- ARTIST:
監督・脚本:スチュアート・マードック/製作:バリー・メンデル/出演:エミリー・ブラウニング、オリー・アレクサンデル、ハンナ・マリー
- TITLE:
- God Help the Girl
- RELEASE DATE:
- 8/1より新宿シネマカリテほか全国順次公開
- LABEL:
- © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
- FIND IT AT:
- REVIEWSJuly/31/2015
[Review]”God Help the Girl”
Bell and Sebastianは1996年にスコットランド、グラスゴーにてスチュワート・マードックを中心に結成されたインディーポップバンドである。ファーストアルバム『Tigermilk』でデビューし、数多くの作品をUKチャートに送り込んだ。今年1月には4年ぶり、通算9作目となるニュー・アルバム『Girls in Peacetime Want to Dance』をリリースし、今年の「FUJI ROCK FESTIVAL ’15」にもヘッドライナーの一組として出演を果たしている。
そんなBelle and Sebastian のフロントマン、スチュワート・マードックが2009年にリリースした自身のソロアルバムを自ら脚本・監督を務め、映画化した『God Help the Girl』が8月1日より、全国順次公開となる。主演はエミリー・ブラウニング、オリー・アレクサンデル、ハンナ・マリー。
スチュワートが初の脚本・監督を務めた今作だが、映画製作に先んじてサウンド・トラックアルバム『God Help the Girl』が2009年にリリースされている。従って今作は、先に音楽イメージによって膨らませた世界観に、映像とストーリーがのせられるというミュージシャンならではの作品といえる。スチュワートの構想は2003年のある日、ある曲とともにミュージカル映画のイメージが膨らんだ時にさかのぼる。その3年後2006年に脚本を書き始め、リードボーカル探し、レコーディング、脚本制作、資金集め、キャスティングと撮影に至るまで長い年月を要したが、脚本の書き直しなど多くの困難があったようだ。それは、音楽やショートムービーとは違い、長編的な物語を構成することが彼にとって初めてであったからであろう。
アーティストとしてのスチュワートのこだわりは映画のあちこちに垣間見ることができる。例えば、Belle and Sebastian初期から影響を受けていたとされるThe Smithsや同郷グラスゴー出身のThe Pastelsの小ネタが散りばめられている点、また、本人の希望により、映像は16mmフィルムで撮影されている。淡くも鮮やかな色彩によりデジタル映像とは一味違った映像はBell and Sebastianにおけるミュージックビデオと共通するスチュワートの世界観である。また、映像表現のみならず、劇中におけるインテリアや1950〜70年代風の衣装の数々は、ゴダールやトリュフォーといったヌーヴェルヴァーグ時代の映画へのオマージュと言えるだろう。今作における音楽とともに表現される映像世界は、Bell and Sebastianアルバム『Girls in Peacetime Want to Dance』収録曲「The Party Line」のミュージックビデオを彷彿とさせる。このミュージックビデオはカナダのプロダクション・チーム「Leblanc + Cudmore」が手掛けている。
ところで、ジェームズ役としてキャスティングされたオリー・アレクサンデルは俳優以外にも、Years & Yearsのヴォーカリストとしても活動している。シングル「King」が「BBC Sound of 2015」の1位を獲得し、〈Universal Music〉から今年7月に日本デビューを果たしている。彼らは注目の若手アーティストとされるが、グループ結成までの道程は映画内でのジェームズとも類似している。ベーシストのマイキーは、Years & Years結成以前に自身のバンドに入りたいというオリーの申し出を断ったそうだが、その後自身の家で開いたパーティ後にオリーがシャワー中に歌うのを聞いてすぐに心変わりしたそうだ(*1)。イヴとジェームズ(オリー)がライブ会場で出会ったような偶然性や、イヴの音楽に惹き付けられるように、オリーの歌声にも人を魅了する何かがあったということ、強い個性が必要とされるジェームズ役へのキャスティングは、まさにオリー本人にぴったりだったのだ。
また、『エンジェル・ウォーズ』(2011)、『スリーピング・ビューティー/禁断の悦び』(2011)、『ポンペイ』(2014)などインディ映画からハリウッドまで幅広く活躍する若手女優、今作でイヴ役を務めるエミリー・ブラウニングはYears & Yearsのファーストアルバム『Communion』 の収録曲「Take Shelter」のミュージックビデオにも出演している。
才能豊かな若手俳優陣によってより一層見応えのある今作だが、アルバム制作から撮影に至るまでのここまでの長い年月と労力をかけ、完成させたスチュワートの想いは何なのだろうか。彼は大学在学中の20代前半から慢性疲労症候群という病にかかり、7年間もの間実家で闘病生活を送っていた。病気を克服し、Belle and Sebastianを結成することとなるが、この孤独であった年月によって彼はソングライターとなったという。デビュー前のこの決定的な経歴は、孤独な病院生活から音楽を通して外界へと飛び出して行く主人公イヴの姿と重なる。足踏みをしても、閉じこもっているのではなく、勇気を持って一歩踏み出し、好きな音楽を求めた彼の人生そのものなのだ。そして最後に、プロデューサーを務めたバリー・メンデルが、本作について語ったコメントを引用したい。
“これはシンプルな物語なんだ。夢が仕事になる前の、やる気に満ち溢れ、似たような考えを持った友人に出会い、可能性が無限大の時に自分の人生で何がやりたいのか気付いた、一瞬のことなんだ” (*2)
註:
*1…Universal Music Japan公式サイトより (http://www.universal-music.co.jp/years-and-years)
*2…God Help the Girl公式サイトより(海外版)(http://www.godhelpthegirl.com/about/)
参考文献
God Help the Girl公式サイト (http://www.godhelpthegirl.club/index.php)
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。主にアート、映画分野を得意とする。青山学院大学総合文化政策学部在籍