ARTIST:

submerse

TITLE:
Slow Waves
RELEASE DATE:
2014/7/16
LABEL:
flau / Project Mooncircle
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSJuly/26/2014

【Review】submerse | Slow Waves

 UKのプロデューサーsubmerseの初のフルアルバムとなる『Slow Waves』は、約1年半に及ぶ日本滞在を終え、その後本国イギリスで1年の熟成期間を経て〈flau〉(海外は〈Project Mooncircle〉)よりリリースされた。過去に東京のインターネットレーベルである〈Maltine Records〉から『Gundam EP』や『Soul Gem』、『Agepoyo E.P.』などをリリースしていることを考えても、本作が日本滞在時の影響を大いに受けているであろうことは想像できる。日本のカルチャーに造詣が深くちょっぴりオタクな彼に、日本、というより東京という街はどう写ったのだろうか。

 『Slow Waves』はそのタイトルやアルバムジャケットが表象するように、全体を通してアンビエントな空気感を漂わせるダウンテンポな作風となっている。アルバムはM1「Let’s Never Come Back Here Again」から始まり、消え入ってしまいそうな美麗な旋律が散りばめられたノイズのざらつきと重なって醸し出すその涼しげなゆらぎは、今後の展開を期待させるイントロダクションの役割を果たす。子供たちのはしゃぎ声のサンプリングが絶妙なラグ感のあるビートからさりげなく顔をのぞかせるM2「math.」やM3「Snorlax」は、この真夏の時期の哀愁を余計に誘い、M4「VHS.chords」に代表される歯切れのよいジャリッとした質感のビートが、ある意味無駄のない洗練されたアルバム展開に微かな抑揚を生む。M6「Cut From The Team」の、繊細で、かつ厭らしくないノイズの清涼感に一時の休息を味わい、この辺りでアルバムの構成がまさにタイトル通り、ゆっくりと押し寄せる波のような微かな起伏のある展開になっていることに気がつく。M4「VHS.chords」やM10「Tapes」などにみられる歯切れのよいビートが彼の音楽性に幅を持たせ、M2「math.」、M3「Snorlax」、アルバム終盤のM11「Struck Out」、M12「Sayz U」にみられる友人同士の些細な会話、駅のアナウンスなどのサンプリングが日常を作品の中に漂わせる。そういった微妙な音の質感やサンプリングのセンスが、淡々と、かつ美麗な世界観を絶妙に演出しており、過ぎ去る時間が憎いほどに、本作には都会に見るオアシス的なものとしての羨望の眼差しを向けてしまう。

 きっと彼が日本滞在中に東京という絶えず渦巻く街で見たものは、都会の焦燥感ではなかったのだろうか。『Slow Waves』は、日常に埋もれる……というよりも沈水してしまった些細な事の切れ端を繋ぎ合わせた脆弱な世界がひとつの音像として表現されており、そこには瞬きをしている間に消え去ってしまう刹那的な情景が丁寧に紡ぎ出されている。それはさざ波の煌きのように点在する記憶であり、彼の世界観に触れることで、都会の喧騒の中からスロウなワンシーンが不意に顔をのぞかせる。例えば雨上がりに水たまりが切り取る逆さの風景だとか、消えかけの煙草の吸い殻、深夜に長いこと聞こえるトラックの遠い音……。

 いつものように雑踏とする大学のキャンパスを足早に抜け、照りつける太陽にシャツを湿らせ、人で溢れかえる渋谷駅へ向かう。1時時間ちょっとかけて帰宅し、カーテンを締め切りクーラーの効いた自室で『Slow Waves』とふと向き合った時に、そういったワンシーンは ”Let’s Never Come Back Here Again” ではないが、二度と戻ってこないものなのではないかと、私をドキリとさせる。

文・渡邊竜成
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍。2.5Dにインターンとして勤務、日々勉強中。