EVENT REPORTSJune/13/2013

【Live Report】SonarSound Tokyo 2013 Day2 at ageHa | Studio Coast – 4月7日(日)

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 <SonarSound Tokyo 2013>2日目。1日目と同じく、会場は同時進行で4つに分かれているので、筆者が観ることができたライブをレポートすることをご了承頂きたい。

 1日目が朝までの開催でなおかつ強風によって交通機関が乱れるという悪条件にも関わらず、会場には2日目のトップバッターtofubeatsを見るために、プールサイドのSonarLabにはたくさんの人が集まっていた。

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 tofubeatsはネットレーベル<Maltine Records>などから数多くのフリーダウンロード作品をリリースし、昨年夏に配信されたデジタルEP『水星』がiTunes Storeのアルバム総合チャートで1位を獲得するなど今最も注目を集めているといっても過言ではない若手アーティストだ。また、4月には待望のファーストアルバムのリリースを控えており絶好のタイミングでの出演となった。Para Oneと小泉今日子を同じテンションで聴かせるようなクラブミュージック好きからJ-POP好きまでを巻き込んでいくスタイルは彼を知っている人ならお馴染みかもしれないが、Studio Coastという会場で様々な人が小泉今日子のリミックスで盛り上がっている光景はとても痛快だった。ジャンルはバラバラで統一感はないように見える曲も、tofubeatsというフィルターを通すことによってまとまりが生まれていたし、そのようなJ-POP好きからうるさ系音楽ファンまでを魅了する彼の魅力が音源だけでなくDJプレイにも表れていたと思う。DJとしての出演であったが後半はほぼ自身のオリジナル曲やリミックスで固めたセットを披露し、アルバム発売を目前にしてtofubeatsというアーティストの歴史を総括するようなパフォーマンスであった。

 最も大きなステージであるSonarClubに移動するとtoeのセットチェンジが行われていた。toeは4人組のインストゥルメンタル・バンドで木村カエラのアルバムに参加したりCM曲を提供したりする一方、BudamunkやSick Teamにリミックスを依頼するなど幅広い活動をしているバンドだが、圧倒的なライブパフォーマンスで海外での評価も高い。

 登場するなり「今年もそろそろ終わりですね」というよくわからないMCで観客を和ませていた彼らだが、いざ演奏が始まると何かに取り憑かれたかのように激しく音をぶつけ合い会場の空気が一気に張り詰める。1曲目に披露された「グッドバイ」のようにエモやハードコアの影響が伺える楽曲もあれば、アフロビートやヒップホップに接近した最近の楽曲も披露され、インストバンドという制限が多いバンドの可能性を常に切り開いてきた彼らの凄みが感じられた。そのストイックな姿勢と様々なジャンルの音楽を理屈ではなく、自分たちの歩んできた文化と照らしあわせて、吸収し自分のものにしていくオルタナティブな精神はバンクやハードコアの精神そのものであるし、極限まで研ぎ澄まされたアンサンブルはミニマルテクノやディープハウスといった音楽に通じるものを強く感じた。
 
 続いてRed Bull Music Academyがキュレーションを務めるステージSonarDômeに移動したのだが、新しいダンスミュージックの流れを肌で感じることができる感嘆のステージだった。到着するとNguzunguzuがDJをしていた。彼らはロサンゼルスを中心に活動する男女二人ユニットでこれまでの音源やミックスを聞くとジュークを流す人達なのかと思っていたが更に新しいジャンルの音楽に手を出していた。ポップとナード、カワイイとグロテスクが調和することなくぶちこまれたなんとも言えない雰囲気の曲がバック・トゥ・バックで次々に流され、よくわからないけど、これがとても楽しいのだ。

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 最初は音に身を任せているだけだったが、途中でこの感覚はまさしくTumblrをやっている時の全然良くわからないけどなんかワクワクするという感覚と同じだということに気がついた。Tumblrは日本でそれほど普及しているイメージではないが、ネット上にある面白いものは何でもリブログして世界中の人に公開できるというサービスであり、ユーザーはネットの海から誰も知らないヤバい画像などを探して日々更新している。その行為は忘れられたレコードを掘り起こしてサンプリングする行為と似ている。しかし、レコードとの大きな違いはそのサンプリング行為がネット上で行われているということであり、一見自由に見えるが自分にとって居心地がよい情報しか流れて来ないという点では、自由と言うよりイージーという方が良いのかもしれない。そこには怖いレコード屋の店員もいなければ、先輩DJもいない。

 話が少しそれてしまったが、彼らのパフォーマンスは良くも悪くもTumblrのように何でもありなようで、実は「俺達を邪魔するものがあらかじめ排除されている」という幻想の自由を体現していた。彼らはMixpak Recordsでのインタビューで「ハッカーになってみんなのPCをジャックしてバーチャル・リアリティーのクラブを作るんだ!」と言っていたがまさしく生でパフォーマンスを見ながら家でTumblrをやっているような不思議な感覚を味わうことができた。

 続いて登場したのが、個人的にかなり楽しみにしていたSpace Dimension Controllerだ。先日、24世紀から現代にタイムスリップし、様々な苦難を乗り越えながら故郷の惑星マイクロセクター-50へと帰還するというロマンがありすぎるコンセプトのアルバム『Welcome To Mikrosector-50』を発売し日本でも話題になっていたが、ライブにおいてもSFという世界観に忠実で、自らが宇宙船の操縦士となり観客を未来へ連れて行くという設定(多分)で、所々でマイクを使って自己紹介をしたり観客を煽ったりしていた。

 音にしろ設定にしろSFという世界観をあまりに忠実に守っていて、一歩間違えればダサくなりかねないが、ここでもまた、Tumblr以降の感覚による表現方法がなされているのではないかと感じた。現在、一般人が宇宙船に乗って宇宙に行くことは現実的になりつつある。しかし、2013年になってもドラえもんやアトムは僕達を救ってくれないし、デロリアンで未来の奥さんを見に行く事はできない。ドラえもんやアトム、バック・トゥ・ザ・フューチャーで描かれていたのは未来ではあるが、今やあの世界は昔の人が考えた空想の世界であり過去なのである。2013年にこれらの作品を見て、未来の生活への思いを馳せている人間がいたら夢見がちだと一蹴されるだろうし、ファンタジーとして割り切るのが正しい楽しみ方といえるだろう。しかし、彼はそのような過去の物となってしまったSFをあえてそのまま表現しているのだ。

 Tumblr登場以降、娯楽としてのSF、90sのポップカルチャーなど一度は過去の遺産になってしまいこれからもアカデミックな評価はされないようなカルチャーを掘り起こして、自分たちの作品に落としこむアーティストが登場し始めている。彼もその一人で、それらが使い捨てられた文化であると知っていながら敢えてそれを表現方法として選んでいるのだ。始まった時点で終わることが宿命付けられた文化というのは今まであまりなかったものであると思うし、それが物語に更なる深みを持たせている。大げさかもしれないが彼はベットルームから世界中の人間を未来へ連れて行っているのだ。

 2日間に渡って開催されたSonar Soundの大トリを飾るのはKarl Hydeである。既に公開されている音源からアンダーワールドとは大きく方向性が違っていることはほとんどの観客が知っていただろう。セットチェンジ中の会場は「アンダーワールド的なパフォーマンスをもしかしたらしてくれるのではないか!?」という期待と「ソロとして来ているのだからアンダーワールド的なパフォーマンスを期待するのは失礼だし、なるべくそのような気持ちを表に出してはいけない…」という気持ちが入り混じったなんとも言えない雰囲気が客席に漂っていた。大きな歓声とともに登場したKarl Hydeとバンドメンバーはすぐにその雰囲気を感じ取ったようで「今日はいつもと違う感じだけどごめんね」と語り、その後も「静かな感じの曲が多い」などとMCで観客を気遣う場面が多く見られた。

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 実際、パフォーマンス自体はアンダーワールドでの彼を期待していた人には物足りないものであっただろうし、有名バンドのソロ・プロジェクトというものは常にその問題に直面する宿命なのである。それを解消するため、多くのアーティストはまるで自分が有名バンドの一員ではないかのようにパフォーマンスを行ったり、後半に自身のバンドの曲を同じアレンジで披露してファンを気遣ったりすることが多いが、彼はそのどちらでもなかった。MCでファンを気遣う場面はあったし、アンダーワールドの曲も披露していたがソロ曲と並べて聴いても違和感がないようにアレンジされていたし、今回のパフォーマンスはアンダーワールドではないから割り切って聴くのが正しい楽しみ方だという雰囲気を出すこともしなかった。彼はアンダーワールドに媚びていないし、アンダーワールドであることを卑下してもいなかった。それはなかなかできることではないと思うし、それだけこのソロ・プロジェクトに大きな自信があったということだろう。

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 アルバム収録曲を聴いて予習し、パフォーマンスもアルバムと同じく歌もの中心だろうなと思ってライブに臨んだのだが、ライブになると思っていた以上に彼のボーカルが全面に出たアレンジになっていると感じた。楽曲もダンスミュージック的な手法とは正反対の、しっかりとしたメロディと展開がある楽曲ばかりで、極論を言ってしまえばオアシスやコールドプレイを聴いた時に感じる高揚感と同じなのだ。最初はやはり戸惑いがあったが、あのKarl Hydeがベタとも言われかねない展開の歌に真剣に向き合い、迷うことなく歌っていることに感動してしまったし、日本で一番有名なダンスミュージックグループであるアンダーワールドのメンバーが新世代のミュージシャン達に混じって、最後に純粋な「歌」を歌った事はダンスミュージックの自由さや多様性を実感し、終わる頃には「音楽最高!ダンスミュージック最高!」という気分でいっぱいになっていた。

取材・文: 豊田諭志
1990年生まれ、大阪出身。UNCANNY編集部員。青山学院大学音楽芸術研究部の前部長。