INTERVIEWSNovember/17/2017

[Interview]Baths − “Romaplasm”

 象徴的構造の歪み−−それが本当に存在するか否かの議論はともかく、私たちの心象に外傷的効果をもたらすような”見たくないリアル”について、私たちはどのように感じるか、或いは感じているのか。

 BathsことWill Wiesenfieldは、〈anticon / Tugboat Records〉より、その最新アルバムとなる本作『Romaplasm』をリリースした。Wiesenfieldは、今春、別プロジェクト、Geoticでもアルバム『Abysma』をリリースしており、そこで、Geoticがパッシヴなリスニングであることに対して、Bathsはアクティヴなリスニングであると説明している。

 では、Bathsとして今作『Romaplasm』でWiesenfieldが謳った世界観はどのようなものなのか。以下のインタビューでは、タイトルの意味から今作のテーマ、その制作背景まで様々な質問に答えてくれている。

__今年の春に、Geotic名義でアルバム『Abysma』をリリースしていますが、Baths名義の本作『Romaplasm』は、いつ頃、どのくらいの期間で制作した作品なのでしょうか。

『Romaplasm』は、制作に取りかかって終わるまでに3年はかかっているかな? たぶん、前作『Obsidian』の大規模なツアーの後、2014年の中頃から取りかかっていると思う。本当に何かのインスパイアを感じて、何日も続けて制作した時もあったし、またある時には、制作のプロセスがゆっくり進んだり、完全に作業を止めて、数週間何もしないときもあったね。

__アルバムタイトルの「Romaplasm」は造語でしょうか。また、どのような意味があるのか教えてください。

そうだね……、これは、実在する言葉ではないんだ。”Romaplasm”は、ロマンティシズムを示す接頭辞の”roma”と、”Cytoplasm”(細胞質)の世界観を想起させる接尾語の”plasm”を組み合わせた言葉。”Cytoplasm”(細胞質)というのは、細胞核なしで、生きた(生物学的な)細胞の中にある物質のことを言うんだ。つまり、細胞の中で、すべてを包んでいる物質のようなものだね。

__アルバムには、全体的に抽象的なリリックが綴られています。アルバムとして統一された大きなテーマがあれば教えてください。

アルバムのタイトルにも関係しているけど、テーマは、ロマン主義(ロマンティシズム)かな? この作品は、ファンタジーと現実逃避において、とても甘くて優しいものであり、たとえ、現実世界の状況をもとにした曲であっても、楽曲の主題は、できるだけロマンティックに、空想的になるようにしたんだ。

__「Yeomen」は、ファーストシングルとして発表されています。この曲のテーマ、リリックについて詳しく教えてください。

この曲は、全体が飛行船に乗って繰り出すようなロマンスの中にあるようなこのアルバムの甘美なファンタジーを表現しているベストな例のひとつ。歌詞はとても直接的で、メタファーで浸されたものでもなくて……、それは冒険的で幻想的なシナリオの中で、他者の愛情に釘付けになっている人についての、ちょっとしたヴィネットのようなものだね。

__「Out」はMVが公開されていますが、「音楽に対して真剣だからこそ、映像は、不真面目なものを制作している」といったコメントを発表されました。結果的に、映像は興味深い作品になっているのですが、どのようなプロセスでこのような作品になったのでしょうか。

ありがとう。この映像は、友人たちと全部を1週間で仕上げたんだ。1日はブレインストーミング、1日は台本とショットリストを書いて、1日は計画を立てて友人たちにメールを送って、1日は撮影、そして1日は編集をしたんだよ! すべてがとても早く進んだんだ。

__「Adam Copies」のリリックには、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇ゲンドウの名前が出てきますが、この曲は、どのようなテーマで制作したのでしょうか。

いい質問だね。『新世紀エヴァンゲリオン』は、僕の人生における最も大きなインスピレーションのひとつで、その理由だけで、僕が作ったこの作品の唯一の直接的なリファレンスになっている。僕は、『新世紀エヴァンゲリオン』に、奇妙な忠誠のようなものを尽くす義務があるんだ(笑)。

僕は、「Adam Copies」を碇シンジの内面からの物語として考えている。彼の感情と彼が囚われている状況をつかむような……。それは、突然の怒りや「意識の流れ」(stream-of-consciousness)のようなものであるけれども、リリックは、楽曲の熱狂的な質感に合っていると思う。

__ジャケットで、(おそらく)他者の手があなたの首元を掴んでいます。これには、どのような意味があるのでしょうか。

僕は、アルバムのカヴァーには、最初は必ずしも明らかではない、憧れの感覚か、もっと何らかの願望を与えるような何かを求めている。その手を見るとすぐに優しさを想起するんだけど、その人物は実際には存在していないんだ。僕の頭から離れないと感じているすべてのメディアと僕との関係性を表現しているようにも感じる。僕が抱いている感情はとても強くて現実的なものだけど、その現実は束の間のものなんだ。

__音楽制作において、あなたは、「できるだけ寛大でありたい」(”I want to be as self indulgent as possible”)とコメントしていますが、その意味を詳しく教えてください。

僕は自分が情熱を傾けたものすべてから、隠れたくはないという意味だよ。僕がそれにインスパイアされていると心から感じている限り、どんなアイデアも、僕が夢中になることには、愚かで、タブーで、気まずいことでありすぎるということはないんだ。

__最後に、今後の予定を教えてください。例えば、新たに考えているプロジェクトなどはありますか。

たくさんのすばらしいツアーと『Romaplasm』のプレス活動があって、それは、来年まで続く予定になっている。日本でもできると信じているよ。それと、次のGeoticの作品がもうすぐ完成すると思う。僕はすでに次のBathsの作品のアイデアがあるんだけど、しばらくの間は、その制作には入らないつもりでいるよ。<3

Romaplasm:
01. Yeoman
02. Extrasolar
03. Abscond
04. Human Bog
05. Adam Copies
06. Lev
07. I Form
08. Out
09. Superstructure
10. Wilt
11. Coitus
12. Broadback

インタビュー・文・訳: T_L