- INTERVIEWSJanuary/15/2013
【Interview】Citizens!(シチズンズ!) – “Here We Are”
【Interview】Citizens!(シチズンズ!)
Interview by Ryu Miyashita (2012.12.17)
2012年に10周年を迎えたフランスのレーベル<Kitsuné>。2000年代におけるダンスとロックを深く結びつけるようなムーブメント―ニューレイヴ/エレクトロ―において、意図するにせよしないにせよ、結果的に彼らの活動は世界に大きな影響を与えた。しかし、どのジャンルにおいても、クロスオーバーが日常的に進行している現在の音楽状況においては、ただダンスとロックを結びつけただけでは物珍しささえなくなってしまった。
そんな中、<Kitsuné>から新人が現れた。彼らの名はCitizens!。2012年には、デビュー・アルバム『Here We Are』を、Franz Ferdinandのヴォーカル、アレックス・カプラノスのプロデュースで<Kitsuné>からリリースした、ロンドン出身の5人組バンドだ。NMEなどで早くも大型新人として持て囃される中、果たして彼らは今の音楽状況において、どう考え何をしようとしているのか。Two Door Cinema Clubと共に来日した彼らにインタビューを行った。
Citizens!
トム(Vo.)
ローレンス(Key.Gt.)
トム・ローズ(Gt.)
マーティン(Ba.)
マイク(Dr.)
_まず始めに、どのようなきっかけでバンドを結成したのか教えてください。
トム(以下T): 最初のきっかけは、一緒に開いたパーティーだったね。そこのステレオで、例えばSuicideをかけるか、Kanye Westをかけるかとか、誰の音楽をかけるか戦っていたんだ。それで、最終的に「ポップ・ミュージックとは何か」というすごく大きな議論になったんだけど、今、本当の意味で創造的で、エキサイティングなポップ・ミュージックをやってるバンドっていないよね、という話になって、だったら自分たちでやろうということになったのがきっかけだったんだ。
_そこで出た「ポップ・ミュージック」についての結論とは何だったのでしょうか?
T: 僕たちにとって「ポップ・ミュージック」とは、ものすごく複雑なものを、ものすごくシンプルな形で表現している音楽のことなんだ。それは歌詞においても音楽においても、シンプルだからこそ大勢の人たちがアクセス出来る。でもそれが表面的なものだっていう意味ではなくて、聴いていくともっとさらに奥がある音楽、それがポップ・ミュージックだと思うね。
_その時のパーティーで他にかけた音楽は?
T: 他に聴いていたのは、The Cure、David Bowie、Roxy Music、Michael Jacksonとか。
マイク(以下M): 僕はSBTRKTとかだね。
ローレンス(以下L): その後、僕は自分のヴィジョンをピュアにするためにKanyeとSuicide以外のレコードは全部焼いたんだ(笑)。
_バンドスタイルもののレコードではなく、Kanye WestとSuicideのレコードを残したのは何故ですか?
L: Citizens!でひとつあるのは、平均的なロンドンのインディーバンドに対する反抗ということなんだ。それがさっきの話に繋がると思う。自分たちは平均的なそうしたバンドたちのことをムーブメント・バンドと呼んでいるんだけど、それは2000年代の半ばから出てきた人たちで、Franz Ferdinandとかの後追いみたいな、あまり想像力もなく同じようなことをやっているバンドたちのことを指してる。そういうバンドが自分たちの周りにあまりにも多かったから、そういうバンドとは違う音楽をやろうという意識があったんじゃないかな。
_Kanye Westは一般的なポップ・ミュージックとしては理解しやすいです。しかし。個人的にSuicideには一般的なポップ・ミュージックのイメージはないのですが、その点はどう考えていますか?
T: Suicideも曲にはよると思うけど、マーティン・レヴのソロ・アルバム(『Martin Rev』)の中に「Mari」という曲があって、それを最初の頃はすごく良く聴いていたね。初めて聴くと、ものすごくオルタナティブでヘロイン漬けのガレージロック、すごくNYっぽい曲なんだけど、曲自体はものすごくポップで。
L: 例えば、Kanyeが『808’s & Heartbreak』でやっていたことは、ポップだけれどオートチューンを使って、ものすごく実験的なことをやるということだったと思う。それはクールだと思われていないものを、クールに思わせるようなところがあるし、そういう点ではKanyeにしてもSuicideにしても、ものすごく共通している部分があると思うね。Suicideだったらパンクの時代に、ドラムマシンというその時代ではカッコ良くないものを使ってみたり、自分たちが面白いと思ったものをプッシュしていったりしていたし。それと同時にレフトフィールドのものをメインストリームに押し出していこうとする姿勢も持っている。そういう姿勢が両者には共通していて、それはポップ・ミュージックを作っていく上ではすごく重要なことだと思っているんだ。
_それでは、あなたたちもそういう音楽を目指しているということですか?
T: その通りだね。
_その両者はバンドではないわけですが、影響を受けたバンドとかはいないのでしょうか?
T: The Flaming Lipsのドキュメンタリーで、彼らが秘密結社をつくっていたというものがあるんだけど、それっていうのが自分たちにとっては理想のポップスターの姿で、そこで彼らが何をしているか、何を聴いているかというのがすごく自分たちのヴィジョンに近いと思う。
_彼らが理想的なバンドだという理由は?
T: さっきの「ポップ・ミュージック」の定義が彼らにもあてはまるというのと同時に、果てしなく想像力豊かなところが彼らにはあるからだね。彼らの音楽はものすごく大勢の幅広い人たちにアピールすることが出来るし、ライブだとものすごく祝祭的な雰囲気がある。大きい動物が出てきたりとか、(ウェインが)大きいバブルに入って観客の前に出てきたりとか、それっていうのはものすごく愛とかアイデアというものをセレブレートしていると思うんだ。
_バンドに関わるキーワードのようなものとして、「Death To Guetta」(ゲッタに死を)(1)という言葉があると聞いたのですが、それはどういう意味か教えてもらえますか?
T: 言葉としては文字通りの意味なんだけど、ひとつ面白い話があって。フランスのフェスでDavid Guettaと同じ日に共演したんだけど、僕たちは本当に彼が嫌いだったから、これは良いチャンスだと思ったんだ。そこで自分で「Death To Guetta」って胸元に書いてあるTシャツを作って、それをジャケットの下に着てライブをしたんだけど。
L: 曲のイントロのフレーズを僕が弾いてる時に、トムがそのジャケットを脱いだんだ。そしたらオーディエンスはそのTシャツを見てすごい盛り上がっちゃって。
T: でもローレンスは、その時は僕のTシャツじゃなくて、自分のフレーズで皆が盛り上がってるんだって勘違いしちゃってたんだよね(笑)。
_なるほど(笑)では、文字通りの意味というのは、現在ダンス・ミュージックの世界では絶大な影響力を誇っているDavid Guettaへの反発という意味でしょうか?
T: 最低で退屈なアーティストがあれだけお金を儲けていることが信じられないね。ああいった音楽はものすごく観客を見下している。分かりやすいものをやれば観客は喜ぶと彼らは思っているし、わざとバカにしているように感じるよ。
L: 自分はイギリスのすごく小さい町の出身だったから、クラブでかかるのはそういう商業的なエレクトロニック・ミュージックだけだったんだ。そんな音楽が全部だと思ってたから、最初は全然興味がなかったんだけど、自分たちの世代はそういったものしか聴くことが出来なかったからなんだ。何にもトライしていない音楽が今は人気があるから、他の面白い音楽を見つけられなかったっていう思いがある。僕たちはポップ・ミュージックを作ってるからこそ、ああいうシニカルなポップ・ミュージックを作ってる人たちが嫌いなんだ。見下してて、皮肉で、斜に構えたようなポップ・ミュージックを作っている人たちに対してはものすごく怒りを持っている。そういうものがポップ・ミュージックそのものを低めてしまうからね。
_では、あなたたちのポップ・ミュージックにとって、ダンスという要素は重要なものですか?
T: 普通に今は、聴いているものが皆そういう風にオーバーラップしているから、作る時も聴いているものに影響されて普通に混ざってくるとは思うよ。実際にそのふたつのジャンルが混ざり合っているのが、今の音楽的状況の傾向だから。
_では、<Kitsuné>と契約したのも、今までダンスとロックを深く結びつけてきた<Kitsuné>のレーベルとしてのスタンスが関係していますか?
T: 実際、ダンス・ミュージックのレーベルとしての<Kitsuné>というのは関係なかったと思うな。彼らについてものすごくリスペクトしている点は、レーベルとしてどんどん変化して、前に進んでいこうとするスピリットがあるところだから。例えば、今は新しいバンドとどんどん契約しようとしていて、Two Door Cinema Clubのようなバンドを抱えていたりする、そのスピリットに共感してる。あとは、(レーベルオーナーの)ジルダと、良い人間関係を結べたのが一番大きいと思う。バンドに対して、いろいろ注文したり、プレッシャーを与えてこないところも信頼してるしね。
_全くプレッシャーはなかった?
T: 実際にアルバムが完成するまで、スタジオに来ることすらなくてビックリしたくらいだからね。
_<Kitsuné>と契約を結んだ、具体的な経緯はどのようなものでしたか?
T: まず、結成後に自分たちが何をしたかというと、リハーサルもライブもやらず、とにかく曲を書いて、デモを録っていくということだった。それで、そのデモをいろんな人に送っていたんだけど、いきなりジルダから連絡があって、その内の1曲の「Let’s Go All The Way」を<Kitsuné>のコンピ(『Kitsuné Maison Compilation 11: The Indie-Dance Issue』)に入れたいんだって言われたんだ。それで可笑しかったのは、「いやいや、自分たちはバンドとしてもライブをやっていない状態で、バンド名すらないですし」って僕らが言うと、「いや、とにかく曲がいいからコンピに入れたい」って、ジルダは言ってくれたんだ。そういうわけだから、実際のコンピにはその曲だけ、バンド名は空白のままで入れてあるんだよ(笑)。
_それでは、Franz Ferdinandのアレックス・カプラノス氏と、今回のアルバムのレコーディングに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?
T: 最初は<Kitsuné>を通して知り合ったわけじゃなくて、彼とは共通の友人がいたから、さっき言ったデモをその友人を通して渡してもらって、それで知り合ったんだ。そもそも最初はちょっとした先輩として、いろいろ教えてくれる存在だったんだよね。それで、始めは友達みたいな感じでイーストロンドンのパブとかで飲みながら、誰がプロデューサーとしていいか、どのレーベルと契約すべきかみたいな話をしてたんだけれど、その頃同時にいろんなプロデューサーに会ってはいたんだ。
L: でも、シニカルなプロデューサーがすごく多くてね。今はレコードセールスがすごく落ちてるから、その人たちはとにかく最初のシングルをBBCのRadio1のトラックリストに載せないとダメだって言うんだ。それで俺に任せればそれは出来るって言うわけだけど、ただしそのためには自分たちのこだわりは捨てて、絶対自分に任せてくれって言うんだよ。それにはすごくムカついてね。それで、アレックスにそういうことを相談してたら、彼から自分がプロデュースしようかって話をしてくれたんだ。実際、彼がThe Cribsのプロデュースとか、もちろん自分のバンドでもいい仕事をしてたことは知ってたから、それで彼に頼んだんだよ。
_実際のレコーディングについても教えてください。
T: レコーディングはアレックスの家でやったんだ。最初はプリプロに2日、レコーディングに2日でチャチャッとやる予定だったんだけれど、実際やってみたら2か月もアレックスの家に5人で住むことになっちゃって。彼の家の食料を食べつくしちゃうくらい、長いレコーディングになっちゃったよ(笑)。
_まだまだ聞き足りないのですが、時間がきてしまいました。それでは最後の質問ですが、初来日の感想はどのようなものでしたか?
T: すごく良かったと思う。ギグの間はすごく盛り上がるのに、ライブの後に会ってみると皆丁寧で、失礼なことはしない人達だったからとても良かったよ。あとは、イギリスの観客よりもライブそのものをすごく楽しんでくれている感じがしたね。イギリスでは考えられないような、日曜の5時半に始まる昨日のようなライブ(2)でも、皆真剣に聴いてくれていたから。またすぐに戻ってきたいと思っているよ。
*注
(1) Guetta=David Guetta
(2) KITSUNÉ CLUB NIGHTに出演。2012年12月16日に渋谷Visionにて開催された。
取材:宮下瑠
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。得意分野は、洋楽・邦楽問わずアンダーグラウンドから最新インディーズまで。青山学院大学総合文化政策学部在籍。
Artist: シチズンズ!(Citizens!)
Title: ヒア・ウィ・アー (Here We Are)
Price: 初回限定スペシャル・プライス盤:¥2,100(PCDT-54) / 通常盤:¥2,415(PCDT-55)
Label: KITSUNÉ / P-Vine Records
<Tracklist>
1.True Romance
2.Reptile
3.Caroline
4.Love you more
5.Let’s Go all the Way
6.(I’m in love with your) Girlfriend
7.Nobody’s Fool
8.Monster
9.She said
10.I wouldn’t want to
11.Know Yourself
12.Caroline acoustic
13.Reptile acoutic
*M-12 & 13: bonus tracks for Japan