- INTERVIEWSDecember/01/2015
[Interview]Dornik – “Dornik”
2013年、DisclosureやJessie Wareなど、UKシーンを牽引するアーティストが多数所属するレーベル〈PMR〉と契約を結んだ、ロンドン在住のシンガーソングライター/プロデューサー、Dornik。今年8月には、ファーストアルバム『Dornik』をリリース、そして今回、11月22日、23日に新木場STUDIO COASTにて行われたHostess Club Weekenderにて初来日公演を行った。かつて、Jessie Wareのバックバンドのドラマーとして活躍していたDornikだが、突如ステージのフロントでスポットライトを浴びて自身の歌を歌うようになり、何が変わったのか、あるいは変わらなかったのか。今回、アルバムのリリースを経て、海外のフェスティバルにも出演し始め、期待の新人として評価を得るようになった彼へインタビューを行った。
__まず、昨日のHostess Club Weekender についてお話を伺いたいと思います。ライブを楽しく見させていただいたのですがご自身ではいかがでしたか?
昨日のライブは僕もとても楽しかったよ。
__今回が初来日ということなのですが、日本でのライブやオーディエンスの雰囲気は他の国でのライブと比べてどのような印象を持ちましたか?
日本のオーディエンスのみんなはとても熱心に僕の曲を聴いてくれていると感じたから僕はそれが嬉しかったよ。伝わっているのがよく分かったので。
__差し支えなければお伺いしたいのですが、昨日のライブは45分間の予定だったはずが30分程で終わってしまったのは予定内のことだったのですか?
本当はアンコール込みでの演奏を予定していたから、それがあるかなと思っていたんだけど、うまくステージ上での打ち合わせができていなくて(注:実際には会場からはアンコールを求める手拍子がなっていた)。でも少し勿体つけて終わらせておいた方が、また日本に来て欲しいって思ってもらえるかもしれないからね。そう思ってもらうための僕の秘策ということにしておくよ。
__ありがとうございます、実際にライブパフォーマンスを拝見して、自らのルーツであると仰っていたMichael Jackson、Prince、D’Angeloといったアーティストに近い様な楽曲のキャッチーさやグルーヴ、またエンターテインメント性のあるライブパフォーマンスであると感じました。ご自身では、自分の楽曲やライブパフォーマンスについて、それは意識して自らのルーツに寄せたものなのか、それともあくまで自分のオリジナルとしてのものなのか、ご自身ではどのようにお考えなのかお聞きしたいです。
自分のオリジナルのものだなんて正直言えないよ。今名前が上がったアーティストが大好きだし尊敬もしている。僕から言わせれば今挙がった人たちは皆巨匠だし、Michael Jacksonなんて、大好きで研究したって自分で言える程ずっと聴いていたからね。でも、あらゆる面からそういったインスピレーションを受けて、そこから少しずつ自分の要素を取り込んでいるつもりだよ。
__デビュー当時から、The Guardianから「Michael JacksonへのUKからの返答」であったり、ご自身が元々バックバンドでドラムを叩いていたJessie Wareからも「Michael Jacksonを思わせる」と評されています。今後は誰かの模倣の様な表現ではなく自分の音楽としての承認を目指すとすればどのような進化を遂げるべきなのか、また現時点での自分の楽曲やパフォーマンスの武器はなんだと思いますか?
まず、Michael Jacksonの名前と自分の名前が同じ文章の中に書かれていること自体がとても光栄であると同時にすごく怖い。でもアーティストとしてやっていく以上は進化していかないといけないからね。自分がたくさん受けてきたアーティストの影響から自分の足で立たなければいけないし、その時期が丁度今なのかなとも思っている。それから先どうなっていくかが未来なのだけど、やっぱりどれだけ時間が経っても自分が受けてきた影響っていうのは根底にずっと残るものだとは思うから、それをどう変えていくかなんだよね。最初はMichael Jacksonだって、James BrownやJackie Wilsonからの影響を受けて、長年時間をかけてMichael Jacksonというものになっていったから、そういう進化を僕も遂げなければ、変わっていかなければならないなという意識は持っているよ。
__元々、Jessie Wareのバックバンドでドラムを叩いていたときに、趣味で自分で作っていた曲を彼女に認められ、彼女とデュエットをしたり自分がフロントに立って歌い始めるなど、音楽をやる環境もかなり変わったと思いますが、バックバンドでドラムを叩くことと、フロントで自分の歌を歌うことという立場の違いについてどう感じますか。
まず、隠れられないっていうのが一番の違いだね(笑)。ドラマーっていうのは常に人を陰で支えるという大事な役割があるけれど、ヴォーカルは人の前に出てフロントマンとしてバンドを引っ張らないといけないから、全く違う体験をしていると言えるね。でも、人前で歌うという部分で、やっと自分の立ち位置を見つけられたかなっていうところまでは来たのが今かなって思っている。
__元々フロントマンになりたいと思っていましたか?
なんとなく考えてみたことはあるよ。人前に立って歌うってどういうことなんだろう、皆は自分の曲を聞いてどう思うんだろう、とかね。でも実際にそれをやってみる自信はなくて、あくまでも自分の趣味のレベルに留めていたんだけれど。でも、自分の曲を人前で演奏したらどんな反応が返ってくるんだろうって考えていた時期は間違いなくあったね。
__Jessie Wareのバックバンドで演奏をしたこと、そこで自分の曲を認められたことで〈PMR〉に所属してデビューが決まり、今に至ると思うのですが、きっかけになったと言えるJessie Wareはあなたにとってどういう存在ですか?
彼女は僕にとってお姉ちゃん的な存在だよ。ついこの間も話をしたしね。僕の立ち位置は変わったけど、相変わらず仲良しだよ。ずっと連絡も取りあってるし、前と何も変わっていないかな。
__ありがとうございます。次はアルバムについてなんですが、まず今作のレコーディングエンジニアには、D’AngeloやErykah Badu、Commonのレコーディングにも携わったRussell Elevadoを、また総合プロデューサーにはMiguelやJill Scottの作品プロデュースも務めたAndrew “Pop” Wanselを起用されていますが、そのきっかけや理由があれば教えてください。
Russellに関しては、アルバム制作の作業をする1年前には出会っていたんだ。それは僕たちがJessieのバンドでニューヨークに行ったときに、同じくJessieのバンドでベーシストとして参加していたPino Palladinoも一緒にいたから、Jessieの父親であるJohn Wareを通じて、ニューヨークにあるRussellのレコーディングスタジオに遊びに行こうっていう話になったんだ。それで遊びに行ってみたらそこにD’Angeloもいて。で、そこで、Pinoがふざけて「僕たちも一緒に歌わせて」なんて話をしたことがあったんだ。その時はそれで終わったんだけど、僕がアルバムを作るにあたって、レコーディングエンジニアを探していたときに、せっかくそういった縁で知り合った中でもあるしRussellに頼んでみるかってレーベル側が提案してくれたんだ。だったらぜひやってもらいたいということでお願いしたんだ。そしたら彼も僕のことを覚えていてくれて、すごく楽しい作業になったよ。で、”Pop”(Andrew “Pop” Wansel)に関しては、名前を出してくれたのはレーベルなんだけど、彼の作る曲が僕は大好きだし、遊びでも良いから一度一緒に曲を作ってみたらどうかって提案してくれたんだ。それで彼のいるフィラデルフィアに僕が飛んで、その時に「Stand In Your Line」や「Chain Smoke」を一緒に書いたんだ。で、実は”Pop”と組んで書いた曲以外のものは結構古いものが多いから、そこで新鮮みや新しさも生まれたと思うし、違う人が絡んだことでまた違うエネルギーも生まれたんじゃないかと思っているよ。
__ありがとうございます。では次に、今作のタイトルをセルフタイトルにした理由等があれば教えてください。
うーん、特に深い意味は無いんだけどね(笑)。元々は『Dornik』か『Stand In Your Line』かで考えていたんだけど、自分の名前が少し変わっているし、この名前を覚えて欲しいっていう自己紹介的な意味も含めてこのタイトルにしたんだ。
__ご両親であるDorothyとNickを組み合わせた名前なんですよね。
うん、そうなんだ。でもね、だからこのアルバムは自己紹介であり、言ってしまえば僕の中ではただのイントロでしかないんだ。もっと皆に見せたい、聴かせたいものは沢山あるし、次の作品を作るのが楽しみで仕方が無いよ。このアルバムは古い曲が多くてね。しかも、昔のある時期に作った曲で言えば、その時期の自分を皆に紹介するという性格の作品だったと思うんだけれど、自分ではその時期から随分時間が経ってしまった様な気がしていて。その時から自分はかなり成長したと思っているから、今は次の作品に気持ちが行ってしまっているよ。
__ではもう次の作品の制作は始まっているのですか?
うん、構想は練っているよ。まだ楽器の演奏やメロディーを考えている程度だけどね。今はまだ中々時間がなくて、例えばスタジオでヴォーカルを入れてみるだとかの作業は出来ていないんだ。でも12月や来年の1月辺りはスタジオワークに精を出したいと思って今から楽しみにしているよ。
__歌詞を読んでいて、その歌詞の主人公や登場人物に、受け身、少し消極的であり、心の優しい男性像が浮かびました。以前他のインタビューで、物語を書くように曲を書いていると仰っていましたが、その物語の題材やテーマは自分の内面をさらけ出したものなのか、それともあくまでも架空のストーリーであるのかを教えてください。
自分の体験から書いたものもあるし、自分の友人や周りで起こったことを書くときもあるし、あるいは全くのフィクションで書いてしまうこともあるね。ただ、このアルバムに入っている曲を書いたのはまだ10代の終わりの頃だったから、発想としては幼い部分があったかなという気は、今思えばしてるかな。確かに、僕はどちらかと言えば静かに待っているタイプだったかもしれないな(笑)。でもそれから自分でも成長して変わったように思うから、これから書く歌詞はもっと主張があるものになるんじゃないかなって思ってるよ。
__ありがとうございます。曲やメロディー自体にも優しさや甘さを感じたのですが、その曲のイメージや元になったインスピレーションは曲と歌詞のどちらが先に形になって出来上がったものなのでしょうか。プレイヤーとしての作曲とシンガーソングライターとしての作曲では、曲に対する感情の込め方、アプローチが違うように感じます。バックバンドのドラマー、またプロデューサー業も行う傍ら、フロントで歌うシンガーソングライターでもあるご自身にとって、自分のつくる音楽はどのような効果をもっているのでしょうか。曲ありきでその上に歌詞を乗せているのか、歌詞ありきでそこに曲を合わせるのか、どのように曲を作っているのか教えてください。
音楽が先だね。でもソングライターとして成長してきているという自覚はあるよ。ただ僕は作曲に関して決まったメソッドを持っていないからどういう書き方もありだと思う。フロントに立って歌う立場になった今も、そもそもはミュージシャンだったという自分の立ち位置から考えると、先に出来た曲にふさわしい言葉を乗せるというやり方は変わらないかもしれないね。ただ歌詞としては、自分の実体験を題材にして書いていくことが増えるんじゃないかなと思っているよ。ファーストアルバムに関しては、ミュージシャンの立場から先に曲を作って、その曲の雰囲気がスムースな曲が多かったというところから、それに合わせた歌い方だったり、歌詞の内容もソフトなものが増えたっていう展開だったんじゃないかと思う。
__アルバムのアートワークも甘いコーラルピンクやオレンジにご自身の顔がブラウンで描かれていますが、これも作品の雰囲気に合わせて作られたものなのですか?
そうだね。収録曲の甘い雰囲気や、その甘さだけではない根底にあるブラックミュージックの音の太さや重さ、そこから感じるインスピレーションから、チームで話し合ってデザインしたものなんだ。
__ありがとうございます。次に、他のアーティストとのコラボレーションについてお聞きしたいと思います。トロント出身のジャズトリオであるBad Bad Not GoodやロンドンのプロデューサーであるKitoによる「Drive」のリミックスなども公開されていますが、ここの人選はどのような理由だったんですか?
どちらもレーベルが頼んだんだ。僕は出来上がったものを聴いただけなんだけど、どちらもすごく良くて嬉しかったよ。
__他に今後、コラボレーションしたいアーティストはいますか?
The Internetとも共演したいと思っていて、そういう話は本人たちとしているから実現する可能性はあるね。
__ありがとうございます。では最後に、今後の活動予定などを教えてください。
当分はスタジオワークとライブだけど、現時点ではスタジオに入って制作活動をしたくてたまらないよ。スタジオに入る時間が無くなると余計に制作作業をしたくなるけど、ライブもすごく楽しいし、どちらも僕には必要だね。
インタビュー・文:成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。
通訳:染谷和美
■リリース情報
Artist:Dornik(ドーニク)
Title:Dornik(ドーニク)
Release date:2015/10/23(金)
Label:PMR / Hostess
Price:2,100円+税
*日本盤はボーナストラック(4曲)、歌詞対訳、ライナーノーツ付
1. Strong
2. Blush
3. Stand In Your Line
4. Shadow
5. Second Thoughts
6. Mountain
7. Chain Smoke
8. Something About You
9. Drive
10. On My Mind
11. Rebound**
12. Drive (BadBadNotGood Remix)**
13. STAND IN YOUR LINE (JUNGLE’S EDIT)**
14. Drive (Kito Remix)**