- ARTIST:
Teebs
- TITLE:
- E s t a r a
- RELEASE DATE:
- 2014/3/29
- LABEL:
- Brainfeeder / Beat records
- FIND IT AT:
- Amazon
- REVIEWSApril/15/2014
【Review】Teebs | E s t a r a
Teebsは、カリフォルニアを拠点とするプロデューサーであり、ペインターであり、そしてスケーターである。2010年にFlying Lotusのレーベル〈Brainfeeder〉より、ファースト・アルバム『Ardour』を、続く2011年には、制作した楽曲の“コレクション”という意味で作品集『Collections 01』をリリースしている。そして、2014年、数々のコラボレーションやライブ活動で日増しに評価を高める中、満を持してセカンド・アルバムとなる本作『E s t a r a』をリリースした。
本作のタイトルである『E s t a r a』とは、スペイン語であり、英語ではto beを意味すると言う。その真意について、Teebsは『EARMILK』のインタビューの中で以下のように答えている。
“It applies to more to a state of being, the feeling of understanding where you are, where you were, where you want to be, physically or mentally. I want listeners to grasp those feelings with a record like this.”
(それは、存在状態、つまり、肉体的にも精神的にも、あなたがどこにいるのか、どこにいたのか、どこにいたいのかを理解する感覚を問いている。私は、聴き手に、このようにレコードと一緒にそれらの感覚を掴んで欲しいんだ。)
Teebsがそのような意味を込めた『E s t a r a』は、「The Endless」というタイトルの曲から始まる。その「終わりなき」というタイトルの曲は、Teebsが以前から評される暖かみと美しさを持つイントロダクション的なトラックで、それは次の「View Point」へと続き、本アルバムはその幕を開ける。3曲目の「Holiday」は、〈Stones Throw〉からJontiを迎え、さらに楽園のような世界へと聴き手の想像を広げていく。続いて、「Shoouss Lullaby」「SOTM」、そして、〈Morr Music〉からのリリースで知られるPopulousを迎えた「Hi Hat」と、まさに2000年前後のエレクトロニカ・サウンド、あるいはポストロックのリヴァイヴァルとも言えるようなサウンドが展開されていき、続く「NY pt 1」では、オーガニックなサウンドへと緩やかに変わっていく。そしてさらに続く「Piano Days」「Piano Months」の遠くから鳴るピアノの音では、その音像から何処か記憶が曖昧な色褪せた過去を想起させられる。10曲目のPrefuse 73との共演作「NY pt 2」では、また現在へと引き戻される感覚を覚え、この前曲からの一連の流れは、Prefuse 73の別名儀でもあるSavath & Savalasの〈Warp〉から2000年にリリースされたアルバム『Folk Songs For Trains, Trees And Honey』へのオマージュのようにも聴こえる。最後に、「Mondaze」、そしてLars Horntvethを迎えた「Wavxxes」では、Teebsが聴き手に伝えたいところの未来をイメージさせるような新たな展開となっており、およそ40分のアルバムは幕を閉じる。
こうして聴くと、確かにこのアルバムは、その全体にある音の優しさや抑揚から、内省的な印象を与えることに成功している。それは、そこら中に蔓延している安っぽい癒し系の音楽とは完全に異なっており、確かにTeebsは、まるで一度時間を止めて、それぞれの〈私〉から見える「未来」「現在」「過去」を考えることを促しているようだ。この〈私〉が〈我々〉になると、内省的な要素は消え去り、その意味合いは全く異なってくる。そしてこのアルバムが、現代のインターネットが覆うような世界観とはまるで真逆のように感じるのは、その時間の捉え方と、(この場合は)一般意志のような不特定多数の無数の〈我々〉ではなく、あくまでそれぞれの〈私〉から見える世界をTeebsが示しているからかも知れない。”E s t a r a”というそのタイトルもまた、文字と文字の間に空間(隙間)が存在している。それはまるで、「あまり急ぎ過ぎることはない」と、Teebsが私たちに語りかけているようでもあるのだ。
文:T_L
UNCANNY編集部員。主にプルーフリーディング、その他雑務全般を担当。