EVENT REPORTSAugust/21/2013

【Live Report】Savages ー 7月29日 at ASTRO HALL

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 モノクロの衣装を身にまとった女性4人のすべての神経が一つの音楽に向けられ、彼女たちは密度の高い音を奏でていた。ポストパンクのゴス・カルチャーを受け継いだその衣装は、彼女たちを魔術者にも、艶容な女性にも見せていた。そのようなモノクロのステージの上で私は、色とりどりの激しい火花が散っているのを見た。そしてフロアを埋め尽くした会場の観客たちはまるで花火を見るかのように彼女たちの演奏に魅せられていた。

 さて、<FUJI ROCK FESTIVAL ‘13>ホワイトステージでのライブを大好評の内に終えた直後に行われた7月29日の単独ライブは、彼女たちの演奏を観るのは二回目という人にとっても、初めてという人にとってもかなり期待値の高いものになっていた。というのも、彼女たちのフジロックでのライブの評判がSNSを介して多くのインディ・ロック・ファンに伝わっていたからである。そして結果から言うと、その期待をさらに上回ったライブを彼女たちは見せてくれた。

 ライブは、デビュー・アルバム『Silence Yourself』の一曲目に収録の「Shut Up」から始まった。はじめからバンドの集中力が会場に伝わり、会場には緊張感が張りつめる。さらに、サビに向かうにつれて大きくなる地鳴りのようなベース音、破裂音のようなシンバルに、観客たちはさらに責め立てられた。そしていつの間にか、ステージから目が離せなくなっていった。なぜなら彼女たちの音楽は、生半可な気持ちで演奏を聴けば突き返されてしまうような冷酷さを持っているにも関わらず、その圧倒的な強靭さで私たちを彼女たちの音の世界へと誘致するからである。そして、聴く者は彼女たちと音の中での対話が可能になる。これがフェイの言う「音楽を通して、人とつながりを持ち、コミュニケーションを持つという人間らしい感覚」なのかもしれない。

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 また、三曲目の「I Am Here」ではその対話はより確かなものとなった。ジェニーが観客に向かって「I Am Here」と何度も叫ぶ。その言葉は会場にいた私たち自身の存在を顕にするものに違いなかった。なぜなら対話は一人ではできないものであり、彼女は対話の相手である観客を確かに音の中で捉えたことになるからである。両者が互いの中に互いの存在を見つけることができたのだ。

 そしてライブも終盤かと思われた頃、メランコリックでノイジーな、印象的なリフが会場に響いた。「She Will」だ。ミニマルなドラムとベースのリズムセクションは無骨で心地よく荒々しく、その上に重なった自由度の高いボーカル、ギターはノイジーで突き刺さるようだ。

 この曲で彼女たちのライブのふたつ目の特徴を見ることができた。その特徴とは、幻想と現実が混在する世界、それこそが彼女たちの作る音の世界であるということである。時折挿入されるハーモニーやクリーンでリバーブがかったギターのリフは魔術的で幻想的な響きを持っているが、曲の最後のボーカルの「She Will」は悲痛の響きがあり、ノイジーなギターリフ、地鳴りのようなベースに爆発音にも似たドラミングには幻想や魔術、宗教にすがるものをたたき落とすような厳しさを見ることもできる。そこには血も涙も無い現実が存在する。彼女たちのライブには、魔術的な要素が散らばっているが、生に対する誤魔化しの無い生々しさが横たわっているのである。

 彼女たちの生み出す幻想と現実の音の渦の中での対話こそが、モノクロの世界に色を添えるものの正体であった。また、それは、生への力強さを持った音楽であるため、人々を惹き付けて離さないのである。

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取材・文: 永田夏帆
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。趣味はベースと90年代アメリカのポップカルチャー。青山学院大学在籍の現役大学生。

撮影: 後藤倫人