INTERVIEWSAugust/02/2017

[Interview]Clark – “Death Peak”

 〈現実〉を垣間見ることは極めて難しく、危険な行為でもある。そして時折、その極限の状態を開くようなテクストが世に届けられることがある。

 『Death Peak』という「死」を内在したタイトルが表するように、アルバムには、単純とは言い難いサウンド・テクスチャを体現した楽曲が並ぶ。Clarkは、2001年のデビューアルバムから今作まですべてのアルバムを〈Warp〉からリリースしている。そのパフォーマンスは、他とは常に明らかな差異があり、今回の渋谷・Contactでのライブもまた、その「力」を確認することができるものだった。

 柔らかい物腰がその人柄を示すように、当の本人はいたって無垢の様でありながら、今回のインタビューでは以下の様に、新作の背景から制作の姿勢まで、様々なことを語ってくれた。

__最新アルバムについて。『Death Peak』というタイトルですが、タイトルの中に「Death」、すなわち「死」という言葉が入っています。その「死」というのはアルバムのテーマにどのような関連がありますか。

一つの明確な答えはないよ。コンセプトアルバムでは決してないから、逆に明確に説明したくないというのもある。漠然とした答えになるけれど、骸骨の絵があってそこに花があしらわれているような絵柄が個人的に好きで、必ずしもダークな意味合いではなくてむしろサイケデリックな意味合いだと捉えてもらったほうが良いと思う。

『Brave New World』(1)という本があって、それを書いた哲学者がいうには「生命のピークは死の瞬間だ」、「その瞬間が人間の山の頂に到達した時だ」というような言い方をしているんだ。考えてみると今の文明は頂を超えて死に向かっているところまで来てしまっているのではないかと思う。これはダークな解釈におけるところの「死」。それともう一つは響きが良いだけだから、という3つの意味があるね。

__舞台音楽『マクベス』の制作やエコー・ソサイエティというオーケストラへの楽曲提供もされていますが、それらの活動はあなたにとってどのような位置付けですか。

エコー・ソサエティの仕事は楽しかったけど『マクベス』はあんまり楽しくなかったね。詳しくは言わないけど(笑)。やりたいことが何か本当に分かるにはやりたくないことをやってみることも必要だと思って。

ここ10年間は休み無くずっと仕事をしてきちゃったから、本当に休みが必要だった。ちょっと無理しちゃったというのもある。今も実は映画音楽を作っているところで、今回はショーがあるからそれを置いてこっちに来たんだけど飛行機の中でも作って提出しなきゃいけないほど追い詰められていて、休みが必要だと思ってるよ。休んだと思うと音楽を作りたくなるというのが問題なんだけど。いつも奥さんに怒られるんだ。

__そうすると自分の音楽を作ることが重要で、むしろ頭を一回休ませるために他の仕事をしてみる、という感覚なんでしょうか。

そうだね。外部の仕事は休みに近いかな。陰陽じゃないけど両方必要なところもある。外の仕事ももちろん楽しいけれど他の人のために書くということをやっているからこそソロの作品を作ることの意味が出てくる。好きなことが出来るという意味でね。

でも、かといって好きなことをずっとやれているとつまんなくなってくる。要はずっと同じ服を着ていたらその服が臭くなってくるのと着替えたくなるのと同じ。他の人と仕事をしているときはそういう意味で、これ違うよって自分のことは気付かなくても他の人のことには気付くから言ってやれる楽しみがある。20代の頃は本当に色んなことがやりたくてたまらなかったこともあるけれど、今もやっぱり刺激は必要なんだと思う。新しいことを自分で作っていきたいし、そのためには関心を絶やさないために刺激が必要だね。

__プレスリリースには、今回のアルバムには、「最も完璧なシンセサイザー」という意味で、多くの楽曲に実際の人間の声を入れたという記述がありました。それはどういう効果を意図して行ったのか詳しく教えてください。

人間の声が持つ質感は僕にとってはとても魅力的で、人間の声だからこそ、機械に比べたら先が読めないところやそれぞれのユニークな響きがあって、そこがとても魅力的だと思う。一方で、シンセサイザーも自分にとっては人間の声を扱うのと同じような感じでやってきた。曲を書く時に常にメロディーを口ずさんでいる。ある意味、ボーカルが無い曲だけれど「ソング」なんだ。シンセサイザーの音っていうのも自分にとっては人間の声と似たような感触があると思ってずっと使ってきているから、自分にとってはシンセサイザーが自分のボーカルで、メロディーを必ず歌いながら作っているというのが曲作りの信念としてある。

今回、人間の声を扱うにあたって、音源はもちろん機械だけれど、普通のポップミュージックを作るのとは違ってコーラスとか歌詞を求めるのではなくて、自分の曲で表現したいメロディーを何で鳴らすかという問題だよ。機械的な音源じゃなくて今回は頼りにならない人間の声というものでやってみようと思ったから、実際にそれを歌わせるというよりはテクスチャを求める抽象的な使い方をしている。

それがやはり人間の声の響きを感じさせるからこそ聴き手に共感を促すところがあるんじゃないかと考えているんだ。ただ、具体的にそれをなぜかと説明するのは難しくて、今回の『Death Peak』というアルバムに限っては、今後違うやり方をするかもしれないけれど、人間の声というのが一番綺麗な花として目立っているものではなくて、その花の根っこ、土壌にあるものがあるから全てが育っていくんだという、根本の部分をそれ(人間の声)で表現しているつもりなんだ。

__そうするとこの場合、人間の声は、その根本で「死」とは真逆の「生」を意味しているのでしょうか。

そういう風には自分で考えていなかったけれどそうかもしれない。そうやって色んな考え方を聞けるというのが楽しいところで正解は無いと思ってる。色んな捉え方があってよくて、だから僕のほうから説明したくないというのもあるし、アルバムを聴いている人が想像をどんどん膨らませているところに違うことを言ってしまってそれがパチンとはじけてしまうのがすごく嫌だから、その意見も間違いじゃないと思う。僕は想像のバブルを潰す係ではないからね(笑)。

__では、次の質問を。同じくプレスリリースでは、「Un U.K.」では「35曲のEDMトラックをギターペダルに打ち込んだ」という説明がありましたが、それはどういう意図があったのか教えてください。

一番気に入らない質問を選んだね(笑)。とにかく、(EDMのトラックを)粉砕機にかけたみたいな感じだよ。

__でも、とても美しい曲ですね。

そうだね。かなり怒っている曲ではあるけどね。3日がかりで作ったんだけど詳しく話をすると、ちょうどイギリスがEUから抜けることが決まった3日後くらいに一旦この曲が完成しているんだ。

けれど、これはよくあることで、いざ世に出すんだとなるとまだ出来てない、完成してないと焦り始める。今回も、2か月後に出しましょうとなって聴き直したら、まだまだ全然やらなきゃダメだ、と思って出来たはずのものをまたいじりはじめて、ほんのちょっとの3秒間くらいのところがうまくいかなくて10日間くらい悩んで、という作業を繰り返した。

本当に音楽って不思議なんだけど、平衡に淡々とは進んでいかないんだよね。特にこの曲くらい極端な構成だと完成に持っていくのは本当に大変だった。かなり苦労した曲だけれど、そういうリスクを犯すことが僕は好きだし、楽しい。言葉で説明すると、「メロディーで始まってデスメタルみたいになってシンセサイザーで子供が歌ってて」なんて言うと、そんなのありえないと思うだろうけれど、実際に聴くとそれがちゃんとトラックになっていることに満足感を覚えているんだ。EDMの気に入らない部分を全部使ってなんとか良いものを作ろうとしたっていう曲だよ。

__では次に、ジャケットについて聞かせてください。Alma Haserを起用した理由と、歪んでいる自分の顔をジャケットにしたことには何か意味があるのか教えてください。

自分でもなんでこんなことやったんだろうと思う。今見ると結構笑えるよ(笑)。彼女はもともと友達でよく一緒に作業もしていてすごく気に入っているアーティストなんだけど今回は結構無理を言って何を送ってきても、「これは違う」と僕が言うから仕舞いには彼女も怒っていたよ(笑)。

彼女から色々送られてくるんだけど、これが送られてきた時は笑えた。「笑える」というのは良い合図かなと思って。「笑える」というのと「真面目にやる」というのは共存しないと思う人もいるかもしれないけれど、こういうユーモア感覚っていうのは音楽を本気で作ってるということと相容れない要素だとは決して思っていない。僕はユーモア感覚と音楽を本気で作ることは共存すると思っている。だから、送られてきた中で一番笑えたこれを選んだんだ。

__それではこれは表現という意味では、ユーモアの部分だったんですね。

ダークでもあるよね。『ターミネーター2』で頭をガシンとやると液体が出てくるみたいに、ガシンとやられた後だと考えたらダークで、痛手を負ったみたいな捉え方もあるかもしれないね。サイケデリックっぽくもあるよね。

__また、今作のキーワードの中のひとつに「レイヴ」というものがありますが、90年代のUKにおけるレイヴカルチャーはご自身にはどのような影響を与えましたか。

終わりかけの頃、16歳くらいだったかな。結構コマーシャル化してきた頃だったね。イリーガルなものを求めてハードテクノばかりかかっているようなところを探すんだけど、そういう情報は電話ボックスに貼ってあったんだ。今はもうフェイスブックとかを見れば情報を得れるけど、あの頃は電話で問い合わせてたよ。しかも公衆電話でね。情報チャンネルみたいなのがあってそれを聞いて、今日はここに行けばあるんだって。すごく楽しかったね。

__そのような経験から、今回の作品にも投影されているものはありますか。

もちろんだよ。DNAに刻まれているし、自分のバックグラウンドがレイヴみたいなものだから逃れようとしても逃れられない。逃れようとしてみたこともあるけど無理だった。でもテクノのトラックを作るのは自分にとってチャレンジでも何でもなくなって、すぐ出来ちゃうからそうじゃないことを今はやりたいと思っている。

__レイヴカルチャーがバックグラウンドにあるとして、そのカルチャーから最もインスピレーションを受けているものは何ですか。

エレクトロニック・ミュージックとかを聴き始めたのは13歳、14歳頃だったんだけどこういうことを始める前はバンドでドラムを叩いていた人間だからこういうエレクトロなシンセとかに関心を向けるようになった理由として、当時はロックがメカニカル化していた時代でもあって機械で作った音にどんどんなっていて人間らしさが聞こえなくなっていた。

一方で、全部では無いけどすごく人間っぽいテクノが出てきて、エネルギーを感じさせるのに機械で作っているというところに興味をそそられてやりたくなったんだと思う。すごくカチッとつくられていてシンセサイザーで鳴らしているのに感情的にすごく深くて複雑なものを感じさせられた。いわゆるリアルミュージックであるはずのロックが感情を感じさせない、作られたシニカルなものになっていたんだ。もちろん、当時は、の話で今のロックもそうだとは言ってないよ。それが自分にとってのきっかけだったんだ。

__最後の質問ですが、長い活動の中でも、作品が新しく進化し続けていると思うのですが、そこで何か心がけていることはありますか。

これだけやってくると作業自体は楽になってくるんだけど、楽になるってことにすごくナーバスになってて、どのアルバムも自分にとってはファーストアルバムくらいのつもりで臨むように心がけている。たくさんの曲を書くけれどリリースに値しないようなものも勿論あって、自分に対する期待値の高さっていうのも一つのポイントだと思う。これがベストだって思えない発想には妥協しないようにはしてるね。

B級で納得してしまわないために大事なことは、ほんのちょっとした決断だったりして、そのちょっとした決断が一番迫られるのは作業の最後だったりするんだ。今回のアルバムでも実は今入っている最後の曲の一つ前にもう一曲入っていたんだけど悩みに悩んで、やっぱりこれはないほうがいいと思って削ったんだ。その曲を削ったことでアルバムがはるかに良くなったし、もしあれを残していたら7割くらいの出来になっていたと思う。そういうところで小さな決断を下せるかどうかが大事だし、小さいことでも結構悩むんだよね。

そのわずかなものがあるかないかで自分の満足感も違ってくるから自分に対してそういうところはすごく厳しくしているつもりだし、些細なことが大きな違いを生むということをいつも意識しているよ。

(2017.7.27、東京・渋谷にて)

(1) 邦題は、オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(早川書房, 1932/2017)

Death Peak:
01. Spring But Dark
02. Butterfly Prowler
03. Peak Magnetic
04. Hoova
05. Slap Drones
06. Aftermath
07. Catastrophe Anthem
08. Living Fantasy
09. Un U.K.
10. Licht (Pink Strobe Version) *Bonus Track for Japan

インタビュー・文: T_L

アシスタント: 星野智子
1996年生まれ。東京出身。青山学院大学総合文化政策学部在籍、ビートルズ訳詞研究会所属。

通訳: 染谷 和美