INTERVIEWSOctober/10/2017

[Interview]Blue Hawaii – “Tenderness”

古典的な物の見方において、テクノロジーとは、肉体の延長と捉えられてきたという。例えば、スマートフォンで送るテキストメッセージは、距離を超えて言葉とその意味を相手に瞬時に伝えることができる。一方、それらが真実なのか、捏造なのかを確実に確かめる手段はない(つまり、信じるしかない)。今や、オリジナルを模倣する記号は捏造の手段として誰もが容易に利用できる環境になり、そしてかつての予言通り、オリジナルと模倣されたものの区別はより一層曖昧になっている。

カナダ第二の都市、モントリオールを拠点とするBlue Hawaiiは、Raphaelle ‘Ra’ StandellとAlexander ‘Agor’ Kerbyによる男女デュオ。その4年ぶりとなる最新作『Tenderness』では、同じベッドに座る男女がそれぞれのスマートフォンに目を向けるジャケットが示唆するように、「遠く離れていても近くにいる温かさを感じ、リアルとヴァーチャルの両方でお互いの優しさ(tenderness)を求め合うこと」をテーマに、現代における優しさや愛の在り方を解明しようと試みている。

また、本作では、70年代から80年代のディスコミュージックや90年代のハウスミュージックがアレンジの手段として採用され、アップリフティングな展開を楽曲に与えると同時に、サウンド自体が、まだ「模倣された記号」がそれと容易に知覚できた時代を表象するもの(楽しめるもの)として、作品のテーマを際立たせる役割も果たしている。

以下のメールインタビューでは、Blue Hawaiiのふたりが、作品のテーマを中心に、本作の制作背景について、その詳細を語ってくれている。

__4年ぶりのアルバムのリリースとなりますが、今回の制作をはじめることになったきっかけを教えてください。

自然な流れでした。私たちは新しいアルバムを作ろうと思っていたわけではなかったんです。2016年に、私たちは偶然LAで一緒になって、ある日の午後、セッションをしたんです。するとすぐに、次々と別のセッションへと発展していって、その冬が終わる頃には新しいアルバムをリリースするのに十分な素材がそろっていました。そして私たちは、音源をモントリオールに持ち帰って、ミックスを行い、“Tenderness”と名付けたのです(このタイトルを思いついたのは、アレックスの祖父でした)。

__プレスリリースによれば、本作は、「オンラインで男女の関係が築けるのかという課題を定義するコンセプトアルバム」とのことですが、なぜこのようなコンセプトを掲げたのでしょうか。

冬の間、私たちはレコーディングを行っていました。ラファエルは、遠距離恋愛をしていたんですが、彼女は、ほとんど相手に会うことはなく、彼らはたいてい携帯のメールとビデオチャットを通じてつながっていました。私たちは、このような関係は、それを可能にするテクノロジーのために、ごく普通のことになっていると感じました。そこで、こういったコンテクストの中における優しさや愛情が意味するものについて、このアルバムをつくろうと決めたのです。

__また、同じくプレスリリースに「遠く離れていても近くにいる温かさを感じ、リアルとヴァーチャルの両方でお互いの優しさ(tenderness)を求め合うことがこのアルバムの進行における重要なテーマ」とありますが、実際の経験から生まれたテーマなのでしょうか。

そう! まさに、前の質問で回答した通りです。

__「No One Like You」のMVには、リアルとヴァーチャルの対比として、本物の犬とロボットの犬がメタファーとして登場します。どのようにこのビデオが制作されたか教えてください。

この映像の背景にあるコンセプトを理解してもらえて、とても嬉しいです。デジタルでのコミュニケーションが私たちの生活の中でより重要になるにつれて、オンラインで経験する意思の疎通と実生活で経験する意思の疎通とのあいだの違いを比較することが重要になっていると思います。ときに、オンラインで連絡を取り合うことがとても簡単であるという事実にもかかわらず、それは、私たちにより断絶感を感じさせることさえあります。映像で、ロボットの犬は、人間の感情を理解できない人工知能を象徴していて、一方で、物理的な実在、すなわち本物の犬は、私たちといつも根本的なつながりを持っているのです。

__また、同じく「No One Like You」のMVで、電話はヴァーチャルなツールとして示されています。お互いの優しさを求め合う上で、電話というツールはどのように機能すると思いますか。

電話は単なる道具であり、それ自体は、良いこと、悪いことの両方に使用されうるものです。電話を通じて伝えられたとき、人はその世界の重荷によって悲しみに包まれるときもあれば、それが人々を一緒に、より親密にする美しい賛美であるときもあります。人が何かを解釈しようと決めることは、電話(というツール)の欠点ではなく、それは、私たちが人間として何者であるかということと、私たちの行動を反映したものに過ぎません。

__「Versus Game」のMVには、メインとして大きなバルーンが登場しますが、映像は何を意味しているのでしょうか。

正確にはビーチボールですね。映像は、トレーニングウェアとスクーターのベスパでレーシングをするというシンプルなゲームを象徴したものです。この曲自体は、二人の恋人をお互いに比較するゲームについてのもので、ビデオの制作ではそのコンセプトの通り、ルーズで楽しい時間を過ごしました。

__今回、「No One Like You」と「Versus Game」のMVを自身で監督していますが、どのような意図があったのでしょうか。

まず、とても楽しいから! それに、私たちがほかの誰かにやってほしいことを説明するよりも自分たちでやった方が簡単だったからです。重要なことは、私たち自身があまり真剣に取り組みすぎないようにしたことでした。自分たちが手に入れられる機材では、シネマティックな3分間の傑作を生み出すことは難しいとわかっていたので、とにかくよいヴァイヴを映像の中に入れようと心がけました。

__ストリングスに、Owen Palletが参加していますが、彼の参加は楽曲にどのような変化を与えていますか。

彼の参加は素晴らしいものをもたらしてくれました。彼に楽曲を3曲送ったのですが、とにかく優れた作曲、アレンジを行なってくれて、楽曲全体には、新たにストリングスをレコーディングしてくれました。そうした彼の貢献によって、その3曲は別の次元へと高められました。彼が施した仕事は、私たちがほとんどそれ以上は触れることができないような完成度で、まさに完璧な仕上がりだったんです。それと今作で私たちは、Adam Kinnerという美しい旋律を奏でるサックス奏者とも一緒に制作しています。

__アルバムのサウンド全体に、90年代のダンスミュージックや70年~80年代のディスコの影響がうかがえますが、今作では、どうしてこのようなアレンジを選択したのでしょうか。

もちろん今、このようなサウンド自体とても人気があるのですが、私たちがこのような音楽をつくるのは必然だとも思います。というのも、私たちは生の音楽よりむしろ、アレンジにコンピューターを使っていたので、ダンスミュージックからインスパイアされたものから始めることはとても自然なことでした。私たちは、このアルバムの制作をより楽しいものにしたかったんです。だから今回はそうして、ダンスミュージックをつくることで、とても楽しめましたね。

ありがとう! いつか日本でみなさんに会えるのを楽しみにしています。
(Thanks!! Hope to see you in Japan one day!)

Tenderness:
01. Free at Last
02. No One Like You
03. Pregame
04. Versus Game
05. Belong to Myself
06. Prepare for Flight
07. Younger Heart
08. Strummin
09. Make Love Stay
10. Big News
11. Blossoming From Your Story
12. Searching for You
13. Do You Need Me
14. Tenderness
15. Giggles
16. Far Away Soon
17. Remember Then (Bonus Track)

Photo by Arvida Byström

参考文献:
J.ボードリヤール『シミュラークルとシミュレーション』竹原あき子訳(法政大学出版局, 1981)

*翻訳を一部修正しました。(2019.10)

インタビュー・文・訳: T_L