INTERVIEWSAugust/14/2013

【Interview】Jagwar Ma(ジャグワー・マー)- “Howlin’”

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 西海岸の陽光、セカンド・サマー・オブ・ラブの狂騒、50年代に響いた美しいハーモニー……。オーストラリア在住のJono Ma、Gabriel Winterfieldによって結成されたユニット、Jagwar Maのサウンドから連想される要素は実にさまざまだ。「レトロ・フューチャリスティック」とも形容される音楽性ゆえ、彼らの音楽から想起されるものもリスナーによっては過去の音楽の残像や、それと密接に結び付いた記憶や感情に関する事柄がその多くを占めるだろう。過去は甘美だ。良き時代の在りし日を追想することで、時に人は現在を乗り越えようとする。

 しかし、最近では各種音楽メディアの年間ベストアルバムに軒並み名を連ねたことで記憶に新しい同郷のTame Impara等を筆頭に、彼ら若い世代の音楽は単なる「懐古主義」とは異なる。彼らは、様々な音楽のアーカイブにアクセスし、アクセス出来る権利を当たり前のように享受してきた世代だ。サイケデリックとも形容され、様々な音楽的影響を実にさりげなく自然に、又は無意識に自己のスタイルに落とし込むことが出来る新世代のアーティスト―過去を現在の中で再構築し、歴史の新たな「循環」を描くことが可能な若い世代の潮流が、オーストラリアから徐々に日の目を見せ始めているのかも知れないのである。

 ファースト・アルバム『Howlin’』をリリースしたばかりのタイミングで、<SUMMER SONIC 2013>に出演する為に来日した彼らにインタビューを試みた。

Jagwar Ma
Jono Ma, Gabriel Winterfield, Jack Freeman

_JonoさんもGabrielさんも元々は別々のバンド(JonoはLost Valentinos、GabrielはGhostwoodに在籍)で活動されていた訳ですが、Jagwar Maを結成したのには特別な目的意識があったのでしょうか?

Jono:元々違うバンドをやっていた時から友人同士だったから、一緒に何かやることは普通のことだったんだ。2人ともバンド以外に曲も作っていたし、曲作りを2人でスタートしたのがきっかけだった。特別な理由はなくて、自然なことだったね。

_それでは、曲作りは2人で?

Gabriel:そうだね。2人で書いてる。

_あなたたちの音楽はサイケデリックなダンスビートの上に、様々な音楽が興味深く融合しています。どのようにして今のようなスタイルになったのでしょうか?

Gabriel:こうやろうと思ってやってきたわけじゃなくて、自然な流れだったんだ。まず、ジャンルって最近はいろいろ言われているけど、自分たちはどれって決めてやっている訳じゃなくて、今までいろんなジャンルの音楽を聴いてきたし好きだったから、そういうものが全部自然と出てきているっていうのが強いね。

_それでは今作の制作に当たって、参考にしたミュージシャンや当時聴いていた音楽は無いのでしょうか?

Gabriel:いろいろな音楽は聴いていたけど、特に参考にしたっていうミュージシャンはいないね。

Jono:曲を作る時には、何かを聴いて参考にしようっていうものは自分たちの中にはないんだ。今回制作する時に聴いていた音楽も参考にしようと思って聴いていた訳じゃなくて、自分たちが良く知っている音楽や、その時聴きたいと思った音楽をただ聴いていただけだし。聴いていた曲は子供の頃やティーンエイジャーの頃から聴いてきたもので、そういうものが自然と今回のアルバムに表れているっていうことはあると思うけど。

例えばロンドンからパリの農場(今作の主な制作地)に行く途中で、ロンドンでは50年代や60年代の音楽を自然と聴いていたり、ちょうどその時期にLiarsの新しいアルバムが出たから、それをたまたまずっと聴いていたりだとかはあったけど、音楽を聴く行為と制作するという行為は自分たちの中では隔たりがあって、当時聴いていたからそれを作品に出すという訳ではなく、そこには必ずタイムラグがあるんだ。10年前に聴いていた音楽の影響が今の音楽に表れているかもしれないし、例えば今聴いている音楽がサード・アルバムとか10年後に逆に影響として出てくるかもしれないし、影響として表れてくるには時間がかかるものだと思っている。

_では、子供の頃からどのような音楽を聴いてきたのでしょうか? 例えば、音楽に目覚めた時に聴いていた音楽などは?

Jono:僕が最初にいいと思った音楽はニルヴァーナだった。その時はJackと会った時期でもあって、彼と会ってからそこに繋がる音楽とかを掘り下げたりしたんだけど、その内ジミ・ヘンドリックスに辿り着いて、彼のギターに関してJackと最初に意気投合したっていうこともあったね。そういう音楽が自分の音楽に直接的に影響している訳じゃないけど、それがギターを演奏したいっていうきっかけではあったと思う。

Gabriel:アーティストとしてどうこうっていうより自分はプレイヤーだから、元々は父親も兄もギターを演奏していたし。この質問は例えばアーティストに対してどのギャラリーに行くのが好きかって聞いているような感覚がしちゃうな。自分は自分のスタジオがあって自分の作品を作っているのだから、聴くものと演奏するものは違っていて自分は演奏自体に影響を受けている。だから聴く事や音楽で何かやりたいという訳ではないんだ。

_個人的には今回のアルバムからはビーチ・ボーイズやマッドチェスター、アシッドハウスの影響などを感じたのですが、やはりそれらも自分たちの中から自然に出てきたものでしょうか?

Jono:僕たちはもちろんビーチ・ボーイズが大好きだ。だけどそれを要素として取り入れたという意識は全くないね。例えば要素として自然に表れてきた音楽をリストにしたら何千もの名前が書かれた長いものになってしまうしね。

Jack:僕が最初にJagwar Maに入った時に聴かせてもらった曲が「What Love」だったんだけど、それを聴いた時は本当にJ.ディラみたいだなと思ったよ。僕たちはヒップホップも大好きだし、Jagwar Maの曲はビートもボーカルもブレイクもあるからね。良く僕たちはポップ・ミュージックと比べられるけど、ヒップホップの要素ももちろんひとつのものとして持っていると思う、意識はしていないけどね。そういうものは自分たちが出来たらいいなとか、憧れている音楽のひとつでもあるし、ヒップホップが最初にあってその後にハウスやポップ・ミュージックの影響があるっていうのが僕たちの認識だよ。

_「The Throw」のサウンドとPVが象徴的なものとして、あなたたちの音楽はマッドチェスターが引き合いに出され、評されることも多く、個人的にもその影響は感じました。あの時代への強い思い入れやオマージュ的な意識はありませんでしたか?

Jono:僕たちはもちろんアンドリュー・ウェザオールもストーン・ローゼスも大好きだ。だけど自分たちはマッドチェスターだけじゃなくて、50年代のモータウンにも影響は受けているし、Jackが言ったようにJ.ディラみたいなヒップホップにも影響を受けているし、何かひとつを選んでそれに対して何かするということは自分たちの中では全くないね。例えばハッピー・マンデーズのショーンもスライ&ファミリー・ストーンが好きで影響を受けていたっていうことがあるように、僕たちはあえて影響を出そうとしている訳ではなくて、好きな音楽の要素のひとつとしてあるだけなんだよ。

「The Throw」のPVに関して言えば、あれはあえて言えばマッドチェスターじゃなくてシドニーへのオマージュみたいなものさ。あのPVは自分がシドニーで住んでるアパートの屋上で撮ったものだったんだけど、あの時はただ自分が日の出を見たくて友達と一緒に屋上に上がって、それがすごく良かったからビデオを撮り始めただけなんだよね。1日でシドニーのいいなと思ったものを撮った、とてもシンプルなビデオだよ。

Gabriel:そういう質問をみんながする時って、自分たちはマッドチェスター・リバイバルをしているって言って欲しいのか、そうじゃなくて全然違う新しい音楽をしているんだって言って欲しいのかどっちが期待されているんだい?

Jono:確かにマッドチェスターが引き合いに出されるのは分かるよ。そういう他のアーティストや音楽が比較として出されるのも理解できる。そうした方がコミュニケーションしやすいし、話しやすいっていうことはあるからね。だけど、自分たちはもちろんマッドチェスターだけに影響を受けている訳じゃないし、例えばTame Imparaが出てきた時も彼らの音楽がクリームみたいだっていう意見があったけど、僕たちはTame ImparaはTame Imparaの音楽だから好きな訳だし、それだけじゃなくて僕たちの音楽の細部だったり、マッドチェスター以外の要素にも注目してもらえたら嬉しいと思ってるんだ。

_分かりました。残念ながら最後の質問です。今作の制作に当たってはTR-808やコニー・プランクが使用していたという古いコンソールも活用したそうですが、それらの使用も懐古主義的な意識ではなく、自分たちの新しい音楽を作るためにあえて使用したに過ぎないということでしょうか?

Jono:その通りさ。ちなみにTR-808は渋谷で買った物を使ったんだけどね。例えば僕たちが使っているギターは1963年製のものだけど、機材として見れば古いものでも、エレクトロニックな機材として見れば現代の新しいものだよね。それと同じことさ。コニー・プランクのコンソールは全体じゃなくて2つのチャンネルだけを使ったんだけど、曲を作る時も同様で大事なことは全体のバランスなんだ。古いだけのものでも新しいだけのものでもダメだね。今回の制作で言えば古い機材を使用したとしても、最終的には2012年に作られたラップトップに入れて音を作ったりしたんだけど、大事なのは全体をミックスした時のバランスだったんだ。

取材・文:宮下瑠
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。得意分野は、洋楽・邦楽問わずアンダーグラウンドから最新インディーズまで。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

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Artist: Jagwar Ma
Titel: Howlin’
Release Date : 2013.8.13
Label : Marathon Artists
Number: MA0003

1.What Love
2.Uncertainty
3.The Throw
4.The Loneliness
5.Come Save Me
6.Four
7.Let Her Go
8.Man I Need
9.Exercise
10.Did You Have To
11.Backwards Berlin