INTERVIEWSJune/01/2018

[Interview]Snail Mail – “Lush”

 Netflixのドラマ『13の理由』では、ティーンエイジャーの「私」と「他者」との関係性の脆さが描かれている。劇中に登場するティーンエイジャーたちは、私と他者との差異をより明確に意識していくにつれて、他者との関係性から逃避することのできない状況や、さらにその先に無限に続く不可逆的な他者との関係性の連鎖に絶望する。様々なエラーを受け入れることのできない彼らは、その精神や身体を補正し、自らを守るためにそれぞれが極端な行動を取る。

 エラーに自らを調和させていく過程は破壊と混乱そのものであり、多くは社会で生存するために少しでもマシな壊れた何かへと変わっていくことを余儀なくされる。本国アメリカで大きな議論を生んだというこのドラマの中に、私たちは、壊れる前の「私」を見るのかもしれない。

 ボルチモア郊外にあるエリコットシティで育ったSnail Mail(スネイル・メイル)ことLindsey Jordan(リンジー・ジョーダン)は、16歳でデビュー・EP『Habit』をリリースし、高校に通いながら音楽活動を続け、〈Matador Records〉と契約、デビュー・アルバムとなる本作『Lush』を完成させた。

 1999年生まれの彼女は、自身が「内省的な作品」と語るように、本作では現代のティーンエイジャーの心情やストーリーを率直に綴っている。また制作面では、プロデュースにJake Aron、エンジニアにJohnny Schenkeを迎え、DIYの要素を保ちながらも豊潤な音像の録音にも成功している。

 Snail Mailによれば、本作のもうひとつのテーマは成熟だという。本作『Lush』には、破壊と混乱を乗り越えようとする彼女の姿勢やその過程における苦衷の心象が具体として現れている。そこには、かつての「私」、あるいは現在の「私」を重ね合わせるような経験が存在している。

__当時16歳であった2016年にデビュー・EP『Habit』をリリースしています。当時、あなたが、自身の作品を制作する上で、影響を受けた作品やアーティストがいれば教えてください。

私の場合、好きなアーティストはいるけど、あまり人から影響を受けるということはない。人前でプレイしたいという気持ちが、曲を書くモチベーションだから。もちろん自然と影響されて、それが作品に現れていることはあると思う。でも、それは時間をかけて私の一部になっていったものだし、出ているとしても、それは意識して取り入れたものではない。ただ曲を書いて、自分の中から出てくるものをそのまま曲にしてる。好きなアーティスト、聴いてきたアーティストを影響元じゃないかと聞かれると、それはしっくりくる。

__例えばそれは誰ですか。ダイレクトに影響は受けてはいないと思いますが、今のSnail Mailを形成した音楽的背景、ルーツは何だと思いますか。

Sonic Youth(ソニック・ユース)とか。Sonic Youthは大ファンで、ずっと聴いていた。聴いていたのは主にギター・ミュージック。Kim Gordon(キム・ゴードン)の本も読んだ。聴いていたのは90年代のバンドが多いかな。一つのジャンルに限らず、色々。

__本作『Lush』のテーマを教えてください。また、どうしてそのテーマに決めたのでしょうか。

テーマは、内省と成熟。自然とそうなった。全ての曲がゆっくりと形になっていって、全てがギターを弾くことから始まって、音楽ができていくにつれテーマが生まれてくる。いつもそんな感じ。

__前作のEP『Habit』と今回のアルバム『Lush』との最も大きな相違点はどのような点でしょうか。

『Habit』を作ったのはまだ15歳の時で、しかも地下室で作ったから、全然違うと思う。今回は締め切りもあったし、アルバムを作るという目的の枠の中で作られた作品だし、もっとプロフェッショナルだった。自分の中にあるものを吐き出すというのは変わらないけど、今回はアルバムのために曲を書くという意識があった。そうやって作った作品だから、出来上がった時はもっと心地が良かった。

『Habit』は、さっきも話したように、ただ自分の中にあるものをとにかく紙に書いて吐き出したかった感じ。でもアルバムでは、それをどう吐き出すか、どう表現するかがもっと考えられていると思う。あと、前ほど自意識過剰じゃなくなったと思う。『Habit』の時は臆病だったし、自分や世の中のことなんて全然わかっていなかったくせに、わかりまくってると思ってた(笑)。でも今はその逆。今の方が前の自分より色々なことを理解しているけど、自分が理解出来ていないこと、知らないことがまだまだ沢山あることも自覚出来ている。EPの時よりももっと大人になったし、ミュージシャンとしても成長したと思う。だから、次のレコードは全然違うものになると思う。自分でも楽しみ。

__アルバム制作では、プロデュースにJake Aron(ジェイク・アロン)、エンジニアにJohnny Schenke(ジョニー・シェンク)が参加していますが、制作はどのように進められたのでしょうか。また、作品には、彼らの参加はどのような影響や効果を与えましたか。

すごくいい経験だった。JakeとJohnnyと私で、私がすでに持っていたアイディアを元に、そのアイディアが他に持てそうな側面を考え直して試していった。すごくスタジオっぽいでしょ? それは前回とは違っていた。だからもっとバラエティが増えたと思うし、もっと大きな世界観を作り出せたと思う。3人の意見と考え方と技術があるぶん、広がりが出来た。

Jakeはトーンを操るのが上手くて、私がアイディアをどうやって音にしていいかわからないものに命を吹き込んでくれた。あと、Johnnyは、良い意味で、少し複雑でかつ美しくクリーンなサウンドを作り出してくれた。それは私の希望でもあったから。音を聴きやすくしてくれたといったらわかりやすいかな。

__プレスリリースでは、「Let’ s Find an Out」 について、「彼女が個人的に、アルバムの中で最重要とする曲」という解説がありました。あなたは、この曲をどのような意味においてアルバムの中で最も重要と位置付けたのでしょうか。

タイムリミットがあったし、スタジオの中で書いたから、それが自分にとっては新しいことだった。私にとってはアルバムの中で一番美しい曲だし、歌詞的にも、サウンド的にもこれまで書いた中で一番複雑な曲でもある。プロダクションがユニークだし、パーカッションもクールだし、私にとって大きな意味のある曲。一番最近の私が表現された曲でもある。

__リード・シングルの「Pristine」について、この曲のメッセージについて詳しく教えてください。また、この曲のリリックは、自身の経験に基づいているのでしょうか。

この曲は、誰もが誰かにメロメロになったことがあると思うし、その中でドラマが起こったり、救いようがないくらい盲目になったりってことがあったと思う。で、それを後から振り返ると、子供だったなと思うことって誰もが経験してると思う。多くの人が繋がりを感じることが出来る内容だと思うんだけど、それを皮肉的に、ちょっとユーモアを交えて書いているのがこの曲。昔のメロドラマを今振り返って笑ってる感じ(笑)。

__セカンド・シングルの「Heat Wave」について、この作品が生まれた背景について詳しく教えてください。

この曲はギターを弾きながら長い時間をかけて書いていた曲なんだけど、完全にギターのみで書いてから、その後でヴォーカルを加えた。普段はもっと前の時点で歌詞が思いついてくるから、このプロセスはレア。一夏かけてこの曲を書いたんだけど、「Pristine」の次に、アルバムのために二番目に書いたのがこの曲。

__また、「Heat Wave」は、Brandon Herman監督によるミュージックビデオが公開されています。この映像では、アイスホッケーの競技者に扮し、競技の中で、複数の男性にあなたがひとりで対峙し、最終的に勝利する姿が描かれています。それらは具体的にどのようなメッセージを意味するのでしょうか。

あまり意味はなくて、ただ楽しくて面白いと思って(笑)。氷の上を滑ってみたくて(笑)。

__では、あまりメッセージはない(笑)?

ない(笑)。「Heat Wave」(熱波)って曲なのに冷たい氷のミュージックビデオっていう矛盾が面白いと思っただけ(笑)。バカなジョーク(笑)。

__Billboardのインタビューの最後で、”I just write the music I want to make, and we play it. I’m not trying to take over the world(私はただ作りたい音楽を書き、それを演奏するだけ。世界征服しようとしているわけではない)”という回答が印象的でした。この回答の真意について、より詳細に教えてください。

世の中には、自分の音楽で世界征服しようとしている人たちがいるじゃない? あれって見ていて面白いなって(笑)。そのヴィジョンは嫌いではないし、私も活動には一生懸命だし真剣だけど、私は世界征服までは考えないって意味(笑)。あと、私が女性でオープンだからか、私が音楽で世界を征服しようと思っている人たちもいるみたい(笑)。

私はただのソングライターで、自分のソングライティングに自信はあるけど、名声とか、それを超えたものはあまり欲しいと思わない。自分がリアルだと思う音楽を作りたいだけだし、それを続けていく上で何かが付いてきたら、それはオマケだと思ってる。リアルで自分が良いと思える音楽を作るということだけが活動の目的、ということを言いたかったんだと思う(笑)。

__5月から7月までUK/USでのツアー・スケジュールが発表されています。ライブでは、特にどのような表現を意識しているのか教えてください。

今回は、前回のツアーよりももう少し複雑な演奏が出来たらいいなと思っている。そうしないと、自分たち自身も飽きてしまうし。自分たち自身を興奮させるためにも、演奏をもっと面白いものにしたいなと思っている。

__ありがとうございました。

ありがとう! いつか日本に行けるのを楽しみにしてる!

Lush:
01. Intro
02. Pristine
03. Speaking Terms
04. Heat Wave
05. Stick
06. Let’s Find An Out
07. Golden Dream
08. Full Control
09. Deep Sea
10. Anytime

Title: Lush
Release date: 2018.06.08
Labels: Matador

Release Information: Beat Records

文・インタビュー質問作成: T_L(UNCANNY)
通訳・質問: 原口美穂