INTERVIEWSJuly/13/2016

[Interview]SHUREN the FIRE – “Collective Sounds”

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SHUREN the FIREの新作『Collective Sounds』がリリースされた。Fumitake Tamura (Bun)のレーベル〈TAMURA〉のオンラインショップのみで入手できるこのアルバムの初回分は、すでにソールドアウトとなっている。アルバムには、究極まで削ぎ落とされた音の断片が収集され、私たちを取り巻く社会の凝態を解体したもの、換言すれば、ミクロの領域のイメージ、痕跡、記号、ノイズなどが記録されている。かつて、若く才気あるラッパー、トラックメイカーとして知られたSHUREN the FIREであるが、2000年代半ばに表舞台での活動を休止している。今回、音楽家として、その復帰作となった今作について話を伺った。

__〈TAMURA〉の公式サイトの作品の解説に、2008年に制作した曲と2015年に制作した曲が含まれるとありますが、全体のコンセプトは、2008年にすでにできていたのでしょうか?

そうですね、できていたと思います。今回「Come Out」っていう曲が一番核になっているんですが、2006年とか2007年に、スティーヴ・ライヒ(1)の「Come Out」を聴いて衝撃を受けて。1曲目から5曲目までが当時作っていたもので、それ以外にも当時たくさん作っていて、だけどどれもいまいち納得がいかなくて。それで今回収録した5曲も当時はこれだけで曲として成立するとは思わなかったんです。当時はやっぱりラップとかメロディとかそういうものがないと成立しないと思っていたので未完だと思って置いておきました。その後一旦音楽活動をやめて、ずっと次の作品を出したいとは思いつつ、何を作ったらいいのかっていうのがわからずに、試行錯誤していました。一旦全部音源を処分したことがあって、その2008年当時の音源を僕自身はもう全部持っていなかったんですけど、自分のホームページに使っていた音源があったのを思い出して、2015年の秋ぐらいに、当時ホームページを作っていた友達に頼んでその音源を送ってもらって。それを聴き直してみたところ、今回の1から5曲目が今の感覚で納得できるものでした。この続きをやれば僕の歴史としても成立するし、このコンセプトでいけばアルバムとして納得できるものがつくれるだろうと閃きました。

__以前はラップ、ヒップホップというのが、表現の主だったと思いますが、現在のかたちに移行するきっかけなどはありますか? 例えば、環境の変化や心境の変化など。

それはすごくあって。現在、樹木の研究をしているのですが、恐らくそういう科学の研究といった経験が、今回のアルバムを作る上ですごく活きているのかなと思います。

__科学と音楽の接点、例えば、今作で科学から受けたインスピレーションはどのようなものですか?

僕が今やっているのは分子生物学というもので、植物の細胞内での遺伝子の発現などを日々調べています。そういうピンポイントで究極的に掘り下げていく姿勢というか。だから今回もダイナミックな変化をする曲じゃなくて、すごく限られた音で、ちょっとした間の長さの違いとか、そういうもので曲を構成しています。とても小さなところに着目しているので。

__なるほど。また、公式サイトの解説に記載がありましたが、森山大道(2)の展示の話があって、背反性というのをキーワードとして取り上げていました。これは、ご自身の中でどのような意味合いなのでしょうか?

今回、僕の考えた姿勢として、非常に加工の少ないものをつくろうと思いました。ライヒみたいに論理的に音楽を学んで論理的に構築しているわけではなくて、自分の好きな音を単に過去の録音物の中から拾ってきて、河原で石を拾うように、そのぐらい直感的に音を拾って、それをあまり加工せずに提示する。それが自分にとっての新しさ、この音楽とは言えないような音楽を音楽だと言い切るというところが、(自分の表現における)背反性ではないかと思いました。

__ありがとうございます。2008年の音源の鍵になるのが、「Come Out」だとして、2015年に制作した6曲目以降の新しい音源のなかで鍵となるのはどの曲でしょうか?

「Sound of River」と「Black」はそれぞれ違った作り方でそれ以外は共通しているので、3つのパターンが存在しています。それと最後の曲は、自分としてはエンドロールみたいな感じで考えています。なので、鍵となる曲はどれかということに関しては答えがありません。

__なるほど。そうなるとやはり「Come Out」がこのアルバムの中心にあるんですね。

そうですね。

__例えば、演劇だったり、映画だったり、他の何か実践芸術からの影響はこの作品の中にありますか?

恐らく、美術の影響が大きいと思います。例えば、高松次郎(3)。別にその人だけっていうわけではなく、例えばそのような作品を見たときに受ける印象で、僕は感動して、生きていてよかったっていう、そういうものを感じる時に至福の感情が生まれるんです。同じように、それらを自分は音で表現したいと、強い影響を受けています。

__今回はフォーマットで言えばCDですが、美術としての展示など、そういった展開は考えていますか。

できればやりたいと思っています。例えば、さっきの質問で言いたかったのは、音なんだけどモノとしてというか、モノに接したときと近い感覚で音に接しているということです。また、昨日も映像と音の組み合わせでライブをしたのですが、映像を見ながら音を聴いた人で、「こういうのはギャラリーみたいな空間で見たい」と言ってくれた人もいて、そういう空間でも(表現が)できたらと思います。

__ライブで流す映像はご自身でつくっているのですか?

そうですね、自分で山と川に行って撮りました。

__なるほど。また、今回のビジュアルイメージはどういったコンセプトで作ったのでしょうか?

ビジュアルは僕のアイデアではなくて、Bunさんとデザイナーの方の二人のアイデアです。アルバムの内容と合わせてすごくミニマルなものを作ろうという。それとBunさんが言っていたのは、モノとしても飾れるような美しいものをつくりたいということでした。

__次作の構想はありますか?

そうですね、もう3曲、4曲は作っていて。基本的には似たような路線で作っているんですけど、でも若干雰囲気は違っていて。もうちょっと生々しい感じというか、例えばライブでフルートを吹いていますけど、そういうのを加えたり。あとは、言葉を使うっていうのは難しいけど、もしちゃんとできるんであれば言葉を使ったり。そういう物語性とか、演劇的な広がりというか、そういうのを持たせたいと思っています。

__言葉の難しさ、というのは?

例えば詩を書きたいって思ったときに何を書くかっていうのはすごく難しくて。今の僕には納得のいく詩は書けなくて。書くんだったら、たぶん本当に意味のあるもの、ちゃんとしたものじゃないとやらない方がいいと思うので、今は納得のいくものを作れないというか。

__でもいずれ、そういう言葉を乗せたものを作品として作りたいと。

そう思っています。

(2016.7.3、東京・恵比寿にて)

→〈TAMURA〉主宰、Fumitake Tamura (Bun)によるレーベル公式インタビューはこちら(UPDATE:2016.7.16)

(1)ミニマルミュージックの先駆者。代表作は、「Come Out」(1966)、「Drumming」(1971)、「Double Sextet」(2007)など多数。
(2)日本の写真家。公式サイトでは、タカ・イシイギャラリーでの『Exhibition森山大道「写真よさようなら」』(2013)について触れている。
(3)日本の前衛美術家。60年代からハイレッド・センターの一員として活動。また、代表作に「影」、立体の「単体」「複合体」のシリーズなど。(1936-1998)

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■リリース情報
Artist: SHUREN the FIRE
Title: Collective Sounds
Format: CD
Release Date: 2016.06.15
Price: ¥2500(tax in)
Label: TAMURA
*TAMURA ONLINE STOREのみでの限定販売

1.3/22
2.Fun’ en
3.Come out
4.W
5.S t F
6.Railroad
7.Random
8.Noise
9.0000 blank
10.Clap
11.Stepping
12.Sound of river
13.Black

Mastering by KIMKEN( KIMKEN STUDIO )

インタビュー・文:T_L

アシスタント:千葉ゆりあ
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。ポップスをメインとした洋楽を得意とする。