ARTIST:

Arca

TITLE:
Arca
RELEASE DATE:
2017/4/7
LABEL:
XL Recordings / Beat Records
FIND IT AT:
Amazon, Apple Music, Spotify
REVIEWSApril/19/2017

[Review]Arca – “Arca”

“コルセットにハイヒールを身につけ、その肉体には傷が見受けられる。アレハンドロが一人の男性の胸に置かれた手を包み込み、その後、彼の顔にまでその手を伸ばす。衰弱したような男性をまるで追悼するかのようにそこに残し、死を悼むかのように、あるいはそれに対して一種の儀式を行うかのように、身体を動かす。周囲には同じように横たわった人間が存在する。傷を負いながらも彼だけが生き残った、彼こそが絶対的な存在であるとでも言うかのように、彼はカメラを見つめる。その顔には悲しみはなく、むしろ晴れ晴れとしているような印象を受ける。” (「Anoche」ミュージックビデオより)

 今作でArcaは、ひとりの人間として、まるで自分自身を実験台にするかのようにたった一人で前に立ち、自身を曝け出している。表層に纏うものばかりが散見する現代に於いて、より見えにくくなっている誰もが持つ人間の真の内面を彼は引きずり出そうと試みる。これまでの作品で彼は人間をそのまま描いたことはない。というのも、彼はかつてから〈人間のようなもの、、、、、、、、〉を描き続けてきたのである。アルバム・ジャケットの観点から述べるならば、『Xen』、『Mutant』では、〈人間のようなもの、、、、、、、、〉として見ては取れるものの、しかしながらそれとは言いがたいような形態をした生物のイラストが描かれている。

 それが本作では、Arca自身の顔が一面に描かれ、MVでも彼自身を被写体に起用した一連のプロデュースになっており、これは音楽においても同様に、これまでに彼がリリースしてきた3枚のアルバムの中で、母国語による自身の歌声が披露されたのは今作『Arca』が初めてである。パーツが合わさることでようやく人間らしく完成されたArcaの形態を、今作で私たちは目にしている。果てしないナルシシズムの先に宿る孤独を、彼は音楽と映像を通して皆に提示し、既存の審美眼への変革を促すとともに、今後どのように世界が再定義されてゆくのかを楽しんでいるようにも見える。

 たとえば結局のところ、InstagramやTwitterに存在する〈あなた〉や〈わたし〉は本物なのだろうか。あるいはそこで本物の快楽や自由を獲得できているのだろうか。あらゆる抑圧によって演戯(プレイ)を強要される中、私たちの多くはその欲望に蓋をし、自己を分化することで護ろうとする。私たちは傷つくことを恐れるが故に、他人が真実を言うことを好まず、他人に真実を語ることも避ける。

 本作でのArcaの姿は、調和を図るためにそのような相互の欺瞞の上に築かれたこの停滞した世界からまるで一抜けするかのようである。ただそれは、誰彼を批判する類のものではない。彼が行っているのは自身の中心部に焦点を当て、そこからあぶくを吹いてどろどろと溢れ出すその孤独な世界をいかに煌めかせるかということであり、そして、いかにその喜びと悲しみを美しく昇華させるかという試みの形なのだ。

 冒頭で述べた「Anoche」のMVで見せる彼の姿、そこでは苦痛によって「外的な基準としての快楽に対して欲望が結んでいる偽りの関係を解体」し(1)、内なる欲望そのものを獲得する様が描かれる。一人の人間として前に立った彼の顔には、苦痛の表情と同じくらい、傷を負っても尚、喜び、そして快楽に溺れた表情が浮かんでいる。

(1)…ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ『千のプラトー』宇野邦一、他訳、河出書房新社、1994年、178-179頁参照

文・池田礼
1996年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。電子音楽を中心に幅広い領域で音楽を楽しむ。