- REVIEWSNovember/15/2012
【Review】DJ Fumiya | Beats For Daddy
アルバムへの参加アーティストが発表された時に、参加アーティストの名前だけでこれだけワクワクできるものかと期待に胸を膨らませていたが、DJ Fumiyaのファースト・ソロ・アルバム『Beats For Daddy』はそんな期待を裏切らない最高のパーティー・アルバムだ。ご存知RIP SLYMEのメンバーとして数々のヒット曲を世に送り出し続けるDJ Fumiyaだが、意外なことに約2年半前に自身の曲を何曲か挟んだMIX CD『DJ FUMIYA IN THE MIX』をリリースしているものの、ソロ・アルバムとしてのリリースは今回が初めてとなる。
今作は『Beats For Daddy』というタイトルそのままに、父親となったDJ Fumiyaが自分と同じ父親という立場にいるような世代に向けた音楽というコンセプトで制作されたそうだが、最近よくあるアラサーに同情して媚を売るようなアラサー賛歌ではない。30代になってもリア充していて、なおかついい塩梅が分かっている大人たちが作ったアルバムなのである。このように書くと嫌味っぽくなってしまうが、この「チャラそうでチャラくない少しチャラい」という絶妙な感じがこのアルバムの魅力であるし、さらに言えば本隊であるRIP SLYMEが老若男女問わず多くの人に愛され続ける理由なのではないかと思う。
そんな本作『Beats For Daddy』は、アルバムの始まりを感じさせるワルツ調のトラック「Voice For Daddy」からスタートする。「Voice For Daddy」という曲名でワルツ調。超有名ジャズピアニストの名曲を連想させるユーモアにいきなり痺れまくりである。その後は、PVが公開されていた「JYANAI? feat.鎮座DOPENESS 」をはじめ、RHYMESTER、RYO-Z、森三中の黒沢かずこ(!)など、個性豊かなアーティストたちが参加した楽曲が並ぶ。
ラッパー、ロック歌手、お笑い芸人といった様々なジャンルのアーティストを起用していながらどの楽曲もそのアーティストの魅力を引き出し、なおかつDJ Fumiyaの色が出ていて、彼の柔軟性や遊び心、そして表に出過ぎないけれど、決して失われない存在感がアルバムを通して感じられる。つまり、J-POPとしてRIP SLYMEを聴いている人たちから、うるさ系の音楽ファンまで文句なしに踊れて、笑えて盛り上がることができるのだ。
人気グループのメンバー(特にトラックメイカーやソングライター)がソロ・アルバムを出す時は、大抵その人のマニアックな面や、パーソナルな部分を掘り下げた作品になることが多いが、このアルバムにそういった趣はない。RIP SLYME本隊の活動を見ても、彼がRIP SLYMEの楽曲を自分のやりたいことを押し殺して大衆向けに作っているようにも思えない。つまり、彼は本作でもRIP SLYMEでもやりたいことをやっているのだと思う。やりたいことと世間が求めているものが一致しているというのはとても幸せであると思うが、それは、偶々そうなっている訳ではない。このアルバムのように、面白いことはどんどんジャンル関係無しに取り入れてながら、自分の色を失わないという柔軟さとストイックさという二つの相反する要素を高い次元で維持し続けているからこそなせる技なのだ。
文句なしに盛り上がれる大人のパーティー・アルバムとしてこれから様々な場所で流れることを予感させるアルバムであると同時に、ヒップホップ・シーン、J-POPシーン両方でトップを走り続けるグループのトラックメイカーの凄みを見せつけられたアルバムであった。