiret statusといった日本の先鋭的なアーティストの作品をリリースしていることでも知られている。そして今秋、『Binasu』は、日本のレーベル〈PLANCHA〉によって、Deradoorianとの共演曲「Konicchiwaa」と「DE 1998」の2曲を追加収録し、CD作品としてリリースされた。

 今回のCD化にあたり、改めて、NVことKate Shilonosovaに、その活動や作品について詳細を伺うべくメールインタビューを行った。

__ステージネームであるNVは、何かの略称なのでしょうか?

そう、最初はジョークのつもりだったんだけど、NVは“ENVY”を意味している。ソロ・アーティストとしてひとりで自分の音楽を作り始めたときに、ポストR&Bの楽曲とか90年代のニュージャックスウィングとか〈Night Slugs〉のようなレーベルに本当にハマっていて。それで、NVはきっとユーモアのある名前になると思っていた。

Envy(ねたみ、羨望)は、悪意だし、私はそれを捨てたかったし、そのすべての感情をその言葉に入れて、私の実生活からそういうのを放り出したかった。

実際のところは、ちょうど今このアーティストネームで問題を抱えていて。というのも、同じ名前でいくつかバンドが存在するみたいで、「ラスベガスに演奏に行く」とか、そういう本当じゃないことまでFacebookでタグ付けされるようになっていて(笑)。そろそろYEN(私の大好きなレコードレーベルのひとつ)か、SHILO(私の苗字の一部)に変える時かなとも思っている。まだわからないけど(笑)。

__2014年のRBMAで来日する前になる、2013年のEP『Pink Jungle』の時点で、ジャケットに「羨望」という日本語を使っていますが、どうして日本語に興味を持ったのでしょうか?

実際に、日本語って魅力的だと思う。私はその象形文字の見た目が好き。デザイナー、イラストレーターとして、よく象形文字を使っている。なぜなら、どんなことを書いても素敵に見えるから(笑)。それと象形文字には、神秘的で美しい何かがある。私を魅了するその線の組み合わせの中にね。

8歳のとき、セーラームーンに出会って、独学で日本語を学ぼうと思わせるくらい強く惹きつけられた。でも難しすぎた。日本のポップスをたくさん聴きはじめたとき、椎名林檎の『幸福論』を覚えてみたけれど、かなりたいへんだった。というのも、単語は何も知らなかったし、言葉がどこで始まって終わるのかを推測するのがほとんど不可能だった。

日本語の歌詞には英語やロシア語のようにはっきりとした脚韻がないみたいだから、フレーズがどこで終わっているのかを音だけで判断するのはほとんど無理。前のフレーズがこの音で終わっているから、ここがこのフレーズの終わりって推測できるトリックが使えなくて、結局は全部耳でコピーするしかない。

nv_05_2

__『Binasu』は、全体を通して正体が見えないような多様な音楽の要素がミックスされているように感じました。それらは意識して行ったのでしょうか?

『Binasu』は、私の魂や思考の音を探索しようとする私自身のリサーチのような、私にとっての“科学的研究”のようなものになったと感じている。新しい自分になれる、つまり、このアルバムは、私のいろんな異なる側面を見せている。自分自身に対して正直でいるだけ。自分の中のどこかで生まれ育ってくる音楽を、聴き逃してしまいそうになるから。

__アメリカのカセットレーベル〈Orange Milk〉からリリースとなっていますが、リリースに至った経緯を教えてください。

友人がこのレーベルを教えてくれて、そのアートワークに始まって(それは、勾配や80年代の要素で制作されていて、私がNVで使っていたスタイルに本当に近いものだった)、音楽で終わるというこの全体のコンセプトが本当に好きだった。それで、(レーベルオーナーの)Keithにメールを送ったら、彼も私のアルバムを本当に気に入ってくれた。

__また、アートワークは、Keith Rankin(Giant Claw)が手がけているそうですが、どのようなテーマを共有して制作されたのでしょうか?

いつもは全部自分で制作するんだけど、Keithは素晴らしいアーティストで、私も彼の作品の大ファンだった。実際に、リファレンスとして、画家のワイリー・カディンスキー(Wassily Kandinsky)の後期の作品を使用するアイデアがあった。そして、私とKeithは複数のヴァージョンのアートワークを作ったんだけど、二人ともあまり好きになれなかった。

そうしたら最後に、Keithがアルバムを聴いているときに彼が作った画像があるって言ってきた。彼は彼の頭の中に強いイメージを持っていたから、それでこの踊っている少女を見せてくれた。私はそれを最初に見た瞬間から、このアルバムにとってベストのカヴァーだとわかった。

この少女には、何か特別なものがある。人を感動させる何かがあって、沈黙と同時に彼女が大きく動こうとしているように感じることもできる。だから、それは静止した肖像ではなくて、その中には生命と神経が存在している。

__1曲目の「Bells Burp」と続く2曲目の「Inn」のコントラストが特徴的ですが、シンセポップの要素も含め、全体的に実験的なサウンドに聴こえます。それら、ポップとエクスペリメンタルについてどのように捉えていますか?

この2年間でひとつわかったことがある。誰もが、自分自身だけの“ポップ”か“エクスペリメンタル”という境界線を持っているということ。それはいつも、その人自身についてのことで、その人自身が音楽を理解する方法で、その人自身が音楽を感じる方法で、その人自身がそんな風に聴こうとするような方法だということ。

人によって、私はポップミュージックをつくっていて、全然エクスペリメンタルじゃないと言う人もいるだろうし、ポップとしてはエクスペリメンタル過ぎると言う人もいると思う。私としては、私はポップミュージックをつくっていると思っていたけど。

私にとって、“エクスペリメンタル”というのは結果ではなくてプロセスにしか過ぎない。私のアイデアの形式としてそれを採用して、たくさんの変わったことを行うようにして、私は私自身と私の音楽でもって実験をしている。けど、それが誰かにとってエクスペリメンタルに聴こえるという意味ではない。それは音楽制作におけるその他多くのアプローチのひとつに過ぎない。

__Deradoorianが共演した「Konicchiwaa」は、2014年のRBMAで来日の間に制作したのでしょうか?

ノー! 東京では私たちが作業するのに十分な時間はなかった。(東京では)ずっと発狂するほど張り詰めていた。でもそれから、Red Bullが私たちに今年の5月にニューヨークのスタジオでの“A Class of Its Own”に参加しないかと尋ねてきて、私たちはそこで制作の機会を作ることを決めて、ようやく一緒にトラックを制作できた!

__再来日の予定はありますか?

ぜひ、そうしたい! 特に桜が見たいから、春に行きたい。2014年の来日で、すでに私は日本に魅了されてしまっているから、もし、桜の季節に来ることができたら、もう完全にノックアウトされると思う(笑)。日本の自然の美しさに、目も心もメチャメチャにされたい(笑)。

(2016.11)

nv_02_4

binasu_nv

Binasu:
01. Bells Burp
02. Inn
03. Grass in the Woods
04. Binasu
05. 3Arms
06. Kata
07. KKU
08. Dance
09. Nobinobi
10. YYG
11. Konicchiwaa (ft. Deradoorian) *
12. DE 1988 *

* = Bonus Track

歌詞・対訳付き
解説: Dirty Dirt

*再編集を行いました。内容に変更はありません。(2020.6.12)

インタビュー・文:T_L

Photo by Polina Efremova