INTERVIEWSMarch/15/2014

【Interview】Eadonmm(イードン) – “Aqonis”

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 今年1月、関西の音楽シーンにおいて最先端をひた走る〈Day Tripper Records〉より、大阪のアーティストEadonmmによるファースト・フルアルバム『Aqonis』がリリースされた。白い霧のかかった森の中を黙々と歩き続けるような内向的なドローンサウンドに、厳かなボイスサンプルが降り注ぐ。歩みを続けるその足元は、シンプルでありながら決してリズムを見失うことのないビートで固められている。アブストラクトな音像と力強いビートミュージックを結びつける彼の音楽観は、Burialのような煙たいUKダブステップサウンド、そして、その成り立ち自身に宗教的な世界観が見え隠れするウィッチハウスというサウンドと結び付いて鳴り響く。今作がEadonmmのファースト・アルバムであるにも関わらず、抽象的なサウンドを駆使して目の前に風景が立ち現れるような強い具体性を描く彼のサウンドは、既に極めて高い水準に到達していると言える。

 自らのトラック制作だけではなく、イベント<IdleMoments>を主催し、現場という一つの概念の新しい形を見つめ続けているEadonmm。今回は、アルバムの事、そして彼の構築する世界観について話を伺った。

_Eadonmm氏の音楽のルーツを教えて下さい。

 大きく分けて2つあります、まず直接サウンドに関わっている部分ではダブ/レゲエの影響が強いと思います。パンクを好んで聴いていた時期があって、Bad BrainsやThe Clashなど色々聴いて行くとレゲエやダブに辿り着きました。初めてリー・ペリーの『Super Ape』を聴いた時の衝撃は今でも鮮明に覚えていますね。その後、sunsui(現在のConpass)やNOONといった大阪のクラブ、パーティーでいえば<Zettai-mu>などに遊びに行くようになり、そこで最高音響を始めサウンドシステムといったものを体験しました。特にNOONでのサウンドは、「扇風機付けてるんじゃないか!?」というぐらい凄まじい音と風圧で(笑)、この原体験が自分の中でパーティーの1つの基準になっている気がします。

 もう1つはサイケデリック・ミュージックですね。感覚的には近しい部分はありますが聴くに至った経緯が違います。2000年代の始めにガレージリバイバルという60年代の音楽を再解釈するのが流行っていて、当時ビートルズなどのクラシックロックが大好きな僕はその中でもThe Coralというバンドがお気に入りでした。サウンド的には初期ビーフハート+The La’sみたいな感じなんですけど。そこからルーツを掘るようにアシッドフォーク、フリージャズ、デルタブルース、ガレージサイケ、民族音楽、シュルレアリスム、幻想文学とか色々見たり聴いたりして。その後にフリーフォークからブルックリンのアヴァン・ポップ勢、ゼロ世代やボアダムズ周辺にベルウッドとかURCあたりの日本の音楽も好んで聴いていました。現在の活動に関わってくるエレクトロニカやテクノとかを聴くのはその後になりますね。

_ Eadonmm氏のサウンドはしばしばWitchhouse(ウィッチハウス)というジャンルと関連して語られる事が多いですが、Eadonmm氏にとってWitchhouseとはどういう音楽であると考えていますか。

 んー難しいですね…。信仰というのも仰々しいですし、最も好きなジャンルということで。

_今年1月にリリースされたアルバム『Aqonis』は、深みがかった音響処理によって現れる陰鬱な世界観と、『Aqonis』自体のアートワークのようなぼやけた輪郭が特徴的なサウンドでした。このアルバムのコンセプトはどのようなものだったのでしょうか。

 ちょっと意外かもしれませんが、伝わり易さという面をかなり意識して制作しました。というのも実はこのアルバム、始めに完成したものはレーベルとしても自分としても100%満足いくものではなくて、仮段階のものが出来上がってからプレスする最終の音源としてOKが出せるまでかなり時間がかかったんです。伝わり辛いというか聴きにくい印象があったので、音源をレーベルメイトみんなに聴いてもらって感想やアドバイスを貰いつつ、それをフィードバックさせ作り直していたら結局全曲を作り直して全く新しい作品になったという(笑)、それがこのアルバムです。とにかく沢山の時間を掛けたので思い入れが深いですね。

 あとこれは他のインタビューでも答えてるんですが、タイトルがラテン語を組み合わせた造語で『水』を表しています。物理的なものというよりかは悔悛、洗礼、再生など宗教的な象徴として用いています。もっというと、大学で神学を学んでいたのでそこから得たものを最初のアルバムに結実させたかった、というのが大きな理由です。なのでサウンドは最近のビートミュージックを参考にしていますが、全体的には宗教音楽が持つようなムードを出せるように意識しているところがあります。

_Eadonmm氏のサウンドは、何からインスピレーションを受けて生まれますか。

 自然や超越的存在への憧れ。 あとは友人の音楽。

_〈Day Tripper Records〉をはじめとする関西の音楽シーンは非常に活発で、以前UNCANNYでも特集したMadeggやSeiho等、様々なアーティストが登場しています。そういった関西のシーンにはどのような特徴があると考えていますか。

 自由に音楽を楽しめる雰囲気があると思います。各々の作る音楽はバラバラですが、アーティストの数も少ない分同じイベントに出たりすることもよくあって。だから自分が作る音楽以外の音楽からも自然と影響を受けていて、それが上手い具合にクロスオーバーして多様性を生んでいるのかなとは思います。

_Eadonmm氏は、<IdleMoments>を主催し、過去に様々なイベントを開催しています。<IdleMoments>は、「音×映像×メディア×アート、あらゆる観点から音楽/2010年代以降のカルチャーの可能性を追求し、ジャンルを越えて楽しめるシームレスな環境/空間を提供(公式サイトより)」することをコンセプトとしていますが、例えば、過去にはどのような試みに挑戦しましたか。

 そもそも始めた動機が観に行きたいパーティーがないから自分で作ってしまおうという理由と、東京のシーンに対してのプレゼンテーション的な意味と2つありました。東京でTMUGが企画しているBRDGというイベントやOut Of Dotsなどをネットで知り衝撃を受けて自分もこんなイベントをしたいと。 そこで、当時nu thingsを中心に集まっていた共感する人たちを呼んでイベントを始めました、具体的には、Seiho、Metome、kezzardrix、[.que]、Madegg、ILYAの面々、Route09、endleapssの藤本さんなど沢山います。初回公演にDUB-Russellを呼んでそこからkezzardrixがMVを手掛けたり、Seiho、Metomeと+MUSからのリリースに繋がったことは僕たちにとって非常に大きな意味がありましたね。

 それと、ありきたりかもしれませんがモットーとして同じことは繰り返さないというのがあって。 だから、オーガナイザーの自分を除いて、レジデンツが居ないというのはこのパーティーの大きな特徴かもしれません。 私自身、昔は1人でよくパーティーに繰り出しては知り合いもおらずメインが終わる3時くらいになると 居場所も無くなってそそくさと帰るような客だったので(笑)、その経験を生かし身内ノリになりすぎず、いつ来ても新鮮で音楽が中心にあるような場にしたいと思っていました。 この緊張感が好きですし、あえて言いませんがアーティスト側にもきっと伝わっているのかなと思っています。

 音楽以外に映像にも力を入れていて、VJを多く起用する(多い時で8人)こともあれば、先日Mark Fellが出演したACDCギャラリーでの公演のように、会場全体にヴィジュアルインスタレーションを展開したり、あとは1週間ギャラリーを借りて展示とパフォーマンス、フリーイベント、UST中継を行ったり毎回会場を変えたり。 去年9月には関西で勢いのある2つのパーティー<WEMAKE>と<Bug Party>とのコラボイベントを行いました。

 このように毎回趣向を変えつつ様々な起点のハブとなって、規模ではなく意識的な意味で大きな枠組みのコミュニティを作れればなとは常々思っています。

_また、3月16日には、広島Cafe JAMAICAにて、Eadonmm氏が主催されている<IdleMoments>とレーベル〈BeatsForDawn〉とのコラボレーション・イベントが開催されます。〈BeatsForDawn〉は、過去に音楽が再生できる缶バッジ「PLAYBUTTON」を利用したコンピレーション・アルバムを制作する等、独自の活動を行ってきています。今回、どのようなきっかけでイベントを開催する運びとなったのでしょうか。

 そうですね、きっかけとしては去年京都メトロで3月に行った<IdleMoments>に、〈BeatsForDawn〉主宰のせまさんが遊びに来てくれて、その後にイベントを広島でしないかと声を掛けて頂いたのが始まりです。以前から私も関西以外で公演を行いたいと考えていましたし、それに広島のシーンに興味があったのでお互い良いタイミングで実現出来たんではないかと思います。ビートメイカーやCRZKNYさんのようなジュークにも合うように、関西からはSeiho、Ryuei Kotoge、doopiioといったビート中心のアーティストを選びました。殆どのメンバーが初めてなのでとても楽しみにしています。

_アルバムリリース以降は、どのような展開を考えていますか。

 <IdleMoments>としては、4/14にCircusで大阪公演、そして4/27に名古屋のBLUEiCEというパーティーとMetomeと私の新作リリパを兼ねたコラボイベントを行います。

 個人の活動として、勿論関西もですが、今年は東京やそれ以外の場所でも機会があれば積極的にライブしに行きたいと思っています。 それと今年はもう何作品かリリースする予定で、 まだあまり詳しくは言えませんが、sima kimという韓国出身のアーティストとスプリットアルバムをリリースする予定です。 過去作品のリイシューと完全新作をリリース予定で、現在鋭意制作中といったところです。 近々正式にお知らせ出来るかと思いますので、楽しみにして頂けると嬉しいです。

インタビュー・文:和田瑞生

1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

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Artist: Eadonmm
Title: Aqonis
Number: DTR-011
Price: 2,520yen
Release date: 29. 1. 2014
Format: Digipak CD

1. Sun Grail
2. Gothic Anamnesis
3. Alder
4. Tide Up
5. Thuraa
6. Mirage
7. If You Melted
8. Oblivio Throb
9. Perpetual Goes
10. River Of Repentance
11. Antibody (feat. Ryuei Kotoge)
12. Dim
13. Vague Lips
14. Post Obit