ARTICLESApril/12/2017

On Beat! (18) by Chihiro Ito – Nirvana “Bleach”

絶望的な詞を歌う、少し楽しげなおしつぶされた声と音。
それを聴きながら、桜の匂いでぶっ飛ぶ。

子供の頃は認識すらしていなかったのですが、花の匂いというものが、甘くて、不思議な気分になるという事に最近意識的に気づきました。本能的には子供の頃から気づいていたはずですが、それがどこからやって来るのか、解らずにいました。

今回は、前回のMy Bloody Valentineで少しふれましたが、アメリカの西海岸、シアトルのバンド、Nirvanaについてです。彼らの音楽も、先にあげた花の匂いの様なイメージで聴くのも、ひとつの聴き方ではないかと、思っています。

僕が彼らを知ったのは、ちょうど10代中盤の頃で、1994年にヴォーカルのKurt Cobain(カート・コバーン)が自殺した少し後でした。

彼らの音楽を初めて聴いたのが、この頃発売されたばかりの、MTVが行っていた、あえてエレキギターを演奏しないというシリーズ、”Unplugged”でした。第一印象は時に、長い間引きずります。普段のノイジーな彼らの音楽スタイルからすると、特異だったこの演奏が、僕が彼らを認識をするのに時間がかかりました。

当時、バンド名やヴォーカルのKurt Cobainが亡くなっているのは知っていたので、「これが、話題になっている、自殺してしまった人のバンドかぁ」という様な遠くで起こった事件といった認識でした。

自殺したKurtは、同じように27歳で他界した、Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)やJanis Joplin(ジャニス・ジョプリン)らと並べられて、伝説の様に扱われていました。

しかし、当初は自殺とされていましたが、当時の警察の捜査の杜撰さから、最近では他殺説が有力で、事件は再調査されています。これについては、映画『ソークド・イン・ブリーチ』(15/ベンジャミン・スタットラー監督)でも、詳しく取り上げています。

僕は彼らが、「Generation X(アメリカにおける、1960年代後半-70年代前半に産まれた世代)を代表するバンド」とよく言われていたのを覚えています。当初僕は、この”Generation X”という意味を彼らの様に自虐的な発想を持った少し上の世代が、集まって何かしているという意味と勘違いしていました。よく調べてみると、生まれた年の世代を示す意味の様だということでした。

今回取り上げた、『Bleach』(漂白剤)は、彼らの1枚目のアルバムで、アメリカのインディー・レーベル〈Sub Pop Records〉から1989年に発表されました。

彼らのライブの定番の”School”や”About a Girl”、”Negative Creep”など、代表曲が幾つも入っています。この頃のメンバーはベースにKrist Novoselic、ドラムはChad Channingです。現Foo FightersのDave GrohlはChadの後任としてバンドに加入します。

この頃の彼らの演奏は、生っぽい音の彼らのオリジナルアルバムの中、ジャケットのアートワークの黒い色も手伝って、最も生っぽい、暗くどろっとした印象になっています。音楽は、2009年に発売され新たにリマスターされ聴きやすくなった音源ですら、その印象は残されたままです(ライブはさらに生っぽい印象ですが)。

このアルバムの表紙に使われている写真は、白黒が反転されている、いわいるネガの状態になっています。この写真は、昔のガールフレンド、Tracy Maranderの撮影したものです。この600ドルで制作されたアルバムは、後に〈Sub Pop Records〉の最大のヒット作になります。

2枚目のアルバム、『Nevermind』(気にしないで)は、彼らの出世作で、”Smells Like Teen Spirit”や”Lithium”、”Come As You Are”などの彼らの代表曲が沢山入っています。このアルバムの爆発的なセールにより、グランジ・ムーブメントがおこり、メジャーなレコード会社がシアトルでグランジのミュージシャンたちを掘り起こす事になります。Pearl Jam、Alice in Chains、Soundgardenなどのバンドがメジャーレコード会社と契約を取り付けました。その様な状況にいて、彼らはグランジ・ミュージックを代表するバンドでした。

そして、3枚目のアルバム『In Utero』(子宮の中)は、バンドが急に有名になってしまったにもかかわらず、変わることはありませんでした。痛々しいほどの自虐的な歌詞の曲、”Rape Me”や少し不思議な世界観の”Heart Shaped Box”、”All Apologies”などの曲が入っています。

彼らのオリジナルアルバムはこれら3枚のみ。その他には編集盤や、ライブ盤、映画のサントラ用につくられた数枚のKurtのソロアルバムなど、かなりの種類が発表されています。

彼らの音楽は抑圧された若者の心にひどく共鳴し、大変な人気を得ました。彼らの特長は3人構成のバンドであるがゆえの、それぞれの個性的な音質によるものだと思います。ジャガーやムスタングなどの歪んだギターや、ゴロゴロ鳴るベース、ブリブリ鳴るドラム。そして、なにより特別なのは、Kurtの声であると思います。彼らの音はまるで管理された社会のシステムの差別や離別などにぶち当り、行き場のない悲鳴をあげている様です。そして、それらはなぜか、少し楽しげです。

この「絶望的で楽しげ」という矛盾したところが、彼ららしいところだと思っています。彼らのドキュメンタリーは幾つか映画化されていますが、『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』(15/ブレット・モーゲン監督)が見やすくておすすめです。

彼らの2枚目以降のアルバムのアートワークは、ほとんどアートディレクターのRobert Fisherが行っています。

話は少し飛びますが、僕は彼らの音楽を聴くと、アメリカの現代美術のアーティスト、Paul McCarthy(ポール・マッカーシー)(1945-)を思い出します。それは、彼の作品の中にある、絶望的ではあるけれど、なぜか楽しそうという一種のリアリティが、Nirvanaのもっているそれと近いと思うからです。

こんな音楽を聴いていたら、学校や家やいろいろなところで怒られることすら、刺激が足りなくて、響いてこなかった日々を思い出しました。

それではいけないのかもしれないけれど。

Artist: Nirvana
Title: Bleach
Release date: 15 June 1989
Label: Sub Pop Records

HP: http://chihiroito.tumblr.com

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地、民泊などでも作品展を行う。谷川俊太郎・賢作氏らともコラボレーションも行う。5月に阿佐ヶ谷アートストリート2017、6月にGallery DEN 納戸と名古屋のGallery Valureで個展。11月に今年の欧州文化首都のPafos2017関連企画でキプロスに招待され、国境が分断された首都のニコシアで作品を発表予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”