- REVIEWSOctober/22/2012
【Review】MMOTHS | Mmoths
Four TetやGold Pandaなどの影響を感じさせる浮遊感のあるメロディにエレクトロビートが融合した音楽性で話題となっている、チルウェイブ、ウィッチハウス以降の若手注目ビートメイカー。
アイルランド出身、18歳のプロデューサー、Jack Colleranによるソロ・プロジェクトであるMMOTHSは多くの媒体でこのような紹介をされている。猫も杓子もチルウェイヴ状態のシーンにおいてこのキャッチコピーはあまりに使い古されていてもううんざりだと思う人も多いと思うが、このデビューEPにボーナス・トラックを追加した日本限定アルバムを聴いてもらえれば、MMOTHSというアーティストが玉石混淆のシーンのなかで頭ひとつ抜けているアーティストだということが分かるだろう。
このアルバムは前半5曲がデビューEP、後半4曲がボーナス・トラックという構成になっている。前半のデビューEPでは幾層にも重なったリヴァーブがかったシンセビートの曲が並ぶ。しかし、MMOTHSがつくりだすトラックはよくある感傷的でナイーブなものとは明らかに一線を画している。それは恐らく徹底的に研ぎ澄まされたシンプルなメロディと、変に感情を煽ったりしない反復されるミニマルなビートによるものである。どの曲も美しいメロディではあるが、聴くものを突き放すかのようなミニマルなビートが繰り返され、独特の高揚感があるのだが、ヴォーカルをフィーチャーした2曲は特に目を見張るものがある。LAのバンドSuperhumanoidをフィーチャーした「Summer」、Keep Shelly In Athensの女性ボーカルであるSarah Pを迎えた「Heart」がその2曲であるが、どちらも囁くようなボーカルがうまく楽曲の持つ美しいメロディを引き立てている。特に「Heart」は(個人的にKeep Shelly In Athensが好きということもあるのだが)、徹底的に洗練されたトラックとそれを引き立てるヴォーカルが相乗効果を生み出していて、ここ数年のビートミュージックの一つの到達点であると言ってもいいような楽曲になっている。
後半のボーナス・トラックは前半よりもビートが効いている楽曲が多く、前半部分を夢見心地で聴いていると急に低音のビートが入ってきてびっくりするのだが、今度は、サンプリングセンスが光るNu Disco的なアプローチの楽曲が並ぶ。この後半のボーナス・トラックを聴くとMMOTHSがロックではなくクラブミュージック的な視点から楽曲を創っていることがわかってくる。つまり前半のあの独特の緊張感がありながら美しい楽曲は、大げさな展開やメロディではなく、あくまでビートの繰り返しによって得られる快感に重点を置くというクラブミュージックマナーに則ったものなのである。
18歳であるということはパソコンで誰もが音楽を制作できる現在において特別若いとはもはや言えない。しかし、この年齢でこれほど洗練された楽曲をつくりだすという感性とバランス感覚は、これから音楽シーン全体に影響を及ぼしてゆく可能性を秘めているのではないだろうか。
文: 豊田諭志
1990年生まれ、大阪出身。UNCANNY編集部員。青山学院大学音楽芸術研究部部長。