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ARTICLESSeptember/10/2016
ON BEAT! (14) by Chihiro Ito – Iggy Pop “A Million in Prizes: The Anthology”
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イギー・ポップとアップルミュージックと俺。

俺は最近、電車に乗りながら、アップルミュージックを利用しています。音楽を聴いてると、気になる事がありました。あるアーティストのベストアルバムを聴いていると、いくつかの曲名がグレーになっていて、聴く事ができません。

なぜ聴こえないのか? そのアーティストの、別のアルバムの同じ曲を開くと、聴く事ができました。あるアーティストとは、言わずもがな、Iggy Popの事です。

俺は音楽を聴きながら、絵も描きます。こんな時には、音楽をかけっぱなしにします。アルバムを聴こうとして、数曲聴けないと、そのまま気づかずに、そうゆうアルバムだと思い込みます。実は数曲聴けなかったと、後で気づくと、少し悲しい気持ちになります。

なぜ、アップルミュージックなのか?

経緯は、よく知る美術関係の先輩が、「アップルミュージック、いいよ〜あれは。お得だよ〜」と言っていたのがきっかけでした。YouTubeでライブを聴くのは、今でもよく聴くものの一つですけれど、少し使い勝手が悪いです。アップルミュージックは大抵はアルバムまるごと聴く事ができます。新しいアルバムも殆どは聴く事ができます。

イギー・ポップについて話します。

Iggy Pop(イギー・ポップ)、本名、ジェームズ・ニューエル・オスターバーグ・ジュニアは1947年、アメリカのミシガン州マスキーゴンに産まれました。あだ名は”グランドファザー・オブ・パンク(パンクのおじいちゃん)”です。

彼は9才の頃、見学に行った米国産大手自動車会社、フォードの製造工場で鉄の板からボディを造る、巨大なプレスマシーンの音がとても好きでした。また、住居として、暮らしていたキャンピングカーの電気ヒーターや、父親のよく使う電動髭剃りの音などに興味を持っていたようです。

彼は14才の時に両親にドラムを買ってもらい、”イグアナス”というバンドを結成し、イギーはドラマーとして、デビューしました。数枚のレコードを発表。週末にホールや大学や高校、プライベート・パーティーなどで、4年間の間、演奏を続けました。しかし、バンドは解散してしまいます。

イギーはミシガン大学に進学しました。しかし、すぐに辞めてしまいます。

あるインタビューでは彼は大学の授業の初日に遅刻した事がその理由と言っています。当時、流行っていた、ボブ・ディランやローリング・ストーンズ、イギリスやベルギーのバンドに駆り立てられたとも言います。しかし、真相は定かではありませんが……。

大学を中退した彼は19才でシカゴに行きます。その当時のシカゴでは、シカゴブルースが盛んで、イギーもいろいろなコンサートを沢山観ていたようです。そこで、あるブルースマンは演奏中に、手を木に釣り下がる枝のようにフラフラさせていました。そして、いい意味でだらしなく踊りながら、ギターを弾いていたそうです。そんな、いままでどこでも教わらなかった演奏法をするミュージシャン達が彼の人生を変えたそうです。

その後、彼は伝説的なバンドといわれる、The Stooges(=バカの集り)を結成。彼は、「自分は40歳のブルースマンでも、シカゴブルース・ミュージシャンでもない。19才で、彼らより若く、どんな事が出来るか、考えたらこの様な音になった」と、数年後のインタビューで語っています。

1969年にThe Velvet Undergroundを脱退したばかりのジョン・ケイルのプロデュースで、1枚目のアルバム『The Stooges』を発表。粗いギターの音が印象的な、シンプルな演奏は、当時のMC5と共にパンク・ロックのプロトタイプ(以前のもの)と言われています。

このアルバムの内、今でも彼のソロで演奏される曲や、後続のバンドにカヴァーされ、有名になった曲もいくつかあります。

例えば、セックスピストルズがカヴァーして、有名になった、”No Fun”(=つまらない)。この曲はカントリー・ミュージシャンのジョニー・キャッシュの”Walk The Line”をモデルにした曲だそうです。

また、今でも必ずライブでは演奏する、”I Wanna Be Your Dog”(=俺はおまえの犬になりたい)。これは、ギターを弾き始めた人が良くカヴァーする位、シンプルな演奏でエロティックな歌詞の曲です。

1970年、2枚目のアルバム、『Fun House』を発表。

1973年、全曲をギターのウィリアムソンが作曲し、当時親交があった、デヴィッド・ボウイがミキシングした3枚目のアルバム『Raw Power』を発表。旧邦題は、なぜか『淫力魔人』(いんりょくまじん=みだらな力の魔人)でした。ライブの定番の曲、”Raw Power”や”Search And Destroy”などを収録した。1stアルバムと並んで、彼らの代表的なアルバムです。

そして、このアルバムからバンド名が、”Iggy and the Stooges”に変わりました。

レコードを発売した翌年、バンドは解散します。理由は当時のバンド・メンバーのドラッグの過剰摂取とも、ステージ上で身体をナイフで傷つけるなど、過激になってゆくイギーのパフォーマンスとも、ボウイの行ったアルバムのミキシングが気に入らなかったバンドの意思表示とも言われています。

それから数年後の1977年、イギーはソロで再び音楽活動を再開します。今度はデヴィッド・ボウイのプロデュース・作曲を中心とした『The Idiot』、『Lust for Life』の2枚のアルバムを発表し立て続けにヒットさせます。

その後も、ヒットもなく、ドラッグ中毒になって人気が低迷していたイギーをボウイは助けていたそうです。イギーとの共作で77年の曲、”China Girl”をカヴァーし、大ヒットさせ、イギーに大量の印税を渡らせたのも、そのひとつでした。親切心か偶然かその様な事が何度か続いたそうです。

調べれば調べるほど、生き方が参考にならないイギーですが、新旧問わず、アーティストに支持されているのは確かです。例えば、ルー・リードや、オノ・ヨーコ、グリーン・ディやランシドもその限りではありません。

アルバムも、ライブ盤も含めて、通算30枚以上を発表。音楽性は少しづつ変わるものの、殆どロックのアルバムです。そして、なぜか2枚はシャンソンのアルバムです。

また、彼はかなりの数の映画にも積極的に関わったり、出演したりしています。

『トレインスポッティング』(’96)では、”Lust for Life”がメイントラックとして使用されました。劇中では、ドラッグと激しく生きる若者の部屋に、イギーのポスターが貼られています。この映画は来年には約20年振りに続編が公開される様です。

また、ニューヨークの映画監督、ジム・ジャームッシュの『コーヒー・アンド・シガレッツ』(’03)では、同じ世代の詩人でミュージシャンのトム・ウェイツと10分以上コーヒーとタバコをすいながら2人で話し続ける、シンプルな演出で出演しています。

そして、数週間前にもジム・ジャームッシュ監督のThe Stoogesのドキュメンタリー映画『Gimme Danger』が、カンヌ映画祭で初めて上映されたそうです。

今回、取り上げたアルバムはそんな彼のThe Stooges〜ソロの時期、1969年から2003年までの活動の代表曲の入った、いわゆるベスト盤です。

アルバムの表紙は彼自身で、当時で、60才近いはずですが、レスラーの様な体格をしています。

イギーはかなりキャリアが長い人で、レコード会社も何度か変わり、大人の事情か、今まではこの様な代表曲が全て入ったアルバムは海賊版(非・正規盤)以外はありませんでした。初めて彼の音楽を聴く人にはわかりやすいアルバムです。

このタイトルの『A Million in Prizes』(100万ドルの価値)は彼の代表曲の一つ、”Lust For Life”の歌の一節からとられたようです。

彼の音楽を聴く(感じる)のに、ベストな方法は、彼のアルバムが殆ど聴く事のできる、アップルミュージックでも海賊版のCDでもありません。ライブに行き、彼のパフォーマンスを直接みる事だと思います。

音楽だけでは伝わりにくい事が、彼の上半身はだかのパフォーマンスから伝わります。

俺が彼のパフォーマンスを初めて見たのは98年のフジロックフェスティバルでした。

2番目に大きな野外ステージで、ライブをしていた彼は、終盤、突然「ステージに上がれよ、来なよ」とお客さんを煽り始めました。最初は冗談かと思っていたら、1人、2人と客席からステージに登っていきます。30人ほどがステージに上がり、こんな状態で数曲演奏が行われました。俺もこんな事は初めてでした。少し不安な感じでしたが……。これをみて、イギーのステージを捉える感覚が独自でユニークだなと思いました。

今年で、70歳近いイギー。

今でも上半身、裸でしわくちゃになった、筋骨隆々の身体を振り乱しながら歌を歌っています。そんな彼は正直、若い時の彼のビジュアルよりも、ずっと迫力がある様な気がします。

彼は俺に、信じたものを続けることと、良く年を取る事の重要性を教えてくれます。

話は戻りますが、早くイギーのこのベスト盤がアップルミュージックで全て聴ける様になったらいいなと思います。


文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地などでも作品展を行う。谷川俊太郎・賢作氏らともコラボレーションも行う。鎌倉駅前の民泊、タローズハウスで天井画を制作中。9/17まで、名古屋のGallery Valeurでグループ展、あいちトリエンナーレに参加。10月にスウェーデンのEdsviken Konsthall(ストックホルム)とポルトガル、ギマランイス歴史地区のCAAAで展示予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com

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Artist: Iggy Pop
Title: A Million in Prizes: The Anthology
Release date: 19 July 2005
Label: Virgin Records