INTERVIEWSApril/28/2013

【Interview】Madegg(マッドエッグ)- “Kiko”

madegg_2013

 4月27日、ついに2ndアルバム『Kiko』がリリースされたMadegg。16歳から作曲活動を始めた彼の才能が世に出るにはそれほど時間はかからなかった。

 2011年1月。彼の存在が<分解系レコーズ>主宰の一人であるNaohiro Yakoの目に留まったのをきっかけに、EP『Players』がリリースされる。当時18歳でありながらその完成された世界観、荒削りだが全く新しい感覚を与える彼のサウンド、そして彼という存在は瞬く間に話題となった。その後も関西のネットレーベル<Vol.4 Records>、自身のBandcampでの自主リリース、『Kiko』をリリースした<Day Tripper Records>からのカセットリリース等、様々な経験を積んだ後、2012年5月、東京のエレクトロニカ・レーベル<flau>より1stアルバム『Tempera』をリリースした。アルバムのダウンロードコードが記載されたTシャツを販売するという実験的な販売形態が実践された『Tempera』であったが、内容もまた今までの彼の作品と比べても非常に実験的で、また内向的であった。

 ところで、Madeggというアーティストを語る上で「場所」という概念は外すことが出来ない。インターネットの普及により人と人との「物理的な距離」という障壁はある程度緩和され、東京と京都、更には国境を超えたコミュニケーションを取ることが簡単に出来る。加えて、モバイル機器の性能が益々強化される昨今、所謂「ノマドワーク」という言葉が流行したように、「場所」という概念に対し人々は更に軽やかに考えることが出来るようになった。それはつまり、「場所」が与える影響を軽視するようになった、とも言えるのではないだろうか。

 その点Madeggの音楽は、もっと根本的な「場所」、言うならば「空間」の与える影響に対して非常に寛容である。彼は、フィールドレコーディングを自らのサウンドに取り入れることにより、彼の感じた「空間」を音楽として取り入れることにずっと挑戦してきた。この手法自身は多くの人々が行なってきたものだが、ずっとインターネットという形態でのリリースや活動を行なってきた彼が「空間」を武器に曲を作る、ということには何か新たな意味があるのではないだろうか。また、『Tempera』は彼の故郷・高知の実家に帰った際に短期間で制作されたアルバムであるが、そこには実家という空間が与える制約や雰囲気というものが色濃く反映されているように感じられる。

 そして『Kiko』である。『Tempera』を経て一段と洗練された彼のサウンドには、京都という空間のメンタリティー、彼自身の環境の変化等、様々な影響が見え隠れしている。今回のインタビューは筆者も同年代であるということもあり、ある意味雑談の様な、穏やかな雰囲気で進められたが、そこには我々の年代が同じように抱える将来への不安、葛藤、そして未来への希望が在り在りと感じられた。高知、そして京都という「空間」において育った彼のサウンド、そして彼自身の世界はどのように構築され、どこへ向かうのだろう。

_4月27日、『Kiko』がリリースされますが、アルバムのコンセプトを教えて下さい。

制作自体に「今から作るぞ」っていう風にはやっていないから、なんともいえない。ジャケットを見てもらえばわかるんだけど、(ジャケットを指して)海みたいな感じ。コンセプトとしては、「海底」と、「宇宙感」、「星空」みたいな感じで。バラバラにならないように、前よりコンセプチュアルに作った。

_確かに、今回のアルバムを聞いてみて、前作の『Tempera』よりもビートが凄く前に出ていて、音もシンプルになっていて、メロディとビートという構造がわかりやすくなっていますね。この辺りはやはり意識はしたのですか?

ライブ出演の数が増えると、箱鳴りが聞けるようになって、作った曲も一回ライブで試せるようになって。前みたいに自暴自棄な感じで終わらないというか。『Tempera』は『Tempera』でその時しか作れなかったかな、と思うんだけど。(ライブが増えたのが)いい機会になったと思う。作り方の問題で、音を重ねなくて良くなったし。

_『Kiko』というタイトルの由来を教えて下さい。

イマジネーションの中で、海底を歩いていて、光が刺すみたいな感じとか、星とか…結局、「ビューティフル」みたいな。「ビューティフル」系なのを一言で合わせるみたいなのを考えてた時に、『Kiko』にしてみた。色々考えてみたけど、結局は水原希子みたいな(笑)。

_(笑)。
 
水原希子のアイコンみたいな感じの「日本の美しさ」を使っちゃおうと。

_『Tempera』のリリース前後で「ダンスセット」と称してライブを行うこともありましたが、あの時の楽曲も今回『Kiko』に収録されているのですか。

(あの時期は)低迷というか…迷っている感じが凄くあった。(あの時の音は)UKじゃなかったけど、今はUKに近づいたかな、と言えばわかりやすいかも。

_なるほど。UK GarageやDubstepにも影響を受けた?

うん、その辺りはその時期聴いてたし。基本的にアルバム作る時は(他のアーティストの音を)聴かないんだけどね。その辺りの影響は強いと思う。

_制作環境を教えてください。

Ableton Live。PCにLive LiteとLiveが両方入ってて。作曲の時は普通にLive 8を使って作ってます。

_なるほど。制作はサンプリング主体ですか?

『Tempera』の時とかはそうだったけど、今は結構変えて、ソフトシンセ入れたり。フィールドレコーディングやサンプリングもするけど。(Ableton Liveに)付属してるシンセをちょっとエフェクトかけて使ったり、あと、この前期間限定でフリーで落とせた「Minimoog V」を使ったりしてた。音が太いから。

_話は戻りますが、『Kiko』を作るのにどれくらい時間がかかりましたか。

最終的にSeihoさんに曲を送ったのが2月で、作り始めたのが、夏…8月だったから、単純に6ヶ月…半年か。でも、それ以前の曲もなんだかんだで入っていて、それも含めたら、『Tempera』直後に作り始めたものもあるから、1年1ヶ月くらい。

_一曲にはどれくらい製作時間がかかりますか?

気分が乗ってる時なら3時間くらいで……、場合によっては…2、3週間かかることもあって。

_『Tempera』の時は結構勢いで作ったんですよね。

そうそう。

_故郷に戻って(作った)。

そう。寝室に入って。(実家の部屋には)ネットがないから、そこに閉じこもって…2、3週間で(『Tempera』が)できた。

_なるほど。では逆に、『Kiko』は京都という場所が影響を与えた、ということはありますか?

それは結構ある。京都に来たらなんとなく分かる感じだと思うんだけど…。

_僕も最近京都に行ったんですけど、ちょっと特殊というか。

(路地が)縦と横しかないし(笑)。あと、曇りが多くて、パッと晴れることが少ない。それで、やっぱり地元の高知に帰ってた時の方が、その反動でイマジネーションが湧いてくる。星が凄いキレイだから。

_確かに言われてみれば、『Kiko』からはそういうところがイメージされる気がします。

人から言われて「あっ」って思うのが、「子供の世界みたい」とか。映画の『かいじゅうたちのいるところ』を見た感じ、みたいな。作ってる時、京都と高知を行ったり来たりしてたから、そこからのインスピレーションは大きいと思う。

_他にインスピレーションとなるものはありますか?

やっぱり音楽は聴いてるから、そこからの影響は隠せない。制作中に聴かなくてもその前に聴いた音に多少なりとも影響を受けてるから、それはしょうがない。UKのLeftfieldってジャンルがあって…よくわかんないダンスミュージック、狂ってる、みたいな。そういうのばっかり聴いてるから、4つ打ちが多いのはそこの影響はある。あと、(大学の)デザイン学科で学んでるから、絵とかを見て、何かを感じた気になって作るとか(笑)。

_京都の学校でデザインを学んでいるということが、そういう形でMadeggとしての活動に反映されることもあるんですね。

どっちを優先するべきか、悩むことはあるけれど。どっちもクリエイションって言われたらその部類に入るし、両方ともやりなよって言う人もいるけれど、まだその領域には行ってないし。

_うーん。

まだ音楽じゃ、残念ながら食べていけないから。やっぱデザインでちゃんと就職しないと、かな…と。学んでいることが敵でもあり味方でもあるというか。(音楽かデザインか、という選択を)まだ先延ばしにしているというか。

_でも音楽を辞めよう、と思っているわけではないですよね?

あー、でもそう考えると『Kiko』はターニングポイントで。完成したら、すぐ作りたく無くなっちゃって。「終わった、やること全部やった」みたいな。(作曲ソフトを)立ち上げることすら面倒になっちゃって、最近は(笑)。 だから、これからの事は考えてなくて、2年…3年は(新しいアルバムを)出したくないかもしれない。とか言って半年後に出したりするかも(笑)。

_なるほど。『Kiko』で全部出しきってしまった、と。確かにアルバムを聴くと、色んな方向から攻めてくる感じがして。だけどカラーがちゃんとある。

突き放すことにならないようにした。アルバムはリスニングじゃないと聴かれないと思ってるから。クラブミュージックだけだと、ただのシングル集になっちゃう。アルバムにする意味が薄れちゃうので、そこは気をつけました。

_これから新しく曲を作るとしたら、少なくとも今の段階では、新しい領域に踏み込みたい?

そう。サンプラーも買いたいし。多分何か買うと、(新しく)作りたくなる感じがあって。新しいスニーカーを買ったら意味もなく外に出たくなる、みたいな。(今になって)だいぶやりたくない感は薄れてきた。ちょっと新しいアイデアが浮かぶから。

取材:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

12032608

Artist: Madegg
Title: Kiko
Number: DTR-009
Label: Day Tripper Records
Price: ¥2,520
Release Date: 2013.4.27

1. Quiet / Marble Camouflage
2. Spider
3. Fall
4. Surely
5. Orabge Went To Yellow
6. Throwing A Floating Gum
7. The Central, Dogs and Plastic Friends
8. Mars
9. Stripes
10. Kiko
11. 2001 Camouflages
12. Aurora
13. Good Funny Night
14. Nice Bird Falling Down In Your Rounds
15. Cobalt