ARTIST:

Traxman

TITLE:
Da Mind Of Traxman Vol.2
RELEASE DATE:
2014/5/22
LABEL:
melting bot / Planet Mu
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSMay/29/2014

【Review】Traxman | Da Mind Of Traxman Vol.2

 Juke/Footwork界の顔でもあるTraxmanが新作『Da Mind Of Traxman Vol.2』をリリースした。デビューアルバムのVol.1と同じく〈Planet Mu〉からのリリースだ。Juke/ Footworkは、あくまでもゲットーハウス、シカゴハウスの延長線上にできた音楽との認識が高いものの、近年急速に成長したジャンルの一つである。デビューアルバムでもある前作のVol.1は、シカゴフットワークの成長に一役買ったといっても過言ではない完成度で、リスナーはそのスピード感とアブストラクトでハウスライクなビートに酔いしれた。彼は間違いなくJuke/Footwork界のトップDJ、プロデューサーとしてシーンを引っ張ってきた。本人も自分のスタイルを「ファンキーで、ソウルフルで少しのエキセントリック」と言っているように、ソウルやファンクのテイストの方を好んでサンプリングするなど、彼の作品はすべて、DJとして光るセンスと音の調合実験の楽しさで溢れている。

 日本では、2012年に来日した際に出演したDommuneでのプレイがひとつのブレイク・ポイントとなった。また、国内では、関西のアーティストDJ Fulltonoが国内でいち早くFootworkのカルチャーをキャッチし、日本で音楽レーベル〈Booty Tune〉を立ち上げるなどして活躍している。しかし、まだ国内では確立されたジャンルではないということもあり、Juke/ Footworkはその後様々な変化を見せ、その柔軟性と異端な音のとり方は、特に日本のネットレーベル系のトラックメーカーから好まれ、他のTrapやDubstep等と共に、まるで複雑なパズルのように組み合わせられた。ベースミュージックが盛り上がっているのも相まって、新鮮なサウンドとして裾野を広げていき、ガラパゴス的な独特のジュークを生む結果となった。しかし、どこまでも深く追求できるその底なしのサウンドでもあるために、再びアンダーグラウンドに潜ってしまい、もはや呼吸が続く者のみの世界になりつつあるようも感じられる。

 Juke/Footworkは元来、治安の悪いゲットーな地域で栄えた音楽だ。高速に足を動かすダンスバトルの中で生まれた音楽で、ダンスを含めたカルチャーでもあり、それなしで語ることはできない。その上で、クラブ向けのJuke、ダンス向けのFootworkという風に意味合いが少し変わってくるようになっていった。Traxmanをどちらかに定義するとしたら、Jukeであろう。もう一人シーンを代表するRP Booは同じく〈Planet Mu〉からアルバムをリリースしているが、Footworkの意味合いの強いトラックが並んでいる。また、このカルチャー特有のストリートの泥臭さというものが、薄まってきており、全体的に本来のJuke/Footworkとの乖離現象が始まっている。日本では音の解体や混合が進みすぎ、Juke単体よりベースミュージック内での音の融合が進んでいる印象がある。

 そんな迷子になってしまったJukeを見越しているかのようにTraxmanは今作を発表した。前作と比べ、全体が整頓され、より音の芯の部分が強化されており、さらに歌ものやネタ使いとの構成に重点をおくなど丁寧な仕上がりを見せている。アルバムは全18曲で構成され、最大のヒットでもある「Blow You Whistle」のリミックスも含まれている。「Nothing Stays The Same」はある種レゲエのエッセンスを含み、Jukeでは意外と盲点であった女性ヴォーカルが曲を導いている。全体的にメロディアスなサウンドが多いものの、「Computer Getto」や「Bubbles」ではアルバム中盤でJukeの勢いと融和性の良さを活かした、ミニマルなサウンドのトラックになっている。それでも、重低音とのバランスをしっかり保っており、Traxmanらしい安定感が抜群に発揮されている。今作は、もし聴き手が何か特別目立つトラックを期待していたとすれば、少し残念かもしれない。「The Architek LP for Teklife」でも、指向の変化を示すような音が見え隠れはしていたが、それよりも、さらに地盤を固めにきた意味合いの強いものになっており、それがタイトル通り、Traxmanの現在のマインド(=精神、意識)なのだろう。

 Juke/Footworkというサウンドに責任を持ちつつも、その可能性は潰さないというプロの仕事ぶりが垣間みられ、断固としたTraxmanのスタイルを貫いている今作。それは、トップに立つからこその責任とシーンの先頭に立って切り込んでいく意志の強さが込められている上に、Juke/Footworkを再定義し、さらに発展させる上で最大の鍵となる作品として位置づけられると言えるのではないだろうか。

文・竹富理紗
2014年度青山学院大学音楽藝術研究部部長。幼少期をアメリカで過ごし、現在大学生活を送る傍ら、Lisandwich名義で、毎月第一火曜日、DJイベント「sheep」を主催するなど、DJ、オーガナイザーとしても活動中。